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みんな異世界に行きたい  作者: 十倉十全
1/19

1.神はイケヴォでそう言った

大幅修正致しました。本筋に変更はありません(2024/12/09)

 



「_______だから、お前を異世界に......」



 目の前の神が、そう言った。






 *****





 1つのことに意識を向けたら周囲が見えなくなるほど熱中してしまう自覚はある。


 賑やかに談笑するクラスメイトの声をぼんやりと聞きながら全く頭に入っていない数式を丸写しする。

 この学校はテスト週間に出す課題が多すぎてテスト勉強をさせる気がないと隣の席の彼はその友人と嘆いていた。その意見には深い同意を示したいと思う。


 まあどんな話を誰が誰としていようと、私が会話に混ざることはないけど。


 浅い人間関係の構築ほど虚しいものはなく、かといって自分の趣味をひけらかしたい訳でもない。そのせいで深い友好関係を結ぶのが苦手だという自覚もある。


伊野(いの)さん、プリント集まったから帰っていいって」

「分かった。ありがとう」


 委員会の集合教室まで帰っていいか聞きに行ってくれた彼女は、自分のクラスで待機していた私にまで伝えに来てくれた。初めから荷物を持って2人で聞きに行けばそのまま帰れたと考えるのは多分若干、多少、私の性根がひねくれているからだろう。


 手早く荷物をまとめて、居心地が良いとは言えない教室から出る。

 廊下は少し肌寒く、なんとなく夏が終わっていたことに気付いた。秋が来そうだ。

 一応の進学校を自称しているこの学校でも、早い人は3年になる前に受験勉強を始め、3年の夏が終わった今スパートをかけている。私もその内の1人だった。

 友達がいないと趣味を語り合うような人間もいない。そして暇だから勉強に専念することになる。つまりそういうことだ。


 手軽な話し相手は弟、という何とも意味不明な虚しく悲しい人間に成り果てている。


 あっちの交友関係はよく知らないがそれなりに世渡り上手で運のいい弟は私より上手くやっているだろう。


 校舎から出てもあまり体感気温に変化はなかった。オンボロ学校の防寒など当てにならないとしみじみ実感する。冬の暖房器具に灯油ストーブ使ってるし。つくづく現代の利器を無視している学校だ。


「伊野さーん!伊野さん!」


 どこかの誰かが私と同じ苗字の人を呼んでいる。


 声に全く聞き覚えがないから私では無いだろう。


 どういうわけか、教科書の下敷きになっていたイヤホンをかなり苦労しながら手繰り寄せ、耳につける。ワイヤレスやら骨伝導やら色々出ているが、それに金をかけるのが勿体なくていまだに有線を使っている。


 ペンキが剥がれかけた緑の校門の前に部活の集団が集まって談笑していた。その横を出来る限り自然に通り過ぎ、バスまでの一本道を歩く。


 割と直ぐに着くし、電車乗らなくていいから家が近い高校を受けて良かったと思うのはこういう瞬間だ。



「いのさん!!!」



 肩に手を置かれた。


 怖すぎる。叫ばなかった自分を褒めてあげたい。心の底から。


 硬直していると直ぐに手は離れた。ちらりと顔を向けても手の主は何も言わない。

 どういうわけか相手は肩まで叩いたくせに何も言わなかった、そして私はすぐに本題に入らない人間は苦手だ。よし、気の所為だったようだ。


 もう振り向く事はせずに歩みを進める。


「ちょっと!!!」


 再び歩き始めてすぐにイヤホンを引っこ抜かれた。さすがに非常識だと思う前にまず安堵する。良かった、変なの聴いてなくて。爆音で聴いてなくて。


「........」


 少々苛立って振り向いたらクラス委員長の女子がいた。その隣に短髪で目の大きめな男子が人のイヤホンを手に突っ立っている。どうやらイヤホンを引っこ抜いた元凶は彼のようだ。


 ..........誰??


 全く見覚えがなかった。多分クラスメイトではないだろう。こういうのを俗に猫目というのだろうか。目が大きいせいか真顔でもなんとなく愛嬌の感じられる得な顔をしてる。少々小柄な彼は私とほとんど同じ背丈だった。


「なんですか」


 まあ委員長のあとから着いてきただけだろう。ふわっとした髪が可愛らしい委員長は、それでいてリーダーシップもあり漢気もある。私は彼女から人は見かけによらないということを学んだ。


「えっと....あの、」


 委員長は猫目の方に話を任せる気のようで、目を向けるとにっこりと微笑まれた。彼の方はまた言い淀んでいてよく分からない。本当に要件を早く簡潔に言って欲しい。バスに乗り遅れる。


「......まあいいや。これ、担任から渡しとけって言われて届けに来た」

「はぁ、ども」


 あんなに散々言い淀んでおいて、結局プリントを一枚差し出されただけだった。拍子抜けどころか理解できないが、取り敢えず貰っておく。そんなことなら教室で委員長が渡してくれれば良かっただろうに。

ちらりと伺えば、目敏く気付いた彼女はまたしてもにっこりと微笑む。ここまで来ると怖い。


 ならもう用は済んだだろう、と猫目から取り戻したイヤホンを付け直した。まだなんか言ってた気もするが今度こそ気の所為だ。4分後に来るはずのバスには乗らなければならなかった。

よく分からない時間を取られたと思いつつ前を向き直し、ちょうど青になった信号を渡るために足を踏み出して、





 _________________私は死んだ。


 若干二名と共に。






 *****






「.....は?今、なんて?」


 白い部屋、というより空間に気の抜けるような声が響いた。


「だから、お前を手違いで殺してしまったから、異世界に行ってもらおうと......」


 返す声はイケヴォである。これが声がいいということなんだなと実感した。本当に声がいい。しかし内容は理解できない。


「は?もう一回言ってくれません?」


「だから、こっちの手違いでお前死んだから異世界に行ってもらおうって」


「は?どういう___」「何回言わせる気だ!!」


 神がキレた。キレても神はイケヴォだった。

 いや、そうじゃない。理解できないのではなく、脳が理解を拒んでいた。頭が鈍く痛む。面倒なことになったとまず初めに思った。



「…………は?」



 私は何度めか分からない疑問符を繰り返した。


「………私が他の神より寛容な事に感謝しろ」


 目の前には大層美しい男が仁王立ちしている。初め一瞬女かと思ったが声低い。胸がない。男だ。


「もう一度言ってやる。お前は死んだ。それも、我々神の手違いでな。あの時死ぬ予定だったのは運転手だけのはずが、お前とあと二人が何故かあそこに居た為に電柱にぶつかる未来が変わってお前らに当たってしまった。因みに運転手は生きている。良かったな」


 は?


「いや運転手死ねよ」


 思わず声に出てた。理不尽で不条理にも程がある。


「お前死にたいのか」

「あ、冗談です」


 もう死んでる人間にそれは無いだろうと思ったが、私は賢明にも口にしなかった。ひとまず思考停止状況から抜け出し、頭を抱える。


 どれだけ漫画やら小説やらアニメやらで白い空間を見慣れていても、人間である限りフリーズするものなのだと知った。


「まあ、お前達が死んだのは明らかにこちらのミスだ。だから温情を、と言う事でお前達に別世界へ行ってもらおうと思ってな。もう既に私以外の神によって他二人は別世界に行ってもらった。お前の目覚めが悪いからお前が最後だ」


 全く、寝ていたとは言え私を蹴るとは何事だなどと神がぼやいている。


 しかしそんな事はどうでもいい。


「…………………異世界に?」


「ん? ああ。そうだ」


 独り言にも律儀に反応をくれる神。きっとこれが神対応なのかもしれない。いや違くて、


「………………」


「どうかしたか?」



「…………が、…………ねえ………」


「?」




「全ての人間が異世界転生を望んでると思うんじゃねえよ!!」




 真っ白な空間に私の絶叫が響き渡った。







初投稿よろしくお願いします

ゆるゆるお付き合い頂けたら幸いです。

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