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聖剣の勇者たち ※俺だけ妖刀  作者: 狐付き
9章 砂漠 フェイーヌ帝国
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プロローグ

「ここ、どこだろうな……」


 周囲を見渡すと砂丘しか見えない。

 双弥はそこへ駆け登り、遠くを見ようとした。だがやはり見えるのは砂の山ばかりだ。


「ジャーヴィス、引き返そ……」


 そこまで言ったところで双弥は見たくないものを見てしまった。

 レールがどんどんと消えてしまっているのだ。クラス395を出したところで魔力をかなり消費し、レールは本当にぎりぎりのところで出していた。脱線することもなく停車できただけマシといえるだろう。


 あと1時間もすれば列車も消えるだろう。そうなると完全に砂漠へ取り残されることになる。


「やばいな、これは」


 そう、本当にやばいのだ。

 テントは持っているが、現代地球にあるような簡単に組み立てられるものではないし、砂漠に使えるようなものではない。

 下はどこまで掘っても砂であり、杭が打ち込めないため張ることができない。

 そしてこういうとき役立つはずのジャーヴィスは魔力が尽きているためシンボリックは使えない。あとは回復するまで砂風にさらされていなくてはいけないのだ。


 幸いにして時刻はもうじき日が暮れるころであり、こんな乾いた場所で灼熱の太陽に焼かれることだけは避けられる。


 だが……。


「ジャーヴィス、悪いんだけどここを抜けるまで聖剣を手元に置いといてくれないか?」

「いや、それはさすがに……」


 かなり躊躇しているようだ。それだけ手放した反動が辛いのだろう。

 たった1日持っていただけで回復に2日かかるのだ。ここを抜けるのに何日かかるかわからないだけにそれだけ不安が多い。


 それでも今ジャーヴィスに倒れられてもまずい。この世界の砂漠は何が起こるかわからないし、せめて昼間は日除けを作っておいてほしい。

 あとはいつまでもここでじっとしているわけにもいかぬため、動かなくてはならない。ジャーヴィスを担いで移動するにも限度があるし、聖剣を離さねばならないから長い距離を動くわけにはいかない。


 とりあえず今は休み、動きやすい夜間移動すべきだ。案としては正しいはずだが皆の意見を聞こうと双弥がリリパールたちの方へ向くと、激しく砂が噴出している場所があった。


「なっ、何ごとだ!?」

「えーっと……」


 エイカが言うまでもなくその正体がわかる。アルピナが激しく砂を掘っているのだ。

 ひとしきり掘り終えると納得いったのか、その中で丸くなって寝る。いい感じに日陰ができており過ごしやすそうだ。


 アルピナは元々砂漠に住む獣人の一族であり、本能に従いこの砂の中でも自由に過ごせる。夜行性なのは灼熱の昼を避け、活動しやすい夜間に生活をするためだ。


「よし、アルピナが起きたら動こう。それまで体を休めるんだ」

「こんなところで寝られるなんて双弥はおかしな生活をしているんだね」


 ジャーヴィスは無理だと遠まわしに伝えている。普通の人間は草原ならまだしもこんな砂の中そう簡単に寝られるわけがない。

 特にまだ日が差しているため砂も熱く寝っ転がるだけで拷問に近い。


 どちらにせよ体表面を覆わなくてはいけないため、布を頭からかぶりその場で座りながら寝るしかないだろう。


 (こういうときムスタファがいればなぁ)


 などとたらればを語り始めたらきりがない。しかし双弥が思うようにムスタファならこのような場所にいてもどうしたらいいかの知恵がある。

 今他に知識として頼れそうなのはアルピナくらいなものだが、もう既に寝ているし自分のように掘ればいいと言われるだけだろう。


 せめて岩場などがあればと周囲を見てもそうそうあるわけがない。岩は長年かけて砂風に削られ砂と同化してしまうのだ。元が相当巨大でもない限り残りづらい。


「刃喰、ちょっと地下を見てきてくれないか?」

『ちっ、めんどくせぇな』


 最近戦闘で使われないためご立腹の刃喰はそれでも渋々といった様子で地下へ潜っていった。


「さて、刃喰が戻ってくるまでに整理しよう。リリパールはここがどこかわからないか?」

「そうですね…………。アンドル共和国の東で、砂漠があるとしたらフェイーヌ帝国ではないかと思います。この大陸では二番めに大きな国ですね」


 一応公国の姫なだけあって知識は豊富だ。


 フェイーヌ帝国の3割が砂漠であり、4割が山。普通に住んで支障がない土地は3割ほどである。

 そしてこの国から次に行く国を選択する必要がある。北東へ進みオッツァ王国へ行くか、東へ進み一度海を渡りケウコ王国という島国へ行くか。

 どちらにせよ大洋を渡り魔王がいるとされるエウターク大陸を目指すのだ。


 だがその前にこの砂漠をどうにかしなくてはならない。パッと見で抜けられる気がしない。進むべきか、戻るべきか。


『おう戻ったぜ』


 考えているうちに刃喰が戻ってきた。そして受けた報告はあまりよろしくはなかった。

 行ける範囲では土がなかった。そして岩はあるがかなり深いらしい。これは考えが甘かったといえるがその実大して期待をしていなかった。

 大きな岩が近くにあればくり抜いて中に入り熱から逃れることができる。一応そういう手もあるというだけだ。



 再び砂丘を登り、影になっている場所を探す。日が傾いているためそれなりに良さそうな場所も見つかり、一行はそこで休むことにした。

 最初なんだかんだ言っていたジャーヴィスも疲れのためうとうとしはじめる。それは双弥たちも同様で、気付くと全員ぐったりするように眠っていた。




「はっ、しまった!」


 双弥が目を覚ましたときには既に真っ暗であった。


 砂漠の生物は夜行性が多く、そのままでいたら襲われていたかもしれない。かなり危険な状態であった。

 双弥は全員を起こし、移動を開始しようとした。


「ジャーヴィス。シンボリックは使えそうか?」

「使うことはできるけどまだちょっとしか回復していないよ」


 まだここから脱出するには至らないようだ。細々と使うくらいなら溜めて一気に使いたいところだ。

 しかしここは砂の上。動きもままならず移動できる距離にも限界があるだろう。それに魔物がいたら厄介である。


「砂漠って魔物いるのかな」

「さあ……そこまでの知識はありません」


 リリパールで知らないのならばこの場で知るものはいないだろう。アセットは商人の娘とはいえ行商をしているわけではないから知らないはずである。


「アルピナーっ」


 双弥が叫ぶと同時に後頭部へ強烈な痛みが走る。もちろん蹴りを入れられたのだ。


「痛いよアルピナ……」

「呼ばれたから来てあげたのきゃ! いいから撫でるきゃ!」


 理不尽な要求でも撫でざるをえない。双弥はいつまでも撫で奴隷なのだ。


「それでアルピナ、聞きたいことがあるんだけど」

「撫でてる間だけ聞いてやるきゃ」


 双弥は言われるまま撫で続け、ご主人様アルピナへ言葉を続けさせてもらう。


「砂漠から抜けられないかな」

「抜けられるきゃ」


 当然のように言われたが、これはかなり頼もしい言葉だ。エイカやリリパールもほっと胸をなでおろす。


「お願いできるかな」


 嫌きゃ、と言おうとしたアルピナであったが、エイカたちの懇願するような顔を見てしまって一瞬躊躇い、


「嫌きゃ!」


 結局言ってしまう。わかっていたことだが双弥はがっかりする。


「ね、お願い」

「任せてきゃ!」


 エイカに頼まれたらOKらしい。双弥はそろそろ鬱に突入しそうであった。



 月と星の明かりを頼りに双弥たちは広大な砂漠を歩いていく。

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