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聖剣の勇者たち ※俺だけ妖刀  作者: 狐付き
7章 漂流 サルディラ海
63/201

2話 脱出

「おはよう2人とも」

「おはようお兄さん」

「おはようございます」


 食堂にて先に席を確保していたエイカとリリパールに双弥は挨拶し、同じ卓へつく。


「なんか昨日……変なことがあった気がするんだよ」

「気のせいです。昨日は何もありませんでした」

「うん。きっと夢だよ」


 双弥の強姦疑惑事件から一夜明け、2人はその出来ごとをまたなかったことにした。乙女の秘密というやつだ。

 いまいち納得がいかない顔をしている双弥だが、それ以上のことは思い出せないし、藪をつついて余計なものを出すつもりもないため気にしないようにした。


 今日もまた退屈へいわな船旅が続いている。それだけでいいではないか。



 いや、よくはない。

 退屈はやはり人を狂わせるのだ。ただでさえ狂人に近付いている双弥がこれ以上狂ったら人間の底辺記録を更新し、底抜けの変態と化してしまう。

 何かないだろうかと事件ひまつぶしらしきものを探す。


「なあ刃喰。何か来たりしてないか?」

『生きモンならいくらでもいるが、こりゃわからねぇな』


 海の中には水生魔物がいくらでもいる。だが奴らもアホではなく、巨大な船に挑むようなマネはしない。

 陸にだって地中などに超小型の魔物が大量にいる。しかしそれらは刃喰にも馴染みがあるため敵かそうでないかの区別くらいはつく。つまり海上で刃喰のセンサー的なものは役に立たないのだ。

 それはアルピナも同様で、海中にいる生物が魔物であるかどうかすらわかっていない。


 船旅とは安全であり、とても危険でもある。

 地上にいれば凌げるような嵐が命取りにもなるし、海中の魔物は襲ってくるまでその姿を確認できない。

 巨大な船は確かに魔物が恐れ襲ってこなくなるが、それでも襲ってくる場合、そいつは船を沈められるほどの化け物である。

 海竜シーサーペント巨大蛸テンタクルズ古代大鮫パラヘリコプリオンなど、船並のサイズの魔物は色々いる。


 まあそれほどの魔物は滅多に出ないため、どちらかといえば嵐のほうが恐ろしいのだ。

 その嵐でさえ時期的なものがあり、今の時期なら滅多にない。つまり陸より安全であるともいえる。


 だがここまで説明すればわかると思うが、もちろん襲ってくる。しかもすぐに。




 船の鐘がけたたましく鳴り響く。双弥たちが朝食を済ませ、部屋へ戻ろうとしたところでだ。

 何ごとかと思い外を見ると、巨大な海竜が3体も船の周りをウロチョロしている。


 普段の旅ならばいつ襲われてもいいよう食事は腹八分目にしている。だが今日に限って目一杯食べてしまってる。これですぐ動いたら確実にゲロる。

 更に双弥の場合、遠距離攻撃は刃喰しかない。つまりまともに戦えないのだ。


 それに大型の船ならば襲われてもいいよう大抵武器は積んである。ここはひとつ高みの見物でもしようと思っていたとき、突然船が大きく揺れた。


「うぉっと」


 傾いた床によろけたエイカとリリパールを抱き止める。一瞬変態に触られたようにビクッと体を2人は震わせたが、急なことにただ驚いただけだと双弥は認識して気にもしなかった。


「2人とも大丈夫か?」

「え、ええ。それよりも手を……」

「あ? ああごめん」


 手を離そうとしたとき、今度は逆から衝撃が。双弥は手に力を込め、壁に足をかけ倒れるのを防ぐ。


「くっそ危ねぇな。ちょっと見てくるから2人はエイカの部屋で待機していてくれ」


 双弥は急いでデッキへ向かった。




「どうしたんですか!?」

「ああお客人。すみません今海竜に襲われておりまして……」

「見てたからわかる。んで応戦は?」

「それが……どうせ滅多に襲われることなんかないと思い装備を外しておりまして……」

「ばっかやろおぉぉ!」


 双弥は船長を張り倒そうとしてしまう。

 そんな最中、船はドーン、ドーンと海竜から体当たりを受ける。


「こ、こうなったら……」


 自分でなんとかしなくてはならない。

 だが大きさだけならばパーフェクトドラゴンを上回る魔物だし、水中で刃喰がまともに戦えるかわからない。双弥だけではどうにもならないのだ。

 こういうときは魔法で戦うのがいいだろう。アルピナさえ離しておけば多分大丈夫なはず。そして双弥のパーティーには幸いにも魔法が使える人物がいる。


 双弥はエイカの部屋へ向かった。



「リリパール! 出番だ! 手を貸してくれ!」

「そ……双弥様……。おぶぅっ」


 リリパールは完全に酔っていた。真っ青な顔をしてベッドへ突っ伏し、口をパクパクさせている。

 先ほどからの海竜がぶつかったときに生じる横揺れにやられたようだ。立ち上がれそうにもない。


「お、おい! こんなときに!」

「す、すみませ……うぷっ」

「りりっぱさんにゲロイン属性とかいらないから! 清楚なままのあなたでいて!」


 清楚だからってゲロってもいいじゃない。

 リリパールは最後の力を振り絞り、トイレへと向かった。双弥は何も見まい聞くまいと部屋から出て妖刀と刃喰を装備した。


「刃喰、海中戦はいけるか?」

『ああ? 無理言うなよご主人』


 駄目らしく、双弥はがっかりしたように項垂れる。

 そうしている間にも何度となく海竜はぶつかってくる。このままでは船に限界が来てしまう。

 双弥は再びデッキへと戻った。




「脱出しましょう」


 開口一番、船長が言ったのはとんでもない提案であった。

 もう既に船底の一部には亀裂が入っており、じわじわと浸水しはじめているらしい。まだ船がもっている間に囮として海竜の目を向け、逃げ出そうというのだ。


「脱出はどうすればいい?」

「船尾に小型の脱出ボートがあります。それに乗るしかありません。急いでください!」


 兎にも角にも双弥はエイカの部屋へ行き、皆に脱出することを伝え自分も部屋に戻り重要なものを掴んだ。



「エイカ! 準備はできたか!?」

「あっ、うん。大事なものは持ったけど……」


 槍は槍先のみ。棍も持たない。着替えとか余計なものは持っていないのを確認。後はリリパールだが、なかなか出てこない。


「リリパール、何やって……おおぅ」


 船酔いの一番ひどい状態だ。泡を吹いて痙攣してしまっている。


「くそっ。エイカ! 悪いがアルピナを抱き上げて運んでくれ! リリパールは俺が連れて行く!」

「う、うん。わかった!」


 双弥はリリパールを背負い、金目のものが入った箱など適当に掴み、船尾へと向かった。




「…………で、これどうやって乗ればいいんだ……?」


 双弥は後部デッキに積まれた小型ボートの山を見て固まってしまった。

 後ろの船員が乗客たちに説明をしていたが、それをやろうともせず罵声が飛んでいた。



 まずボートを持ち上げます。海へ放り込みます。自分が海へ飛び込みます。ボートがひっくり返っていたら戻します。中の水をかいて乗り込み急いで離れます。以上。


 そんなもの訓練してなきゃ無理な話だ。文句を言われて当然である。


「だったらまずお前がやってみろ!」

「わ、私は船員です! お客様が脱出していないのに船から離れるわけにはいきません!」


 その言い分は正しいのだが、それに対しても乗客たちは文句を言う始末。


 だがそんなものに構っていられるほどの余裕はない。双弥はそこそこの大きさのボートを引っ張りだし、海へ放り込んだ。


「行くぞ! エイカ!」

「う、うん!」

「嫌きゃ! 嫌きゃ!!」


 水に浸かるのが嫌いなアルピナは暴れ回る。それでもここに残るよりマシなはずなため、強引に引っ張り双弥たちは海へ飛び込んだ。


 ドパアァァンと水柱を上げ、海中へ潜る。もがくように水面から顔を出し、ボートへと辿り着く。

 ボートは運良くひっくり返っていなかった。水を掻き出す前にリリパールを乗せ、暴れるアルピナと共に溺れそうになっているエイカをなんとか掴み、連れて行く。


「よし、離脱するぞ! エイカは中の水を出してくれ!」


 双弥はボートを漕ぎ、船から離れた。






 ──────と、ここまでが1日前の話である。


 現在、双弥たちは漂流していた。ここがどこかもわかっていない。

 幸いコンパスがあるため方位はわかる。北へ向かえば陸が見える。


 だが一向に陸が見えてくる気配がない。


「お……お兄さん……水飲みたい……」

「私も……そろそろ限界です……」


 海難事故で最も重要な水がほとんどなかった。普段旅で使っている水袋がかろうじて1つあったのだが、そろそろ尽きようとしている。

 エイカとリリパールは辛そうにしている。漕いでいる双弥は後ろが見えないため、船首にて前方を確認しているエイカは特にきつい。


「もう少し……。もう少し待ってくれ。もう水も限界なんだ。ちゃんとコントロールしないと先がない」


 アルピナは元々砂漠の種族らしく、少量の水でも数日もつ。3人は呑気に寝ているアルピナを恨めしそうに見ている。


「お兄さん! あそこ!」


 突然エイカが叫んだ。双弥とリリパールはそちらの方向へ目を向ける。すると水平線の向こうにぽつんと何かしらが見える。

 それは山か、島か。どちらにせよ陸である可能性が高い。



 双弥は渾身の力でボートを漕ぎ始めた。

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