異世界風パレード
お久しぶりです。
色々と忙しく出せてませんでした。
あの強烈な勇者承認の儀が終わり、休憩室に戻り一息つこうとしていた時、突然、扉が開いた。そこから王様がひょこっと出てきて、
「さぁ!今からパレードだ!……何をボケっとしておる。行くぞ行くぞ!」
勇者承認の儀から、ハイテンション気味の王様に強引に連れていかれる4人の勇者。黒い髪が特徴の俺こと黒葉星夜と栗毛色の髪でめっちゃ可愛い俺の彼女の白山咲耶、その弟であり、同じ髪色の白山護、そして、金髪の派手なイケメンの林藤圭の4人はひょんなことから異世界に召喚され、勇者と担ぎ挙げられた、哀れな生徒会役員である。
そんな俺らを連れていっているテンション高めのオッサンはここアーカナス王国の王様であるキーリス・ツェルベン・アーカナス・サトウさんだ。何故、サトウが付いているかと、この人達の祖先が前に異世界に召喚された佐藤さんであるかららしい。
なぜ、俺らがその王様にグイグイと連れていかれてるかというと、国民に勇者を見せる為のパレードに参加させる為である。さっきまで勇者承認の儀というイベントに参加していて疲れているのだが、王様に頼まれては参加するしかない。
やはり、上の人間には逆らう事が出来ない小市民の俺らだ。
王様に連れられて広場みたいな所にでる。そこには、沢山の鎧を着た人と、楽器を持った人々がいた。パレードだから、演奏しながら行進するのだろう。金属製の楽器を持ちながら歩くのは、きついらしい。
ソースは俺の数少ない、吹奏楽部に入っている友達。俺らの為にそんなきつい事をしてくれる人々に俺は心の中で感謝した。
「よし、それではコレに乗るぞ」
王様があるものの前に止まって言った。
それは日本でも見るパレード用のオープンカーに似た物だった。馬車の屋根の部分を引っこ抜いて、無理やりオープンカーっぽくして馬が繋がれているやつだ。
「…これはなんて言うものなんですか?」
流石に気になった俺らを代表して圭が王様に聞く。
「おお?これか?これはオープンホースカーと言う。なんでも、勇者サトウがパレードを参加した時、当時は騎乗した状態でしていたんだが、騎乗になれていなかったサトウ様は長時間馬に乗っていた為、痔になり、酷い激痛に見舞われたらしいのだ。だから、違う乗り物で代用しようということになり、このような乗り物が出来たらしいぞ。」
「「「「……」」」」
王様が、胸を張って自慢しているのを俺らは唖然としていた。
サトウさん、ネーミングセンスが安置すぎる!もうちょっとなんか無かったの?しかも、痔とか、そこは異世界の不思議な力でなんとかならなかったのか。勇者も万能ではないと俺ら4人は認識し、異世界の大先輩であるサトウさんに手を合わせた。
「しかも、このオープンホースカーは騎乗して痔に苦しんでいた王族や貴族には大好評で今では他の国々でも当たり前のように使われておる。サトウ様には脱帽するしかないのう」
「「「へ〜」」」
異世界でも痔に悩ませられるのか、痔ってどんだけ強いんだよ。
俺たちの便利な異世界のイメージがどんどん壊れていく。
今回、俺らがお世話になるオープンホースカーは6人乗り用の大きなタイプだ。しかも、白と金を基調とした王族用なので豪華だ。
そこに、俺ら4人と、俺らを召喚した本人であるジャスミン王女と王様とプロのオープンホースカーの乗り手のアドさんが乗り込む。アドさんはオープンホースカーの大会で長年優勝し続けている人だ。
大会って何をするんだろうか?ちょっと気になる。
ま、とりあえず、そんなメンバーが乗ったオープンホースカーはプロであるアドさんの手により進み始めようとした。
勇者パレードは、アーカナス王国の王都である、スェツェルベンの大通りを練り歩くものだ。それをする事によって、国民に勇者をお披露目することで安心させ、さらには勇者と王族が親密であることが他国にアピールし、他国を牽制していると王様が言っていた。
あと、これにはアーカナス王国騎士団が警護を担当している。パレードには王様、ジャスミン王女以外の王族や、勇者召喚に尽力していた貴族が参加しており、その人達を狙って暗殺者が出てくるのでそれに警戒する為である。
王様が、「魔皇ぐらいが来ない限り暗殺は出来ん」と豪語していた。
フラグじゃないよな。
そんな俺は一縷の不安を持ちながらも周りの人々を見ていた。
「今からっ!勇者パレードを始める!」
パーン!パカパンパン!パパパーン!
すると、王様が立ち上がり、パレードの始まりを宣言した。それに続いて楽器隊が学校でやる体育祭の行進の始まりの様なリズムで演奏し始めた。多分これは、勇者サトウの影響だと確信した。
俺ら4人と王様とジャスミン王女、アドさんが乗るオープンホースカーは王城の城門をくぐり抜け、城下町に入る。
実はいうと、俺たちは初めて異世界の町に来る事になる。なぜなら、召喚されてから、あれよこれよと忙しく王城にいた為である。王城の窓から町を見ていたが、間近で見ると異世界感が半端ない。建築物を見る限りでは、ヨーロッパの中世ぐらいの文明度であると推測する。小説で良く出てくる設定も中世。本当に小説の世界に来たみたいだ。なんか感激。
そんな、城下町に深い感動を覚えている俺をよそにオープンホースカーは大通りにでる。
大通りは、このオープンホースカーが5台分ぐらいの幅があり、とても広い。流石は王国の王都というだけはある。
いつもは馬車などが通り賑わっているのだろうが、今は俺らを見に来た人々が所狭しとひしめき合っていた。
これはもう、貴族がいっぱいいた勇者の儀よりもすごい。何がすごいかって、もう、すんごい。言葉になんねぇ。
俺が人が多すぎて自分でも何言ってるか分からなくなり混乱していたが、他の3人は初めは驚きで目をぱちくりさせながらも周りに手を振ったりして場を盛り上げている。
え、君達、慣れるの早くない?嘘でしょ。お兄さん、いつの間にか立派に育ってしまった君達に驚き桃の木、山椒の木だよ。
なんか置いてかれた気分になり仮面で唯一隠れていないお目目を擦って俺は哀愁を漂わせる。
「おい、黒何してんだ?お前見た目結構、不審者地味てるから、そんな事してるとなんか、不気味だぞ」
「圭よ。俺は今、雛が巣立った後の親鳥のような気分なんだ。そっとしといておくれ」
「俺はお前が時々、何を言ってるのかわからないが、そっとしておくよ」
「先輩、確かに口を開いたと思ったら何言ってるかわからないっすよね〜。……顔はいいのに勿体ない」
護が何かぼそっと呟いたがTwitterが無いので俺には共有されずに周りの音に掻き消され聞こえなかった。
「私はそんな黒くんも好きだよ!」
「姉ちゃんもセンスがあるんだか、ないんだかわかんね〜」
「「はぁ…」」
圭と護の二人は深くため息を吐く。すまんねぇ。なんか苦労かけちまって。
一方そんな初々しい勇者達を微笑みながら王族の二人は毅然として民衆に手を振っている。
流石は王族、その辺の高校生とは胆力が違う。くっ、やはり、育ちの違いか。まぁ、俺はこんな事に慣れる事は無いだろう。
ってか慣れるぐらい、こんな事したくないのだが。いや、無理か。勇者だから慣れるぐらいこんな事をしなければならない。うおぉ。なんてこった。あっちの世界ではひっそり生きていこうと思っていたのに。勇者って大変だわ。辞めたい。
早くも勇者を辞めたくなった俺だが、何かが頭に引っかかる。周りの観客とは視線が違う。まるで誰かが遠くから俺らの中身を見ようとしている。
(どこだ?)
俺は周りを見渡す。大体こういうのは建物の上から見ている事が多い。これはアニメの受け売りだけど…居た。
こちらに見つけられた事に驚いている如何にも怪しい銀色の少女と赤い髪の頭に獣耳?が付いているサングラスを掛けた男が慌てていた。
俺は王様にこの事を言おうとしたその時、その二人は消えた。速すぎて動きが見えなかった。
「うん?どうしたの黒?」
明らかな不審者二人に誰も気付いておらず、いきなりこっちを向いてきて黙っている俺を不思議に思った咲耶が尋ねてきたがなんでもないと首を振り、思考を張り巡らせる。
誰だ?あの二人は赤髪の獣人?は何故かサングラス掛けてたし、銀髪の少女はすごい存在感を放っていたが優秀だと聞いていた騎士団の皆さん気付いてないし、もしかして王国の騎士団て無能か。いやそんな訳ないか。という事はあの二人は相当な実力者か。むむ?いやまてよ。そんな実力者に気付ける俺ってもしかして強い?いやいや、そんな訳ないない。
俺は思考を消すために頭を振る。
しかし、頭を振っても奇妙な不審者二人の事は消えなかった。
次回!二人の不審者について明らかに!乞うご期待