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聖剣の勇者たち ※俺だけ妖刀  作者: 狐付き
魔王討伐編 1章 召喚 キルミット公国
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6話 町

「へえ、思った以上だ」


 荷物に紛れ、意外と簡単に外へ出ることができた双弥は、路地の物陰に潜んでいた。

 やがて外が賑わい、人に紛れるよう通りへ躍り出たときに漏れた感想だ。

 馬車の小窓からではよく見えなかった大通りを眺めている。


 リリパールの態度からして小さな国だと双弥は思っていたようだがとんでもない。

 キルミット公国首都の機能性は大陸屈指であり、商売の規模も相当なものだ。

 四大王国から横槍が入らないのはリリパールの手腕のおかげともいえるだろう。



 双弥は関心しながら街中を歩いていた。

 市場や商店が建ち並び、人々の行き交う数もなかなかのものだ。


 それなりに豊かな土地であるとは思っていたようだが、活気の良さというものはまた別問題。

 王国や帝国などはもっと凄いのだろうと双弥は胸を躍らせる。


 だが双弥は現在無一文だ。どんなに魅力的なものがあろうとも手に入れることはできない。


 屋台から美味そうな匂いが漂う。今朝から何も食べていない双弥にはかなり厳しい。物珍しさにふらふらしていたせいで、気付けばもう昼をとっくに過ぎ、日が傾きはじめている。


 召喚時に来ていた服はフィリッポによって切り刻まれ、今はリリパールからもらった服だ。

 前の服ならばこの世界で価値があり、高く売れたかもしれないなと腰の小袋に手を伸ばす。

 あるのは日本円。しかも小銭だけ。これはきっと売れないなと苦笑いをする。


 これがもし1ユーロコインだったとしたら恐らくそれなりに価値はあっただろう。しかし日本の硬貨で値がつきそうなのはせいぜい500円玉くらいなものだ。


「まいったな、もう少し考えて出てくればよかった」


 独り言を漏らす。

 これから旅をするというのに無一文だ。あるのは不気味ななまくら刀だけ。

 一応これでも思い切りぶっ叩けば、当たり所によっては人を倒すことくらいできるだろう。

 だが相手が武器防具を持っていた場合はあがいても無理だ。それをどうにかできるだけの威力は得られない。


 狩りに使おうにも、こんなものを抜いたら野生の勘が逃げろと伝えるに決まっている。


 せめて槍でも手に入らないだろうか。

 なんて思いながら武器屋らしき店に入ってみる。


「おぉっ」


 思わず声が出るほど、双弥が思った以上の品ぞろえだった。

 入り口横の樽へ乱雑に突っ込んである槍を見てみる。

 柄にはヒビが入っていたり傷ついたりしており、それを修復した跡がある。リビルト品で安く販売しているのだろう。


 そこそこの品は頑丈な箱の中に入っており、鉄格子で中は見えるが手に取れないようになっている。

 これが日本だったらショーケースなんだろうなと思いながら一通り眺める。


 そして奥にあるちょっとやそっとでは壊れそうもない頑丈なカウンターの裏、壁にかかっている武器にも目を向ける。

 一目でも高価なものだとわかる代物だ。


「なんか入り用かい?」


 カウンターから顔を覗かせていた男が立ち上がり、双弥に話しかけてきた。

 180ほどの身の丈に、しまった体をしている。武器屋をやっているだけあってかなり強そうだ。


「欲しいっちゃ欲しいんだけど金がないんだ」

「つまりひやかしか」

「そうじゃないよ。いくら稼げばいいのか前もって調べようと思ってね」

「ははっ、そりゃそうか。金額がわからにゃ目標も立てられねぇからな」


 主人は愉快そうに笑う。


 しかしここで問題がある。稼ぐのはいいが、一体どうやって?

 労働もいいだろうが、時間がかかる。となると魔物退治などが手っ取り早いのではないか。

 異世界ものの定番というやつだ。


 だが困ったことがある。

 武器を買うために魔物と戦いたいが、その武器がない。

 双弥はリビルトの槍を見て思いついた。


「ところでもう使えない槍の柄で使えそうなものってあるかな」

「お前は何を言っているんだ?」


 双弥は自分の言った台詞を思い返し、己の馬鹿さ加減を呪った。

 そんな双弥を主人は苦笑しながら見ている。


「つまり槍としては使い物にならないが、棒として使えそうなものが欲しいってこったろ」

「あっ、そう、そうなんだよ」


「売り物にならなくなって捨てるもんならいくらでもあるぞ。どんなのがいい?」


「えーっと、太さはこの槍くらいで、長さは親父さんの身長くらいで」

「おい、それだけの長さがあったら槍作れるだろうが」

「あー……、だよなぁ」


 間抜けに間抜けを重ねた質問をしてしまい、双弥は気まずそうな顔になった。

 その様子を見ていた主人は腕を組み少し真顔になる。


「大体棒ってやつぁ長ければいいってもんじゃねぇぞ。使いやすい長さってもんがあるんだ」

「ああ。俺の使いやすい長さがそれくらいなんで」

「んなバカな」

「相手してみればわかるさ」


 店主は少し考えた。

 普通、棒といったら武器の練習用に使うくらいだ。

 戦闘に使うならば、剣のように使い相手をぶん殴るのが通常である。

 先端を尖らせ突きに使うとしても、木だけにあっという間に潰れてしまい、余計使い物にならなくなる。


 もしその他に使い方があるのなら、それは見てみたいと思う。


「おーい、ちょっと店番たのまぁ」


 主人は扉の奥に声をかける。すると双弥より少し若い少年がやってきた。

 恐らく息子だろう。双弥は軽く会釈した。


「よし、裏庭に行くぞ。ついてきな」


 主人は双弥を中に通した。






「じゃあちょっとやってみな」


 主人は棒を構える。剣と同じくらいの1mほどのものだ。

 双弥はヒュンヒュンと自分の体の周りで振り回す。

 それが次第に加速し、音が変化していく。


「なかなか面白い技を使うじゃねぇか。でもそれで戦えんのか?」

「どこからでもどうぞ」


 主人は半歩踏み込んだ。が、それ以上進むことはできない。

 双弥はただ無暗に振り回しているわけではないようだ。高速で左右に縦回転をさせているため、隙がない。


「ちっ、厄介な技だな。名はあんのかい?」

舞花棍ぶかこん、という技だ」


 中国武術で基本とされる棍の技だ。

 舞花棍と一言にしても、流派や型によってその様相が異なる。共通しているのは縦回転であるということだけだ。

 双弥がやっているのは立舞花という無限円環式であり、止まることなく延々と回し続けることができる。


 試しに主人は棒を双弥に向かって突いてみる。しかし簡単に弾かれてしまう。

 双弥は棒の中心を回しているため、両端に等しく遠心力がかかっている。そのため力が弱くても強い力に対抗できるのだ。


 ただし所詮棒は棒。見た目の派手さと音で威圧されるが、大したダメージを与えることはできない。


 主人は棒の両端を掴み、強引に止める手段に出た。

 ガツッと音がし、棒を止めることに成功する。

 だが双弥の棒はその反動を利用して逆回転を始め、下から掬い上げるように主人へ襲い掛かる。


「ぬおっ!?」


 間一髪のところで主人は身を引いてかわした。

 たかが木の棒とはいえ硬いものだ。勢いよく跳ね上げてあごにでも当たれば骨にヒビくらいは入れられる。


「いい反応するじゃないか。武器屋にしておくのがもったいないくらいだ」

「おめぇこそこれだけの腕があってなんで金がねぇんだよ」


 2人は再び構え直す。


 主人はまた両端を持って突っ込む。武器の扱いに関して玄人の主人が先ほどの轍を踏むとは思えない。何か考えがあってのことだろう。


 カツッと音がし、再び双弥の棒を止める。が、跳ね返らない。

 双弥もアホではない。同じ動作をしたら見切られることくらいわかっている。

 そのまま双弥は棒をしならせ左右に滑らせるように振り、棒を握っている主人の手を叩き、棒を落とさせる。


 そしてそのまま棒の先端を主人の顔に突きつける。

 主人はその棒をとっさに掴もうとするが、先端がくるっと小さく円を描き手の甲を叩く。そこで勝負がついた。


「っかあぁぁぁ、まいった! 全く手も足も出んかった!」

「いやなかなかだったよ」


 その場でどかっと腰を下ろした主人を見て、双弥も座る。

 主人は叩かれた手をぷらぷらとさせながら、先ほどの棒へ目をやる。


「で、そのくらいの棒でいいんだよな?」

「ああ、使いやすかった」


「んじゃ2、3本くれてやる。だからさっきの技教えてくれ」

「教えるだけなら簡単だからな。それでいいなら」


「交渉成立だな。俺はイールド・スプレッドだ」

「俺はソウヤ・アマシオだ」


 2人は握手を交わし、にかっと笑った。

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