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13 水浴び

 悪臭漂うメインルームの棚を漁って、バスタオルと着替えを取り出した。石鹸もあったので一緒に取る。

 ちょうどいい大きさのバスケットがあったので、全部詰め込んだ。


 バスケットを腕に引っ掛け、リコリヌを連れて近くの川へと向かう。


 家の近くにはパパが引いた小川があるので、ちょっとした水は全部そこから取る。

 身体を拭くだけならそれでじゅうぶんなんだけど、今はなんだか泳ぎたい気分だったので、源流の川まで足を伸ばした。


 少し歩くと、草原をまっぷたつに二分する大きな川につきあたる。

 遠くの山から流れてきている川らしい。


 いつもまわりに誰もいないので、私は人目も気にせず服を脱ぎ捨てすっぱだかになった。

 流れの緩やかな川面めがけて氷を滑るペンギンみたいに飛び込むと、リコリヌも柵を飛び越える羊みたいなジャンプで続く。


 この川は真ん中あたりになると急に深くなるんだけど、岸の近くであれば膝下くらいの深さなんだ。


 そのまま浅瀬を泳いで、深くなる境目まで行く。ちょうど階段みたいになっているところがあったので、そこに腰掛けた。

 座り込んだまま、流れる水を両手ですくって身体にかけ、汚れを流す。


 滑り落とさないように注意しつつ石鹸を手でこすり、泡立てて髪と肌に擦り込んで、身体じゅうを泡まみれにする。

 隣でお座りしていたリコリヌもついでに泡まみれにする。


 ふたりとも泡々になったところで、深くなっている所に飛び込む。バシャバシャと平泳ぎや背泳ぎをして、身体についた泡を流す。

 リコリヌも犬かきでついてきたので、一緒になって泳いだ。


 水中の魚を狙うペンギンみたいに深く潜った後、勢いをつけて浮かび上がって水面からぷはっと顔を出す。

 まぶしい日差しに包まれて、なんだか爽快だった。


 この川は暖かい季節だと水もぬるくて気持ちいいんだけど、寒くなってきたら魚でも風邪を引くんじゃないかってくらい冷たい水になる。

 それは犬のリコリヌと猫のリコリヌの態度なみの温度差があるんだ。


 でもいくらなんでも、そうなるまでにはパパもママも帰ってくると思うので、そしたら川をお風呂代わりにすることもなくなるはず。

 ぜひそうなってほしいけど、もう泳げなくなると思うとちょっと名残惜しい気もする。せっかくだからもうひと泳ぎしよう。


 私は水の心地良さをじゅうぶんに肌にすり込んでから、浅瀬に腰掛けてひと休みした。

 身体についた汚れをすみずみまで洗い流したら、ひと皮むけたような気がした。


 殻から出たセミみたいにスッキリだ。

 心も洗濯したみたいにサッパリして、羽根が生えたかと思うほど軽くなる。


 ああ、なんだか生まれ変わったみたい……。

 うん、いつまでもクヨクヨしたってしょうがないよね。


 したいことが特にあるわけじゃないんだけど、なんだか気持ちが抑えられなくなってきた。


「よし、やるぞぉっ!」


 大声とともに立ち上がると、「ボクも!」といわんばかりの鳴き声が続く。


 リコリヌもやる気満々みたいだ。

 お辞儀するみたいに前かがみになって、尻尾をフリフリしてた。遊んでほしいときのポーズだ。


「よぉーし、それっ!」


 私は股下から水をすくい上げ、リコリヌめがけてぶっかける。

 ひと塊になった水がリコリヌの顔面に命中すると、水風船みたいに破裂した。


 まともに受けてしまったのか目を白黒させてたけど、すぐに背を向けて砂かけするみたいに水を蹴って反撃してきた。

 波みたいになった水しぶきが私の顔を襲う。


「うわっぷ!? や……やったなぁーっ!? このぉーっ!」


 お返しをするとやりあいはさらに白熱する。

 水かけっこ遊びの始まりだった。



 そうしてしばらく遊んでから、ふたりでスキップしつつ岸からあがった。


 持ってきていたバスタオルで濡れた身体を拭く。ふわふわの生地は肌ざわりがよくて気持ちがいい。

 リコリヌも身体をブルブルさせて水滴を払っていたので、上から包み込むようにして拭いてあげた。


 着替えの半袖Tシャツを取り出して袖を通す。ショートパンツを履いて、腰にブローチ付きの太いベルトを巻く。

 そして裸足のままサンダルに足を入れた。


 このサンダルはヘビーサンダルといって、パパとママが常夏の国に行ったときにお土産に買ってきてくれたものだ。

 サンダルのくせにブーツより速く走れて、山にだってグングン登れるスグレモノ。風通しも良くて蒸れないのでお気に入りなんだ。


 私はいつもこの服装なんだけど、それは寒くなっても変わらない。一年を通してずーっと一緒。

 ママはそれが嫌なのか、より女の子らしい服を着せようとしてくるんだけど、私は動きやすいこの格好が気に入ってるので断り続けている。


 ちなみにママはスカート派で、いつもヒラヒラしたのを穿いている。

 小さい頃はちょうどいい隠れ場所だったので、かくれんぼの時とかはよく潜り込ませてもらっていた。


 だからスカートを穿いたママは大好きなんだけど、スカート自体はいくつになっても好きになれなかった。

 だって脚にまとわりつくから走りにくいし、引っかかるから木にだって登りにくい。


 そう考えるとスカートって、いいところが何ひとつない気がするよね。


 ママは私と一緒におしゃれを楽しめないからって、リコリヌに服を着せようとしたけど、リコリヌからも嫌がられてしょんぼりしていた。

 ママにはちょっと気の毒だけど、やっぱり私はズボン派みたい。


 でもパパが穿いてるみたいな長いズボンは、なんだか格好悪いのでパス。あくまでショートパンツだ。

 寒いときは太ももまでのハイソックスを履くことはあるけど、長いズボンは穿きたくない。


 みんなは女の子らしくないって言うけど、かまうもんか。

 あ、でも、髪にしてるリボンだけは、女の子らしいかもしれない。


 リボンは着替えのシメとして、いつも最後に結ぶんだけど、キュッと締めるとなんだか気持ちまで引き締まるような気がして好きなんだよね。


「……よしっ!」


 私はかけ声とともにリボンをキツく締める。

 すると、着替え終わるのを待っていたかのように腹時計が鳴りだした。

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