1 はじまりはすぐに
ついさっき真新しい青の制服に、心弾ませながら袖を通したばかりである。
それにもかかわらず兄の上司から告げられた言葉は、その制服とのお別れを意味していた。
隣にいる兄は妹を哀れむ表情で、こちらを見つめている。
「まあ、上が決めたことだ。俺達のような騎士団の一部隊の隊長クラスの力では何ともできない。諦めな」
「……はい」
返事しかできない。
兄は去ろうとする上司に会釈し見送ると、妹の肩をぽんぽんと叩いた。
「大丈夫だよ。俺らも所属先はいろいろ変わるものだから、またこの制服も着ることができるよ。それにあの有名なギル隊長の部署に配属されるなんてすごいことだよ」
「そうだよ。この俺に指名されるなんて、すごいことなんだよ」
いきなり会話に入ってきた声に二人は驚き、振り返った。
「えっ、あっ、ギル隊長!」
「おはよう、モーリス副隊長。久しぶりだね!」
「はい、ご無沙汰しております。ギル隊長が騎士学校を卒業した時以来ですね」
「なんか他人行儀だね。君の直々の先輩なのにさ」
「いやっ、ですけどね……。あまりにも偉い方になってしまったので、馴れ馴れしくは出来ないですよ」
「そうかい? 特に偉くなったつもりは無いけどね。上が勝手に俺を隊長にしただけだよ。俺は何も変わってないけどね、カイン」
兄の名前を親しげに呼ぶ人がこちらを見つめた。
「君がカインの妹のファイだね」
「はい」
「急な部署の変更になってごめんね。君の卒業式の日からお願いしていたんだけど、風邪を引いちゃって寝込んでいたらさ、勝手に決められていてさ。今日の朝方までずっと粘って君をようやく手に入れたんだよ」
笑顔で話すギルの眼の下には薄っすらとクマが見える。
「もう卒業式の時に君を見てから一目惚れしてさ、周りの偉い人達に話をいろいろ聞いたら絶対に欲しいって思ったんだ。だから、よろしくね!」
突然のよろしくに戸惑いながらファイは兄と別れ、ギルに連行されることとなった。