双子の母
「治療費は10ゴーツでいいの! 」
10ゴーツが高いのか安いのかはわからないけど、勇者顔のおっさんにもらった金で余裕に足りた。
「イサク先生、俺たち今から飯を食いに行こうと思ってるんだけど……。おススメな場所ない? 」
「もう、ため口なの……。私は、貴方たちより年上なのに……。……家の二軒右隣に有る満腹亭がおいしいの……」
イサク先生は、なにかボソボソと呟いたあと、おススメを教えてくれた。
昨日の夜以来、食べていないのでかなりお腹が空いていたので、満腹亭なんていかにも、量が多そうな名前を聞くと腹が鳴ってしまう。
「ルリ、もう腹ペコだよ~! 」
「そうね。お肉とか食べたいわね~……グゥゥ……」
姉ちゃんたちもそのようで、腹の虫も主張してきていた。姉ちゃんとルリはお腹から腹の虫が聞こえるたびに、顔を赤くしている。
店はすぐそこなので、車はイサク先生のところに停めておき、歩いて満腹亭までむかうと、その外観に早くも幼女に聞いたのは失敗だったか? と思ってしまった。
満腹亭の外観はかなり薄汚く汚れており、所々に苔の生えていた。満腹亭と書かれた傾いている看板を見ていると、正直、味に期待できない……。
「これは……。大丈夫なのか? 」
「これはひどいわね……。まぁ、案ずるより産むが易し、よ。入りましょう」
姉ちゃんはそういって、頻りに鳴る腹の虫とともに入っていった。汚さより、腹の虫に負けたに違いない。
「お兄ちゃん! ルリ達もいこ! 」
「ああ。行くか! 」
俺とルリも姉ちゃんに続き、中に入る。中は外の外観からは想像できないくらいに綺麗だった。苔やカビなんて全くない木材の壁に床。机や椅子だってきれいなものだ。
姉ちゃんはすでに、席を確保していたので、そちらに向かい席に着くと、しばらくしてここの店員さんらしき女の子が近づいてきた。
空の色を思い出させる髪の毛に藍色の眼。緑のワンピースを着て、前には白いエプロンをつけている。看板娘というやつなのだろう、結構かわいい。
「いらっしゃいませ~! 新入りさんですね。 満腹亭へようこそ! 私はサリーって言います。よろしくお願いします! 」
サリーは元気よくそういうと、注文を聞いてくる。それに、おススメはなんなのか聞くと『満腹丼』なるものをおすすめされたので、俺たちはそれを頼んだ。
しばらく待っていると、サリーが大きな丼ぶりを抱えて出てきた。さすが、満腹丼というべきかかなり大きい。軽く、直径三十センチはある。中身は巨大な魚を乗せた丼だった。魚は、大きすぎるのか、丼からはみ出ている。巨大な魚をどけると、乳白色の木の実を刻んだようなものがあった。丼ときいて期待していたが、ご飯ではないらしい。
「「「いただきます」」」
「いただきますって何ですか? 」
ご飯を食べようとしたとき、近くにいたサリーが不思議そうに聞いてきた。確かに、かの世界には仏教がないだろうから不思議なのだろう。こういった些細なところにも、地球との違いを見せつけられた気分になる。
正直なところ、地球に帰りたい気持ちは強くあるが、帰っても両親がいない俺たちには、辛い世界になるだろうという気持ちにもなる。といっても、ここで悩んだところで、帰れるわけではないので意味はない。とらぬ狸の皮算用というやつだろう。
「私たちの故郷の言葉で、食材・作ってくれた人に対する感謝の気持ちを表す言葉よ」
少し、ボーっとしていたのか、姉ちゃんが答えてくれた。サリーはそれにパッ! と顔を輝かせ、店の奥に駆けていくと、デカい豚の様な男の人を連れてきた。
「ありがとうございます! 私、サリーの父のドリスっていうもんです! いや~、最近のお客は文句を言うばかりで感謝なんてしてくれなくて……。そこに行くとあなたたちはそういったこともなく、私たち調理者のためにも……」
この豚の様な人はサリーの父の様だ。これから、サリーが生まれたとは信じられない。
サリー父は、マシンガントークの人なのか、いまだにペチャクチャと喋っているが、聞いているふりをしつつ、丼を食べてみると、めちゃくちゃおいしかった。魚は臭みなんて全然なく、脂がのっていてとてもジューシー。実を刻んだものは、そこまで硬くなく、むしろ柔らかくてほんのり甘みを感じる。
さすが、イサク先生がおすすめするだけはある! さっきまで疑っていた? そんなことはない……。幼女の言うことに嘘はないんだ。
俺たちは、空腹なのもあって丼を全て平らげる。ルリは流石に苦戦していたので、少し食べてやったが、ルリもかなりの量を食べた。
「「「ごちそうさまでした」」」
「ごちそうさまでした!? なんですか、その言葉は!? 」
なんでか、まだ近くでペチャクチャ喋っていた豚の様なおじさんとサリーがマシンガントークを止め、興奮したようにこちらを見て言ってきた。
これは……。長くなりそうだと思いながら、意味について答えた。
あれから、一時間近く拘束され、感謝と愚痴を聞かされ続けた。いろんな意味で、満腹だ……。
俺たちは、店を出るとイサク先生の治療所に戻る。気付いたら、すでに空は茜色に染まっていた。
「とりあえず、今日はもう疲れたしどこかに宿をとりましょうか」
「ああ、それなら、イサク先生に会って、おススメの場所を聞こう! 」
俺はすっかり、あの金髪妖精幼女の虜になってしまったようだ……。もちろん、ルリはもっと可愛いけど、イサク先生は……。幼女で成人なのだ! 結婚もできる。
「ルリもイサクちゃんに会いたい! 」
ルリもすっかりイサク先生を気に入ったらしく、川に流れる天然水のように澄みきった大きな黒い瞳を期待に輝かせている。
治療所に入ると、患者のベッドが置いてある部屋にはいない。奥にいるのかもしれない。奥に向かう通路を歩き、イサク先生の部屋に入るドアを開けようとすると、誰かの泣き声が聞こえてきた。
「うっうぅぅぅ……。イサク先生……。母は、もう長くないんですか……」
「ごめんだけど、私にも治療できそうにないの……」
「なんとかならないんですか!? 母が居なくなったら私たちは……」
「姉ちゃん……」
どうやら、まずいところの様だ。双子の声がするので、双子のお母さんが危ないんだろうか? 後ろを振り向くと、姉ちゃんは顔を横に振って外を指し示す。
確かに、立ち聞きはよくないだろう。そう思って出ようとしたとき、イサク先生の言葉で立ち止まってしまう。
「ウークの花を使えば治るかもしれないの。ただ、ウークの花は中々手に入らないの……」
「ウークの花ですか。……私、行きます! 絶対取ってくるので、母をよろしくお願いします! 」
「危ないの! ウークの花は北のウーク山にしか生息しないの! あそこは危険なの!? 」
ウークの花ってなんだろう? そんなに危険なのか? 仮にそんなところに双子で行っても帰ってこれないんじゃないだろうか。俺たちより弱そうだからな……。
大丈夫か? と思ってしまうが、俺たちには何もできない。
「それでも行きます! 」
「わかったの……。私も一緒に行くの」
どうやらイサク先生も同伴するようだ。俺は、それを耳に挟みながら外に出ると、外では、姉ちゃんとルリが待っていた。
「あんまり、立ち聞きなんてしちゃだめよ? 」
「そうだよ! お兄ちゃん……。ぷらいばしー! だよ! 」
姉ちゃんは、呆れ顔で苦言を漏らしてくる。ルリはルリで、プライバシーという言葉を使えて嬉しいのか、笑顔だ。
確かに、趣味のいいことじゃなかったと反省しているので、姉ちゃんの苦言に頷いておく。
「わかった。……それより、宿をどうする? 」
「そうね~……。とりあえずギルドのある大通りに行きましょ。何かいいところがあるでしょ」
姉ちゃんはそう提案して、車に乗り込んだ。俺とルリも車に乗り込むと、大通りへと向かった。




