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聖剣の勇者たち ※俺だけ妖刀  作者: 狐付き
10章 集結 オッツァ王国
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8話 エイカとリリパール

 (そんな馬鹿な!? いや……落ち着け俺。もし、と言ったじゃないか。ifの話だ。あくまでも仮定のことじゃないか)


 双弥はまず冷静になろうとしてパニックになるのを抑えた。それでもバクバクと鼓動を早める心臓を操作するには至っていない。

 しかしここで挙動不審になってはいけない。双弥視点で見ると双弥はエイカにとってかっこいいお兄さんであるつもりなのだ。こんなところでみっともない姿を見せるわけにはいかない。


「は……はは。そうだなぁ~……」


 その先に言葉が続かない。己にとってエイカとはなんなのか、懸命に考える。

 娘、或いは妹である。──と、自分に言い聞かせているだけだ。

 なにせ触れれば嬉しいし、パンツが見えたら喜ぶ。肉親にそうであったらガチで引かれるだろう。


 あとはエイカに本気で告白されたら……双弥には断れないだろう。

 ティロル公団──特にティロリストを敵に回すこととなるだろうが、それでも双弥は自身を止められないだろう。めちゃっくすとかするかもしれない。暴走を始めたら止められる気がしない。

 そう考えてしまうと、自分はエイカのことを女性として好きだったのではないかと思えてしまう。

 愛着は当然ある。何ヶ月も共に過ごして湧かないほうがおかしいというものだ。それが恋愛と結びつくのかはわからぬが、相応の愛情もある。


 だが『もし』だ。


 これはなかなか難しい問題だ。『もし』に対する返答は現実的な意見を述べるべきか、それとも理想を述べるべきか。


 その答えに双弥は現実的な答えをすることにした。

 かっこつけず、本当の自分を素直に。


「多分俺は…………エイカと付き合うだろうな」

「えっ!? それじゃ──」

「ただし……」


 嬉しそうなエイカの言葉を遮り、双弥は言葉を続けた。その言葉は条件次第といった感じだったため、エイカは喋るのをやめ、続きを聞く姿勢を見せた。


「そうなったらどうあってもここで旅を止めさせてリリパールたちとキルミットへ帰ってもらうだろうな……」

「なっ、なんで!?」


 続いた言葉にエイカは驚き叫んだ。何故今そんなことを言うのかと。


 双弥はずっと悩んでいた。本当に彼女らをこの先まで連れて行っていいものかを。

 彼女らが選んだ道に口出しできるほどの関係だと今まで思っていなかった。生き方に口出しできるのは基本的に家族だけだと思っているからだ。友人や仲間としてできるのは忠告まで。エイカに対して保護者気分ではいたが実際そうではない。だから基本彼女の意志を尊重していた。

 それによりエイカが危機に陥っても自己責任だ。もちろん今安全なところにいるからそう言えるだけで、実際危険な目にあったら後悔するのはわかっている。


 だが付き合っているというならば多少は口出ししてもいいと思っている。

 横暴だと思われてもいい。といっても彼女だから従うべきだとは思わない。彼氏彼女に強制力はない。それでもこれくらいの我儘は聞いてもらいたいのだ。


 そして言いたいのだ。『俺が帰ってきたら結婚しよう。なあに魔王程度軽くひねってやらぁ』と。

 モロに死亡フラグである。それでも言ってみたい台詞とはあるものだ。

 それでも生まれて初めてできた彼女をどうしても守りたい。例え離れていても『俺には彼女がいる』という心の支えは大きい。


「そんなの勝手だよ!」

「ああ、勝手だよ。それでも俺は大事にしたいんだ」

「それじゃあ彼女じゃない私は大事じゃないの?」

「大事に決まってんだろ」


 あれこれ言い出したらきりがない。双弥だっていつも頭をかかえているのだ。

 一緒にいると楽しいし、心が安らぐ。かわいい子は見ていて飽きない。できることなら傍に置いておきたい。

 しかしそれはエイカを危険な場所へいざなうということになる。ずっと葛藤していることだ。


「だけどここまで来たのに今になってそれはどうなの?」

「今だからだよ。まだ引き返す道が残っている間に、だね」

「じゃあもし告白するのが向こうに渡ってからだったらどうするの?」

「そんときゃあ……」


 どうするつもりなのだろう。何も思い浮かべない。帰らせるのは難しいため、連れて行くしかない。


「…………全力で守るしかないだろうなぁ……」

「連れては行くんだ?」

「仕方ないだろ」


「じゃあ告白しなかったらそこまでしてくれないの?」

「まさか」


 そう言ってエイカの頭にポンと手を乗せる。


「彼女だろうがなかろうがエイカはエイカだよ。何があっても守り切るさ」

「そっか」


 エイカは双弥に笑顔で返事した。






「なかなか消えないね」

「この程度で消えてもらっちゃ困るからな」


 まだ4時間ほどしか経っていない。今現状でも最低12時間以上はもってほしいものだ。

 そういえばムスタファはいつ戻ってくるのだろうか。今になって時間を決めていなかったことを思い出す。

 しかし相手がジャーヴィスやフィリッポではないため安心はできる。彼らはきっと戻ってきたりしない。


「折角だし棍を持って来てくるよ。時間潰せるでしょ」

「ああそうだな。じゃあ頼むよ」


 エイカはさっと立ち上がり、町の方へ歩いていった。



「それにしても俺とエイカが、ねぇ」


 1人で先ほどの話を振り返る。

 そもそも何故そんな話をいきなり持ち出してきたのかが気になる。

 ひょっとしたら一向にモテない双弥のために予行練習的なことをやってくれたのかもしれない。エイカはよくできた子なのだ。

 嬉しいというか物悲しいというか、双弥はもう少し色恋沙汰に首を突っ込んでみようかと思った。



「どうですか? 状況は」

「おっと今度はリリパールか。エイカとすれ違わなかったか?」

「ええ、先ほど」


 まるで申し合わせていたかのように入れ替わりでリリパールが双弥の横に来て座った。そして肩を並べ共に船を眺める。


「立派な船ですね。これほど大きな船が双弥様の世界にあるのですか」

「んー、これはまだ小型な方なんだけどね」


 リリパールは唖然とした顔で双弥を見た。

 軍艦という括りを取り除いて考えれば大型客船やタンカー、空母などはこれの何倍も大きいのだ。嘘偽りはない。


「少し、双弥様の世界のことを教えて下さいませんか?」

「そういえばあまり話したことなかったな。そうだなぁ……」


 双弥はリリパールが興味を持ちそうな話を探りつつ話した。

 学校のことや遊びのこと。科学や政治。細かくわからないことについてはさすがに説明できないが、それでもリリパールは興味深く聞いていた。


 そして楽しそうに語る双弥に対し、リリパールは聞きたかった問いをしてみた。



「双弥様はご自分の世界に未練はないのですか?」

「あるよそりゃあ」

「え? ですが……」


 では何故戻らないのかと聞きたいのだろう。

 やりたいことはたくさんある。見たいアニメやマンガも山ほどある。ゲームもいくつか積みっぱなしだ。


 だがそれらをやったところで楽しくはあるが、そこに未来を見出だせない。

 もちろん努力次第ではここへ来るまで以上の結果は出せることくらいはわかっている。しかしこの世界を知ってしまった以上、自分の世界で社会の部品となることに、自分が生きているという実感が得られないのではと思ってしまった。


 親には申し訳ないとは思っている。もし可能であれば鷲峰に頼めればいいかなとも思っている。それくらいはやってくれてもいいだろうと。


「未練なんて言い出したら、元の世界へ戻ったらきっとこの世界に未練が残るよ。結局どちらかを選ばないといけないんだ」

「そうですか。ではこの世界で双弥様が成すべきことを全て終わらせた後、どうするおつもりですか?」


「ホワイトナイトにでもなって気ままな生活をしようかなって思っているよ」

「そう、ですか……」


 そこで会話が止まってしまう。

 元々続くような内容の話ではないのだ。これは仕方がない。


 しかし他に話すことはいくらでもある。先ほどのエイカとの話で思ったことがあるのだ。


「リリパールはやっぱり向こうの大陸までついてくる?」

「当然です、と言いたいのですが、本当は少し悩んでいます」

「へえ?」

「やはり私はキルミットのことが気がかりですから」


「じゃあここで別れる可能性もあるんだな」

「いいえ、それはしたくありません」


 リリパールの性格からしたら双弥より国民のほうだ大事であるはずだ。なのに何故帰らないのか。



 リリパールは双弥が嫌いだった。

 国のことを考えねばと思っているのに、気付くと双弥のことを考えていた。

 そして双弥のことを考えると決まって何故か胸が苦しくなった。

 理由がわからないからこれは双弥のせいであるとした。その気持ちはとても辛くて不快なものだった。


 でももうその気持ちの正体はわかっている。だからこうして共に旅をしているのだ。



「じゃあこの先も一緒に来るつもりなのかな」

「そうですね。双弥様さえよろしければ」


「てことは俺が駄目だと言ったら帰る?」

「いいえ、それでもついて行きます。そう決めましたから」

「強情だな」

「ええ」


 リリパールは少し意地悪そうな笑顔を双弥に向ける。

 きっとエイカもそうだが、ここで強引に別れたとしても別の船に乗り追いかけようとするのだろうということはわかる。


「やっぱり付き合ったとしても連れて行くのが正しいのかもしれないな……」

「何の話ですか?」

「もし俺がエイカやリリパールと付き合ったらって話さ」

「え!? わ、私と双弥様が……」


 リリパールは顔を真赤にさせた。


「あっ、喩え話だからそんなに怒らないでくれ! もしもだよ」


 慌てた双弥のフォローに、リリパールは泣きそうになるのを堪える。

 今までの行いを省みれば当然ともいえるが、少女の心にはとても痛いものであった。


「双弥様は、私のこと、恐いですか?」


 リリパールは双弥の顔を見つめ、迫るように顔を近付ける。


「えっ、いや……まあ、少し……」


 若干引き気味の双弥を見て、リリパールの口元がきゅっと締まる。そこから更にゆっくりと顔が近付き……


「でしたら、恐くなくなるようしてみます」


 震える手に力を入れ、リリパールは自分の口を双弥の口へと寄せていく。


 そして2人の目の前には、棒。


「お、お兄さん! 棍! 持って来ました!」



 今日の練習は、少し甘めで酸っぱかった。

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