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ウークの花 - 前

 ウー九山は緑がほとんど生えていない山だった。ほとんどが岩場で、まさに岩山といった感じの殺伐とした山だ。

 しかし、頂上付近までくると、先までの草花が全くなかったのが嘘のように、ピンクの花が大量に咲き乱れていた。


「これが、ウークの花か」


「そうなの。優しく摘むの! 」


 俺の目の前には朝顔ぐらいの小さな花がある。

 その花は硬い大地を突き破って生えてきており、緑の茎には淡く光るピンク色の4つの花弁がついている。真ん中には、少し大きめの実が一つついていて、不格好だった。


「この花は大量の魔力を大地から吸収して、一定以上の量は外に放っているの。だから、花弁がピンクの光を出しているの! 花が蓄えていられる一定以下の魔力は、この実に蓄えたれているの。だから、体の回復にいいの」


 イサク先生が俺の前で胸をそらし力説してくれる。だから、山の下部分は草木が枯れ果てていたのかもしれない。 

 この世界の魔力は、栄養素の一つなのだろう。双子の母さんも魔力の欠乏症だとか、そういった類の病気なのかもしれない。

 

 先生の力説に相槌を打ちながら、後ろを見てみると、荒い息の姉ちゃんとルリがいた。ここは山の天辺、地上から500メートルくらい上がったところなので、ばてたようだ。双子はケロッとしていて、花の実を回収して回っている。


「それにしても、全然危険なんてなかったじゃないですか? 」


「おかしいの……。この山は危険だって聞いたの……」


 俺がジト目で見ると、目線を逸らして答えてくれる。

 先生は、実際に危険の内容をしっていたりするわけではなく、聞いただけのようだ。


「まぁ、行きはよいよい、帰りは怖いってやつですかね。帰りも気を引き締めていかないと……」


「そうなの! きっとそうに違いないの! ダイチも中々わかってるの! 」


 イサク先生は、無闇矢鱈に元気な声で賛同してきた。25歳なのに可愛いものだ。


「ふぅ……。ダイチ、早く実をとってしまいなさい。一刻も早く帰りたいわ」


「ルリも……。お山登りは疲れちゃった……」


 やっと息が整ってきたのか、姉ちゃんとルリも近づいてくる。その顔は、少し青白くなっており、現代人のひ弱さを体現したかのような有様だ。

 まぁ、二人共女の子だし仕方ないかと思いつつ実を採取する。


「ダイチさん、イサク先生。あっちの実は採り終えました! 」


 俺が実の採取をしていると、双子の姉、ミミの方が大量の実が入った袋を持ってくる。ミミはこれで母さんが助かるかもしれないからか、とてもいい顔色だ。


「おお! 大分いっぱい採れたな。先生、これだけあればいいだろ 」


「ダメなの! 全部採って帰るの! 」


 イサク先生は駄々っ子のようにもっと欲しいと言い出した。こんなに必要なのか? と思いつつ、回収作業に戻る。その内、姉ちゃんとルリも作業に加わってくれて、1時間くらいでここら辺にある実を採りつくした。


「採り尽くして良かったのか?」


「いいの! 実は2日もあれば、元通りになるらしいの。だから問題ないの」


「そんなに直ぐに実が元に戻るの? やっぱりこの世界は不思議なのね……」


 姉ちゃんが不思議そうな顔でウーくの花を見ている。確かに不思議だ。普通はそんな簡単に元に戻らないから、取り尽くさないと聞くが、この世界にそんな常識は通用しなかったようだ。


「じゃあ、帰りましょう! 早く母さんに届けてあげないと! 」


 ミミは早く帰りたいようで、急かしてくる。まぁ、母が危ない状態だから、しょうがないとも思うので、素直に帰り支度をする。

 支度が完了し、俺たちは山を降り始めた。


「あれ? こんな道あったか? 」


 道を順当に降りていると、見知らぬ道が現れた。俺たちは来た道と同じところを通っているから、そんな道現れるはずないんだが……。他の6人も困惑した顔をしている。

 ん? 6人? ここに来たときは俺を入れて6人だったはずだ。みんなをもう一度見回してみると、少し震えている可愛い金髪幼女のイサク先生、中学生くらいの背丈の可愛い女の子ミミ、ミミによく似た双子の弟カイ、長い艶やかな黒髪に黒い瞳の美人な姉ちゃん、大きなパッチリお目目がキュートなルリ、赤い瞳から血の涙を流している少女。

 血の涙を流している、少女……?。俺は顔が真っ青になるのを感じた。皆は俺の変化に困惑しているようで、此方を見ながら心配そうにしてくれる。


「姉ちゃん達……。そいつが見えないのか!? 」


「ダイチ何言ってるの!? あなたが指を指してる場所には何もないわよ? 」


 姉ちゃんがふざけた事を言う。俺の目には、悍ましい姿の女の子が見えている。俺は恐怖に固まってその女の子から目線を外せずにいると、女の子もこちらが見ていることに気づいたのか、こちらに近づいてくる。


「お兄ちゃん、こ……あぶ……ら……げて! 」


 血涙の少女は何かを伝えようと必死になって話しかけてくるが、うまく聞き取れない。


「な、にを……言ってるんだ? 」


「ここ……ないか……げて! 」


 再度繰り返し告げてくるが、やはりわからない。そんな俺に痺れを切らしたのか、俺の手を掴み見知らぬ道の方に歩き出す。その手はかなり冷たくて、この世の人間だとは思えない。


「や、やめろ! そっちは違う道だ! やめてくれ! 」


 なんとか抵抗しようとするも、女の子の力がかなり強く、引きづられる。俺は独力で抗うことを諦め、後ろの姉ちゃん達に助けを求めようと振り返ると、そこには姉ちゃん達は居らず、代わりであるかのように、血の涙を流した男が此方を無表情で見ていた。


「ヒィ!? 何だお前ら……」


「みちゃ……め! 」


 俺を引っ張る女の子がまた何かを言い出した。これは、短かったからなんとなくわかったが、見ちゃダメと言っているようだ。

 それでもあまりの恐怖に男たちを凝視してしまう。すると、男たちは血涙無表情のまま、こちらに歩み寄ってくる。


「や、ばい……。逃げないと……」


 俺は思わず、引っ張ってくれていた血涙の少女を抱え、先ほど女の子が連れて行こうとした見知らぬ道の奥に走っていく。後ろからは、複数人の走っている音が聞こえるため、追ってきたようだ。


「はぁ……はぁ……。なんなんだアレは……」


「……れは、死……」


「君はさっきから何を言ってるんだ! 」


 少女は相変わらず、目から大量の血を流し、何かを言っている。だが、なぜかノイズがかかったように聞き取ることができない。

 数分走っていると、後ろからの物音は聞こえなくなっていた。後ろを見ても誰もいない。何とか撒いたようだ。


「姉ちゃん達を探さないと……」


 今まで恐怖で忘れていたが、姉ちゃん達がいなくなったことを思い出した俺は、探しに行こうとさっきの場所に戻ろうとすると、少女が俺の手を掴んだ。


「なんだ! まだ何かあるのか!? 」


「……ない、いっちゃ……め」


 ? また訳の分からないことをと思いつつも、先は助けてくれたので、女の子に従って戻るのをやめる。

 しかし、何もしないわけにはいかないので大声で姉ちゃん達の名前を叫ぶ。ここは山なので、声が響くためすぐに見つかるだろうと思っていたが、なぜか全く声が響かない。


「なぜなんだ……? ここは一体なんなんだ……」


 まるで、違う世界に迷い込んだかのようだ。ルリももしかしたら泣いているかもしれない……。早く探さないと……。


「おにいちゃ~ん! おねえちゃ~ん! グス……。どこ行っちゃったの! ううぅぅぅ……」


 ルリの事を考えていると、どこかからルリの声が聞こえてきた。それに耳を澄ませ、探してみると、ルリが真っ赤な目で辺りを見回しながら彷徨っていた。


「ルリ! お兄ちゃんはここだ! 姉ちゃんと他の皆はどうした? ……ルリ? 」


「おにいちゃ~ん! そんなところにいたんだ! 探したんだよ! 」


 ルリは此方を見ない。それどころか、あらぬ方向を向いて俺を見つけたと燥いでいる。その方向には、何もなく、道すらない。はっきり山の斜面だ。


「ルリ? 俺はここだ! そっちには誰もいない! 」


 俺は、何とかルリの目を覚まそうとするが、ルリは斜面へ向かって走り出した。


「ッ!? まずい! 」


 俺は、ルリが斜面から落ちる前になんとかルリの小さな体を抱いてこちら側に引き寄せると、ルリはキョトンとした顔になり、俺を認識すると、赤かった瞳は黒い瞳に戻り、大粒の涙を溜める。

 

「お兄ちゃん! どこいってたの!? 探したんだよ! 」


 俺は、そんなルリを慰めるように抱きしめ、なぜこんなことになっているのか考えた。

 さきほどのルリの状況から、赤い目は幻覚作用の様なものがあると考えられる。おそらく俺も、最初は幻覚を見ていたのだろう。それが、血涙の少女と接触してから戻った。ルリも俺に接触してから赤い瞳が元に戻った。

 外部からの刺激を与えれば、幻覚状態は解除されるんだろうか? いや、俺は本当に幻覚が解除された状態なのか? 少女と接触してからも、血涙を流した男を見てしまったし……。あれは本物だったのか?


 いくら考えても、そもそもの原因がわからない以上考察しようがない。頭の中がゴチャゴチャし始またとき、胸元から息を呑む声が聞こえた。ルリを見てみると、どこかを見て驚愕とも恐怖ともとれる顔をしていた。


「ひぃ!? 目から血が……。お兄ちゃん……。ルリ、お化けが見えるよ~……」


 そちらを見てみると、血涙の少女が立っていた。ルリに血涙の少女が悪い奴じゃないことを説明すると、未だに顔は強張っているが、なんとか理解してくれた。

 血涙の少女はそんなことには目もくれず、ある方向を指差して、またノイズ入りの声を響かせる。


「……っちに、きみ……姉……いるよ」


 単語単語から、少女が指差した方向に俺たちの姉がいるのだろうと推測することができた。


「あっちに、姉ちゃんが居るのか? 」


 そう聞くと、少女は首を縦に振り、肯定を示す。

 あっちに姉ちゃんがいるのか……。おそらく姉ちゃんもルリのような状態に陥っていると考えたほうが無難だ。早く行かないと、手遅れになるかもしれない。


「ルリ、あっちに姉ちゃんがいるらしいから、少し走るぞ。大丈夫か? 」


「うん! 大丈夫。早く行こ! 」


 ルリは姉ちゃんがいると聞いて、嬉しいのか俺の手を掴み走り出した。


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