第七話 凌辱
※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
※また今回のサブタイトルに『凌辱』とありますが、成人向けの内容は一切含まれておりません
「「…はっ、はあァァぁああ嗚呼ぁアあ亜阿ァぁぁあ唖あぁぁ亜あああアあぁアアあ嗚呼あ嗚亞ああアああ亞あ亜阿ああアあぁァぁっ!?」」
ロキの思いもよらぬ発言に二人の思考は思わず一瞬停止した。しかし思考が再開し始めたとたんに、二人の顔は見る見るうちに真っ赤になっていつの間にか絶叫していた。
「なな菜名なな那奈ナナなっ、な、何、何をいイいィィぃい井伊いいいいい、言っている!?わワわ和環吾わわ倭ワワわっ、私がっ!ゆユ湯癒楡ゆユユゆ油ゆゆ、勇者に一目惚れだとおオオおお御おォォぉおおぉぉオオぉぉっ!?」
「そそソ蘇そ租素そそソ訴っ、そうだっ!!おおぉお苧おぉオ御おォォ緒お於おっ、俺が!!まま間まママま麻マま真まままマま摩痲ままっ、魔王なんかにっ!!ひひ日ひヒ比ひ被ひヒひ妃ヒヒヒ火ひひ非っ、一目惚れなんてするわけないだろっ!?」
先ほどまで二人の怒りは一瞬にして完全に消えて、勇者と魔王はソファから飛び跳ねるように立ち上がって、恥ずかしさと強すぎる衝撃の影響であちらこちらをしどろもどろとする。
(うわあぁ~…、分っかりやっす~…)
『私、写真を見てこの人に一目惚れ(ひとめぼ)しちゃいました!テヘ☆』と言っていることに変わりがない程の慌てた行動をしている二人にロキは思わず白い目で二人を見る。
しかしいつまでこうしている訳にもいかないと、ロキは話を再開する。
「…ま、まぁ君たちはこれで相思相愛という訳d」
「「そんな訳あるかぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」」
(えぇ~……)
恋愛に鈍感な人が見ても分かるくらいのバレバレ状態でも断固として否定してくる二人にロキは完璧に呆れていた。
「…じゃあ、どうしたら信用してくれるのさ…」
「…だっ、だったら先の発言が嘘じゃないとダントツで言える証拠をこの場に出して見なさいよっ!!」
「…そっ!そうだっ!!おっ!お前は神さまなんだからそれぐらいできるよなっ!?」
『今の二人のその状態が証拠だろうが』と思っていたロキだったが
「証拠があればいいんだよね…?」
と一言小さく声を挙げる。
「「…ああ」」
「…よしっ!!」
スクッと笑顔で立ち上がったロキは
「【チェイン・バインド】」
突然魔法を発動して魔力で具現化した鎖をソファから放って、勇者と魔王をソファへ拘束する。
「!?」
「おい!証拠を出せといったのに、何で拘束する必要があるんだっ!?」
しかし勇者の言葉を無視して、ロキは二人に魔法をかけていく。
「【リンク・アイ】、【リンク・イアー】、【スピリット・コントロール】」
「おいっ!!話を聞け!!」
「まぁ、まぁ、まぁ!拘束する理由はすぐにわかるから!!」
ロキは暴れる二人をなだめるとゆっくりとソファに座りなおす。
「…これが証拠だよ。たんまりと用意したから、最後までしっかり目に焼き付けるように…」
ロキは何やら悪い笑みを少し浮かべると、手のひらにテレビリモコンのようなものを出してボタンの一つを押す。
「「…!?」」
すると大きなスクリーンが二人とロキの間に突如として展開される。
「さて、はじめようか…」
画面の中のいくつもの黒い線が揺れて、『ブーン』と不気味な音に驚きながらも二人は画面を見つめる。
そしてしばらくするときれいな景色が映し出され、映像が音と共に動き出す。
「フフフ…。」
「「…!」」
するとそこへ魔王討伐の旅の途中で地面へ座り込んで休んでいる勇者が映り込んできた。
『勇者様ー!』
リリィは走りながら勇者に大きな声で呼び掛けてくる。
『リリィ、どうしたの?』
『ついに現在の魔王とその幹部たちの念写写真が手に入りましたよー!!」
『…本当かっ!?』
「………まさか」
「?」
映像の流れと共に勇者の顔がみるみるうちに青くなっていく。
『それで、その写真は何処に?』
『…これです』
腰のポケットからリリィは一枚の写真を取り出した。
『まだはっきりとしたことは分かりませんが、この写真の中央にいるのが…!!」
『…!!』
『我々が倒すべき憎き魔王ですっ!!』
そしてリリィが指を指した先にいた魔王を見た瞬間勇者は
『…。』
この時写真に映っていた魔王に釘付けとなり、惚れ込んでしまっていた。
「あアああァ唖亞ぁぁあアア亜アあぁああ嗚呼あアアぁあアアァ阿唖亜ああアああァあ啞ァああアぁアア唖嗚呼阿ああああああア亜ぁ唖ァアアぁアアアア嗚呼アあぁっ!!」
自分が初めて異性に惚れ込だ瞬間を、惚れた異性に見られるという最低最悪の凌辱行為に勇者は全力で声を荒げて涙目になりながら顔を真っ赤にする。
「……………。」
魔王も自分が惚れられた瞬間を見て、嬉しいと恥ずかしいといった感情を織り交ぜながらにして顔をどんどん赤くしていく。
「フフフ…。」
勇者と魔王はあまりの恥ずかしさに手で顔を覆い隠そうとするも鎖が邪魔をして顔を覆い隠せず、何とか聞かないよう見ないようにとしようとしてもくっきりと画面からの音と映像が脳裏に色濃く映り込み、自分を落ち着かせようと精神をなだめようとしても全く精神が落ち着いてくれようとしない。
「…さ~てっ!!場面が切り替わるよー!!」
「「…へ?」」
拍子抜けた声でロキの声に反応した二人は、画面を見上げていく。
『魔王様…、失礼いたします…』
『どうかしたか、エグマ…』
こことは違う城の玉座に座り込む魔王の元にエグマが丁寧にお辞儀をしてやってくる。
『先日部下の一人が、憎き勇者の念写写真を入手することに成功したとこちらを渡してまいりました』
『ほう…』
「…!!」
「…。」
この後の展開を理解した魔王は冷や汗を額から異常なほどに流す。そして勇者もこの後の展開が読めてしまったのか、少しだが顔を赤くする。
『まだ断定はできませんが、こちらがその憎き勇者の写真になります。』
『どれ…』
そしてエグマから受け取ったを写真を見た瞬間
『…。』
魔王は頬を僅かに赤くして映っていた勇者に釘付けとなって、惚れ込んでしまっていた。
「あアああァ唖亞ぁぁあアア亜アあぁああ嗚呼あアアぁあアアァ阿唖亜ああアああァあ啞ァああアぁアア唖嗚呼阿ああああああア亜ぁ唖ァアアぁアアアア嗚呼アあぁっ!!」
勇者と同様に自分が初めて異性に惚れ込んだ瞬間を、惚れた異性に見られるという最低最悪の凌辱行為に魔王も顔を真っ赤にして涙ぐんだまま全力で声を荒げてしまう。
「……………。」
勇者もまた自分が惚れられた瞬間を見て、嬉しいと恥ずかしいといった感情を織り交ぜながらにして顔を赤くしていく。
「ほらほらっ!!次!次っ!!」
この状況がとても楽しいのか、ロキは声を張り上げて別のボタンを押す。
『…と言う訳ですがいかがでしょうか?』
先程とは違い、勇者が暗闇の中で焚き火を囲んで仲間と共に作戦会議をしている様子が映る。
『だけど…』
『だけどじゃねぇだろ。これだけはバカな俺でも賛成だ』
『私もリリィに賛成ね』
『同じく俺も』
『…。』
四対一の状況をつくられて勇者は苦い顔をする。
『私たちを第一にしてくれる勇者様のその自己犠牲の精神は悪いことではないんです。ですがそのせいで勇者様が魔王と戦う前に、魔王を倒すための力や魔力が無くなってしまえば、全てが無駄になってしまいます』
『いくら魔王軍の幹部をここにいる全員で倒せたとしても、魔王は魔王軍の幹部の誰よりも圧倒的な力を持っていることに変わりはないんだ』
『それに私たち4人が万全の状態で魔王に挑んだとしても正直勝てるとは言えない…』
『挑んだ所でほぼ確実に俺たちは魔王に殺されるだろうな』
『…。』
『辛いとは思われます…。ですけど、今魔王と互角に渡り合えるのは勇者様しかいません!ですから魔王と戦うまでは本気を出さないで下さい…!……お願いします!!』
リリィだけでなく、アゼル・ニル・ルーフェの三人も強く頼み込むようにしていつも以上に真剣な顔になっていた。
『分かった…』
勇者は近くにあった魔王の念写写真を取って立ち上がり
『…絶対に約束は守ろう。俺はこの手で絶対に魔王を倒す…!だから全員で必ず生きて帰ろう!!これは…、絶対だ…っ!!』
力強く魔王の念写写真を力強く握りつぶした。
『『『『…ああ!!』』』』
4人は勇者の魔王討伐への力強い意志に自分たちも魔王討伐への意志を強めた。
『…あ。貴重な念写写真を…』
『まだまだ予備はありますので大丈夫ですよ。それに気分も何だか晴れやかなものになりましたから』
『そうか…。これは俺が責任を持って捨てておくよ』
『そうですか。じゃあお願いしますね』
『じゃ、お開きにしましょうか。みんなおやすみー』
ルーフェが焚き火の火をそっと消すと、みんなそれぞれ寝床に入る。
『…。』
勇者はみんなが寝静まったのを注意深く確認する。
『…【ライト】』
近くにあった手ごろな石に魔法を静かに付加して石を少しだけ光らせる。
『…。』
先ほど握りつぶしてしまった魔王の念写写真を丁寧に伸ばして綺麗にして、勇者は少しの灯りを頼りに魔王の念写写真をじっと見つめる。
『お前が魔族じゃなくて人間だったらな…。でも本物の綺麗なお前に会えるのがとても楽しみだな…』
すこし顔を赤く染めて幸せそうに勇者は笑った。
「ああああああああぁぁぁぁー!!唖ー!!アアアアァァァー!!あああアアあ亜アあああああ嗚呼アああ阿あアアアアあああ嗚呼アああ啞あぁぁぁァぁぁァァァぁァぁぁぁぁぁぁー!!」
「……………。」
「よーし!!次行ってみようっ!!」
『以上だ…。異論はあるか?』
『『『『いいえ、全くございません』』』』
魔王を中心にして、エグマ・ザザク・スルシュ・ラーナが席を囲んで話す様子が映り込む。
『…しかし、すまないな…』
『どうかされましたか…?』
『いや…、私がもっと強ければお前たちを勇者一行にぶつけずに済んだのだがな…』
『いいえ。アタシたちはこのための瞬間にいるようなものですからお気になさらないで下さい』
『もはや最初から決まっていたようなものだからな。今更気にしない方がいいと思いますぜ』
『ラーナ…、ザザク…』
『それにアンタは立派な魔王だ。歴代の魔王たちの中でも部下を一番に思いやってる。そんな王としての器をしっかり持った魔王様にはまだ死んでもらいたくないからな』
『ザザク!魔王様にはしっかり敬語を使え!大変失礼だぞ!!』
『へーへー…。分かりましたよ、スルシュさーん』
『全く…!!…魔王様、私たちは命を捨てる覚悟でぶつかります。ですがあいつらごときに魔王様に捧げたこの命を奪われるつもりはございません。我々は必ず全員無事で帰還します』
『私も魔王様にこの命を捧げた身、それにあなたの父親である先代魔王様に数えきれないほどの恩があります…。我々はあなたの手を勇者といった憎き人間に汚して欲しくはないのです』
『スルシュ、エグマ…』
魔王は心の中で4人に感謝すると、座っている席を立ちあがる。
『…よく聞け!!我が下部たちよ!!我々は今度こそ全ての人間を滅ぼし、この魔界に平穏と平和を必ず与えよう!!そして人間との長き因縁に終止符を付け、先代魔王たちの紡いだ目的を今こそ完遂するのだ!!』
『『『『はっ!!』』』』
『作戦会議はこれにて終了とする!!各自持ち場へと戻り、勇者一行に対して万全に備えるように!!』
『『『『はっ!!!』』』』
魔王の指示に従い、4人はそれぞれの持ち場へ戻る。
『………さてと』
魔王は作戦会議に使った道具を丁寧に箱の中へと戻していく。
『…!』
その時勇者の念写写真が手元にあるの気が付き、魔王の手が一瞬止まる。
『……………。』
魔王は写真を箱にしまって、箱を持ったまま自分の部屋に戻る。
『…。』
周囲を見渡して、物音や誰かいないか確認した魔王は勇者の念写写真箱の中からこっそりと一枚取ってそのまま近くのベットに寝転んだ。
『あなたが人間じゃなくて、魔族だったら良かったのになぁ…。もし会うことが許されたならあなたと一緒にお互いの趣味とか好きなことを話したりして…。そしたら多分とっても楽しいんだろうなぁ…』
もし勇者に会うことが許されたらと想像しながら、魔王もとても幸せそうに笑った。
「わあああああああぁぁぁぁー!!和ー!!ワアアアァァァー!!わああアアあ亜アあああああ嗚呼アああ阿あアアアアあああ嗚呼アああ啞あぁぁぁァぁぁァァァぁァぁぁぁぁぁぁー!!」
「……………。」
「アッハッハッハ!!アーハッハッハッ!!」
二人が声を張り上げて叫ぶこの状況があまりにも楽しいロキは顔面を右手で掴んで大笑いする。
「さーて!まだまだ証拠は残っているよ!!この程度でめげないでね!!」
「「!?」」
たださえキツイのに、これ以上見せられてたまるかと二人は大きく焦る。
「待って!!いや、待って下さいっ!!これ以上は本当にもういいですから!!」
「頼むっ!!いや、お願いします!!もう本当に辞めて下さい!!」
勇者と魔王は自分のプライドを捨てて必死になってロキに映像の再生を辞めるように催促する。
「えぇー?証拠を見せろって言ったのは君たちだよぉ?」
「うっ…!!」
「いや、そうですけど…」
わざとらしく声を張り上げて、ロキははっきりとした正論で二人を黙らせていく。
「…せっかく沢山の証拠を用意したんだし、しっかり細部という細部まで見せてあげるね!!」
「「や、止めっ!?」」
最高に悪い顔で笑ったロキはリモコンのボタンを押して、映像を再開させる。
「おぉー!勇者くんいいね、いいねぇ!!」
「ぎゃああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「魔王ちゃんもいいね、いいね、いいねぇ!!」
「うわああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「やっぱり勇者君も男の子だねぇ…。ニヤニヤが止まらないよぉ…。」
「見るなぁー!!魔王見ないでくれぇぇぇぇぇぇ!!」
「魔王ちゃんもまだまだ乙女なんだねぇ…。とっても可愛いよ!」
「消してっ!!勇者、今すぐこのことは記憶から消してええぇぇぇぇぇぇ!!」
「いい感じに盛り上がってきたねぇ!!さあっ!!証拠はまだまだたっぷりあるからさらに盛り上がっていこうかぁ!!」
「「いやああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」」
ロキは二人が叫びながら涙目で許しを請うのと同時に映像の中に映る二人の過去の恥ずかしい姿を見ながら笑い転ぶのであった。