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5 秘密の部屋で知る事実

あれから、もう3年経つ。

「ふーん。いつの時も騎士を目指す者の中には、人として最低な奴らもいるからね。しかも、騎士になってからもそういう奴らがいるから、俺らの仕事は減らないわけだけどね……」

ギルはレイドから語られた話に大きくため息をついた。

「でさ、そのレイドの同級生はどうなったの? 学校卒業できたの?」

「たぶん」

レイドは簡単に答えた。

「あ、はい。卒業しましたよ」

ファイは慌てて答えた。

「あの訓練の後、少し時間が経った頃に、皆さんで謝りに来ましたので。皆さん、猛省してました」

「猛省ね……」

そういう人はその時反省したとしても、根本は変わってないからねーーとギルは思うが、ファイはきっとそうは考えないんだろう。ーー今は、それで良い。

「隊長、レイドが女の子との思い出話をするのって初めてじゃないですか?」

「あ、そうだね! レイドでも女の子とのお話するんだね」

突然の話の切り替えの矛先がいきなり自分に来たことで、レイドは大きく動揺した。

「た、隊長。俺でも女の子とは話をしますよ……」

「だって、噂では女嫌いって言われてるけどね」

「そうそう! だから、御家柄も良いのにも関わらず、結婚話も舞い込まないらしいじゃん」

ギルとツェンリはあははと笑い出した。

「俺はそんなことを発言したことはありませんし、結婚も今考えていないですから」

この二人が盛り上がると手に負えないのを知っているため、レイドは落ち着いた声で反論した。

レイドからの反論には納得なんて全くせずに、ギルはファイを見た。

「ファイ、こんな女嫌いなレイドと顔見知りで良かったよ。君の教育係をレイドにするから、彼から仕事についてしっかり学びなさい」

「え? あ、はい!」

「レイド。頼むよ」

ギルは真剣な眼差しでレイドを見る。隊長から与えられた仕事に一瞬戸惑いを見せたが、レイドはすぐに深く頷いた。

「じゃ、そういうことで。俺も国王のとこに行かなければならないから、後はよろしくね」

ギルは用件だけ伝えると、手をヒラヒラと振って部屋から出ていった。ギルが出て行くと同時に、ツェンリはじゃあ仕事に戻るかな……と言って自分の机の向こう側に行ってしまった。

部屋の真ん中に残されたファイとレイドは、しばらくそのままであった。


「あの、レイドさん。私、今思うとギル隊長からは機密部とは何かを全く教えてもらっていないんです」

あれからレイドが中を案内するとファイに言えたのは、かなり時間が経ってからだった。

その間、ツェンリが「まだいるの? 早く説明してあげたら? ファイが暇そうだよ!」と仕事の合間合間に声をかけてくれた。なんだかそれが申し訳なくなり、ファイが「レイドさん、よろしくお願いします」と言うと、ようやく動き出すことができた。

現在、二人は地下へ向かう螺旋階段を降りていた。

「だから、何を仕事とするのか、ほとんど分かってないんです……」

ファイは制服には着替えたものの、何をするのははっきり分かっていなかった。ギルが言っていた『善と悪を管理する』『そういう奴らがいるから仕事は減らない』とはどのようなことなのか。先程までのさまざまな会話から、多くの疑問が浮かんできていた。

「つまり、ファイは何も教えてもらっていないと言うことですね?」

「はい」

ファイからの返答に、レイドは右手を額にあて溜息をついた。

「では、機密部についてはこの先にある部屋に入ってから説明します。その部屋こそが機密部を知る上で一番良い場所なので」

階段がようやく終わると黒に金色の装飾が施された扉が現れた。今まで見た部屋はすぐに扉は開く形であったが、ここだけは違っていた。

レイドは胸元のポケットから、小さな鍵を取り出し扉の鍵穴に差し込んだ。カチャという小さな音が聞こえると、扉が横に開いた。

「さあ、この部屋です。入りましょう」

レイドに促され部屋に踏み込みと、上の部屋と同じように本がたくさん詰まっている本棚が並んでいる。しかし、現実の世界にあるのか分からなくなる感覚に陥ってしまう空間でもあった。

(ここって、もしかして……)

ファイがこれまでの記憶をたどろうとした時、レイドが説明をし始めた。

「ここは俺達機密部にとって外には知られてはならないトップシークレットな場所です」

二人が部屋の中央に進むと、ふっと今入って来た扉がきえた。どこを見渡しても本棚しかない。

「扉が消えましたね……」

「はい。ここは精霊に護られている部屋です」

だからなのか、部屋は地下にあるはずにもかかわらず、窓から光が射している。部屋の中の燭台には緑色の炎が揺らめいている。

「ですので、鍵がなければ入る事も出る事も出来ません。きっと貴女が仕事に慣れてくると、隊長も鍵をくれると思います」

「それだけ大切なものがここにあるんですか?」

ファイの質問にレイドは静かに頷いた。

「機密部とは国内外で起きる出来事……後に歴史となるものを残す事が仕事です。ここには全ての事が残されています」

レイドは部屋の全体をじっくりと眺めながら話を続ける。

「それは一般的に知られている勝利の歴史もありますが、国の繁栄や国王自身の立場を揺るがないものにするために隠してきた極悪非道な歴史も、何もかもが存在します」

「国王がですか……?」

学校では歴代の国王は尊敬に値する人物として教えられているため、ファイはレイドから話された内容に驚いた。

「俺も機密部に入るまでは知らなかったことですが、隊長からは多くの歴史を教えてもらいました。この国は善いも悪いもいろいろな人々の歴史があるからこそ、今があることを知りました。それで歴史について興味を持ち隊長にお願いして一度だけ鍵を貸してもらい、この部屋に篭ったことがあります」

「この部屋に篭ったんですか?」

「そうです。自分が納得するくらい読み部屋の外に出た時には、すでに三ヶ月が経ってました。それほど膨大な量の歴史が残されている部屋です」

ファイはレイドと同じようにゆっくりとじっくりと本棚を見た。

「歴史を残すことは精霊との約束なのです。初代国王は精霊から力を借りる条件として、精霊から善い事も悪い事必ず残すよう求められました。どんなに良い事を必ずすると言って精霊がそのためにって力を貸しても、人間は裏切るものである。精霊は幾度となく人間に力を貸しては裏切られてきた歴史があります。だから、嘘を隠す事なく残しなさいと国王に伝えたそうです」

精霊達はこの約束を人間は破るだろうと思っていた。しかし、初代国王はそれを守り通した。自分がやってしまった悪事、防ぐことができなかった事柄、精霊達を利用しようとした人々がいた事。包み隠さず、全てを伝え通した。そして初代国王が崩御する時に、精霊達は国王の元に集まったという。その時に初代国王と精霊は最後の約束を交わした。

「ここは初代国王と精霊達の契約で創られた空間です。最後の約束で歴史を残し管理する部屋と、部屋を守護する鍵を創りました。初代国王か亡くなった後、王国騎士団の中に機密部ができ、今に至ります。現在でも精霊からの恩恵を受けてこられたのは、機密部があるからです。機密部は騎士団の他の部隊が表で国を守っているとすると、陰で国を守る重要な組織です」

「陰で国を守っている……?」

「…………」

レイドは振り返り、じっとファイの目を見つめた。

「隊長の持つ権限は何か想像できますか?」

ファイは首を横に振った。

「知る人は限られていますが、機密部の隊長というのは国王と同等の権限を持っています。国を脅かすものを粛清できる力を、国を動かす力を」

あまりにも恐ろしい権力をギルが持っているということである。

「時に国王自身が自分の富のために、悪事を働く事も多々ありました。この国で人を裁く事をできるのは国王か、司法長官。しかし、司法長官は国王の任命でなっているために王を裁くことは出来ないです。そういう時に機密部の隊長が力を発揮します」

「……レイドさん」

「その話、おかしくないですか?」

「…………」

「だって、機密部の隊長だって国王のもと騎士団団長が任命するはず。そのため、隊長でも一緒ではないのですか?」

「その通りです。機密部隊長は騎士団団長が任命します。ですが、誰でもなれる役職ではないんです」

ファイの頭の回転の速さに、レイドは嬉しそうに答えた。

「実は騎士団団長になれるのは機密部隊長になったことのある者のみです」

「ということは、騎士団という組織は王を守ることが本来の役割ではなく、純粋に国を守る事が仕事なんですね」

「ええ。面白くないですか? 騎士学校では王を守るため、国を守るためと教わってきた俺らは機密部に入ると、優先順位が変わるんです」

「……はい。確かに騎士学校では国王を守るために、多くの訓練を受けてきました」

王は自分の命をかけてお護りすることが我ら騎士の使命であると、いつも語る教官がいた。その考えは間違っていない。きっと騎士のほとんどがそう思っているだろう。

「機密部では平和な国を脅かす存在は排除する権限を持っています。それは国王であっても、王家であっても、何にあっても。それが初代国王と精霊が決めたことなのです。だから、幾度となく起きた大陸での戦争からも国を護ることができた訳です」

「なるほど……そうなんですね」

「実際、現国王の血族いないはずです。王家にも様々な人間がいて、悪事を起こす度に粛清されてきました。悲しい話ではありますが、それもすべて国のため」

「では、レイドさんはそれを納得した上で仕事をしているってことですよね?」

ファイからの問いにレイドは目を丸くした。ここにいるということは、騎士として国王に剣を向ける覚悟がなければならない。その事実をぶつけてきた訳である。

「確かレイドさんのお父様は騎士団の総隊長ですよね? そのことについてお父様は分かっているんですよね?」

「……ファイ。さっきも言いましたが、ここに書かれている内容は外には絶対に漏らしてはならないです。ですから、俺の父は知らないことです」

「……そうでした」

ファイはレイドが初めに話していたことをすっかり忘れていたことに、恥ずかしさを感じた。

「それにですね、機密部が国を守る組織であることは、ここに所属している皆が知っている事ではないんです」

「え?」

「この事を理解しているのはギル隊長と……俺くらいです」

「そ、そうなんですか!!!」

「そうです。俺がこの事を知れたのは三ヶ月もここにいたからです。それくらい時間をかけて書物を読まないと、見つけられない内容です」

「そ、そんなに時間をかけて理解した事を、なぜ私に教えてくれたのですか?」

「それはギル隊長に聞いて下さい」

「?」

「機密部の仕事内容を伝えるなら、ツェンリさんのはずです。あの人は実質、ここの二番目の人です。だから、忙しい隊長に代わり彼が新人の指導するのが普通です。しかし、そうせずに俺をファイの教育係にしたのには、機密部についてきちんと伝えろという意味があると考えました」

なぜそのようなことを求めるか、そこまではレイドには分からないが、きっと理由があるのだと思う。ギルは無駄な事はしない。ギルは先見の目で物事を行う人である。

「ここで話した事は絶対に秘密です。もし破れば、俺は貴女を殺します」

レイドがファイを鋭く冷たい視線で見つめた。

ファイは一瞬、その視線に怯んだが、すぐにレイドが目元を緩めたので、ほっと一息ついた。

「俺は父が騎士であるため、騎士になり騎士団に入団して総隊長を目指そうと思いましたが、今ではそう思いません。今の機密部での仕事に誇りを感じています」

「……それはレイドさんが機密部の仕事を理解しているからですよね?」

「ああ、その通りです。俺には兄がいるので父を継ぐのは兄に任せて、俺はギル隊長を目指します」

レイドがギルを心から尊敬していることが、ファイにも伝わってきた。

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