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ウークの花 - 後

「ルリ……。なんでついて来たんだ? 姉ちゃんと一緒にいないと危ないだろ! 」


「だって……。お兄ちゃんはルリに残れって言わなかったもん! だから、ルリはお兄ちゃんが心配でついてきたの! 」


 俺と血涙の少女がなんとか、血涙の男たちに遭遇せず、天頂に到着すると、背後からルリが歩いてきていた。ルリの言い分では、俺がルリには何も言ってなかったからということだが……。

 いや、こんなことを話し合っている暇はないだろう。いつ男たちが来るかわからない。


「まぁ、いいか……、絶対に俺から離れるんじゃないぞ? 」


「うん! 」


 ルリは満面の笑みを浮かべながら、頭を俺の腰のあたりにこすりつけてくる。その頭を撫でながら、血涙の少女と話し合うことにした。


「それで、天頂に再度こさせたってことは、なにか三人を救う案があるのか? 」


「ええ、この山頂はこの通りウークの花が多く咲き乱れているのですが、一箇所だけ全く花が咲いていない所があります。そこに救出の鍵があるんじゃないかと睨んでいるのですが」


「睨んでいる? てことは、明確にはわからないわけか? 」


「残念ながら、私自身も魔力によって具現化している状況なので、そこに行こうとすれば、存在が消えてしまう可能性があるのです。昔、近づこうとした時も、肌がピリピリして、近づくことができませんでした」


 魔力で具現化している少女が近づけず、花も存在しない……。魔力を払う力でもあるのかもしれない。


「それなら、なんで三人が山頂にいるときに言ってくれなかったんだ? 」


「もし、そこにヒントがなければ、あの方たちが死んでしまうかもしれないと思い、まずは避難していただきました」


 なるほど……。確かに、かなり危険な状況だと言っていたな……。


「じゃあ、その場所に案内してくれ」


「はい、途中までしか案内できませんが、こちらです。付いてきてください」


 少女に案内されて、俺とルリはキーがあるかもしれない場所へと向かう。その場所は、双子たちが監督して花の実を積んでいた場所だった。通りで俺の記憶に、花がない場所が存在しなかったわけだ。

 そこには、確かに空白地帯が存在した。といっても、かなり小さく、人一人が入り込むことが出来る程度しかない。その空白地帯には、表面上何も存在しておらず、何か手がかりがあるようには見えない。

 

「こんな小さな場所なのか? これなら君にも何があるか見ることができたんじゃないか? そもそも、何もないじゃないか……」


「いえ、この地面の中に何かがあるのではないかと思うのです。私はそこに手を入れることも、通ることもできないので、確認のために掘り返すなんてできなかったのです」


 なるほど……。たしかに、この地面に何かが埋まっている可能性もあるのか……。

 よし、なら掘ってみるか! 俺は少女とルリを置いてその穴を掘り始めた。


「ここの土はパラパラだな……。やっぱり、魔力がない場所は、栄養がないのとおんなじような土になるのか……」


「お、お兄ちゃん! あの幽霊がまた来たよ! 」


 ルリの悲鳴に顔を上げると、男たちは50メートルは先にいた。ただし、俺たちを囲むようにして迫ってきているために逃げられそうにない。

 このままでは、襲われてしまうだろう……。しかし、一旦逃げる先方を取るにも、ルリの足では逃げることができそうにない。


「ルリ! こっちに来るんだ! 」


 俺は、逃げられないと悟と、ルリを空白地帯に呼び、中に入れた。


「そこは、狭いから俺は入れないが、そこにいたら安全だ! ルリは何か埋まっていないか掘り出してくれ! 」


「……。お兄ちゃん……うん、わかった! 」


 ルリは一瞬苦しそうな顔をしたが、何かを決意した顔になり、地面を掘り始めた。

 俺はそれを見ると、俺たちの方を見ていた血涙の少女に近寄って行く。


「君、そういえば名前を聞いていなかったな。なんて名前なんだ? 」


「名……ですか……。もう遥か昔のことになるので、覚えていないのです。お好きなようにお呼びください……」


 少女は血の涙を流しながら、物悲しそうに顔を歪める。その姿は小学校高学年程度の小さな少女だと言うのに、まるで老婆のような錯覚を抱かせる。白い髪の毛もそれを助長しているのかもしれない。


「そうか……。じゃあ、ソフィア……なんてどうだ? 俺たちのいた世界では。とても賢い人のことをそういったんだ。俺のことはダイチって呼んでくれ」


「そうですか、ありがとうございます。その名前忘れないようにしますね」


 俺は、男たちが迫ってきていることも忘れて、少女に名前をつけた。ソフィア、sophia……神の知恵のことだ、今の俺たちにとっては、ぴったりだと思った。

 少女は、それに少し悲しみは残っているが、微笑みを浮かべお礼を言ってくれる。その姿は、血涙を流している悍ましい姿のはずなのに、神聖なもののように感じた。


「それではダイチ、あの男たちがだいぶ近づいてきていますよ……。私は大丈夫ですが、ダイチは不用意に近づきすぎると乗っ取られる可能性もあります」


「乗っとられる……。ますます、怨霊って感じだな。じゃあ、俺は出来るだけ逃げることに徹するとするよ」


 俺はそう言うと、男たち同士の間隔が狭まりすぎていない今なら大丈夫だと感じて、男と男の間を走り抜けた。といっても、このまま逃げるのではなく、ルリが何かを見つけるまで男たちの攪乱に動く。


 ソフィアも俺が捕まりそうになったら、男たちに体当たりをして、動きを止めてくれている。そのおかげで、中々順調に男たちを撹乱することができた。

 しかし、そう上手いこと長く続く訳もなく、少しづつ、追い詰められてきた。俺は、万感の思いを込めてルリを見てみるが、まだ穴を掘っている状態だった。


「ダイチ! 危ない! 」


 ルリを見たときに隙ができたのか、男たちの一人が後ろから迫ってくる。それを、ソフィアが体当たりで止めてくれたが、これ幸いに右側にいた男の一人が飛びかかってきた。

 なんとか、避けようとするも、後ろからの攻撃に備えてしまった体は急には動くことができず、その数秒で俺は男に左手を触れられてしまった。


 触れてきた男は、俺を見ながら無表情だった顔を歪め笑い出した。その醜悪さに怖気が立った。なんとか離れようとすると、触れられた所から、得体の知れない感覚が走った。

 虫だ……。まるで、大量の虫が俺の体の中を這っているような感覚だ……。きもち悪い……。


「うええぇぇぇ……」


 あまりに気持ち悪さにその場で嘔吐するが、気持ち悪さは収まらない。


「ダイチ! ダメです! 抗ってください! 体を乗っ取られてしまったら、もうどんな手段でも戻ってくることはできません! 」


 ソフィアの悲痛な声が聞こえる。だが、何を言っているかわからない。そんなことよりも、虫に這われている感触に耐えることしか考えられない。時間が経つごとに虫のような感覚が手から肩へと昇ってくる。

 それどころか、魔力の塊のような男に触れられているからか、手から血が出始めてきた。

 痛い……痛い、痛い痛い痛い痛いイタイイタイイタイイタイイタイイタイ


「ダイチ! しっかりして! 貴方、ダイチを離しなさい! 」


 手が万力で締め付けられているように痛む。虫が這う感覚と痛みでどうにかなりそうだ……。ソフィアが何かを言いながら俺から男を剥がそうと頑張ってくれているのが見えるが、もうなにも聞こえない……。


 こんなのは、いやだ……。もう姉ちゃんとルリと一緒に楽しく過ごせないのか? いやだ……。こんな悍ましい奴に体を乗っ取られるなんて嫌だ……。

 痛みが、気持ち悪い感覚に遅れて肩の方に昇ってくる。虫の這うような感覚はすでに、俺の首下まで迫ってきている。気持ち悪い……。また吐いた。

 気持ち悪い、痛い、キモチワルイ、イタイキモチワルイイタイキモチワルイイタイキモチワルイイタイキモチワルイイタイキモチワルイイタイキモチワルイイタイキモチワルイイタイ……。


 あれ? 体のかんかくがなくなってきた。もう、きもちわるくない。もういたくなくなってきた。

 おだやかなきぶんだ……。目もチカチカとしてみえなくなっているけど、おちつく。もう、なにもかんがえられない……。


「………………」




―――――





「ダイチ! ダメです! 抗ってください! 体を乗っ取られてしまったら、もうどんな手段でも戻ってくることはできません! 」


 後ろから聞きたくない言葉がきこえてくる。それは、お兄ちゃんの名前をひっしにさけぶ女の人の声だ。

 その余りにもひっしな声に少しふり返ってしまうと、お兄ちゃんが、幽霊に掴まれてゲロをはいていた。


「お、にい……ちゃん……? 」


 お兄ちゃんがあぶない……。


ルリが無理矢理ついてきたから……。ルリはお兄ちゃんを危ない目にしかあわせられないの? お兄ちゃんを助けることはできないの? 悲しい気持ちでいっぱいになる。


 ついてきちゃだめだったんだ……。心配してついてきたなんて嘘だった。ホントはお兄ちゃんとはなれたくなかっただけなの……。

 その結果が、またお兄ちゃんをくるしめちゃうの? いつも、お兄ちゃんはルリのことを守ってくれたのに……。

 お父さんとお母さんが生きていた時も、この怖い場所にきてからも、いつもお兄ちゃんはルリを助けてくれたのに……。

 

 お兄ちゃんが苦しんでいるのに、なんでかからだが動かなくなる……。お兄ちゃんの手は黒く染まっていて、指からは血がいっぱいでている。


「お兄ちゃん……やだ……やだよ~……」


体は動かないのに涙ばっかり出てくる。

お兄ちゃんの手の黒が段々と、広がっていく。


「お兄ちゃん……うっううぅぅぅぅ……死んじゃやだ……」


お兄ちゃんのか顔が、死んだお父さんと同じになっていく……。それなのに、ルリはお兄ちゃんが死んじゃう怖さで動けない……。


「ダイチ! しっかりして! 貴方、ダイチを離しなさい! 」


 ルリが動けないのに、血の涙を流したおねえちゃんが、幽霊に体当たりしていく。

体当たりで怖い幽霊がお兄ちゃんから少し離れたからか、やっと体が動くようになってきた。


ルリもお姉ちゃんみたいに、幽霊をやっつけに行こうと思ったけど、お兄ちゃんが言ってたことを思い出した。


「ルリは……。ルリはここを掘らないと……。お兄ちゃんを助けるにはそれしかないんだ! 」


 ルリがあそこに行っても、邪魔にしかならないってわかってる。だから、お兄ちゃんの苦しそうな声を聞きながら、地面を掘っていく。

 すると、なにか銀色に光る丸いものが見えた。


「コイン? 」


 それは、なにか盾のような物が描かれたコインだった。

 きっと、お兄ちゃんが探していたものはこれなんだ! コインを持って、後ろを見てみると、お兄ちゃんの首や胸のあたりまで黒いものが広まっていた。


「お兄ちゃん! これ! 」


 お兄ちゃんに向けてコインを投げる。


「アアアアァァァァァァァァッッッッ!! 」


 コインはお兄ちゃんのところに着くと、お兄ちゃんを掴んでいた幽霊が大きな声でさけびはじめた。


「あ、れ? 俺は……。助かったのか? 」


 お兄ちゃんが戻った! ルリはお兄ちゃんを守ることができたんだ……。

そう思うと、さっきとは違う涙が流れる。


 お兄ちゃんは血の涙を流したお姉ちゃんと何かを話すと、そのコインを握って他にもいた幽霊を倒していく。

 幽霊と戦うお兄ちゃんはとってもカッコよかった。

 

「お兄ちゃん! 」


 カッコイイお兄ちゃんを見ていると、なんだか嬉しくなってお兄ちゃんの下に走って抱きついた。すると、いつもみたいに頭をなでなでしてくれる。


「ルリのおかげで助かった……ルリは俺の命の恩人だな! 」


 お兄ちゃんが、ルリのことを命の恩人だって! とっても嬉しい……。


「お兄ちゃん! ルリがこれからは守ってあげるからね! 」


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