第二話 強襲 その二
※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
※なおここは第零章ですので、本編に進みたい方は第五話の「殺し合い」からご覧ください。
「…ニル!」
凍り付いた魔族の元を去ったニルを呼び止める声が後ろから聞こえる。
「…リリィ、ルーフェ。来たか」
ニルが振り返ると155cm程の小柄な人間の少女と180cmととても身長の高い人間の女性がニルの元へに向かって走ってきていた。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ…」
「…リリィ、大丈夫?」
「え、えぇ…。何とか」
「キツイと思ったら我慢せずにいつでも言って。…ところでニル、状況はどうなってるの?」
「…二人は今先にいる魔族たちを撃退しながら魔王のいる玉座を目指してるところだ」
「勇者様とは今どれぐらい現在地から離れていますか?」
「…かなり離れているとは思うが、今ならまだ二人に追いつけると思う」
「…よしっ!急ぎましょうか!」
「はい!!」
勇者の後を追いかけようと三人は勇者が向かった方向へと走り出す。
「…はあっ!!」
しかし、走り出したタイミングで別の扉と窓から魔族が襲い掛かってきた。
「このタイミングで…!!」
「文句を言ってられる状況じゃないな…。前方は俺が片付けるから二人は後方を頼む!」
「分かった!リリィ、援護をお願い!!」
「はい!!」
二手に分かれ、三人は向かってくる魔族を撃退しようとそれぞれ身を構え応戦する。
「…ハッ!」
ニルは先ほどと同様に【フリーズ・ピック・ランス】を使い、魔族の攻撃を避けつつ、攻撃を当てて氷漬けにしていく。
「せああああぁぁぁぁっ!!」
一方でルーフェはニルに負けじと魔族たちの入り乱れる攻撃を避けて、カウンターを交えた打撃を連続して魔族たちに叩き込んでいく。
「ぐへっ…!!」
「こ、この…、デカ女っ…!!」
「…!!」
『デカ女』と呼ばれたことがルーフェの気に障ったらしく、その怒りによってルーフェの打撃はより鋭いものへと化して更なる一撃を魔族たちに与えていく。
「がっ…」
「ふぐっ…!」
「チィッ!!バラバラに攻めるな!一気に畳みかけるんだ!」
ひるんでいた魔族も立ち上がり、一網打尽にしようとルーフェに素早く襲い掛かろうとする。
「…。」
攻め込まれている状況でもルーフェは呼吸を少しも乱さずして落ち着いて構えて目を瞑る。
「「「うおおおぉぉぉぉぉっ!!」」」
(4m………、3m……、2m…。)
「「「おおおおおぉぉぉぉっ!!」」」
(今っ!!)
ギリギリまでに魔族たちを自分に近づけ、目を開いたルーフェは急激に魔力と風を溜めた右手で空気を思いっきりぶん殴る。
「…【ウィンド・インパクト】ッ!!」
『バン!』ととても大きな爆発のような音が響き、ルーフェの右手から放たれた風と衝撃波は前方にいた魔族を容赦なく吹き飛ばす。
「ぐほぉ…」
「…カハッ!!」
「ガッ…!?」
その強すぎる衝撃に魔族たちは、所々から血を流して吹き飛んでいきながら意識を失っていった。
「…はぁっ!!」
しかし【ウィンド・インパクト】を放って直後のルーフェに、魔族たちが別方向の窓を破って襲い掛かってくる。
「…しまっ!!」
【ウィンド・インパクト】を放った反動で足と腕が痺れてルーフェは硬直して動けずにいた。
「「はあぁぁぁぁぁっ!!」」
ルーフェに魔族たちが剣を入れこもうとする。
「…!」
「【ボルテージ・バリア】!」
だがルーフェの周りを青白い電気を纏った球体の魔法障壁が展開される。
「「!?」」
思わず驚いたものの、魔族たちは障壁ごとルーフェを切ろうと障壁に剣が触れた瞬間
「「ギャアアァァァァァァァッ!?」」
超高電圧の電流が剣を通し、魔族たちは感電地獄へと落とされる。
「「「…!?」」」
電流に痺れていた魔族たちから一部の電流が拡散して、遅れてルーフェを襲おうとした魔族たちにも高電圧の電撃が襲いかかる。
「「「ギャアアアアアアアアァァァァァッ!!」」」
窓を破って襲い掛かってきた魔族が感電地獄から解放された時には
「「「「「ア…、アァ…、ァ…。」」」」」
魔族たちは原型を留めないほどの黒焦げの塊となり、バタバタと床に倒れこんでいた。
「…このっ!!」
「…!」
だがリリーの後ろへ魔族がいつの間にか急接近している。
「…リリィ!!」
「終わりだあぁぁぁ!」
斧による魔族の一撃はリリィに入ろうとする。
「…はっ!!」
しかし魔族の斧の一撃は、リリィの高速で展開された魔法障壁により防がれる。
「クソ…!!」
遅れながらも駆け付けた魔族も加わり、リリィを滅多打ちにするように様々な箇所へ攻撃をするも魔法障壁はびくともせずにいる。
「…。」
「…何だよこれ!?ミスリルの盾かよ!?」
「クソッ!クソッ!!」
「ちっくしょうがぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
激情した魔族の一人がリリィに自身の全力の一撃を叩き込んだ。
『バリン…』
すると嫌な音を立て、何かが壊れる音がした。
「へへっ…」
リリィの魔法障壁が割れたと魔族は顔をにやけさせる。
「…。」
しかし、リリィの魔法障壁を確認するも魔法障壁にはヒビ一つすら入っていなかった。
「…なっ!?」
もしかしてと魔族は自分の愛用の斧を慌てて見る。
「…バカな!?」
斧の先端はすでに壊れており、先端部分は隣の壁に突き刺さっていた。
「…貫け」
斧が壊れたことに唖然としていた魔族が、リリィの声に気が付き急いでリリィの方を向く。
リリィは杖に魔力と電気を集中させ、壊れた斧を持った魔族に杖の先端を向ける。
「【ボルト・ランス】!!」
杖から放たれた槍のように細く長く鋭い電撃は、壊れた斧を持った魔族の心臓を鎧の上から簡単に貫ぬく。
「くぁ…」
一瞬の内に命を奪われ、魔族は電撃に苦しみながら膝をつきゆっくりと倒れこむ。
「お、おいっ…!!」
「…なっ!?」
そして【ボルト・ランス】は一人を貫いただけでは終わらず、軌道を変えて他の魔族の心臓も貫いていく。
「うぁ…」
「ぐへぇ…」
「…か」
【ボルト・ランス】が自然消滅すると同時にリリィを襲った魔族は全員動かなくなっていた。
「ふぅ…」
「リリィ!ごめん!さっきはありがとう!!」
「いえいえ。大体はルーフェさんが片付けてくれたから、こっちもとても助かりました」
「とりあえず、ニルたちの所へ急ぎましょう」
「はい!」
二人は急いで勇者たちの元に向かって走り出した。