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6 氷なのか黒なのか

ファイは部屋の中をレイドと共に長い間歩いている。

最初は程良い大きさの部屋かな……と感じていたが、さすが精霊が作った空間である。とてもとても広い部屋だった。

レイドは何がどこにあるか、ある程度記憶しているようで、ここにはーー、あそこのあれはーーなど、自分で得た情報をすべてファイに伝えているかのようだった。

そこまで話をする理由は『レイド。頼むよ』と言ったギルに応えるためでもあり、いろいろ話す中でファイが真剣に聞いてくれるからでもあった。

すべての本棚の説明を終わり、最初にいた場所へ戻ると、何も入っていない棚があった。

「この棚は?」

「ああ、これですか? これはこれから入る本の棚です。何かあれば俺たちが記し、ここに置くわけです」

「そっか! なるほどです」

「では、出ますか? 実務も教えなければいけませんし」

「はい」

レイドは胸のポケットから鍵を取り出すと、目の前の本棚が消えて扉が現れた。その変化に驚くファイをレイドは扉へ向かうよう促した。

「……不思議ですね。精霊の力は」

「ええ。すごい力です。だからこそ、人はその力を悪用したくなるんですよ」

二人は秘密の部屋から出ると扉は勝手にギギギギッと音を立てて堅く閉ざされた。

「では上に戻りましょう」

上を見上げると長い長い螺旋階段がある。

(これを昇るのね……)

ファイは大きな溜息をついた。


皆の執務室に戻ると、ツェンリがニヤニヤしながらこちらを見た。

「おかえりなさい。長かったね」

「あ、ええ。いろいろと話していたら、遅くなりました」

当たり障りのない回答にツェンリは満足できず、レイドの肩に腕を回しコソコソと話し始めた。

「でさ、レイド。この前、隊長と俺と三人で街に出た時にさ女の子達に囲まれたじゃん。あの時、女の子達にすっごく冷たい素振りだったから、やっぱり女の子に興味無いのかなって思ったんだけど」

「ええ。俺はあまり女子に興味は無いですが」

「えー! でも、ファイには優しいじゃん! これってどういうこと?」

「はあ?」

「だからさ、関心あるんでしょ? ファイに対しては」

「はあ……」

「だろ?」

「あの、ツェンリさん。ファイは後輩だから、話ができるだけですよ」

「またまたぁ。ねえ、ファイ!」

部屋の中にある本をパラパラめくっていたファイにツェンリが話しかけた。

「はい? なんですか、ツェンリさん」

「あのさ、レイドって学校ではモテていたでしょ?」

「えっ、あっ、はい。かなりモテていましたよ」

「やっぱり! どんな風に?」

「はあ……、私が一番驚いたのはレイドさんの誕生日に第三寮の入り口が女子学生でいっぱいだったことですね。なんだか、騎士学校の学生だけではなく、大学の学生とかもいたらしくてすごかったですよ」

ファイは入学した直後に行われた訓練でレイドと顔見知りになってから、何度か会ったことがある。そのほとんどの場合、近くには女子達の存在があった。

レイドの誕生日は普段以上の女子の多さに驚いたことを今でも覚えている。それにその後たまたますれ違った時に、レイドから甘いお菓子をたくさん貰った。

「でも、レイドさんは周りに女の子がいても、いつもムスッと無言でしたよ」

「えっ、その時からなの?」

「はい。だから、女子達の間では氷の王子様って言われていたみたいです」

「あー。氷な……」

「でも、その冷たい態度がかっこいいらしく、卒業してからも話題にはよく出てきていました」

実はレイドのファンクラブが存在することを、ファイは内緒にしている。それは女子達の約束だからである。

「そっか……。女の子はクールな感じが好みなんだね……」

「まあ、人それぞれだと思いますけど」

「あの、いい加減にしてもらえますか? 俺のことはどうだって良いのですが」

少し苛立った表情でレイドはツェンリに言った。

「ごめんよ、黒の騎士様。許してな!」

このままだとまずいと感じたツェンリは、用事を思い出したわっと言って部屋から走って出て行った。

レイドがやっと終わったと呟くと、ファイが近づいてきた。

「あのレイドさん。黒の騎士様って何ですか?」

ツェンリが最後に放った言葉に、ファイはしっかりと食らいついた。

「さっ……さあ」

自分のことではあるものの、なんと言えば良いか分からない。それをファイが知るのは、まだ早い。

「そんなことより、仕事の仕方について教えます」

「?」

「まず、気にしないで下さい」

ファイは知りたいことが知られず残念そうな顔をして、機密部の仕事について指導を受けることとなった。

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