第八話 神が語る真実
※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
こうして恥ずかしい映像をロキに無理やり見せられ続ける事、約1時間…。
「…以上証拠映像でしたー!!勇者くん!魔王ちゃん!分かってもらえたかな!?」
「「……………ハイ、スゴクワカリマシタ…」」
勇者と魔王は燃え尽きたかのように真っ白になって脱力していた。
「いやー、これは何度見ても面白いねぇ!本っ当に最高だよっ!!…おっと【マジック・ロッキング】以外の魔法は解いておくね!」
「「ぁ…」」
身体を縛っていた鎖が消えた瞬間、脱力したまま二人はソファから落ちて、地面へうつ伏せるようにして倒れた。
「…まあこれで二人は正真正銘の両想いということで、もういっそのこと『魔王と勇者は戦争は終わらせて結婚して幸せに暮らしましたとさ!』みたいにしちゃたら?」
「だから…!そんなことが出来るか…!」
「いくら両思いだからと言って…!それとこれとでは話が違うのだ…!」
(え~…)
地面から顔を挙げた勇者と魔王の顔は、目に涙を溜めて表情がにやけているのか怒っているのか分からない程に砕けている。だが断固として自分の意志を変えようとしない二人に、ロキは呆れて顔を大きく歪めていた。
(これはもう呆れるというよりも、逆にそこまでしてでも意志を貫こうとするその姿勢に嫌でも尊敬しちゃうよ…。…仕方ない。お互いの為にこれは言わない方が幸せだったけど、言うしかないか…)
短めのシルクハットをロキは被り直すと
「…じゃあ、ちょっとだけ話の方向性を変えようか」
脚を組むのをやめて、真剣な顔つきで話を始めた。
「どういうことだ…」
「まあ、もう君たちを恥ずかしめるようなことでは無いから安心して。…さて、二人もそうだけどこの世界の歴代の勇者と魔王は魔族が人間をを滅ぼせば、人間が魔族を滅ぼせば世界は平和になると思ってこの何千年も戦争を続けている訳だ」
「…その通りだが、それがどうした…」
「でもこの世界の戦争は何故か一度も決着が着かないで、未だにこうして君たち二人が戦うことになってしまっている」
「だから…。それがどうしたといいたいんだ!」
「…考えてみたことは無いのかい?こんなに長い間戦争が続いているのであれば一度くらいは決着がついていてもおかしくは無いのではないかと」
「「!!」」
ロキの思わぬ発言に二人の思考は一瞬停止する。
「「…。」」
二人は思考が動き出すと深く考え込む。改めて考えてみると一度も考えたことが無かった。だが何故決着がつかないのかいくら考えてみても二人の頭からは確定できるような答えは一つも出てこなかった。
「分からないって顔だね。まぁ、これといった情報は全くと言っていい程ないからね」
「「…。」」
「じゃあ特別に教えてあげよう。この世界の戦争が終わらない答えを…」
ロキはソファから立ち上がると
「【キューブ・ルーム】」
魔法を詠唱して自身と二人を透明な正方形の部屋に閉じ込める。
「これは…」
「まあこれは特に君たちに危害を加えるものじゃないから。そのまま動かないでね。…【テレポート】」
三人は正方形の部屋と共に玉座のある部屋から瞬時に姿を消す。
「…!?」
「…ここって!」
一瞬にして景色が変わり、三人の足元には勇者の第二故郷である人間の王国街が広がっていた。
「そうさ。勇者くんの第二の故郷であり、魔王ちゃんや歴代の魔王が最大の目標とする場所さ」
(ここがお父様や先代魔王たちが目指した場所…)
見るもの全てが斬新で、魔王はしばらくじっと王国街を眺めていた。
「…それでここに来たってことは、ここに戦争が終わらない答えがあるんだな」
「その通り。…さて君たちの知りたい答えを今ここに示そうか」
「「…。」」
街を眺めていた魔王もロキに目を向け、その答えがどのようなものかと不安と期待を胸にする。
「じゃあ始めよう…。【遮断解除】」
ロキは指をパチンと鳴らす。
「…?」
しかしお互いの身には何も起こらず、街の様子にもこれといった変化は無い。
「…何が【遮断解除】だ。何も起こってないじゃないか」
「…確かに何も起こっていない。ロキ…。まさか私たちをからかう為に、わざわざこんな所まで連れてきたのか?」
「流石にそんなすぐに分かるもんじゃないからね。………でもそろそろ分かると思うよ」
「…またそうやって時間稼ぎをするのか?悪いが私もそこまで親切じゃ…。……ウゥッ!?」
話していた魔王の顔つきが急に悪くなる。
「…魔王?」
勇者は様子がおかしくなった魔王を不思議に思いながら見る。
「…ウッ!……アガッ!」
魔王はの顔つきはどんどん悪くなっていき、首元を力強く抑えてとても苦しそうにもがいている。
(…まさか毒か!?…いや!それなら俺も同じ状況にあるはず!!)
何故魔王だけが苦しんでいて、自分は全く苦しくないのかそれがどうしてなのか分からずにいた。
「……ぅ!」
魔王は更に苦しみながら、地面に膝をついてゆっくり地面へ倒れこむ。
「…魔王!!」
倒れこんだ魔王の元へ勇者は慌てて近づく。
「…ハァ、…………ハァ」
先程まで血色の良かった魔王の顔色はどんどん青くなっていき、額から流れ出る冷や汗も異常なほどに出ていた。
「…ロキッ!!」
苦しむ魔王をどうにかしてでも助けようと、勇者は敵対意識などすっかり忘れて懸命な顔でロキに頼み込む。
「…うーん、思った以上に早く限界が来たようだね。…じゃあこの辺で飛ぼうか、【テレポート】」
ロキは指をパチンと鳴らす。
「…!」
するとまた景色が瞬時に変わり、黒色のレンガ造りの大きな迫力のある城と魔族たちが住まう城下町が広がっていた。
「…ここは!?」
「ここは魔王ちゃんの故郷である魔界の中心部…。そして勇者くんと同じ歴代勇者が目指した、真の魔王城がある場所さ…。」
「…なんだって!?」
本来であればこの街の光景は勇者にとって目を引くものが沢山あるであろう。しかし魔王の容態のことがいっぱいになって、魔界の光景は一切目に入らなくなっていた。
「ぅう…」
「…!魔王っ!!」
少しふらつきながらも魔王はゆっくりと立ち上がる。
(今のは…、一体…?)
「魔王、大丈夫か…?」
「ぇ、ええ…。何とか…」
「…そうか。………良かった」
魔王が無事であることを確認した勇者は胸を撫で下ろした。
(…しかし、ここが歴代の勇者といくつもの王族が目指した場所か…)
改めて勇者は魔界をぐるりと見渡す。
見るもの全てが斬新で勇者も魔王と同じように魔界を眺め続けていた。
「………ところで。…ロキ、どういうことだ。なんで魔王だけが苦しんで俺の身体には何も変化が起こらなかったんだ」
「あぁ、それか。それについてだけど、そろそろ勇者くんも自分の身を心配した方がいいんじゃないのかな?」
「…は?何を言って…る………お……は…………」
「…勇者?」
言葉を発しようとするも勇者の口元は突然とろれつが回らなくなっていた。
「な……、ど………し…」
突然とろれつが回らなくなり、勇者は困惑する。しかしそれだけでなく目の前の視界に黒い靄が掛かるかようにして視界がだんだん暗くなっていき、足元がふらついて地面ゆっくりと倒れ込んでしまう。
「ぁ…。………あ」
「勇者っ!!」
慌てて魔王は倒れた勇者の元へと駆け寄る。
「どうしたのっ!?しっかりして!!」
「………。」
しかし勇者の視界には駆け寄ってきた魔王の姿はほとんど映らない。
「勇者!!…勇者っ!!」
それどころか必死で心配してくれる魔王の声や、自分の肩を大きく揺さぶる魔王の手の感触すらほとんど感じ取れなくなっていた。
「…ロキッ!!…早くっ!!」
「うーん…、せっかく生のおいしいシーンをもっと見ていたかったけど仕方ないか…。【テレポート】」
ロキは残念そうに渋々と指を鳴らして【テレポート】を発動する。
「…ここは」
魔王が気が付くと、いつの間にかそこは先ほどの死闘を繰り広げた玉座の間に帰ってきていた。
「戻ってきた…?」
「うん。そうだよ。勇者くんももう大丈夫だ」
「ん…」
ロキの言葉通りに先ほどまで意識を無くしかけていた勇者がゆっくりと立ち上がった。
「何だ…?今の…、フラつく感じは…?」
「本当に不思議だよね?自分の故郷に来たときは何とも無かったのに、愛する人の故郷に来た途端に苦しくなって死にかけるなんて。」
「「…。」」
複雑そうな二人の顔を少し眺めながら、ロキは脚を組んでソファに座り直す。
「さて…、あの遮断した瞬間から何かが二人の身体に流れ込んできたはずけど分かったかな?」
「流れ込んできたもの…。」
「………まさか!…魔力っ!?」
「流っ石魔王ちゃん!!正解だよ!」
にっこりと笑ってロキは答えを明かす。
そしてたった一つの答えが、この世界の戦争がいつまでも終わりを見えてこない理由を二人の頭は瞬時に導き出していた。
「「………そんな」」
「その様子じゃお互いに気づいたようだね。じゃあ真実をここで答えるとしよう」
ロキは笑顔を真面目な顔つきに変え、真実を語りだす。
「この世界に住む魔族と人間はそれぞれ違う魔力を持っている。そしてその魔族と人間がそれぞれ持つ魔力は空気中にも常に漂っている。そしてこの世界にある二つの魔力の特徴として一つは人間が多ければ多いほど人間が持つ魔力が空気中に多く漂ようようになり、魔族が多ければ多いほど魔族が持つ魔力は空気中に多く漂うようになるんだ」
「「…。」」
「そしてもう一つの特徴として人間が持つ魔力は魔族に有害で、魔族が持つ魔力は人間に有害であるということだ」
「…じゃあ、俺たちが苦しくなったのは…」
「そう。人間が魔族の魔力を大量に取り込めば初期の症状として平行感覚を失い、魔族が人間の魔力を大量に取り込めば初期の症状として呼吸がしづらくなる。そして様々な症状がどんどん出てきて、最終的にはお互いに死に至るってことさ」
「「死…」」
このままでは自分も同じような状況に陥っていたかもしれないと、改めて二人の背中には冷たい悪寒が強く走った。
「ちなみにここはこの世界の中間地点のようなものだから、人間の魔力と魔族の魔力がちょうど半分ずつ存在している。だからここは唯一魔族である魔王ちゃんと人間である勇者くんは苦しむこと無く、互いに惜しみなく全力をぶつけることが出来たって訳さ」
「「…。」」
「まあお互いそれぞれの情報を引き出そうとして、人間や魔族の一部を捕らえて自分たちの国へ連行しようとしたと思うけど、これらのことに気づけなかったから情報はお互いにうまく流れなかったんだろうね」
「…けど、少しでも話し合えば未然に防げたは…」
「な~に甘っちょろいこと言ってんの?勇者くんも魔王ちゃんもお互いに惚れてしまうちょっと前まで、お互いに人間や魔族は奴隷以下の価値もない存在として歴代の勇者や魔王と同じように完全に見下してきたんでしょ?もしも捕らえた魔族や人間が体調不良を訴えてきたとしても、完全に見下している存在の戯言なんか聞いてあげようだなんて、ちょっと前までの二人は絶対に思いもしないよね?」
真面目な顔つきを辞めて、悪い笑みをしたロキは二人を論破していく。
「で、でも……。」
「ま、この世界にいるいつの時代の一人や二人はこんなことは間違っていると思っていただろうね。…でも、結局は勇者や魔王ように立場の大きな存在である君たちにそれを全て否定された。自分のことをお互いに完全な正義であると決めつけてしまっていた。だから今までくだらなくて意味のない戦争を数千年も繰り広げたしまったんだろうね」
「「………。」」
「分かった?勇者くんも魔王ちゃんも結局はこの世界で数千年も続く無駄な戦争の『駒』の一部でしかなかった。君たちにとってただでさえ短くて貴重な人生を、『無駄死』という生き方にしか出来ないようにされて、この世界に生まれてしまった『悲しい存在』と言う訳さ」
ロキは悪い笑みのまま、今の二人にとってあまりにも残酷過ぎる事実を平気で述べて二人を深い絶望へと叩き落した。
「「……………そんな」」
そして二人の心にあったこれまでずっと抱いてきた強い意志や思いは、たった一つの残酷すぎる事実によって完膚無きまでに壊れてしまった。