3−6: 構成(テンプレート)
なろうで言うテンプレとは違うかもしれませんが。プロットとか話の流れを考える際に、これを使わない手はないというものがあります。
すでに触れたことがあるものですが、「プロップのファンクション」は、最古にして最強にして唯一のテンプレートとも言えます。ロシア・フォルマリズムの時代に出版され、構造主義の時代に発掘されたものです。
唯一というのは微妙に間違っているのですが、実質唯一です。ロシアの魔法昔話をもとに行なわれた分析ですが、これの要素はまとめられた順に限らないとか、抜けとか、繰り返しとかあるからという注意つきです。またそのまま分析に使うときにもまとめられた順にこだわらなくていいということもあります。それであれやこれや分析だとか適用してみると、これができてしまうという。
こういうのが100個もあれば、あらゆる物語――それにはまだ書かれていないものも含みます――を、分析できるだろうとかも言われました。そこからちょっと話が面倒になります。というのは、プロップのファンクションは非常に強力だということがわかってきたりしました――もちろん、そこには人間の解釈という要因も含まれているのですが。また、ネイティブ・アメリカンの民話だと、「語り」のしかたが違うなんてのがあったりします。でもまぁ、要素を見てみると、プロップのファンクションでもありだよなと言えるようなものではあります。
その後は、テンプレートと呼ぶのは難しいかなという分析があったりもします。あ、ビート・シート.メソッドは例外です。ただビート・シート・メソッドはどこに位置付けたらいいのか悩むものでもあります。あくまで、それ以前の映画制作の技術から生まれたとは言われていますが、プロップのファンクションとは無関係に作られたとも思えない内容や要素を持っています。でも、プロップのファンクションから映画用に派生、あるいは適用したという記述もはっきりしたものはなく。だとしたら車輪の再発明なのかというと、知らなかったということも考え難かったりします。このあたりを考えると確証のない仮説は出てくるのですが、それはまだこれからの脳科学の発展を待たないとなんとも言えません。いや、待ってもLADみたいに、それとしてはわからないかもという前提が必要かもしれませんが。
それはともかく、簡略版を挙げます:
*予備部分*
α 導入の状況
γ 禁止や命令
δ 禁止を破る/命令の実行
あ 予備部分や導入部分の結末
A 加害 / a 欠如
これは、予備部分を受けてのこともありますし、関係なしになにか
が起こることもあります。「欠如」というのは、水でも魔法のなに
かでも親でもいいですが、それが無いことがここからの発端になる
という感じです。
B 仲介、つなぎの段階
加害/欠如を主人公が知るとかなんとかです。
C 対抗の開始
Bを受けて、では主人公はどうするのかの始まりのところ。
↑ 出立・主人公が家を後にする
D 贈与者の第一機能
主人公が問題を解決するために必要となるなにかを得るために、そ
れを与えるものからの働きかけを受けるところ。
E 主人公の反応(肯定的もしくは否定的)
Dに対しての主人公の反応です。
F 呪具の贈与・獲得
そして、なんらかの形で主人公に、問題を解決するために必要なも
のや方法が与えられます。あるいは主人公が自主的に獲得します。
助手が現われるという場合もあります。
G 探し求める対象のある場所へ、連れて生かれる・送りとどけられる・
案内される
A/aの問題解決のために行く必要があるところへと赴きます。
H 主人公と敵対者とが、直接闘う
A/aをもたらした者と戦うとかです。賭けとかも含みます。
J 主人公に標がつけられる
Hの最中に主人公が傷を負ったり、なにか「あ、主人公だ」とわか
るなにかをもらったりします。指輪やタオルとかもありです。
I 敵対者に対する勝利
とりあえず主人公は敵に勝利します。
K 発端の不幸・災いか当初の欠如が解消される
Iの結果として、この時点でA/aの問題はひとまず解決します。
↓ 主人公が帰路につく
問題がひとまず解決したので、主人公は帰路につきます。
Pr 主人公が追跡される
逃げのびた敵対者かもしれませんし、関係者かもしれませんし、関
係ないものかもしれまんせんが、追跡されます。あるいは、ここで
また主人公殺害が試みられることもあります。殺害というか、食べ
られるとかいろいろ。とりあえず軽い危機が主人公を襲います。
Rs 主人公は追跡から救われる
主人公は、Prの追跡や危機から逃れます。逃げたり倒したり、いろ
いろ。
O 主人公がそれと気付かれずに、到着する
主人公が帰還したりなどです。ただし、主人公が、目的を達成した
その人だとは、だいたい知られずにです。
L ニセ主人公による不当な要求
Oの理由は、結構「ニセ主人公」が、「俺がやったんだぜ」とか言っ
てたります。
M 難題
主人公が、「いや、本当は俺が!」と言ったりいわなかったり。
「じゃぁ、証明してみろ」とか言われたり言われなかったり。
N 難題を解決する
それを主人公が解決します。このあたりとか、次のQとかで、「J
主人公に標がつけられる」においてつけられた標が役に立ったりと
かもあります。
Q 主人公が発見・認知される
主人公が、本当の主人公だと認められます。
Ex ニセ主人公の正体露見
Qとペアになる感じで、ニセ主人公が何者なのかがわかったり、わ
からなかったり。ともかく偽者だということは判明します。
T 変身
変身となっていますが、いわゆる変身だけでなく、新しい身分や地
位を獲得するとかもあります。ただボロくなった服を着替えるだけ
とかも。
U ニセ主人公、あるいは敵対者が、罰せられる
罰せられたり、罰せられなかったり。ニセ主人公への対応がどうな
るかです。
W 結婚
ロシアの魔法昔話がもとなので結婚となっていますが、結末です。
まぁ、こんな感じということで。
で、ちらっと見た感じで、もう「物語の雛型じゃないか」と思えるでしょう。ちょとばかり「解釈は自由」とか、「順番の入れ替えもOK」とか、「抜けもOK」とかという条件を入れるとなおさらかと思います。
さらに優れものなのが、伏線まで含まれているという点です。
「A 加害 / a 欠如」への対応が物語の主軸になります。それとともに、「A 加害 / a 欠如」の解消がもたらされるという伏線(?)とも言えます。その解消は、「H 主人公と敵対者とが、直接闘う」から「K 発端の不幸・災いか当初の欠如が解消される」で、とりあえず行なわれます。
また、「J 主人公に標がつけられる」は、「Q 主人公が発見・認知される」に対しての伏線です。
「予備部分」、あるいは「A 加害 / a 欠如」の時点で、「L ニセ主人公による不当な要求」に至るようなニセ者の出現の伏線もあるかもしれません。
さらには、「D 贈与者の第一機能」から「F 呪具の贈与・獲得」だったかな、まぁ、どっかが繰り替えされることもあります。たとえば三人兄弟で上の二人が試みて失敗し、三人め(だいたいマヌケとか抜けてるとか)が成功するとかの場合です。なので、最初のほうで何人か一まとめに、あるいは順番に登場していると、何回かトライが行なわれることの伏線になるかもしれません。
伏線からは離れて。
「↓ 主人公が帰路につく」とかのあたりで、大団円でもかまいません。
あるいは、「↓ 主人公が帰路につく」の後で、新しい「A 加害 / a 欠如」が発見され、「A 加害 / a 欠如」から「↓ 主人公が帰路につく」までを繰り返すのもありです。この場合、それ以前の話とはまったく関係なしに話が続く場合もあるでしょうし、なにか関係して続く場合もあるでしょう。
上に書いた何回かのトライとは別に、「D 贈与者の第一機能」から「F 呪具の贈与・獲得」が、そこだけを見ると「予備部分」、あるいは「A 加害 / a 欠如」から「K 発端の不幸・災いか当初の欠如が解消される」、あるいは「↓ 主人公が帰路につく」だったりするかもしれません。この場合、何重かの入れ子になります。
こんな具合に、柔軟に使えて、しかも強力な分析が1920年ごろになされていました。
ただ、これを柔軟に使うというのは難しい面もあります。というのは、言葉で書かれているので、それに引き摺られる場合があるからです。
プロップのファンクションの「ファンクション」は、「3−4: 構成( キャラクター)」で書いたように、登場人物の機能を指しています。ですが、ここに書いたものだと「F 呪具の贈与・獲得」の「呪具」だとか、「T 変身」の「変身」だとか、「W 結婚」の「結婚」だとか、あとはここには書いていませんが「王女」だとか、詳細に入るともっと具体的な言葉が使われています。そういう具体的な言葉になっていると、それに引き摺られる場合がどうしても出てきます。
なので、柔軟にということをなおさら意識する必要があります。たとえば「呪具」だって「魔法の剣」やらなにやらに限る必要はありません。ただの便利な道具だったり、ちょっとした情報でも、あるいは「いつでも連絡してね。これアドレス」でもかまわないわけです。
というわけで、プロップのファンクションという便利なものがあるので、それを使わない手はないと思います。ただ、うまく使うには慣れが必要ではありますが。慣れると、上に書いた程度のプロップのファンクションを眺めているだけで、満足できるんですが。それは上級編ということで。