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聖剣の勇者たち ※俺だけ妖刀  作者: 狐付き
5章 真実 ワンクル帝国
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6話 双弥VSエイカ

「なぁエイカ」

「なぁに?」


 馬車に揺られ2時間ほどが経ち、ヒマなこともあり気になることを尋ねてみることにした。


「エイカは自分の中に破壊神が入っているときの記憶ってあるのか?」

「え!?」


 そんなもの知らないと言いたげにエイカは驚いた。

 やはり記憶はないらしい。それどころか初耳といった感じだ。

 ということは、自らの意志で呼び出していたわけでもないらしい。なかなかに面倒なことだ。


 だが今ここで知ることにより、いずれは自由に入れ替われるようになるかもしれない。そうなれば便利なのだが……。


「自分の体を他人に操られるって気持ち悪い……」


 例えそれが神だとしても嫌なものは嫌らしい。本人の意志を尊重するのであれば、少し控えたほうがいいのだろう。


「ね、ねえ。その、私が無意識のときってさ、私の記憶みたいなのを見られたりしてないかな……」

「んー、よくわからないけど、そういう話をされたことはなかったかな」


「そっか」


 詮索されたくない記憶でもあるのだろうか、エイカは少しホッとした顔をした。



 そしてまた沈黙だ。

 基本2人はあまり話さない。特に双弥から話しかけようとはしない。


 エイカには地雷が多すぎるからだ。

 両親に関わること、住んでいた町を連想させるようなことは双弥的にタブーとしている。

 それに加えて無意識状態のころの話もなるべくしないようにしている。


 なにせ連れ回している間に体のいろんなところを触りまくっていたり、裸を何度か見たりしているのだ。さすがに故意で胸や尻などを揉んだりはしていないが、それでもエイカが動いたときに胸が当たる位置へ手を先回りさせていたりは稀にしていたこともあった。

 さすがにこれはセクハラだ。これをきっかけにして思い出されるのはよろしくない。


「ねえお兄さん」

「ん?」

「私に教えてくれているあれ、なに?」

「ああ、武術のこと?」

「うん。なんとなく続けてるけどさ、どういう意味があるのかなって」

「意味か……」


 なかなか深いことを聞く少女だ。

 武術を習う意味なんて双弥ですら模索しているところだ。わかるわけがない。


 始めたきっかけはただの中二心であるが、今では心の鍛錬のひとつとしても考えている。


「槍はわかるんだけどね。武器がないのに手を振ってどうするのかなって」

「ああ」


 この世界、どうも素手の戦いというものがないらしい。やるのはせいぜい酔っ払いが殴りあう程度だ。


 ならば一度体験してみるのがいい。

 だが双弥に小さな女の子を殴るなんてことができるはずがなく、少し悩む。

 それになるべくなら急ぎたい。だが双弥にはそれ以外にも、この旅でエイカに成長してもらいたいと思っていた。




 ──で、現在双弥は妖刀と刃喰を馬車に置き、エイカを連れて御者から聞いた魔物が出るといううわさの洞窟の入り口へ来ている。

 そこへ石を投げ込んだり、岩を転がして中にいる魔物を挑発する。

 洞窟の中で戦うのは危険なため、こちらへ出させてから戦うつもりだ。

 暫くするとガラガラと音をたてて何かが向かってくるのがわかり、エイカを少し離して穴を見据えて構える。



「グガアアァァァ!」

「あ……やべっ」


 怒り心頭で棍棒を持ち現れたのはオーガであった。

 体長は2メートル近くあり、全てを破壊するのではないかというくらい見事な筋肉が張り出している。

 せいぜいオークやゴブリン程度だと思っていた双弥は一瞬たじろいだ。

 だがエイカが見ているため逃げるわけにはいかない。


 オーガが叩きつけてくる棍棒を足捌きだけでかわし、一気に懐へ入り込む。

 つま先を軸に足首を捻り踵を地面に叩きつける。膝、股関節、背骨を通り左肘を後ろに引きつつ右手を前へ突き出し、


「はあっ!」


 呼吸を用い、丹田に溜め込んだ気を一気に右手から撃ち出す。


「ぐっ……がっ」


 内蔵を直接引っ掻き回されたオーガは、肺に溜め込んだ空気を留める力さえ奪われその場で絶命し、地面へ突っ伏した。


 本来だったらもう少し相手に攻撃をさせ、捌く技をみせたかったのだが、相手が巨体でパワーのあるオーガだったため一撃で終わらせないと危険と判断した。


「どう? これが素手の技だよ」


 振り返りエイカを見る。

 エイカは口をだらしなく開けたまま、ぽかんと見ている。

 双弥はエイカのそばまで歩き、目の前で手をパンッと叩くと、急に意識を戻され驚き尻もちをついた。


「大丈夫?」

「あっ……ありがと」


 双弥の差し出した手を掴み、立ち上がる。そして先ほど倒されたオーガが微塵も動かず、死んでいることをまじまじと眺めた。


「さて。次はエイカの番だよ」

「えっ、わ、私!?」


 突然の言葉にエイカは驚き、左右を見渡した。

 名前を言っているのだし、他に誰もいない。何を確認したのだろうか。


「俺が相手をするよ。エイカは槍で攻撃してきてね」


 そう言いエイカの槍先にカバーをかけた。


「む、無理無理無理!」

「大丈夫。ちゃんと加減はするから」

「で、でも……それでお兄さん死んじゃったら……」


 完全に怖気づいてしまっている。もしかしたら自分にも先ほどの技ができてしまい、結果双弥を殺してしまうのではと危惧しているのだ。


「あはは、エイカにはまだできないよ。……そうだ! 俺に勝ったらエイカの欲しがっていたヘンテコパジャマ3点セットを買ってあげるよ」

「べっ、別に欲しがってないもん!」


 顔を真赤にさせ、噛み付くように文句を言う。

 ヘンテコパジャマ3点セットとは、前の町で売っていたミノムシのようなパジャマとカバのきぐるみのようなパジャマと玉のようなパジャマである。もはや仮装といったほうがいい。

 何故か気に入ったらしく、双弥が買い物をしている間、暫くそれを眺めていたのだ。


「いいんだよ無理しないで。子供は欲しいものを欲しいってちゃんと言わなきゃ」

「こ、子供じゃないもん! もう赤ちゃん産めるもん!」

「ぶっ」


 突然の言葉に双弥は口と鼻からいろんなものを吹き出してしまった。



 双弥は半分父親のような気持ちでエイカと接してきた。

 それは自らの心を閉ざすに等しいことであったが、重要であった。


 娘であればやましい気持ちにならないだろうという魂胆と、埋葬したご両親の代わりを務める気持ちがあるためだ。

 そうでもしなくては童貞という名の野獣がいたいけな少女を襲ってしまう。

 無意識のころ、実際に何度か手を出しかけたことがある。だから双弥は戒めるつもりで親役に徹することにした。


 そんなところにあの台詞だ。

 親として、娘がそんな破廉恥な台詞を口にすることを悲しく思いつつ、男として誘っているのかと思う気持ちが渦巻いた。



 (どどど、どうなんだ!? 実際のところどうなんだよ!?)


 誘っているのか、むきになって言ってしまっただけなのか。双弥に判別できるわけがない。


「す、隙あり!」

「ぶべぇっ」


 葛藤していた双弥に、見事なほど綺麗にエイカの槍の突きが決まった。剥き出しだったら死んでいたところだ。



 薄れゆく意識の中、ヘンテコパジャマ3点セットは次の町にあったら買おう。そう決めた双弥であった。

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