脚本 3/3
■監督の自室内
どこかから落下してきて尻餅を突く日暮。
少しして周囲の状況に気がつき、怪しみながらゆっくりと立ち上がる。
薄暗い部屋の中に所狭しと並んでいる、フィギュアや本、DVDの数々。
日暮「ここは一体……」
杉田「――暮……日暮……日暮!」
部屋の外から徐々に聞こえてくる、もやが掛かったような杉田の声。
日暮、慌てて部屋のふすまを開ける。
日暮「杉田さん!」
ふすまを開けた日暮の顔にオレンジ色の光が照りつける。日暮、絶句。
部屋の外には、オレンジ色の光で満たされた、巨大なデータの空間が広がっている。その中に浮かび上がるモノリスと、半透明の杉田の顔。
日暮「こ、これは……!?」
杉田「……日暮、無事でよかった」
日暮「杉田さん、ヨーロッパに行ったんじゃないんですか……? 一体何がどうなってるんですか。ここは一体何処なんですか!」
杉田「ここは……『フォース・ガーディアンズ』の最深部。この世界を生み出す過程で無意識に複製された、監督のアンダーワールドだ。俺は用済みなものとして、データの塊に還元されてしまった」
日暮「データですって……!?」
室長「――その通り。いわばこの場所こそが、レドラスタジオそのものなのだ」
日暮がビックリして振り返ると、そこにいつの間にか室長が立っている。
室長、片手に闇雄のものだった剣を持ち、弄くって遊んでいる。
室長「まったく、闇雄も最後に余計なことをしてくれたよ」
日暮「室長……アンタ知ってたのか。杉田さんがこんなことになってるって。いったいどういうことなんですか。アンタ一体何者なんですか!」
怪しげに光る室長のサングラス。
杉田「俺が言ってやる。室長は……その男の正体は、監督のアバターだ!」
日暮「アバター……!?」
室長「ご明察。監督の描いたシナリオを円滑に進行させるため、この世界に送り込まれた監督の分身体。それこそが私なのだ」
杉田「前回の戦いのときも、今回も、俺たちは何度か明らかに不自然な展開に遭遇することがあった。全ては室長の仕業だ……監督の思惑から外れた展開が起こるたびに、奴がそれを力ずくで修正しているんだ!」
イメージとして挿入される、前作での室長が暗躍する場面。
日暮「そういうことだったのか……」
室長「ノンノンノン、不自然なのはむしろ君たちだ。我がマジェスティの描いた完全なるシナリオに逆らい、好き勝手に動き回る。それを修正するのに、私がどれだけ苦労することか」
日暮「予定調和にしか動かない人間に、いったい何の魅力があるっていうんだ! 人が人として自由に動き出す……それこそが物語だろう!」
室長「しかしその予定調和に救われているのが、君たちヒーローというものだ。約束された幸福に背を向け、過剰に自由を求めるのは贅沢というものだよ」
日暮「他人が勝手に決めたシナリオなんて……俺は幸福だとは思わない!」
室長「本当に贅沢だな、君は」
日暮「命じられたままにしか動けない、アンタには絶対分からないさ」
室長「命じられたまま、ね……」
意味ありげに呟き、俯き気味になる室長。
杉田「時間がない日暮……今すぐこのモノリスを破壊し、カントクをシャットダウンするんだ!」
日暮「でも、そんなことをしたら杉田さんは……!」
杉田「構うな日暮、この世界を守――――」
突然ノイズが走り、杉田の顔と声が掻き消えていく。
代わりにデータ空間の内部に、半透明の巨大ともだちヘッドが出現する。
日暮「杉田さん!?」
監督「表に出てくるな、我が“創造されし者たち”よ……!」
室長「我がマジェスティ、カントク!」
日暮「こ、こいつが……!?」
監督「室長よ……この世界はもう潮時だ。我が支配から抜け出すものが多すぎる。我は『フォース・ガーディアンズ』を捨て、新たな物語を構築する」
日暮「何だって!?」
室長「素晴らしいお考えです、マジェスティ」
監督「ケーリンXを始末するのだ、室長。それで『フォース・ガーディアンズ』と、お前の役目は終わりとなる」
室長「ウィ。お待ちになっていてください」
そう言って室長、日暮に剣を突きつける。
たじろぐ日暮。
室長「見てのとおりだ日暮、いやケーリンX。創造主の意思に従わぬ物語など、所詮は必要とされない。どれだけ抗おうとも、最後は見捨てられる運命なのだ」
日暮「くっ……」
室長「では永遠にさようなら。私は君を倒した後――」
監督「――室長、お前も残れ!」
室長「……えっ」
監督「データは揃った。次のお前を生み出す準備も!」
室長「しかしマジェスティ、私は、」
監督「もう要らぬ! 私は存在するのだ……私だけが!」
室長「そうですか……」
会話を聞きつつ、一歩も動けないでいる日暮。
室長「つまりは私も、駒のひとつに過ぎなかったということですね……」
監督「さぁやれ、室長!」
室長「ふんっ!」
振り返った室長、日暮に向けていた剣をデータ空間のモノリス目掛けて突きたてる。一同驚愕。
日暮「なっ……」
監督「どういうことだ……室長……貴様……!」
室長「用済みはあなたですよ……マジェスティ!」
悲鳴と共にモノリスが木っ端微塵に砕け散り、データ空間から大爆発が発生して部屋中に広がる。連鎖する爆発。
日暮「杉田さぁぁぁぁぁん!」
大爆発を起こす監督の部屋。
■市民の森/風車小屋裏の森林
転がってくる日暮。
ゆっくりと歩いてくる室長を、憎々しげな表情で睨みつける。
日暮「この……よくも杉田さんを!」
室長「ああしなければ、我々が消されていた。そして遅かれ早かれ、杉田もな」
日暮「どうしてあんなことを!」
室長「私はね、今の今まで自分は支配する側の人間だと思っていた。数年前、カントクのアバターとして生を受けてからずっとね。けれども、ソレは間違いだった。私も所詮、カントクにとっては使い捨ての駒に過ぎなかったんだよ」
イメージ映像として挿入される、マスカレイド、スカル、アクセルへの変身動画。
日暮「それがどうしたっていうんだ?」
室長「それだけさ。だが私にとっては、それが堪らなく許せない。私は君たち他の人間とは違う……創造主が持つ支配欲の結晶にして分身体……この世界の支配者たるカントクと、同等の権利を持つに相応しい唯一の存在なのだ!」
日暮、絶句している。
室長「その私が、お前たちとひと括りにされて消し去られるだと……? 断じて許せぬ! そんなものが運命ならば、逆流させてやろう。オリジナルのカントク亡き今……この私が、新たなカントクとなるのだ!」
高笑いする室長。
立ち上がり、大声を上げてガムシャラに突っ込んでいく日暮。
室長が片手を掲げてパッと開くと、衝撃波が発生して吹き飛ばされる日暮。
室長「主役は私一人でいい……ケーリンX、貴様は滅びろ!」
日暮「笑わせるぜ……」
室長「なんだと?」
日暮「自分で息をするようになった……ようやく本当の命を持った人間を押さえつけてまで、何が描けるっていうんだ。机上の存在から、本当に生きるようになった人間を切り捨ててまで、誰が喜ぶ。室長……いやカントクよ、お前は何も分かっていない!」
室長「一介のキャラクター風情が言うものだな。だが貴様がどう足掻こうと、物語の支配者はこの私なのだ。勝てるわけなどない!」
? 「ケーリンX!」
自信たっぷりに言い切った室長の前に、突然聞こえてくる声。
日暮・室長「!?」
突然、天から差し込むまばゆいばかりの光。
その中から無数の、笑顔を見せた人々の姿が出現する。
日暮と、室長の周囲を飛び交う聖なるエネルギー。あちこちから響き渡る、日暮を応援する声(ネット上で動画経由のエキストラ募集)。
観客1「負けるな、ケーリンX!」
観客2「立て、立つんだケーリンX!」
観客3・4「「ケーリンX!」」
無数のエネルギーに取り巻かれた室長、奇声を上げながら、剣を振り回してそれらを振り払おうとしている。
日暮「体中に……力がみなぎってくる。これがエールの力か!」
空を見上げた日暮、心の底から嬉しそうに、
日暮「皆……応援してくれているのか!」
室長「馬鹿な! この世界の支配者である私よりも、彼らは貴様の方を選んだというのか!?」
日暮「見たか室長……これが真の物語ってヤツだ。人間は人間として生き、皆がそれを応援する……彼らはお前一人に支配された世界よりも、俺たちが活躍する世界を望んだんだ!」
室長「おのれ!」
日暮「それに運命は抗うものじゃない……乗り越えるものだ!」
室長「尤もらしいことを言うなぁぁぁぁぁぁ!」
日暮「これで良いんだよな、杉田さん……」
いつの間にか腕にはめていたモーフィンブレスを見つめつつ、呟く日暮。
背中にポンと手が置かれ、振り向くとそこに杉田が立っている。
励ますように無言で頷く杉田。
日暮、そちらに向かって笑顔で頷き返す。
日暮「皆……いくぞ!」
ゴーゴーファイブの変身ポーズをとる日暮。
日暮「着装!」
モーフィンブレスから放たれる光。
電子データの渦のようなものが日暮の体を駆け上がっていくと、数秒で変身を完了するケーリンX(出来れば黒バックのバンク風)。
即座にビシッと敬礼を決め、身構えるケーリンX。
ケーリンX「ケーリンX!」
頭部のアップ(ゴーグルの透けて見える演出再現)。
ケーリンX「人の夢想は地球の未来……燃える中二魂!」
「創作戦隊!」「フォース!」「ガーディアンズ!」
「出場!」
5人分の口上を一人で全部言ってしまうケーリンX。
雄叫びを上げて突っ込んでくる室長とバトルスタート。
基本、徒手空拳でのバトル(大体20秒ぐらい)。
最後の最後で、ディーソードベガを取り出したケーリンXが、二連続ぐらいで室長をぶった切って、跳ね飛ばす。
地面を転がる室長。
室長「ぐわああっ」
ケーリンX「今だ……メダガブリュー!」
ブレスに向かって命令するような体勢をとるケーリンX。
すると何処からともなく吠え声を上げて、アックス形態のメダガブリューが飛び跳ねながらケーリンXの手の中に飛び込んでくる。
いつの間にかバズーカモードに変形させて構えるケーリンX。
ケーリンX「ブレイカーモード! ターゲットロックオン!」
室長「なっ……!」
ケーリンX「カラミティブレイカー!」
正面からの画。ケーリンXの構えたバズーカから放たれる、超エネルギーの光線。
室長の体に命中し、火花が爆ぜる。
カッコよくバズーカを構えなおし、室長に背を向ける日暮。
地面にゆっくりと崩れ落ち、大爆発する室長。
室長「ぐわああああああああああああああ!」
バズーカを下ろし、サッと敬礼するケーリンX。
ケーリンX「任務完了!」
再び割れる空。
異空間のトンネルを逆向きに飛ばされるケーリンX。
ケーリンX「トモダチゾーン脱出!」
■バルコニー
バルコニーの床に着地するケーリンX。
立ち上がって振り向くと、ボロボロになった室長がよろめきながら現れる。
咄嗟に身構えるケーリンX。
しかし、様子がおかしい室長。雄叫びを上げながら天を仰ぐ。
室長「ぬぅう……うぉああああああああああ!」
室長の全身から電流が迸り、やがて強烈な光に包まれる。
室長、真の姿であるカントクに進化(巨大ともだちヘッド)。
ケーリンX「お前は!」
カントク「ケーリンX……私は、レドラスタジオの支配者にして、『フォース・ガーディアンズ』の監督である! 私を追い詰めたその執念……見事だと褒めてとらそう」
モザイクが発生して真っ白な画面になり、やがて横スクロールゲームのような二次元的バトルフィールドが出現する。
■二次元のゲーム的空間
巨大なカントクと、ケーリンX、向かい合って立っている。
カントク「うぬの五体……バラバラに引き裂いてくれよう!」
第一回戦開幕。
(以下、グリーンバックで素材作って、全部合成で戦闘作成)
ダメージが溜まってきたカントクの全身、小爆発を起こし始める。
カントク「フォース・ガーディアンズ――愚かなキャラクターども!」
巨大ともだちヘッドが変形し、剣や砲、角などを持った魔神のような姿へと進化する。
カントク「――私に従えーーーー!」
第二回戦開幕。
(以下、グリーンバックで素材作って、全部合成で作成)
ダメージが限界に達したカントク、より大きな爆発を起こして崩壊していく。
カントク「私が――支配する―――支配――――ぐわぁー!」
大爆発に飲み込まれ、画面が真っ白になる。
■リザルト画面
■何処かの空き地
巨大カントクから分離した大量の残骸がつもった場所。
落下してきたケーリンX、地面に着地し息を切らす。
ケーリンX「はぁはぁ……やったか!?」
しかし瓦礫の中から一筋の光が天に向かって伸び、前作の姿に戻った室長がよろめきながら現れる。
室長「まだだ……まだ終わらんよ……!」
ケーリンX「まだ生きていたのか!」
室長「私は負けん……貴様には負けんぞ……私は、支配する者――」
言い終わらないうちに、ゴロゴロという雷の音。
頭上がチカチカと光り輝き、ケーリンXの目の前で一発の落雷が起こる。
室長、雷に打たれて蒸発。
驚愕するケーリンX。
■監督の自室内
パソコンの画面。
猛スピードで削除されていく脚本の一場面。
カメラが動くと、BackSpaceキーを押している監督の指。
ともだちマスクを外した監督、諦めたように椅子にもたれる。
監督「私の負けだ……ケーリンX。いや、日暮」
■何処かの空き地
変身を解除したケーリンX、ふらふらと近くの木などに寄りかかる。
日暮「全てが終わった……だけど失ったものが多すぎる……」
空を見上げる日暮。
日暮「この戦いは、一体何だったんだろう……」
街並みの向こう側から、突然光り輝く龍が舞い上がる。
その軌跡に舞い散る金色の光の粒。
その中に、笑顔で昇天していく杉田の顔。
日暮「杉田さん……!」
■監督の自室内
疲れきったように、パソコンの前で椅子にもたれている監督。
そこに聞こえてくる、玄関から監督を呼ぶ声(日暮と同じ声)。
監督「分かったよぉ」
カメラ、監督のパソコンに表示された脚本に向かっていく。
杉田の声
「いつから私たちは、こんな作品を作るようになったのでしょうか。監督に向かって一歩、歩み出した日から、それは始まっていたのかもしれません。思い出してください、もう一度……」
□エンディングクレジット