第一話 目覚める力
目の前の光景を見て、少年は止まった。住んでいた家、大勢の死体、そして…たくさんの魔物。
「おっ、まだ生きていたのか」
近づいてくる魔物を見て少年は、恐怖でもなく絶望でもない感情が込み上げた。
「殺す…お前ら全員殺してやる!」
その日、少年は全てを失った。
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「行ってきまーす‼︎」
その日の朝も、いつものように剣の練習をするために森へ向かった。
いつか国の騎士になって、お金を稼いで、この小さな村を発展させる事がアウルの夢だった。そして、アウルにはもう一つ夢があった。
「アウル…また家の仕事サボって練習してるの?」
一人の少女が、アウルの元へやってきた。
「大丈夫、将来言葉にならないくらいの恩返しをするつもりだから」
少女は「まったくもう」とブツブツ言いながらその場に座った。
少女の名はユリ。
アウルの隣の家に住んでいる、この村の村長の娘だ。
「楽しみにしてろよ。騎士になったら、ユリにも高い服とか靴を買ってやるよ」
「フフッ、楽しみに待ってるわ」
ユリが楽しそうに笑った。その笑顔を見て、アウルはドキッとした。
そう、アウルのもう一つの夢は、ユリを守ってやれるくらいに強くなることであった。
「おれは強くなって、最強の騎士になりたい」
「もう、それ毎日言うの…これで何百回目だと思ってるのよ」
アウルは剣を振り続けた。
いつか騎士になるために。いつか、ユリをどんなことからも守ってやれるくらいに強くなるために。
「アウルー。もう日が暮れるよ」
「ああ、分かった」
アウルは木刀をしまい、ユリと一緒に森を出た。
森を出てすぐに、アウルとユリは目を疑った。
村人の死体、焼かれた家、大勢の魔物。
「何…これ」
ユリは体を震わせながらしゃがみこんだ。
「おれの…村が…大切な村が!」
アウルは、村を発展させるという一つ目の夢を失った。
「お、まだ生き残りがいたか。しかも女もいるとは、都合が良い」
声のする方へ顔を向けると、一体の魔物がこちらへ近づいて来る。しかも、ユリを見つめたまま。
「ユリ逃げろ!」
アウルはユリに向かって叫んだが、ユリは魔物を見たまま体が動かなかった。
「やめろ!ユリに手を出すな」
アウルは木刀を魔物へ向けた。
「なんだ小僧、どけ」
魔物は、アウルが見えない速度で腹を殴った。
「アウル!」
ユリが必死に叫んだ。
「おとなしくしてろよ、さもないと殺すぞ」
魔物がユリの手を掴んだ。
「やめ…ろ」
アウルは倒れたまま必死に立ち上がろうと、体を起こした。
しかし魔物は、ユリを魔法で眠らせると、ユリを抱えたまま空へと飛んで行った。この瞬間、アウルはもう一つの夢も失った。
「騎士?守る?目の前の笑顔も守れないで、何が騎士だ!」
アウルは周りの魔物を見ながら叫んだ。
「じゃあ、このガキは殺しても構わねえな」
大勢の魔物がアウルを囲んだ。
「殺す…殺す殺す殺す!お前ら全員ぶっ殺してやる!」
………時が止まった。
「力が欲しいか?」
「誰だ、お前は」
「質問しているのは私だ、お前は答えればいい。」
アウルは大声で叫んだ。
「欲しい…力が、あいつらを…おれの夢を奪った、魔物全てを殺すことのできる力が!」
謎の声は笑った。
「いいだろう、ならば私を呼べ。お前にはその資格がある」
謎の声が聞こえなくなるのと同時に時が動き出した。
「死ね、ガキ」
魔物が近づいて来るのと同時に、立ち上がったアウルは叫んだ。
「我が願いに応えよ、ルシフェル!」
アウルの体が闇に包まれた。
その日、一人の復讐者が生まれた。