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砦を得てから三日が経った、雨を運ぶ雲は小雨程度だが降ったりやんだりを繰り返している、朝から櫓に登って外を眺めていたが薄暗い平原がひろがるだけだった。
索敵に出た部隊が帰還してくる。おそらく今日も収穫はないのだろう。
降り続く雨は出立時の士気の高さを感じさせない程に、僕たちの気分を落としていった。
サルバドルは父親に連れられ、指揮所に入って行ったから暫くは出てこないだろう。話し相手がいなくなり退屈でしかたがなかった。
「思ってたのと違うなぁ・・・・。もっとこう、すぐに敵と会戦して武力知略の限りを尽くして・・・・」
つい独りごちてしまう。
軍神に祀られた英雄バビルスは恐れることなく数万の敵兵に飛び込み巧妙な用兵により、これを打ち破った。戦う前から懐柔で敵を切り崩し勝利を手にしたことも指の数では足りないくらいだ。
「僕もバビルスのようになりたい。」
目の前に広がる平原で、スペルニアの軍を率いてアイルランデル軍を退ける自分の姿を思い描いた。彼の戦史を思い返し、妄想に耽ってしまう。
ふと腰帯に目を落とすと「タムラ」の文字。もしかしたらこれは、何かの目印なのか?
砦の裏手にある川から汲んできた水を配分している兵士が目の端に入る。
何か思いつきかけたとき、門前が騒がしくなる。「来たか!」と興奮ぎみに櫓を降りたが、期待は叶わなかった。
親スペルニアの部族、チビュア族が砦を落とした戦勝祝に食料、酒、遊女たちを運び込んできたのだ。
敵のいない砦に入っただけなのに・・・・。
指揮所から父たちが出てくる。サルバドルも一緒だった。この軍を率いる将軍、ファロはチビュアの長と名のる人物と楽しげに話始めた。
横に来た父に疑問をぶつけようとしたが、先に制された。
「小さな勝利も大きく宣伝すると人はそれを信じる。負け戦ばかりだったからな」
そう言うと父もサルバドルの父親も祝宴の準備に向かった。
またもや父に心のなかを読み取られてしまった。改めて父の凄さを認識する。
バビルスの次に尊敬する人だからでもあるからだ。
「軍神バビルスの次に尊敬する父親と思ってるだろ」
お前も読めるのか!? サルバドルの意外な才能に驚いてしまうが、彼は呆れたように続ける。
「お前は顔に出るからな。さっきも騒ぐチビュア人見て難しい顔してたから親父さんもわかったんだろ」
「気づかなかったよ・・・・。そうか顔に出るのか。ところで指揮所ではどんな話が?」
サルバドルが聞いて驚けと言うような顔になる。お前も顔に出るじゃないか。
「今来たチビュア人たちがな、この軍に加わって戦闘に参加するそうだ」
自分でも今の顔がわかるぐらい喜びが表れている。屈強なチビュア族が来てくれるなんて頼もしい。
「それだけじゃねぇ。ファロ殿が机に広げていたマドロアス元老院からの書状があったんだが、チラッとガン見したのよ」
「何が書いてあったんだ?」
「クレメンブラス戦線の戦闘でルカ兄弟が敵将バルクル率いるアイルランデル軍を退けたそうだ」
「本当か! あの兄弟が敵軍を破ったのか、俺たちも負けてられないな・・・・ガン見したのか?」
「書状を閉まったファロ殿から、誰にも言うなとも言われたがな」
可笑しくなって二人で笑った。
雲は限界を迎え大地に大粒の雨をもたらしはじめたがそんなことも気にならなかった。