イサク先生
「やぁ、帰ってきたね! ってそれどうしたの!? 」
城門に着くと、若い門番ジルが出迎えてくれた。ジルは、フロント部分が大きく凹んだ車と俺たちの状態を見て驚いた顔をして、聞いてくる。
「この魔具は少し、ぶつけちゃって……。それよりも、弟が怪我をしてるんです! どこか治療できる場所はありますか!? 」
姉ちゃんがそういうと、ジルは少し考え込むようなポーズをとり、手を叩く。
「イサクさんの所に行ってみるといいよ! あの人は若いけど、治療の魔具がつかえるんだよ」
この世界では、魔具と言われるものを使える事は、一種のステータスのようだ。
ということは、今俺たちが車に乗っているのも、すごい人に見られているのか? そのせいで、今回の黒い森に行かされたんだったりして……。なわけないか……。
「ありがとうございます! では、弟を連れていきますね! 」
ジルはこれに、にっこり笑うと、約束通り城門を開けてくれる。相変わらず、爽やかなやつだった……。
俺達は、城門から車に乗りウェストンの城下町に入っていく。多くの人で賑わう街を見ていると、帰ってきたんだという感情が沸き起こる。やっぱり、これからは黒い森なんて行かないことにしよう……。あそこでは、嫌な思い出しか出来ないし……。
「大地、いまからすぐに治療所に向かうから我慢してね? 」
「まってくれ、治療所でも金が必要だろ……」
姉ちゃんは、結構焦った顔で治療所へと行こうとするが、金のことが頭からすっぽり抜けていたのか、間抜け顔になっている。いつも、冷静な姉ちゃんが取り乱すってことは、よっぽど俺の事が心配なのか、姉ちゃんの足が痛むのかだな……。今回は確かに、心配を掛けるようなことをしたので、変に突っ込まないでおこう。
「俺も、痛みは慣れてきたから大丈夫だ。まずは、ギルドに行こう」
「そう……ね……」
ギルド前につくと、建物の傍に車を止めて中に入る。中は前回来た時のように、多くの冒険者でにぎわっており、奥には歴戦の勇者顔のおっさんがいる。
おっさんのところまで行くと、こちらを確認したおっさんが、満面の笑みになり、奥に消えていった。
「どこに行ったのかしら? 」
「金でもとりにいったんじゃねぇか? 」
少したって出てきたおっさんは、ごつい革袋と前回のう○こ型の魔具を持ってくる。
「はい! これは報酬ね。双子ちゃんたちに聞いたんだけど、ずいぶん大変だったみたいね? 頑張った褒美として、10ゴーツ増やして、210ゴーツあげるわ! 」
双子はもう帰ってきてるらしい。俺たちでも車で1時間はかかるのに、どうやって移動したんだろ……。なんて思いながら、革袋の中をのぞき見ると、金に光るコインが大量に入っていた。表面に書いてあるのは、見たことがない花びらで、四枚の花弁に細い茎がついた、地味だけど美しいものだ。これがゴーツという金なのだろう。
「弟と私は今回の件で怪我をしてしまったから、治療所に行かないといけないんだけど、これで足りますか? 」
「全然たりるわよ! 何? あなたたちそんなに高い治療所ばかり行ってたの? 」
どうやら、治療所での額には余裕がありそうだ。それに、210ゴーツは意外と高い金額なのかもしれない。
「次に、あなたたちの生体板を正式版に変えるから、ここに手を出して! 」
「正式版じゃなかったのね……」
「そりゃそうよ。まずは、仮登録からに決まってるでしょ?それじゃないと、お金を払わない客がいたとき駄目じゃない! 」
俺たちの事を言っているんだろうか。少し耳が痛い。
俺たち全員の生体板を正式に登録した後、イサクさんの治療所にはどう行くのか聞いてみると、このギルドの裏手にあることが分かった。
姉ちゃんも、俺も、痛みには慣れてきたとは言え、早く治療してもらいたかったから、かなり近くてラッキーだな。
ギルドを出て、車でギルドの裏手へと回っていくと、そこはまるでスラム街のようだった。こちらを見る住人の眼は、まるで獲物を狙うかのように鋭い目をしている。特に、姉ちゃんとルリに目をつけている不届き物が多いようだ。
俺は、そんな住民達を姉ちゃんとルリにバレないように、睨みつけるが、もっとすごい形相でにらみ返された……。怖すぎる……。
ただ、車に乗っているからか、あまり近寄ってこない。やっぱり、俺たちは魔具使いとして、すごい実力者だと思われているのかもしれない。
ギルドの裏手にある白い建物の前に車を止めると、車を出て建物の中に入る。中は、二十畳くらいの部屋に、所狭しとベッドが並んでいる。
その中の一角に見知った顔を見つけた……。ミミとカイだ。二人は、ベッドで寝ているおばあさんのような人のお世話をしていた。
「あれは……。あの子たちのお母さんなのかもしれないわね」
たしかに、そのおばさんも双子と同じ亜麻色の髪だ。おそらく、姉のいったように母なのだろう。そんなことを考えながら見ていると、ミミが気付いてこちらに走り寄って来て、大きく礼をした。
ミミは一日も経っていないのに、あの時とは違って、少し頬は扱けているものの、亜麻色の髪は艶やかになり、まとまりができていた。その髪をサイドで結んだ髪型をしており、小柄な体が動くたびにピョコピョコ跳ねる姿は小型犬のような愛らしさがある。森の中では、荒れていた肌も、緊張が緩和したからか、少しばかり滑らかさと張りが出てきている。
正直、かなり可愛い……。思わず頬ずりしそうになるが、姉ちゃんが睨んでくるので、自重する。なんで、わかったんだ……。
カイは母親らしき人のベットから俺達に頭を下げてくる。
カイは、あの時のようなボサボサ頭ではないが、寝癖がついているので、結局少しボサボサだった。
ミミと少し話していると、部屋の奥がわから金髪の幼女が歩いてきた。輝く金髪を肩に流しており、青い瞳と相まって、妖精の様だ。身長も130センチ程度しかなく、小柄で、白い服を着ている。
「あなたは誰なの? 」
やってきた女の子が、俺たちが誰なのか問う。それにジルにしたような設定を話し、イサク先生がどこにいるのか聞いてみると、まさかのその人物がイサク先生だった。
若いとは聞いていたがいくらなんでも若すぎだろ! と思っていると、顔に出ていたのか、
「私は、二十五歳なの。決して幼子ではないの」
といった。
小学高学年に入ったくらいの容姿で二十五歳とは、恐れ入った……。というか、かなり、コンプレックスがあるんだろう。言わないでおいてやろう。そう思っていると、
「イサクちゃん! お兄ちゃんに嘘は言っちゃだめだよ? 」
「本当に二十五歳なの! 決してあなたのような幼子ではないの! 」
ルリはなぜかイサクが嘘を言っていると思ったらしく、ため口で注意しだした。二人の幼女が戯れている姿に少し痛みを忘れる。
「もう、意地っ張りなんだから! そんなんじゃ、お兄ちゃんにやさしくしてもらえないよ!? 」
「なんで!? そんなの私には関係ないの! まぁ、少しは優しくしても許してやるの! 」
そういって、イサク先生はこちらに頭を傾けた。これは、撫でろということだと察知し、撫でてあげると、ゴロゴロといった声をだす。まるで、猫だ。
それに反応したルリは「私も! 」と言いながら、頭を差し出してくる。
ルリの頭とイサク先生の頭をなでながら、幼女に囲まれて癒される……。
「大地、いい加減にしないと……」
「すいませんでした! 」
癒されていると俺の顔を能面のような顔で見る姉ちゃんがいた……。綺麗な姉ちゃんが能面のような顔をすると、まるで恐怖の日本人形だ……。
そんな、俺たちの会話を見ていたイサク先生は
「あなた、けがをしているの! すこし、まつの! 」
と言うと、小さな足を動かしてトコトコと走って治療所の奥へと引っ込んでいき、白い生地に、金の糸で花が刺繍された布を持ってきた。
「これは、私の魔具のイサクスペシャルなの! これで、あなたの体を治療してあげるの! 」
イサクスペシャル……。と微妙な反応をしていると、俺の胸部に布を張り付けて何かをぶつぶつとつぶやきだした。すると、布が輝きだし徐々に体の痛みが取れていく。少し経つと、もう痛みはなくなっていた。
「すげぇ……」
「大地……。治ったの? 」
「あ、ああ……」
姉ちゃんは半信半疑ながらも、足を差し出してイサク先生に見せる。姉ちゃんの足を詳しく見てなかったけど、かなり腫れている。もともとは、かなり白いく細かった足は、倍近くまで腫れて赤黒く変色していた……。思わず、視線をそらしそうになる。
イサク先生は、そんな足を見ても動じず、布を姉ちゃんの足に当て、また何かを唱え始めた。
すると、姉ちゃんの腫れていた足が、みるみる元のカモシカの様なしなやかな足に戻っていく。
「本当に治っていくわ……」
姉ちゃんもかなり驚いているようで、イサク先生と足を交互に見つめている。それをみたイサク先生は全くない胸を張り、両手を腰につけると、ドヤ顔で
「イサクはすごいの!」
と言った。
普通にかわいかったので、無言で頭を撫でた。




