プロローグ
深い深い水の底。
一度踏み外した道に戻ることは決して叶わず、その身が滅びるまで決して浮かび上がることはない。
これは罰。
人を殺したことに対する?
違う。
力を持っていながらも心の弱さ故に何も守れなかったことに対する罰だ。
大事なモノがあったのに大事な人がいたのに迷い、躊躇い、失ったことに対する罰だ。
もう二度と、この暗闇から抜け出すことは出来ない。
例えかつての光景がもう一度蘇るとしても、僕はこの場所から身動き一つ取れないだろう。
どうしようもない破壊衝動は抑えられず、定期的に何かを、誰かを壊さないと自我が保てない。
闇は深く、そして罪深い。
決して許されるべきものではない。
だが、もし、もし君がまだ僕を見捨てていないというのなら僕の願いを聞いてほしい。
僕がこうなる前の、穢れてしまう前の力を誰かに与えてやってほしい。
そうだな、なるべく僕とは正反対の人間が好ましいかな。
優柔不断じゃなくて、甘えなくて、大事なものがちゃんと分かっている。
そんな人間に僕の力を託したい。
きっと壊すだけの僕とは違って、沢山のものを守ってくれると思うんだ。
本来の僕の力はそういったものだったはずだから。
今まで沢山迷惑をかけてごめん。
世界をめちゃくちゃにしちゃってごめん。
この壊れた世界と共に僕はいくよ。
さようなら。
この日、一つの世界が消滅し、神が死んだ。
邪神と呼ばれ、世界を崩壊させた彼の死を喜ぶ者はいても悲しむ者はいない。
ただ一人、彼の過去を知る女神以外は、
「貴方の願い、ちゃんと届いたから」
女神は小さく呟いた。