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スペルニアの中心。マドロアス街は静けさに充ちていた。大人たちは声を抑えているが、壁の向こう側で行われているアイルランデルとの数多の戦争について、不平不満を漏らしている。
10年前アイルランデルが侵攻してきてから、大きな戦いから小さなものまで、この国はほとんど連敗している。
流れてきた噂では、敵は戦線を北東のクレメンブラス。西の大海から上陸したポルソス。南に大回りしたスペルニアの背後、アルチビュア。の三ヶ所に起こし、この国を包囲するように拠点化を進めていた。
そして今回、徴兵年齢を18歳に下げたことで軍に参加することになった僕は、貴族騎兵を率いる父の下で初めて戦地に向かうことになった。
「怖がることはない、ゲルニカ。私たちは三万の軍の後詰めとして、待機しているだけだからな」
本物の戦いがどの様なものかは知らないが、平然と命が消えるという事実に、恐怖が微塵もないわけではない。父はそんな僕の感情を読み取ってくれた。
「心配ないよ。スペルニアの戦士として堂々としてられるように、気持ちを整理してただけだから」
「なんだ、臆病風に吹かれたのかニカ?」
後ろからニヤ顔をした男が現れ、僕の馬と並走する。彼はサルバドル。僕らと同じく貴族騎兵を率いる父親の下で後詰めを勤めるそうだ。
戦いに参加できると意気込んでいた血気盛んな奴だが、後方布陣だと知ると肩を落としてあからさまに落ち込んでいた。
「親父から聞いたんだが、今回は敵の張る戦線の一所。アルチビュアを攻めるんだってな」
「そうらしいな、アルビチュアは草木の生い茂った大小ある丘陵と湿地。その先はだだっ広い平原がひろがるところだな。」
アルチビュアに陣取った敵は、他の戦線への援軍で一万程の軍しかいないという話だ。加えて現地住民のチビュア族は親スペルニア派が多く、好戦的な部族で拠点化をするときも激しい抵抗があったそうだ。
スペルニア軍の三万の兵隊。チビュア族の抵抗。一万の兵で戦えるのだろうか。
「僕がアイルランデルの将軍なら丘陵に誘い上から抗戦するかな」
「俺なら伏兵で疲れさせて、平原で野戦だな」
10年間勝ち続けてきたアイルランデル軍だ。きっと思いもよらない戦いで今回も勝つのかも知れない。こんなこと自分のなかだけでしか言えないけど、はっきり言って楽しみだった。