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イ・メルゲンスィア  作者: こじまる、
6/15

ー5ー

 眩い光に目を覚ます。自分以外誰もいない空間には、長机と椅子だけが目の前にあった。

 支柱に大きな布を掛けただけの簡易な指揮所は起きはじめた兵士たちの喧騒を遮断し、落ち着いた空気だけをまとっていた。

 体が固まっていたので軽く動かす。骨の鳴る音が節々から聞こえた。


「起きてます?大将」

 

 布をのけて入ってきた部下の手には、水を張った桶と手拭いがあった。礼を言って顔を洗う、程よい冷たさの水は鈍った脳内をクリアにしてくれた。

 横で見ていた彼は呆れた顔を表して言葉をつづけた。

 

「ちゃんと横になったらいいのに、椅子に座って寝るから体が痛むんですよ」


 俺も自分に呆れたという表情で返答した。昨日雨が上がったから、作戦を練りたくてここに籠ったが、いつの間にか朝を迎えてしまっていた。 


「スペルニアの軍に動きはあったか?」


「偵察部隊が出ただけのようで、目立った動きはないですね」


 奴等が来てから四日経った。砦に入ったきり出る気配が全くなかった。突撃だけしかしてこなかった連中だが随分慎重になったようだ。

 痺れを切らして出てきた俺たちを野戦で倒そうとでも考えているのだろうか。


 「雨が降らなくなったのは痛いなぁ。」


 独り言のつもりだったが、あなたの作戦には雨ぐらいなくったって勝つ方法があるでしょ。と返された。

 あるにはある、奴等が来る前から戦う準備は万端にしてあった。


「食事はしばらくしたらお持ちします」

 

 彼は布を除けて喧騒の中に入っていった。再びこの場所だけが静けさをもつ。

 集中力が増してきたので作戦を反芻する。寡兵で敵に打撃を与えるこの策は、俺のいた世界では誰でも知ってる有名な武将を参考にした。


 不意にその世界に居た記憶が甦る、胸が熱くなるのを感じ、それが頭のなかを乱した。もう戻れないであろうその世界に郷愁の念が浮かんだ。

 

「失礼します」


 入ってきた部下の声は俺を目の前の世界に引き戻した。どうした、と言葉を発する。


「ファロという敵指揮官が明日の朝出陣し、我らの拠点へ攻撃を開始するそうです」


「そうか!彼らはうまく誘ってくれたか」


 この戦いで完膚なきまでに叩きのめし、アルチビュアの支配を確固たるものしなければならない。

 気合いをいれる俺は細長い布を頭に巻く、俺のいた世界ではハチマキとよばれるものだった。





 

 

 指揮官ファロは広場に兵を集めると行軍計画を発表した。

 敵の何とかがあぁとか、進軍に際してはどうとか言っているが、ほとんどの頭に入らなかった。

調子にのって飲みすぎたのが駄目だった。


「・・・・頭・・・・痛い」


 僕はこの程度で済んだが隣のやつはそうもいかないようすだった。青い顔して虚ろな目をしながらも口を固く閉ざしていた。


「なぁサルバドル俺が後で教えるから、横になって来たらどうだ」


「・・・・」


 返事もしたくないらしい。指揮官が作戦計画を話しているのに出ていく訳にもいかないだろうが、大勢のなかにいるからバレないと思う。

 はっきり言ってここで腹の中身を戻してほしくないという気持ちもあった。

 朝は大変だった召集がかかっているのに、そこそこ深い穴を掘ってサルバドルがぶちまけれるようにしてやったのだ。


 ようやく終わって解散が始まる。作戦を聞き直そうと思ったが父は指揮所にさっさと入っていった。

 とりあえず手近な所に座った。サルバドルは縮こまって、気分の悪さに耐えている。驚くほど無表情だった。

 寝所に戻りかけている兵たちの立ち話から、さっきの計画が聞こえてきた、どうやら明日の朝ファロ殿率いる二万七千の兵とチビュア族の三千で出陣し、敵の拠点を包囲殲滅するそうだ。


「明日だってよ。敵拠点に乗り込むのは」


「マジか」


 彼の目に光が戻る、青かった顔も血色がよくなりはじめた。

 

「心配かけたなニカ! ついに戦うのか。腕がなるぜ」


 勢いよく立ち上がると寝所まで駆けていった、僕も追いかけた。頭痛が続いているので追い付けなかったが、元気な彼に戻って良かったと思う。こいつはこうでないとこっちまで気が滅入ってしまう。

 入口でつっ立っている彼にようやく追い付いた。


「どうした? 入らないのか」


 油断した。

 中に入らなかったのは彼の気遣いだろう、だがせめて穴を掘る時間だけは欲しかった。

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