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4 出会いはあの時

その年の訓練は特にひどかった。

レイド達、上級生は意気揚々と訓練に臨んだが、新入生を捕まえようとするとどこからか矢が放たれ、怯んだ隙に新入生が逃げてしまうことが多々起きた。

実践も意識した訓練であったため、相手を傷付けないという条件でそれぞれが得意とする武器を一つだけ持ちこみ参加をしていた。

騎士を目指す学生の中では弓矢を持っていることが珍しく、多くの上級生が弓矢に対する実践経験が少なかったため戸惑いが起きていた。

結局、二日間経っても数十人いる新入生を数人しか捕まえられない上級生達はかなり苛立っていた。

「おい、あと一日しかないぞ!」

「早く、あの得体の知れない弓矢の奴を捕まえないと、俺達まずいぞ」

時間が経っても誰も弓矢を放つ人物を見た人がいなかった。そのためどのように捕まえれば良いか答えが見つけられず、多くの上級生は頭を抱えたいた。

「でもよ、あの弓矢は新入生を捕まえる時に現れるわけだから、まず新入生を見つけるのがいいと思わないか」

「ああ。それでその周辺にも何人か待機していて、矢が放たれる場所を確認して捕まえよう」

「みんなで力を合わせようぜ!」

その言葉に皆が声をあげて同意した。

しばらくすると、二人の新入生が上級生達に見つかってしまった。その人の多さに新入生は逃げることを諦めかけていた。

その瞬間、新入生の周りに何本もの矢が地面を突き刺した。

「あっちだ!!!」

誰かが大きな声を出すと、その方向に向かってたった一人を残し上級生達は駆け出した。

「大丈夫ですか?」

レイドは腰が抜けて座り込んでしまった新入生に手を差し伸べた。

「えっ、あ、ありがとうございます」

てっきり捕まえに来たと思っていた上級生の行動に驚きながらも、新入生は手を出して引っ張り起こしてもらった。もう一人起こそうとすると、フラついて倒れかけた。

「おっと。大丈夫か?」

「は、はい。実は昨日足をくじいてしまって、それでここから動けなくなってしまったんです」

レイドは新入生を座らせ右足を出すよう促した。ひどく腫れあがっている。手持ちのバッグから薬を取り出し、レイドは腫れた部分にそれを塗り出した。

「大丈夫? 包帯持ってきたよ!」

「あ、ファイ! ありがとう!」

レイドは声のする方向に振り返ると、大きな弓矢を背負って駆けてくる少女がいた。

「さっきも助かった。ありがとう」

「ううん。気にしないで。それにしても、怪我は大丈夫?」

「大丈夫って言いたいところだけど、動けなくて……。それに今、この人に手当てしてもらったよ」

「あ、ありがとうございます! って、あれ? 上級生の方ですよね?」

捕まえる側の上級生が新入生を助けてくれていることに、ファイは驚いていた。

「確かに俺は上級生ですよ。ですが、目の前に怪我をしている人がいれば助かるのは当たり前じゃないですか?」

「それはそうですが……」

レイドの言うことは確かにその通りである。だが、その場にいる三人の新入生は複雑な表情を浮かべた。

それを察したレイドは質問をしてみた。

「なぜ、三人ともそういう顔をするのですか?」

「あ、えっと……なあ」

「うん……」

二人が言葉を濁す中、ファイは戸惑いながらも言葉を発した。

「えっとですね、実は訓練の初日に数人の仲間が酷い暴力を受けまして……。それですべてを助けられなかったのですが、今私たちは酷い怪我をした仲間を守っているところなんです。この二人も昨日仲間を集めるために動いてくれていたんですが、その暴力を振るっていた上級生達と遭遇してしまって逃げている最中にくじいてしまったんです」

「……つまり、俺達上級生の中にルールを守れていない奴らがいるということですか?」

「……………」

三人は黙ってしまった。しかし、この沈黙こそが彼らの答えである。

すると、ガサッと草むらの動く音が聞こえた。

「!!!」

ファイは二人に人がいない方向を教えて逃げるように指示した。

レイドも剣に手をかけた。

「あれ? レイドじゃねえか。何、新入生と仲良くしてるんだ?」

睨んだ方向から数人の上級生が現れた。

「あれ? そいつって、もしかして弓矢野郎か?」

「まさか、女だとは思わなかったぜ」

レイドの隣にいる大きな弓矢を背負ったファイに注目が集まった。

「でも、まあ、こちらは人数もいるし、さっさと捕まえようぜ! なあ、レイド」

「そうだぜ! じゃないと、俺らが辛い思いをするしよ」

「さあ、捕まえるぞっ!」

掛け声に合わせて、上級生達が素早く動き出した。近距離であれば、当然弓矢は放てない。皆が鞘から剣を抜き出し、ファイに襲いかかった。

ガキーンと、嫌な音が辺りに響き渡った。

「おいっ……、レイド。どういうつもりだ……」

襲ってきたグループのリーダー格である人物の剣をレイドが受けた。

「いや、どういうつもりって言える立場ですか?」

相手は全力で剣を向けているため息が切れ切れであるのに対し、レイドはビクともせず冷静に言葉を発した。

同時に襲いかかった上級生達は、その場にドタッ、ドタッと吹っ飛ばされ倒れた。ファイは涼しい顔をして、倒れた上級生の中心に立っていた。その右手には珍しい形の弓が握られている。

「ーー!」

一瞬、気持ちがそちらに逸れたのを利用し、レイドは剣を向けている人物の腹を勢いよく蹴り飛ばした。

「ガハッ!!!」

鈍痛を受けたためか、皆が咳き込んでいる。すると、先程の大きな金属音に促され、その場に上級生達が戻ってきた。

「な、何があったんだ?」

誰かがポツリと呟いた。

「レ、レイドーー。どういうことだ?」

レイドに数人が駆け寄ると、レイドは蹴り飛ばした人物の元へ歩き出した。

「うっ……」

「この訓練のルールを貴方達は忘れていませんか?」

「ーーっ!」

「彼女達から聞きましたよ。初日から新入生を捕まえるために、暴力を振るって大怪我をさせてきたことを」

その内容に周りにいた上級生達からどよめきが起こった。

「相手を傷つけないということが条件で武器を持ち訓練に入っているはずですが、まさか新入生を集団で囲って暴行してませんよね?」

レイドから放たれた言葉に、目の前の人物は凍りついた。「ここ周辺を観察していると至る所に無数の足跡と血痕がありました。ずっと気になっていたんです」

他の上級生達は新入生を捕まえられない焦りから、周りの観察を怠っていたのである。この訓練ではただ新入生を捕まえることだけではなく、新入生の安全を確保することが任務としてあった。

「まさかとは思っていましたが、さっき彼女達から聞いた話で確信が持てました」

「…………」

「嫌ですね。同級生に卑怯な人達がいることが。しかも、騎士を目指す者としても最低です」

静かに冷淡な声色でレイドは言葉を吐き出した。

「それに皆も同じです。周りへの配慮が足りない。彼女の方がよっぽど周りが見えていますよ」

少し離れたところに立つファイをレイドは見た。

「そういう卑怯な奴らがいるから、新入生の仲間を守るために駆け回っていたんですよね?」

訓練と言っても早い段階から危険を察知し、上級生に対し不信感を抱いていたファイは、この広大な敷地内をずっと駆け回っていた。何度も何度も捕まりそうになる仲間を助けて、怪我をしてしまった仲間がいれば、皆で協力して手当てをしかくまった。その必死な姿勢の痕が頰や腕に残っている。

「俺達が勝つ訳ないですよ。この訓練が始まった時から」

その場にいたすべての上級生はレイドの言葉に肩を落とした。情けない。

「……そういうことです、先生方。新入生の怪我が心配です。この訓練、俺達上級生の負けです」

レイドが大きな声で話すと、どこからか騎士達が集まってきた。

「分かりました。では、この訓練、終了です」

教官の騎士達は時に理由を聞くことなく、訓練の終了を告げ笛を吹いた。

「ファイーーっ!」

それまで近くに隠れていた新入生達が一斉にファイのことろに集まってきた。きっと、さっきここに居合わせた二人が皆を連れてきたのだろう。

わーっと大声で泣き出す者や、ファイにありがとうありがとうと感謝を何度も伝える者、握手を求める者、辺りに新入生の歓喜が溢れていた。


その後、新入生達が教官達に駆け寄り、自分達が未熟だからこうなったんだと訴え、この訓練を三日間乗り切れなかったという理由で罰をそれぞれが受けることとなった。

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