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聖剣の勇者たち ※俺だけ妖刀  作者: 狐付き
6章 戦場 ルーメイー王国
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8話 最強の妖刀

「行くぜ相棒。ミスるなよ」

『くひゃははは。なるようにしかなんねぇよ』


 刃喰の返事に苦笑いしつつ、双弥はドラゴンへと間合いを詰めた。


「はあっ!」


 大きく息を吐きつけると共に横薙ぎの一閃。尻尾を警戒し、すぐさま離脱。


 その瞬間、ドラゴンの足は切り裂かれ血が噴き出した。


「グガアァァァ!!」


 今まで傷なんて負ったことなどなかったのであろう。ドラゴンは怒りの咆哮をあげる。

 そしてその切り口は、ヤスリ状の妖刀に削り斬られたのではなく、実に鮮やかであった。


 妖刀には────刃喰が3体縦に連なって張り付いていた。


「名付けて妖刀・刃喰……てか?」


 双弥はにやりと笑い、呟いた。



 刃喰は切れ味が鋭いといっても所詮は小型。軽量なために威力が足りない。それを補うために編み出した合体技だ。

 双弥が欲していた日本刀の鋭利さと破気による肉体強化。この組み合わせを得るために今まで特訓を繰り返してきた。


 しかし破気で強化した体さえあれば大抵のものを妖刀で削り斬れるため、刃喰との有用性があまり感じられなかった。

 だがここにきてそれを実証できるだけの敵と出会えた。そして理解できた。これは──強い。



「もいっちょ行くぜ!」

『おうよ!』


 再び双弥はドラゴンの足元へと突っ込む。


「うるああぁぁ!」


 くるぶし辺りを滅多斬りにする。この状態ならば鱗ごと切れるが、鱗のない関節を狙ったほうが効率的だ。

 そしてドラゴンの攻撃と共に距離を離す。地味な作業だがこれを繰り返すしかあるまい。


 また足元へ駆けようとしたとき、突如ドラゴンの頭が後ろへ下がる。


『……ちっ』


 何かを察したのか刃喰が妖刀から剥がれ、スロットに戻る。


「お、おい刃喰」


 そこでドラゴンの頭が急に前へ突き出され、開けた口から炎の塊が飛び出す。

 刃喰が逃げたことで魔法が来るのではと予測していた双弥はすぐその場から逃げ、回避する。粘着質のような火は地面へ広範囲へと貼り付き、野を焼く。


「なんだありゃぁ」

『ファイアフレムだな。厄介な技を使いやがるぜ』

「てかお前、ブレス系も駄目なんだな」


 ドラゴンはそれを繰り返し、自分を囲おうとしている。


『あれに触れるなよ。纏わりつくからなかなか消えねぇぜ』

「……マジかよ」


 ということは離れることができない。常に足元へいなくてはいけないわけだ。

 耐熱性が優れているといっても流石に自分へ炎を振り掛けるわけにもいかないだろうし、尾と踏み潰しがあってもブレス系からは身を守れる。


 あと問題は……。


「刃喰。ヤツの足元へ潜り戦う。耐えられるか?」

『ちっ。火炙りはご免だぜ』


 双弥は後ろへ回り込み、まだ火が回っていないところからドラゴンへ向かった。



「うおっ」


 後ろにあるのはもちろん尾だ。鞭のように振り回してくる。

 当たったら確実にアウトだ。吹っ飛ばされて火だるまになってしまう。


「先にこいつをどうにかするぞ!」

『おうよ』


 次にまた放たれる尾の攻撃に対し、双弥は構えて待つ。

 一度振られた尾が勢いを増して双弥へと襲いかかる。


「りゃああぁぁぁ!」


 相手の力を利用し、双弥はその尾を切り捨てた。


「ゴガアアアァァ!!」


 尾の半分を切られ、ドラゴンは暴れ回る。トカゲと違い尾でもダメージを受けるようだ。大量の血が辺りを染める。


「っしゃあぁぁ!」


 掛け声と共にドラゴンの足元へ到着し、すれ違いざまに足の腱を切る。すると、バアァァン! という音と共にふくらはぎが上に持ち上がった。これで立っていられないはずだ。

 尾も断たれ、片足も使えない。ドラゴンは思惑通り地に伏した。


「よっしゃやるぞゴルアァァ!」


 倒れこんでいるドラゴンへ容赦のない乱斬りをお見舞いする。大人気のないように見えるが、双弥もギリギリなのだ。

 心臓を目掛けて肉をえぐるように斬る。だがその背後にドラゴンは渾身の力で顔を向け、口を開いた。


 肉を切り裂いているところ、突然切れ味が鈍った。刃喰がいなくなったのだ。


「しまっ──」


 気付き、振り向いたときにはもう遅く、ドラゴンがファイアフレムを吐き出していた。


「ぼぐああぁぁ!」


 慌てて回避し、直撃は避けたが左腕に炎が纏わりつく。急いで寝転び地面へ左腕を叩きつける。だがその程度で消えるファイアフレムではない。

 火傷の痛みが頭まで達し、鈍る判断のなかなんとか妖刀の鞘を右手で引き抜き炎へ当てる。すると予想通り炎は鞘に吸収され消えた。


 だが傷口が治療できるわけではなく、左下腕は焼け焦げ爛れていた。

 妖刀を地面へ突き刺し、なんとか立ち上がるとドラゴンの顔を睨みつける。心なしか笑っているように見え、更に怒りが増す。


 そして──────キレた。


 妖刀の破気をこれでもかと吸収し、ドラゴンの顔目掛け特攻。目が追いつかないためそのまま激突。怯んだドラゴンの顔を踏みつけ登り、その頭蓋を何度も刺し壊しかき回す。

 あまりにもエグい行為だ。この姿を見たら誰も勇者などと思わぬだろう。


「どぉだぁ。ここか? ここが弱いのんかぁぁ!?」


 確実に悪魔である。


 数分後、我に返った双弥は微塵も動かないドラゴンの姿を見下ろし、鬱状態になっていた。





「くっそ……水……水場はないか……」


 双弥は痛みを堪えつつ、トレジャリーへと向かっていた。先ほどからずっと嫌な汗が止まらないでいる。

 足取りは重く、これでは何日かかるかわからない。その前に息絶えてしまうかもしれない。


「刃喰……近くに水はないか……?」

『知らねぇよ。それよりきつそうじゃねぇか。くひゃはは』


 こいつへし折りたい。そう思ったのは一瞬で、すぐ脳の中は痛みに支配される。

 歩く程度で感じる風すらも腕を刺激し痛みを走らせる。早く水に浸したいところだ。


「ぐっ……やべ……意識が……」


 意識が朦朧とし、視界がぼやけてきて倒れる寸前だ。

 そのとき遠くから馬に乗った多数の人間がこちらへ向かっているのが見えた。

 これは幻覚か。お迎えがきたのかもしれぬと地面に膝をつく。



「───そおやさまあぁぁぁ!!」


 女性の声が耳に届く。リリパールだ。

 何故こんなところにリリパールが? これは幻聴であり、自分はもう長くないと悟る。


「……やっぱあんときヤッときゃよかったかな……」


 そう呟き意識を閉ざそうとしたとき、双弥目掛けてなにものかが飛びついてきた。


「双弥様! 双弥さまあぁぁあ!」

「リ……リリパール? 本物か? ……なんでこんなところに……」

「馬鹿! 馬鹿! 双弥様の大馬鹿!」

「ぐべうぼがほぁぁっ」


 泣きながらリリパールは双弥の左腕をバシバシ叩く。気を失うほどの痛みを通り越し、無理やり脳が覚醒させられた。のたうちまわることもできず、その場で硬直する。


「約束したじゃないですか! なんでこんな大怪我してるんですか!」

「で、でもまだ生きてるだろ…………」

「死にかけじゃないですか! 待っててください!」


 リリパールは双弥の左手に向け両手をかざし、何かをつぶやいた。すると手から光が出て双弥の腕を包む。

 双弥の爛れた左腕の皮は徐々に固まり、かさぶたのようになる。光が収まるとそれが剥がれ、綺麗な腕が見えた。


「うわ……なんか生っぽい」

「数日すれば戻ります。それよりなんですかこのザマは」


 リリパールが汚い言葉を使っている。相当ご立腹のようだ。


「ちょ、ちょっと新しい技を試したくて……」


 パァン!


 その言葉を聞いた途端、リリパールは双弥の頬をひっぱたいた。

 唖然とする双弥の顔を涙目のままリリパールは真正面から睨みつける。


「以前エイカさんに言いましたよね。殺し合いとしているのに自らを試すようなことをするなって。ご自分がなさるってどういうつもりですか!」

「お、俺はいいんだよ。別に……」


 死んだって構わないんだから。そう言おうと思った口を閉ざした。


 エイカを叱ったのは、エイカに死んで欲しくなかったからだ。そしてリリパールは双弥に死んで欲しくないと言った。自分だけ許されると思うのは卑怯だ。


「別に、なんですか?」

「……いや、ごめん。だけど必要なことだったんだ」

「どう必要だというのですか」

「ヤツより魔王のほうが強いはずだからだよ」

「あっ……」


 これがドラゴンに通じたからといって魔王に通用するとは限らない。だがドラゴンに通用しなければ確実に魔王へも通用しない。

 ダメージを負ったが、少しでも収穫はあった。


「双弥殿、助かったようですな。ご無事でなにより」


 オファーと他にも数人の騎士がいた。全軍は招集しきれていなかったが、心配で見に来たようだ。


「今無事になったところだけどね」

「しかし流石の双弥殿でもメイルドラゴンは無理でしたか」

「おいコラ、ありゃパーフェクトドラゴンだったぞ。角生えてたし」

「ヴェっ……」


 オファーはカエルが潰れるような声を出した。メイルドラゴンよりも更に強いとされるパーフェクトドラゴンなんて存在自体疑わしいほどのレア種である。そんなものは数国の軍全て集めても倒せるかあやしい。


「ま……まずいですぞそれは……」

「大丈夫、倒したから。向こうのほうで潰れているはずだ」


「「「「「なっ!?」」」」」


 騎士たちは全員絶句した。そんなものがたった1人で倒せるはずがない。もし倒せたとしたら、それはもはや人ではなく神だ。


「まあとにかく帰って寝たい。疲れた……」



 それだけ言うと双弥は大の字に寝転がった。

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