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優しすぎって?

作者: さだ 藤


 私はよくある人に優しすぎると言われるけれど、そもそもそれは何をもって優しさと言っているのだろうか。


 例えばある人が物を落としたとしよう、それを代わりに私が拾ったところでそれは言われる。

 例えばある人が雨の日に買い物をしようと、持っている傘を腕にかけレジに向かう時代わりに持っていようと私は手を差し出す。

 例えばある人が夏祭り、浴衣に合わせ慣れない下駄を履き、足指に絆創膏を貼れないと喚くのなら私が貼ってやる。


 これはほんの一例だけれど、確かにある一面から見ればまた、私では無ければこれは優しいのかもしれない。

 けれど私の主観から言わせてもらえるのならこれは優しさではなく、これはただの自分よがり故の行為だ。


 落とした本人が機敏な動きで自ら拾う様な人間なのであれば、私はそれに手を貸すことなく済ますだろう。


 また、雨除けや日差し除け以外では大して使いどころのない、更に言うならば屋内の店内の有人レジである場所で邪魔にしかならない傘を腕に持っているのは、はた目から見て私には邪魔に見える。

 私のこだわりではあるけれど、お会計場所という清算場所ではあまり、いや、はっきりいうと断じてうだうだとごちゃごちゃとはしたくないのだ。

 できうる限りのスマートでお会計をすましたい。

 そこに人はいなく、閑古鳥のなくようなセルフレジであるならばいくらでもうじうじとしてくれとは思う。

 しかしながら、有人レジというのは販売員がそこに立ち、自らが求めた商品との等価交換でお金を差し出す場所だ。

 人がいる、つまり自分以外の相手がいる場所だ。そんな場所で余計な時間はかけたくはない。

 相手にとってもただ一人のために余計な時間を掛けさせたくはないのだ。

 それが他者であろうとも、あまり見ていたいものではない。ましてやそれが知り合いならばなおの事。


 故に私は手を差し出し、一時的に荷物を持つ。


 そして、自らが選択した結果の靴擦れという事はかわいそうだとは思っても、本来自業自得で済ませるものですら思う。

 合わない靴でわざわざ祭りという人ごみが必然的に発生している場所に来るという事は、そういう事だと事前にわかる事だろう。

 また、これが恋人同士の彼氏彼女の関係などであるならば、自らのために可愛く装ってくれたのだろうと慮るかもしれない。

 しかしながら、相手は同姓で、化粧を落としてしまえば誰とも分からなくなってしまうような、大して可愛らしいとは感じられない人物相手だ。

 そんな相手の、本来わざわざ人の足先など、触れたい気など私にはない。これは大多数の人はそうだと思うだろうと勝手に思う。


 しかしながらそれでも私は、黙ってばんそうこうを貼ってやる。

 

 どれもこれも、優しすぎると言われた行為だが、けれど私から言わせればやはり言葉を重ねれば重ねる程自分よがりな行為である。

 つまり、相手がうだうだするのが見ていられないのだ。うじうじされたくはないのだ。

 

 いわば、私はあまり気が長い方ではないという事で。

 相手がのんびりと、またがたがた言いながら、ゆったりと愚痴を言いながらするというのであれば、言わせない、させない。

 また口論により時間を掛けさせないために、自らが動いているための結果だという事。


 ひどく、傲慢で利己的な考えが根本にあるがゆえに人に優しすぎると言われても首を傾げてしまうのだ。

 これはまた、別角度から見れば他者の成長の妨げにすらなっているのだろうと思う。


 物を落としていた人物は、一度何かしらの行動故に物を落としたというならば、その行為になんらかの対策を思いつくかもしれない。

 レジ前で時間を消費する人物も、いつの日かまた別の他者により自分が時間をかけている事を気付かされるかもしれない。

 下駄で靴擦れをして甘える人物も、自分の事も自分でできないただのわがまま娘だと知れるきっかけになったかもしれない。


 それをことごとく潰していっているという点でまた、私は嫌な奴なのだろう。


 それに……言葉を交わす時間すらおしむ相手に、好き好んでそんな事をする訳もなく。


 これもまた、自業自得とすら言えるつもりつもったいら立ちを回収せずに私が終わらす訳もない。

 きっちりと回収した先にいる貴方はどうなっているのだろうか。


 考えるまでもなくまぶたの裏に自然と浮かび上がる情景に、口端は自然と持ち上がる。


 つまり、私は優しい奴ではないよって、そう言いたかったのです。


「do you understand?」


 自分は人生分かり切っているかのように、お前には分からないよな、分かるはずないと言いたげにどこか勝ち誇ったかのように私を小ばかにしながら笑い。

 滑らかにすら感じるほどつらつらと悪口めいた人の過ちを口にする相手。

 

 それに今日も今日とてぽやぽやと笑い、はた目からみれば相手のいいなりである私はまた。

 相手以外の他者が周りから相手がどういう風に見られているのかも分かりながらも知らないふりで、ぽやぽやと笑う。


 そうまるで、わがまま娘がていよく人をいいなりにしている様に見えるように笑う。

 私がさほどの苦労もなく周囲の同情を得られているのは彼女のおかげ。


 わかってんのかって? お前こそ、わかってんのかよ。


 私は笑う。

 表面でも、心の中でも。


 おかしくておかしくて。


 この馬鹿でどうしようもなく、可哀そうなほど頭の足りない子猫ちゃんが愚かで笑う。


 あぁ、なぜ人はこれほどまでに愚かでいられるのだろうか。


 あなたは自分のしている事の免罪符のように、私に対して優しすぎというけれど、これのどこが優しすぎ、なんていえるの?



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