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聖剣の勇者たち ※俺だけ妖刀  作者: 狐付き
5章 真実 ワンクル帝国
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8話 行き先

「それでは皆様、遠路までわざわざありがとうございました」


 そう言ってリリパールは騎士ひとりひとりの手を握り、笑顔で挨拶をして見送った。

 騎士たちは大喜びだ。感激して涙を流すものまでいる。


 キルミットではリリパールが異常なほど人気がある。ありえない話ではあるが、もしリリパールがクーデターを起こすと言ったら国民全てが、いや、両親や兄弟まで味方してしまうほどに。

 もはやリリパール教に改宗してしまえばいいのではないかと思われる。


「あ、あの、りりっぱさん」

「なんでしょうか双弥様」

「騎士たちを帰すのはわかりますが、なんで自分の馬車まで?」

「これから危険な旅が待っているのです。私の愛する国民が大変なことになったらどうするつもりですか」


 大変なことになるのはむしろこれからの双弥である。一体どうなってしまうのだろう。

 そんな双弥を尻目に、リリパールは双弥の馬車へ乗り込もうとする。が、それに気付いた双弥が慌てて止める。


「え、えっと。歩きませんか?」

「ふふふ、面白いことをおっしゃるのですね双弥様は」

「あ、いや、えっと……」

「わかっていますよ。双弥様のことですから、中に見せられないものがあるのですよね」


 図星を突かれ、一瞬たじろぐ。

 獣人を連れているということにどんな反応を示すかがわからない。そのためなるべくなら会わせたくないのが本音だ。

 アルピナは貴重な対魔法戦力だ。ここで失うわけにはいかない。


「お気になさらなくても結構ですよ。私はこれ以上他人を見下す方法を知りませんから」


 つまりリリパールにとって双弥が最底辺ということになる。今よりも堕ちようがないと前向きに考えるしかない。

 そして再び馬車の扉を開けようとするリリパールを双弥は再び止める。


 こうなったら覚悟を決めるしかない。だが見られるよりも先に話してしまったほうが後々対処がしやすいのだ。


「えっとな、この馬車の中に、その……じゅ、獣人がいるんだ」

「あら! 獣人ですか! 施設で見たことありますよ!」


 意外にもうれしそうだ。これで追い出される懸念は消えた。


「……それでな。結構気性が荒い子なんだ。下手に手を出すと食いちぎられるんだよ」

「そうなんですか。それは注意しなくてはいけませんね」


 リリパールは少し険しい顔になる。誰でも怪我はしたくないものであるから当然か。

 さっきまでと違い、今度は少し警戒しながらそっと扉を開ける。すると目の前にはエイカが不安そうにリリパールを見ている。


「あ、あの……?」

「あら! あら! エイカさん! 話せるようになったんですか!」


 エイカの様子を見てリリパールは喜び車内に入るとエイカの手をとった。

 一体何ごとかとエイカは双弥の顔を見る。


「ああ、エイカの意識がないとき、彼女が世話をしていてくれたんだ」

「そう、だったんだ? えっと……」


「彼女はリリパール。名前くらいは知ってるだろ?」

「えっ? えっ? えっ…………。ええええええっ!?」


 自国の姫。それも国民のアイドルを知らぬものはいない。エイカは恐れ慄いた。無意識のときとはいえ、そんな人物に身の回りの世話をしてもらっていたのだ。恐縮してしまってもおかしくない。


「あ、あの、その……」

「いいのですよ。私が好きでやったことですから。無事でよかったです。それより双弥様」


 今度は双弥を睨みつけてきた。


「気が付いたのでしたらキルミットへ戻すのが先決じゃないのですか? なんで連れ回しているのですか? 虫の脳みそのほうがまだマシだと思いませんか?」

「ち、違う! 帰るなら送るって言ったんだけど一緒に来るってエイカが決めたんだ!」


 本当にそうなのかとリリパールはエイカを見ると、エイカはこくんと頷いた。


「違いますよね? 言わされているのですよね? 言わされていると言ってください」

「おいそれ脅迫じゃないか?」

「いいえ双弥様。ここで双弥様を犯罪者に仕立て、即刻地価牢行きにすべきだと思うのですよ」

「捏造で犯人にしないでくれよ!」


 冤罪どころではない。リリパールはどうあっても双弥に何かしらの罰を与えたいようだ。

 リリパールがいる時点でもう既に罰であるのだが、さすがにそれは言えないらしい。


「……仕方ありません。エイカさん。双弥様を罰せられる話があったら是非お聞かせ願いますね。もちろん嘘や未遂でも構いませんから」

「なんでそこまで俺を牢屋に閉じ込めたいんだよ……」

「それは牢に入ればさすがに逃げられないからです」


 悪魔のようなリリパールに抑えきれないほどの頭痛を感じ、双弥は眉間をつまむようにして車内に乗り込んだ。


「ところで双弥様。獣人はどちらに?」

「エイカの横で丸くなってるだろ」


 あれだけの悶着があったというのにアルピナはいつものように寝ていた。


「ま、まっ、まあ! まあまあまあ!」


 リリパールの目が恐ろしく輝き、手を伸ばす。

 先ほどの話が飛んでしまったのか、それとも怪我をしてもいいから触りたいのだろうか。

 そっと頭を撫で、耳の後ろをくすぐるように指の腹でこする。


「んー……」

「ふ……ふぉあっ、ふぉああぁぁぁっ!」


 感激するように絶叫するリリパール。どうもこの手の生物が大好きなご様子。


「双弥様! この子は私が責任をもって育てます!」

「待てやコラ!」


 思わず声を荒げる。なんてことを言い出すのかと反射的な行動であった。

 そして再び恐怖の能面顔だ。双弥は言った言葉を飲み込もうとした。


「何か?」

「い、いや……。あっ、そうだ。その子はオウラ共和国の子なんだよ。キルミットとは関係ないんだ」

「大丈夫です! 今日からこの子はキルミットの名誉市民です!」


 公族好き放題。双弥はうんざりしつつも馬車に乗り込んだ。





「双弥様。干し肉をいただけないでしょうか」

「……やだ」

「双弥様は私が餓死すればいいと思っているのですね?」

「……だって自分じゃ食べないじゃないか」

「食べるかもしれませんよ? 興味あります」

「……絶対にやだ」


 現在双弥とリリパールは、アルピナのごはんの攻防をしている。具体的には餌付けしたいリリパールを双弥が阻止しているのだ。

 最近ずっとエイカに懐いているアルピナに、せめてごはんくらいは自分であげたい双弥がこれ以上幸せを奪われないための戦いである。


「もしくださったら次の町の宿と食事は私が出します」

「ぐっ」


 魅力的な申し出だ。双弥の懐事情も最近怪しくなってきている。

 どうしたものか。考えなくてはいけない。


 だがこれは悪魔の取引だ。一時的な感情に揺さぶられると今後苦労をすることくらい双弥だって知っている。


「もうじき町みたいですね。どうしますか?」

「うっ、ぐ……うぅ」



 双弥はアルピナの食事権を差し出した。






「さて双弥様。これからどうするのですか?」

「それが問題なんだよなぁ」


 現在、町の高級宿で双弥とエイカ、そしてリリパールが集まっている。今後の予定を決めるためだ。

 双弥の考えとしては、南東へ向かいまた海へ出て船に乗りたいところだ。とにかく1日で進める距離を伸ばしたい。


「他の勇者様はどうなのでしょうか」

「フィリッポ以外はみんな陸路だろうな」


 海でのシンボリックは危険なため使わないはずという考えだ。

 風と波で陸から離され、その状態のときにタイムアウトしたら確実に死んでしまう。そうならないためには陸路を進むのが一番である。


 それと今、彼らは反動を恐れている。だからセィルインメイで言われたとおり3日に2日は休息に当てるだろう。そうなると今までの速度の3分の1になっているため双弥でも充分に追いつくはずだ。

 とはいえそれで油断はできない。少しでも先へ進んだほうがいい。


「私は陸路で北東へ進めたほうがいいと思います」

「なんで?」

「南東にはルーメイー王国があるからです」

「ルーメイー王国?」


 双弥の疑問にリリパールは答えた。



 ルーメイー王国。ここは大陸でも謎の多い国とされている。

 四大王国より小さいのではないかと問われても、そうではないと答えるものもいる。それどころか最も勢力があるのではと思っている人がいるくらいだ。


 何故かというと、ルーメイー王国はどことも友好条約を結んでおらず、あるのは通商条約だけ。他国と交友もないため情報がほぼない。

 商売も委託販売のみで売買をさせてもらえない。かなり閉鎖的な国である。


 そんなよくわからない国に入るのは危険だ。リリパールはそれを危惧している。



「うーん……。北東だとどうなんだ?」

「小さい国がたくさんあります。ここから近いところですとサルパタードですね」

「そっちは安全なの?」

「危険です」

「えー……」


 双弥は嫌そうな顔をした。何故そんな危険な場所へ行くのか。


 簡単な話、危険だとはいえ小国は小国。軍の規模も小さいため、襲われたところで双弥と刃喰でなんとか対処できると考えたのだ。


「それならやっぱり南東だよ。大丈夫、俺がなんとかするから」


「それならば仕方ありませんね。一応戦闘のことでは信頼してあげていますのでがんばってください」




 上から目線に少々苛立ったが、これで今後の方針が決まった。

 いざ謎の国へ。

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