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聖剣の勇者たち ※俺だけ妖刀  作者: 狐付き
5章 真実 ワンクル帝国
41/201

プロローグ

「お前が悪いんだろ!」

「いいや違うね! 今のは双弥が悪い!」


 喧嘩だ。

 宿に隣接したレストランにて双弥とジャーヴィスによる喧嘩が行われている。

 朝起きて大雨だったために陰鬱な気持ちになっていたのに加え、現在デザートのプリンをどれだけ食べたかで言い争っている。

 限定プリン最後の1個だ。この世界に来て珍しく現代的な食べ物に思わず注文をした結果がこれだ。

 同席していたエイカはうんざりした感じでアルピナとムスタファ用の食事を持ち、部屋に戻ってしまった。


「俺言ったよな! ちょっとだけだって!」

「ちょっとしか残ってないからあげるよって言ったんだよ!」

「8割は残ってただろ! どこがちょっとしか残ってないだ!」

「嘘つくなよ! 半分くらいだったよ!」

「いつから半分がちょっとになった!」


 低レベルで不毛な争いである。

 周りの客たちも呆れてみている。実に恥ずかしい光景だ。



「お兄ちゃんたち、わたしのプリンあげるから、喧嘩やめよ?」


 幼女にまで気を使われる始末。そこで自らのみっともない行いに気付き、2人は顔を赤らめて止めた。




 それから暫し経過し、現在ジャーヴィスの運転にて国境へ向かっている。

 大雨のため視界が悪く、先がほとんど見えない状況だ。

 一応コンパスで方向を確認できるが地図はない。そのため今どこを走っているのか見当もつかない。


 だが方向さえ合っていればなんとかなる……わけではない。川や崖などあったらアウトだ。道でない場所を走るにはそれなりのリスクがある。


「なあジャーヴィス。方向は合ってるのか?」

「双弥がコンパス見てるんだろ?」

「いや、そうじゃなくって……。道から外れたみたいだけど、これで国境の検問にたどり着けるのかなって」

「通る必要なんてないじゃないか」

「え?」


 国境なんて越えてしまえばどこだって構わないわけだ。わざわざ検問を通る意味なんてない。

 もしばれたら殺されても文句は言えない。だが徒歩ではないのだ。車を追いかけて攻撃する術などこの世界にはない。


「それよりも距離だよ。あの町から国境までどれくらいだった?」

「んー……目測で150キロくらいだったかな」


「だったらさっきの心配はいらないよ。だってもう越えているからね」

「なに!?」


 通過したのは今から30分ほど前のことである。

 魔術によるセンサー的なものを越え、無意識に追っ手的なものを振り切っていたのだ。大雨だったことも幸いし、完全にまくことに成功。

 相手は姿をほぼ見ることもなく引き離せたのは運がよかったといえよう。


「それで双弥。僕らはどこへ向かっているんだ?」

「えっと、そりゃお前、ワンクル帝国だろ?」


「それはもう入ったんだって。ここからどこ行くのさ」

「うんっと……セィルインメイという組織があるところに」

「なるほど。それでどこにあるんだ?」

「あ……」


 肝心なところが知らない。聞いていない。全く酷い話である。

 あれから何度か呼んでみたが破壊神と接触できていない。一体何をしに来たというのだ。


 どこかに町でもあればいいのだが、生憎地理もわからなければ要のアルピナもこの激しい雨音の中、遠くまで聞こえない。

 つまり八方塞だ。


 そこで浮かんだ案は、とにかく走って道を探すことだ。最低の策と言ってもいいが、他に方法がない。



「なあジャーヴィス。シンボリックで人工衛星サテライトとか出せないのか?」

「あはは、面白いことを言うね双弥は。僕の国にまともなロケットがあるわけないじゃないか」


 イギリスはロケット開発をやめてしまった国だ。人工衛星を出したとしてもそれを衛星軌道に乗せる術がない。

 それに衛星1つではGPSの機能が使えない。上空から撮影しようにも画像を受信する術がないと、ないない尽くしである。



 やがて雨足が弱まり、周りが見えるようになってきた。これで道を探せるようになったのだが、今はもう夕刻だ。

 暗くなると車で走るのは危険だ。街灯があるわけではないため、車のライトだけで走ると事故を起こす可能性がある。


 ラリー用のスポットライトでもあれば別だが、ジャーヴィスの車にはない。


「じゃあ今日はこの辺で野宿かな」

「そうだね。じゃあ夕食にしようか」



 暗くなる前に食事をとり、暗くなったら寝る。そして日が昇るときにまた行動。南の国の大王の妻みたいな生活だ。

 だが眠るつもりだった夜、遠く地平線の辺りに光が微かに見えた。

 星明りではない。とするとあれは街明かりか。


 街壁があるとはいえ、町の外は明るく照らさねば魔物が現れても見えず対処できない。そのため強く発光させている必要がある。


「双弥、あれ町じゃないか?」

「ん? ああ、どうやらそうっぽいな」

「助かったよ! 早速行こう」


「待て待て。もう暗いんだから明日でいいじゃないか」

「うーん、仕方ないなぁ。じゃあそうしてあげるよ」


 恩着せがましいジャーヴィスを小突き、双弥は毛布にくるまった。



 明日の早朝、町へ向かうために。

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