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聖剣の勇者たち ※俺だけ妖刀  作者: 狐付き
9章 砂漠 フェイーヌ帝国
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5話 シンボリックを作ろう

「……行き止まりだ」


 行き止まりである。

 正確には上部が崩れ塞がってしまっている。これは砂を掻いて進むか来た道を引き返し逆方向へ進むしかない。

 そうなると選べるのは1つ。進むだけだ。


 引き返すなんて今更言ってしまったら皆の士気がだだ下がりになってしまう。特にアセットなんてテコでも動かなさそうだ。


「どうすんだい双弥」

「行くっきゃねぇだろうな」


 双弥は一歩前に出て妖刀へ手をかける。


「待って待って。そんなことをしたら振動で余計崩壊するかもしれないだろ?」

「俺もそう思っていたところだ」


 双弥は妖刀から手を離す。絶対にそう思っていなかった。

 気を取り直し、再度どうするべきか考える。うまい具合に崩さず掘れないものかとこういう場合の対処を記憶から引き出そうとする。


「なあジャーヴィス。山崩しって知っているか?」

「とても物騒な技だね。それもケンドーかい?」


 これは遊びとして存在していないのか、それとも名称的なもので異なるのか悩む。

 自動翻訳は語訳よりもイメージを伝えている面が強い。だが山崩しは言葉の意味通りの遊びなためどう伝わっているのかわかりづらい。


「ええっとな、砂で山を作ってそれに棒を立てて、それを倒さないように砂をそっと掻いていく遊びなんだ」

「ああ! 日本人らしく根暗で地味なやつだね!」


 雉も鳴かずば撃たれまい。余計なことを言ったためジャーヴィスは蹴り飛ばされ砂山に埋まった。

 足をばたつかせながら何かをほざいているようだが、今回の双弥は助けずいかにここを抜けるかを考えていた。


「……どうすっかなぁ」

「ここの壁みたいに水をかけて穴を開けるのはどうかな」


 本気で悩んでいる双弥にエイカが助け舟を出してきた。

 だがその方法はできない。


 この砂壁が崩れないのは粘度の高い水分のおかげであり、普通の水ではこのように固まらない。

 そして地中とはいえ砂漠におり、水はいくらあっても足りないくらいなので使いたくないのだ。


「でしたらいっそここで登って外へ出てしまうのはいかがでしょう」


 無茶を言うのがリリパールの仕事だと決っているような言葉が出る。もちろんそんなことができるはずはない。

 崩壊した上部は脆くなっているため、そこからよじ登るなんて自殺行為も甚だしい。やはり掻き出すしかないかと双弥は崩壊した砂を見つめる。


「……あっ」


 ジャーヴィスが動かなくなっていたため、双弥は慌てて引きずり出した。




「全く、双弥はどうしていつもそうなんだ」


 くどくどとジャーヴィスが説教じみたことを言う。ならばお前もどうしていつもそうなんだと言いたい気持ちをぐっと我慢できる分双弥のほうが大人なのかもしれない。実際は似たり寄ったりなのだが。


「その話はおいおいってことで」

「また後回しにする気か!? 僕は──」

「わーった、わーったって。それよりも重要なことが今あるだろ」

「僕の命より大事なことがあるのか? いやないね。今度こそ言わせてもらうぞ」


 その張り切りが無駄になるよう双弥はジャーヴィスを再び埋めた。




「問題は引き返せないってことなんだよなぁ」

「なんで?」

「なんでってそりゃあ……」


 双弥が休んでいるアセットへ目を向けるとエイカも納得したようにため息をつく。あちらは2人揃って面倒な子らなのだ。

 そしてこんなところで話し合っている暇があったら掘ったほうがいいだろうと思い、双弥は上からそっと崩し始めた。


「お兄さん、手伝えることある?」

「じゃあ逆側の端から掘ってくれるかな。そっとね」

「うんっ」


 エイカは棍で軽くざくざくと突き刺すように掘り始めた。崩れた山はザザッと斜面を滑り落ちていく。

 この行為は正直危険なためやるべきではないのだが、引き返したからといって上に出られる道がある保証もないし、救助が来ることなんて有り得ない。行動するしかないのだ。




 それから1時間ほど掘り続けたが、次から次へと砂が上から落ちてきてきりがない。かなり深くに落ちたことがわかった。

 破気のある双弥はまだしもエイカはもう疲れて休んでいる。底の──いや、空の見えない作業が続く。


「…………あああもう!」


 音を上げるように叫んだのは目覚めたてのジャーヴィスだ。変な夢でも見たのだろうか。

 起きがけにずかずかと双弥のいるところまで上がっていく。


「まだ終わらないのか? 機械だったらもうフランスに着いてるよ!」

「無茶言うなよ。そう簡単に掘り進めるわけないだろ。ただでさえ慎重にやらないと崩落する可能性があるんだから」

「……オーそうだ双弥。崩落させてしまえばいいんだよ!」


 全くとんでもないことを言い出した。ジャーヴィスは状況を引っ掻き回す天才なのかもしれない。とても嫌な才能に恵まれたものだ。


「お前は生き埋めになりたいのか?」

「何を言っているんだ。さっきから散々双弥に埋められたじゃないか」


 そう言えばそうだったと己の行いを思い返す。特にこれといった感想はないためそこで終わる。


「だけどここはけっこう深そうだぞ。俺とお前はともかくみんなが助からない可能性がある」

「それなら大丈夫だよ。シンボリックを使えばいいんだからね」


 ジャーヴィスはシンボリックを使えるだけ回復していた。そうなると話は早い。使えるならば利用しない手はないからだ。


「んでここから脱出するのに何かいいものあるのか?」

「さあね。せっかくだから双弥も考えてよ」


 そしてこの無茶振りだ。そもそもシンボリックがどういうものか双弥にはわからない。今まで疑問に思っていたこともあり、折角だから説明をしてもらうことにする。



 まずシンボリック──国魔法は、自分の故郷である国のシンボル的なものをその場に作り出すことができる。

 そのため必要な能力は魔力総量だけでなく自国の知識も関わってくる。特に思い入れなどがあれば形にしやすい。

 サイズも自分の扱いやすい大きさにできる。ただ大きさはいつも変えているとイメージがあやふやになってしまい、形状が保てなくなる可能性があるため揃えておくのが望ましい。

 魔法を発動させるには力のある単語を叫び、自らがそれをイメージできる名を告げる必要がある。

 同じ単語で呼び出せるものは1つだけ。重複はできない。

 絶対にやってはいけないのが、そのもの自体の名前を呼んでしまうこと。必ず愛称や別の呼び方をしなくてはならない。理由に関してはジャーヴィスも知らないが、危険であるならばと試していない。



「なるほどな。今更だがなんてチート臭い魔法なんだ……」

「それはともかくさ、早く考えてよ。僕の国でここから脱出できそうな名物を」


 双弥は考える。

 日本であれば援竜などもいいだろう。しかしイングランドでそれに類似するものが思い浮かばない。

 というか相手が鷲峰ならともかく、ジャーヴィスのほうが確実に知っているはずである。


「ああそうだ! パンジャンドラムなんてどうかな!」

「お前は自滅する気か!」


 あんな爆発糸巻き車でどうにかなると思ってるのだろうか。ロクな思いつきができないジャーヴィスは双弥の蹴りの的である。

 しかしこれがヒントとなり、糸口が見つかった。


「そういやイギリスって戦車あるよな」

「ははっ。双弥はバカだなぁ。戦車なんてデッキが狭くて数人しか…………あった!」


 突然思い出したようにジャーヴィスは叫び立ち上がった。イングランドには戦車ではないが、ストーマーという多人数で乗れる装甲車があるのだ。

 ただそこで思考が止まってしまう。ストーマーの愛称をジャーヴィスが知らなかったからだ。

 どうやら見つかった糸口は逆側だったようだ。


「なんでもかんでも愛称があるってわけじゃないだろ」

「うちの国の軍隊はお気楽だからね。きっと愛称を付ける部署が存在しているはずだよ」


 英国軍は日本の自衛隊がやったらすぐうるさい自称国民代表様が騒ぎ立てるようなことを平然とやってくれる。バラエティ番組で普通乗用車と戦車を鬼ごっこさせたり、空母から車を発射させたり。

 だから双弥もそんなものはないと断言できないでいる。


「ああそうだ! 高い建物を作って登るっていうのはどうかな」

「おっ、それいいな。何かあるのか?」


 ジャーヴィスは得意顔である。いいものが思いついている様子が窺える。


「折角だからみんなにもイングランドの素晴らしい建築物を見てもらいたいからね。起こしてよ」


 双弥は急いで休んでいる皆を起こした。



 これから巨大建造物を出現させる。それと同時に崩落が起こるだろう。急いで建物に飛び込まなくてはならないため荷物を持ち突入準備を整えた。


「じゃあいくよ」


 ジャーヴィスの言葉に双弥はごくりと唾を飲む。

 イギリスの建造物で高いものは色々あるが、ジャーヴィスが自慢気にしているのだからかなり期待ができるというものだ。


 そんなジャーヴィスが全員の前で手を突き出し、一呼吸して叫んだ。


「建! トワイライトタワー!」


 周囲の空間を無理やり押し広げ、穴のせいで巨大かどうだかわからぬものが出現した。

 そして当然砂のトンネルは崩壊し、双弥たちは一斉にそこへと飛び込んだ。

 ふう、と間一髪だったことにため息をつき、改めて目を上へと向ける。


「なんっだこりゃああぁぁ!」


 建物内を見た双弥がつい大声を出してしまうような巨大建造物。それはリバプール大聖堂であった。

 何十メートルあるのだろうか、ボールを投げても届きそうにないほど高い天井に、これが砂の中ではなければと惜しくもあるステンドグラス。

 まさに荘厳と言える建築物がそこにはあった。


 あまりの立派さにアセットはもちろんのこと、リリパールまでもが絶句してしまっている。


「どうだい双弥。これがイングランドを代表する大聖堂カテドラルさ」

「……いやぁ……。俺、今まで見てきたシンボリック……いや、建物の中で一番感動したわ」



 双弥の純粋な感想にジャーヴィスはえらく喜び、あれやこれやと色々説明をして回った。


「本当ならもっと見せてあげたいんだけど、あいにく時間がないんだよね」

「そりゃ残念だ。あとどれくらいもつんだ?」

「魔力が全快じゃなかったからね。あと2分ももたないんじゃないかな」

「ばかやろおおぉぉぉ!!」



 脱出は失敗。全員砂に飲まれてしまった。

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