ウーク山へ
朝、目を覚ますと知らない天井だった……。――
なんて……。久しぶりに熟睡できたためか、頭がクリアだ。隣を見てみると、ルリが左手、姉ちゃんが右手をつかんでいて起きられない。美人な女性と美幼女に挟まれて起きる朝……。男の夢であるハーレムのようだが、実の兄弟だ……。いや、これはこれでありなのか?
「ん……。ん~……。大地? おはよう」
「おはよう」
俺が、くだらない妄想を働かせていると、右手の方から艶めかしい声と、朝の挨拶がやってきた。
姉ちゃんは起きたようだから、次はルリだな、と思っていたら、姉ちゃんは二度寝していしまった……。
「俺はいつになったら起きれるんだ? 」
二人とも、朝は弱いようで中々起きない。これは、一つのベッドは失敗したかな……。なんて思う。
昨日はギルドに車を停めて、宿を適当にさがしてここに入った。俺たちは兄弟だから、一つの部屋で一つのベッドに寝れば安くつくだろうと思って一泊10ゴーツのこの部屋に泊ったんだが、失敗だったかもしれない。
いや、今は金を消費していられないから、正解のはずだ。俺が朝動けないだけだし、この状況はある意味ご褒美かも……。
「ん……。お兄、ちゃん? おはよう、ございます! 」
ルリが小さな手で目をこすりながら起きた。ルリは朝起きる時はなぜか敬語であいさつするのだ。多分、天然だった母さんが教え込んだんだと思う……。
しばらくして、やっと姉ちゃんも起きたので、朝の準備をすると、下の階に向かった。
「お風呂があったらよかったのに……。濡れタオルで拭いたといっても、体がべたべたして気持ち悪いわ~……」
「ルリもお風呂入りたい……」
下に向かっている途中、姉ちゃんとルリが昨日も言っていたことを愚痴りだした。この宿には風呂がなく……というか、ほとんどの宿には風呂はないらしく、うちの女性陣は不満なようだ。まぁ、俺も少し気持ち悪いから、できたら風呂は欲しいところだが……
下の階に着くと、カウンター前にある食堂で朝食をいただき、外へ出た。朝食は、何かの卵焼きとパンの様な物だった。
「今日は、何をしましょうか……。あんまりお金も使えないし、なにか仕事を探さないといけないわね」
「確かにな……。あっと、姉ちゃん。俺、今日ちょっと一人で行動したいんだけど……。大丈夫? 」
「お兄ちゃん……。私もいっしょに行く! 」
昨日の、双子とイサク先生の会話を思い出して、やっぱり見に行ってみるかと思い、姉ちゃんに言ってみると、代わりにルリが大きな黒い瞳に涙を溜めて答えた。やっぱり、まだまだ幼い年頃だ……。家族が一緒にいないと不安なのだろう。
まぁ、イサク先生達の様子を治療所まで見に行くだけだし、大丈夫か。
「ルリ……。わかった。一緒に行こうな! 」
姉ちゃんは、俺がすぐ折れたのを呆れ顔で見ながら、
「私もついていくわ、貴方たちだけじゃ心配だもの。それで? 何処に行くの? 」
と言ってきた。姉ちゃんは相変わらず心配性だ。
「今から、イサク先生の所に行こうと思うんだ。昨日双子と先生が話していた内容が気になって……」
「内容? 双子の母が危ないってやつ? 」
「そうだよ。ちょっと双子がどうしてるか気になって……」
姉ちゃんは、ウークの花の件を聞いていないので、双子の母を見に行くのだと思ったようだ。まぁ、似たようなものなので黙っておく。
姉ちゃんは納得したのか、俺の横に並ぶと歩き出した。イサク先生の所までそこまで遠くないので、車は置いていくようだ。
ルりも俺の左手を抱きしめて歩く。
「ルリ、歩き辛いんだけど……」
「だめ! お兄ちゃんは、ルリが守ってあげないといけないから、どこかに行かないように捕まえとくの! 」
どうやら、昨日一人で肉狼に挑んだことを根に持っているようだ。まぁ、心配されて嬉しいので、ルリの思うようにさせておくか。
ルリと姉ちゃんを連れて、イサク先生の治療所まで行くと、患者さん達と、患者の世話をしているおばさんたち数人がいるだけで、イサク先生は居なかった。
なぜ留守にしているのか聞いてみると、双子と朝早くに何処かへ行ったという。これは不味いかもしれない……。すでに三人はウーク山へ向かったらしい。
「姉ちゃん、やっぱり此処からは俺一人で行動してもいいかな? 」
流石に姉ちゃんとルリを、先生が危険だと言っていた場所に連れていけないので、一人行動をしようとすると、
「何言ってるの! 何を隠しているか言ってみなさい! 」
姉ちゃんが、すごい形相で詰め寄ってきた。ルリも姉ちゃんの味方なのか、掴んだ左腕をきつく締めつけてくる。もちろん、そう簡単に屈するわけにはいかないと、はぐらかしに掛かるが、姉ちゃんは納得してくれず、結局昨日の先生たちの会話をゲロってしまった……。
仕方がないんだよ……。だって、姉ちゃんの握力って意外とすごいんだもん……。頭が割れそうだったんだもん……。ルリはルリでチワワの様な涙目で見てくるし……。
俺が、誰に向けてかわからないようなアホな言い訳をしていると、姉ちゃんは思案顔で一つ頷いて、
「私も行くわ」
と言った。まぁ、こうなると分かって居たから言いたくなかったんだけど……。
「本当に行く気か? 危ないんだぞ? 」
「行くわよ。弟を危険なところに一人で行かせるわけにはいかないわ。それに、移動手段はどうする気? 車なしで行けるの? 」
姉ちゃんの言葉に移動手段の事を忘れていた事に気付いた俺は、姉ちゃんを退けられなくなっていた。ルリもこちらを見て頷いているから付いてくる気だろう。
「ルリ……。危ないんだぞ? 昨日みたいな化け物がいるかもしれない……」
「こわいけど……。おにいちゃんと離れたくない! 」
ルリはキッ!と俺が見たことのない大人の表情でこちらを見上げる。いつの間にか、こんな顔も出来るようになってたんだな……。と感傷に浸りながら、どうせルリの涙には勝てないんだからとOKを出す。
最悪、危険になったら、双子と先生をほうってでも逃げよう。
「ウーク山ってのは、この国から北にあるらしい。まぁ、ジルにでも聞けば教えてくれるだろ」
「そうね。じゃあ、行きましょうか! 」
「出発しんこ~! 」
ギルドに戻り車に乗った俺たちは、門番のジルにウーク山への道と先生達がたどったであろう、道を聞き出して追いかけた。
昨日の双子もそうだったけど、ここの住人は歩くスピードが速いのか、中々見つからない。かれこれ、30分は走ってるけど、山もまだ遠くに見える。
「山って遠いのね……」
「そうだな……。……そういえば、飯を買って来るの忘れてたな。今回もまた腹ペコの旅か……」
「ルリ、少しくらい我慢するよ! ……あっ! あっちにイサクちゃんがいるよ! 」
くだらない話をしながら山に向かっていると、俺の膝上に座って窓を眺めていたルリが先生を見つけた。俺も見てみると、確かにいる。でも、先生はちっさいからあまり目立たない……。
俺たちは、先生たちの方に車の進路を変更して、向かった。遠くで見えていなかったが、近づいて行くと、先生たちも気付いていたのか此方を見て驚いた顔をしている。
「先生たち、奇遇ですね……。今からどこに行くんですか? 」
「なにが奇遇なの!? 貴方たちこそ、こんなとこでなにしてるの! 」
「俺たちは……。まぁ、別にいいじゃないか。それよりも送って行ってあげますよ! 車に乗ってください」
ちょっと怒っているイサク先生を躱して車へ誘導すると、一刻も早く山に行きたいからか、双子が乗り込んでくる。先生はそれに呆れ顔をしながら、車ってこの魔具なの? といいつつ、双子同様、後部座席へ入ろうとする。
「イサク先生! 待ちなさい! 俺の膝の上に座りなさい! 」
「何言ってるの! 私は年上だから命令するななの! それに、もうルリが座ってるの! 」
「イサク先生こそふざけないでください! 身長が小さな人は、前の席で誰かの膝上に座らないと危ないんです! それに、ルリもイサク先生も小さいんだから余裕で座れますよ! 」
俺が、なんとしてもイサク先生を座らせようとしていることに、姉ちゃんの方からため息が聞こえてきたが、気にしない。
ルリも頬を膨らませているが、イサク先生とルリを抱いて座れることなんてめったにないだろうし、血の涙を呑んでルリをスルーすることにする。
「そうなの!? ありがとうなの! それじゃあ、お邪魔するの」
イサク先生はそういうと、嬉しそうに俺の膝へと座ってきた。左足にイサク先生、右足にルリの状態だ。抱きしめていると、二人のいい匂いがする。
その天国の様な空間でしばらく惚けていると、車が止まっていた。いつの間にか山の近くに着いていたようだ。
「ダイチ着いたわよ……。いい加減に二人を離しなさい」
姉ちゃんのゾッとするほど冷たい声音に、二人を離して外に出る。
ウーク山は正直普通の山といった感じだった。高さ的には500メートルくらいだろうか。日本でもよく見る程度の高さだ。
「ん? そういえば、私はダイチ達にウーク山に行くって言ってないの……。なんで知ってたの? 」
山を見ていると、イサク先生がそんなことを聞いてきた。
「イサク先生の頭の中は全部分かって居ますよ! 先生が俺の事を好きってこともね! 」
「え!? そうなの!? 私って、ダイチのこと好きなの!? 」
イサク先生は、思った以上にチョロかった。流石に嘘だと言おうとしたが、クリームの様な滑らかで白い頬を赤らめながらモジモジしだした先生の姿が想像以上に可愛かったので、このままにすることにした。
「じゃあ、イサク先生。行きましょうか」
「うん! 行くの! って違う! なんで、ダイチも一緒に行くの!? 」
最初はそのままなし崩し的に行きそうだったが、残念ながら先生の思考が戻ってきたようだ……。まぁ、先生はチョロイから大丈夫だろう。
「何言ってんですか! 先生の頭の中では、好きな俺に着いて来てほしい! って叫んでるじゃないですか……」
「え!? そうなの!? でも……危険なの……。ダイチを危険に合わせたくないの……」
「先生を助けたいんだ! 一緒についていくのは決定事項だから 」
俺が強引に話を進めていくと、「はい」とモジモジしながら言った。イサク先生は本当にチョロい……。絶対25歳じゃないな。
ちなみに、今の会話は姉ちゃんの絶対零度の眼差しに晒されながら行っている。なんか、寒くなってきたけど、左手に抱きついてきているルリが温かいから耐えられる。そう思いルリを見てみると、ルリも怒っていた。
あわててルリにイサク先生と一緒に行くには仕方がないことなんだと説明して何とか納得してもらった。
こうして、右手にイサク先生、左手にルリを侍らせた俺はウーク山へと探索に入ることとなった。
主人公の変態化がすさまじい件




