第三話 王を守る者 その一
※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
※なおここは第零章ですので、本編に進みたい方は第五話の「殺し合い」からご覧ください。
「「「はぁ…、はぁ…、はぁ…」」」
あれから先を目指し、途中で合流したニルと共に勇者たちは幾度と無く襲いかかってくる魔族たちを撃退して、大きな深手を負うことなく大きな扉の前に来ていた。
「ここが魔王のいる玉座の間か…?」
「…いや、玉座のある部屋ならもっと扉は大きいはずだ。可能性は低いだろう」
「しかし、リリィとルーフェは大丈夫だろうか…」
「おいおい、何しみったれてんだよ。らしくないなぁ。リリィはともかくあのデカ女がいりゃあ…」
「誰が『デカ女』ですって…?」
「!!!」
後ろからいきなり聞こえた冷たい声に、顔色を悪くしながらアゼルが恐る恐る後ろを振り返ると、いつの間にかルーフェとリリィが到着しており、ルーフェが鬼が怒ったような怖い顔で両手を『ボキボキ』と鳴らしながらゆっくりアゼルに近づいて来ていた。
「ル、ルーフェ!?ぶ、ぶ、無事で良かったな!なっ!?」
「あれだけ『デカ女』とは呼ばないで欲しいと言ったのに…。アゼルあなたはまだ懲りていないようねぇ…」
「ごっ…!!ゴメン、ごめん、ごめんっ!!本当に悪かったから!!許して!!このとーり!!」
アゼルはジャンプすると同時にルーフェに向かって思いっきり土下座をする。
「…まぁ、いいわ」
「…!!」
歓喜の表情でアゼルは顔を上げるも
「後で締め上げてあげるから、覚悟するのね」
「!?」
最終的には許してもらえず、アゼルは項垂れて絶望した表情になってしまった。
「…まあとりあえず、みんながここまで無事でよかった」
「勇者様たちも無事でよかったです!」
「そうだな、本当に無事でよかった…。…それで話を戻すが、この扉の先は魔王のいる玉座である可能性はほとんど無いが魔王がいないとも限らない、気を引き締めていこう」
「あぁ…!いくぞ!!」
勇者はみんなの前に立ち、慎重に扉を開ける。
「「「「「…!」」」」」
やはりニルの予想通りそこには魔王も玉座もその部屋は存在しておらず、その部屋はただ広い白色の広間があるだけであった。
「予想以上に広いなここの広間は…」
「小さな窓が上に数ヶ所と上に何かしらの通路が一つあるだけで、特に【マジック・トラップ】等の罠魔法はありません」
「…ここは行き止まりなのか?」
「…いいえ。あそこに螺旋階段があるわ」
ルーフェが指を示す先に異様な程に豪華に飾り付けられた大きな螺旋階段が目立つように存在していた。
「異様な位に目立ってるな…」
「だけど、見る限り上の通路へ行くにはあそこの階段を使うしかないようね」
「もしも【マジック・トラップ】等の罠魔法があった場合は私が何とかします。また先ほどのように魔族たちに見つかって戦闘をするのはあまりにも時間の無駄です。急ぎましょう」
リリィの案に4人は賛成し、首を縦に振った。
「…ほぉ?誰があなた方を逃がすとでも?」
「「「「「!!」」」」」
突如と現れた不気味な声に、勇者たちは一斉に声のする方向へ振り返る。
すると振り返った先には広間の中心に先程まで存在していなかった赤い魔法陣がいつの間にか展開されており、そこから4つの影がズルズルと現れ始めたのだ。
(いつの間に…!)
勇者たちは先程の魔族たちとは遥かに桁違いな力をその不気味な魔法陣から嫌という程感じ取っていた。
「【ゲート・ロックキング】」
魔法陣の中に映る影の一つが左腕を前方に伸ばし、魔法を詠唱する。
すると広間の扉は勢いよく乱暴な轟音を立てて閉まり、『ガチャリ』と鍵を閉める音がした。
(締め出された…!)
「…よくぞ、ここまで倒れずに来られましたね…」
勇者たちを皮肉ながらも賞賛する声がすると、魔法陣が消えて影に隠れていた魔族たちを勇者たちはハッキリと認識する事ができるようになった。
「初めまして…。私は魔王様の忠実なる下部にして魔王軍幹部総代表をしております…、名を『エグマ・エクスブロージュ』と申します…」
羊の角を生やし執事服を綺麗に着こなしている三白眼でツリ目をした魔族の男性は自己紹介を丁寧に行い、頭を下げて丁寧にお辞儀をした。
「同じく俺も魔王様の忠実なる下部にして、魔王軍幹部の最強の斧使い『ザザク・ベルモンテ』」
「同じく私も魔王様の忠実なる下部にして、魔王軍幹部の最強の猫人の一人『スルシュ・ティフォールド』」
「そしてアタシも魔王様の忠実なる下部にして、魔王軍幹部の最強の双剣士の一人『ラーナ・ニルフィ』」
そしてエグマの近くにいた3人の魔族もそれぞれ自己紹介を済ませ、軽くだが頭を下げた。
「さて自己紹介はここまでにして…。勇者一行よ…、あなた方のような汚らわしい人間を我が偉大なる魔王様の前へ会わせる訳に行きません…」
「「「「「…!」」」」」
「…まぁ、そこまでしてでも我が偉大なる魔王様へお会いしたのであるのなら…」
「「「「「…?」」」」」
「…今の魔王様が最も欲するであろう、…………貴様たちの汚れた命をここに今置いていって貰おうか」
「「「「「…!!」」」」」
「…では」
話を終えた途端エグマは目つきを更に鋭いもへ変化させる。
そして魔力を下半身全体に伝え、瞬発力・スピード・パワーを一気に底上げして勇者たちとの距離を瞬時に詰める。
「【眠りへ誘う羊の蹴り】」
「ッ!!」
剣を即座に抜き、蹴りこんできたエグマの攻撃を勇者は間一髪で防ぐ。
「…ふむ」
「…!!」
エグマの攻撃を勇者は跳ね返し、エグマは宙を後ろへ一回転して少し後ろへと下がり、衝撃で多少痺れた脚を気にしながらも体制を整える。
「オオオオオオォォォォォッ!!」
そして二人の激突が引き金となり、巨体のザザクは自身の身体と同じほどの大きさの斧を持ってアゼルに近づいて勢い良く振り下ろす。
「うぐっ…!!」
盾が変形するかもしれないほど斧の威力と衝撃に顔を苦痛に歪めながらも、アゼルは何とかザザクの攻撃を防いでいく。
「どうしたぁっ!?勇者様は強くてもチビナスのお前はただのザコに過ぎないのかぁ!?」
「ぐあっ…!」
「そのままぶっ潰れろ!!【バスター・アクスノイド】ッ!!」
「…舐めるな!【シールド・ナックル】ッ!!」
魔法により異常なまでに強化されたザザクの振りろされた斧を、アゼルは堪えて押し返すようにしてザザクの斧を盾で弾き飛ばす。
「…チィッ!!」
「【アクア・スライシス】ッ!!」
アゼルは一歩踏み出し、二連続の水の刃をザザクに叩き込む。
「フッ!!」
だが惜しくも斧を素早く持ち直したザザクにその二連撃は届かなかった。
「くそっ…!!」
「…チビナスが!やりやがる…!!」
こうした激戦の中で、ルーフェとニルも二人の幹部に苦しめられていく。
「ニャアアアアアアァァァァッ!!」
「くっ…!!」
鉤爪を両手に装備する垂耳の猫人のスルシュは高い瞬発力とスピードでニルの顔元を狙い攻撃を仕掛ける。
高い瞬発力とスピードを持つはずのニルも一歩及ばずに、【フリーズ・ピック・ランス】で強化した槍を入れようとしても魔力で強化された鉤爪に防がれていく。
「【キャット・ハント】ッ!!」
顔の肉を削ぎ落とそうとして魔法で更に強化された鉤爪は息をつく間もなくニルへ向かってくる。
「…ッ!!」
だが、何とかそれをニルは間一髪で避ける。
そして圧倒的な隙がスルシュに生まれ、それをニルは逃さなかった。
「…【アイス・スピット】!!」
【フリーズ・ピック・ランス】に更に魔法を上乗せして更に強力となった槍をスルシュへ向けて放つ。
「シィ…!!」
しかし隙を突かれたはずだったスルシュは、猫人の特徴である身体の柔軟さを生かして余裕にニルの槍を避ける。
「…くっ!」
槍を避けたスルシュはニルから少し離れ即座に体制を立て直すと、鉤爪を構えて瞬時にニルに襲いかかる。
「…【キャット・ハンツ】ッ!!」
先程の【キャット・ハント】とは威力が少し落ちているものの、スピードが上がった連続攻撃は避けるので精一杯となるほどにニルを苦しめる。
「うっ…!」
「ニャアアアアアァァァァッ!!」
ついに避けきれなくなったニルの顔面へ、スルシュの【キャット・ハンツ】が入り込む。
「【ウィンド・ナックル】ッ!!」
しかしそこへルーフェがギリギリでニルとスルシュの僅かな間へ入り込み、魔法により強化された拳がスルシュのみぞおちへめり込むようにして入る。
「ゴホッ…!!」
身体を浮かせてスルシュは1m後ろへ飛ぶ。そして地面に上手く着地したものの、痛みが引かず下を向いてその痛みに抗っている。
「…悪い」
「大丈夫!気にしないで!」
「よく言葉を交わしてられる余裕があるなぁ!?」
「!」
そこへ2本の短剣を構え、強い怒りを露わにしたラーナがルーフェを襲う。
「よくもアタシという存在を無視しやがって…!!ふざけるなぁぁぁぁぁ!!」
「くっ…!」
短剣による連続攻撃はルーフェを追い詰めるものの、ルーフェはそれを的確に避けていく。
攻撃が当たらないことにラーナはどんどん苛立ちを覚えていく。
「煩わしい…!!【シェイプド・エッジ】ッ!!」
ラーナの短剣は突如として長剣へ変化して、攻撃の速度を更に上げてルーフェを切り刻もうとする。
「…!」
リーチが良くなり、避けることが難しくなり少しづつルーフェを追い詰める。
「ハアアアアアアァァァァッ!!」
追い詰めて攻撃箇所が出来たラーナは右手の長剣をルーフェ目掛けて振り下ろす。
「…【ウィンド・メイル】!!」
ラーナの長剣が振り下ろされた時、ルーフェの身体に沢山の風が鎧のように身に纏われる。
(なんだ…!?)
そしてニールの右手の長剣がルーフェの左腕に当たった瞬間、ルーフェは無傷のままに剣が当たった箇所から暴風が巻き起こりニールを後ろへ大きく吹き飛ばす。
「く…!」
後ろへニールが吹き飛ばされた瞬間に素早く構えたルーフェは、魔力と風を右手に集中させて素早く空気を殴る。
「【ライト・ウィンド・インパクト】ッ!!」
先程の【ウィンド・インパクト】には威力がかなり劣るものの、強力な風と衝撃波がラーナを襲う。
「…【クロス・クラッシュ・ブレイド】ッ!!」
だが体制を何とか持ち直して剣を持ち替えたラーナは、二本の剣を外側から内側へとバツ印を描くようにして切り込み、飛ばされてきた【ライト・ウィンド・インパクト】を相殺した。
「散々イラつかせやがって…。…絶対にぶっ殺すっ!!」
「…!」
ラーナとルーフェはお互いに間合いを取り直して先ほどよりもより強くぶつかり合っていった。