幕間 悪魔との契約ーアンナ視点ー
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神様なんかいない。
そう思っていた。
もし神様がいるんだったら、なぜ私に救いの手をさしのべないのか。
「おいおい!どうした?いつもみたいに泣かないのか?」
さっきまで私を殴っていた太った男が笑いながら話しかけた。
私は声が出なかった。どうやら喉が潰されたらしい。
「おい!本当にどうした?!...もしかして死んじまったのか?」
息がうまく出来ない。体はもう指一本も動かすことが出来なくなっていた。
はあっと男がため息を漏らす。
「結構いい声してたのになあ...。しかたない。おい!誰か来い!」
男が大声を出すと慌てた様子でひどい猫背のやせた男が部屋の扉を開けて中に入ってくる。
「へい、どうしましたか!」
「この女動かなくなりやがった!どっか捨ててこい。」
「はぁー、またですか?へへ、もう会長はすぐに壊しすぎなんですよ!」
「しょうがないだろう?あとこの館にいる他の女どもにもだんだん飽きてきた...。まだ使えそうな奴は娼館にでも売って新しいのをクエリーの野郎に持ってくるように伝えておけ!」
「わかりました!たしか領主様はまた綺麗な女をその辺の村から新しく連れてきたって言ってましたぜ。領主様が飽きたらーー」
「ならその女を今すぐ買え!そろそろ初物でやりたくなってきたところだったしな...!金は問題ない。明後日は取り立ての日だからなあ!」
「了解です!」
男達は今後のことを話し合うと笑い合った。
「そういえば、うちの若い衆もグレッグ様には感謝していましたよ。この間グレッグ様が与えた女がたいそういいそうでして。」
「はは!そうか。あいつらもよくやってくれているし今度よさげなのを街で攫って新たに与えるか!」
「それはいい考えで!うちの奴らも喜びますよ!」
ああ、なんで私はこんな奴らに...。
何でこんな奴らはのうのうと生きているんだ...。
今までどれだけの人が彼らに苦しめられ、殺されてきたか。
それなのになぜ彼らはのうのうと楽しく生きているんだろうか。
やはり神様なんていない。
いるはずがない。
もしもいるんだったらなんでこんな不条理なことが起きるのだろう。
わからない。
でもわかることは一つある。
もうすぐ私は終わる。
アンナは理解していた。自分がもうすぐ死ぬであろうことを。
アンナの体はもう限界だった。
あと数時間で彼女の命がつきることは明確だった。
もっとも彼らは全く動かなくなってしまったアンナをもう死んだものと思っているが。
しばらくして、アンナは意識を失った。
あれからどのくらいの時間がたっただろうか。
アンナは意識を取り戻した。
ここはどこ?!
彼女は最後の力を振り絞って体をわずかに動かした。
「こいつまだ生きていたのか!」
男の一人が声を上げた。
「やるしかねえだろう。こんななりじゃ娼館にも売れやしない。使い道がないからなあ。」
ああ、どうやら私は今から殺されるらしい。
アンナが最後の瞬間を覚悟したその時だった。
「何をやっているんですか?」
それはこの世の者とは思えないような神秘的な声だった。
女神様?
そう思った。そうとしか考えられないような何かの魔的な力がある声だった。
しばらくすると外から男達の悲鳴が聞こえてくる。
ああ...!女神様は私のことを見捨てていなかったんだ!
あたりが静かになった。するとこちらに向かってくる足音が聞こえてきた。
女神様!私はここです。ここにいます!...でもなんで今なんですか...?なんでもっと早く...。
そう思っていると麻袋がいきなり開いた。
そしてそこには慈愛に満ちた女神がいると思っていた...。
ッ...!
しかしそこにいたのは女神ではなかった。
女神とは真逆の存在だった。
そこにいたのは真っ白な髪と肌をしている赤い目の化け物だった。
そこにいたのは恐怖そのものだった。
化け物は最初笑みを浮かべていた。返り血の真っ赤な口紅をつけて...。
しかし私を見るとその表情は一瞬で変わった。
化け物の表情がみるみるこわばっていく。
今の化け物から感じられるイメージ...。
それは怒りだった。
「安心してください。私が全て治しますから。」
その声は女神の声だった。
合ったことはないが、もし女神がいるとしたらこんな声だろうと誰もが思うような慈愛に満ちた優しい声だった。
女神の手が私の汚れきった体に触れる。
ああ...なんて温かい...。
優しい光に包まれて私は意識を手放した。
「ん...。」
どれくらい眠っていただろうか。
起きてみると底は知らない部屋だった。
「お、ようやく起きましたね。」
優しい声がした。
振り向くとあの少女がいた。
「まず、これを着てください。」
少女から服を進められた。
「あ、ありがとうございます。」
私はベットから抜け出そうとしたときにあることに気がついた。
体がすべて地獄を経験する前に戻っていた。
「体が元に戻ってる...。」
「ああ、それですか。あなたの病気やけがは全て治しました。あなたにはもうどこにも悪いところはないですよ。鏡を見ますか?」
少女は信じられないことを言うと鏡を手渡してきた。
おそるおそる鏡を見るとそこにあったのは傷一つない私の顔だった。
「あ、あああ、あああああああ.......!!!!!」
私は泣き出してしまった。だってもう元には戻らないと思っていたから。
耐えられるはずがなかった。
それからしばらくして、ようやく落ち着いた私は少女から渡された服を着た。
すると少女は私にベットに座ることを促した。
私がベットに座った瞬間空気が変わった。
.......!!!!
少女が本性を現したのだった。
全ての人々の畏怖の対象となるべき怪物。
それが私を助け、元の体に戻してくれた女神のような少女の正体だったのだ。
彼女は自己紹介を始めた。名前はルーナ・フォールというらしい。
自分が人間でないことを明かしたが、正直驚かなかった。
ああ、やっぱりという感じだった。
「アンナ。安心していいよ。私はあなたに何の対価も求めない。」
心底驚いた。だってこれから魂を取られるような気がしていたから。
でもこれで終わるわけにはいかなかった。
私を助けてくれた少女。私の体を元に戻してくれた少女。
少女が悪魔でも魔王でも、もうどうでもよかった。
何かしたい。彼女のために何かしたい。
私なんかが恩返しなんて出来るような存在ではないことはもうわかりきっているのに何でもいいから彼女の力になりたかった。
「...。アンナ。何があったか聞かせてくれる?」
必死にそう懇願すると彼女はそう訪ねてきた。
不思議だった。この人にならすべて話してもいいと思った。
あの忌むべき過去の全てをさらけ出してもいいと思った。
しばらくして私は全てを話し終えた。
「つらかったね。」
少女が言った。
それはこの世のありとあらゆる不条理を見てきたかのような声だった。
「もう大丈夫だよ。」
少女が私に抱きついた。
私はその瞬間かつての母を思い出した。
あの優しかった母。いつでも助けてくれた母。
頭の中にかつての両親との生活がフラッシュバックされていく。
ああ...私は...。
私は少女にすがりつきずっと泣き続けた。
もう私は18歳だというのに14,か15歳ぐらいの少女にみっともなく抱きつき泣き続けた。
彼女は私を受け止めてくれた。
「アンナ。あなたのこれからだけど、それはあなたが決めなければいけないこと。」
しばらくして少女は言った。
生きることとは決してよいことばかりではない。でもこの先何があるかわからないが、それでも生き続けなければならないと。
「アンナ。あなたはこれからどんな人生を送りたい?どんな未来がほしい?」
少女が問う。
私が送りたい未来...。
そんなの決まっている。
復讐だ。
わかりきっていることだった。
私から全てを奪った奴らに。私の両親を奪った奴らに。
「復讐したい。」
「そっか.........それがあなたが送りたい人生なんだね......。」
少女の声は悲観に満ちていた。
それでも私が送りたい人生はこれだ。
みんな殺したい。地獄に落ちてもいいから。だってもう地獄は味わったんだから。
「なら私と一緒に来る?あなたの望みを叶えてあげる。」
すると少女はそう言った。
はは...。やっぱりこの子は悪魔だったんだ...。
いや、もっと怖い。もっとコレは恐ろしいものだ...。
それでも、それでも私にはこの怪物に魂を捧げてもやり遂げなければならないことがある。
だからこの悪魔の契約書にサインをすることを私は快諾した。
しばらくして私は力を得た。
奴らを地獄の業火で焼き尽くす力を...。
「アンナ。私とあなたはもう盟友なんだし、もう敬語はいらないからこれからはルーナって呼んでくれない?」
しばらくして怪物が言った。
盟友...。友達か。フフッ...。
その時私はもしかしたらこの怪物もずっと一人でさみしかったのかもしれないと思った。
これからどうなるかまったくわからない。
でもなぜだろうか。私はこの怪物となら一緒にどこまでも行ける気がした。
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