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聖剣の勇者たち ※俺だけ妖刀  作者: 狐付き
4章 潜入 ヴェーウィン帝国
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7話 シンボリック

 騒ぎを聞いて駆けつけた双弥が見たものは、雑貨屋に突き刺さった一台の車であった。

 事故だ。紛うことなき事故である。


 人だかりをかきわけて現場にたどり着き、中を覗いてみるとハンドルに頭をぶつけるようにして動かないジャーヴィスがいた。


「おい……し、死んでる!?」

「死んでないよ! 恥ずかしいからほとぼりが冷めるまで顔を隠しているのさ」


 元気だった。


「こんなとこにいたままじゃいつまで経ってもほとぼりは冷めないぞ」

「じゃあどうしろっていうんだよ!」

「車から降りて店主に謝り弁償しろよ。それなら一時の恥で済む……っと、けが人がいないか確認しないとな」

「ああそうだね。代わりを頼んでもいいかい?」


 双弥は思い切りドアを蹴飛ばした。

 シンボリックによって出現した車のボディは異様なほど頑丈である。それが凹んだことに驚きジャーヴィスは顔を上げた。


「ああ、なんだ双弥じゃないか!」

「ああじゃねぇよ。お前、見ず知らずの人に尻拭いさせるつもりだったのか」

「じゃあ双弥。知り合いのよしみで頼むよ」

「じゃあでもねぇよ!」


 双弥はドアを無理やり開け、ジャーヴィスを引きずり出した。

 幸いけが人がいなかったため、壊れた品物を買い取り修繕費用を払り謝罪することでなんとかその場を凌げた。

 残った車はドアが壊れたせいもあって近くの池に沈めてしまった。



 ひと通りのことを済ませ、双弥はジャーヴィスを文字通り引きずり宿へ戻り、現在床に正座させ説教中である。


「──んで、どうしてあんなことになったんだ」

「かっこよくスピンターンを決めようと思ったんだよ。そしたら地面が思ったよりも滑ってさ」

「町中でやるなよ危ねぇな」


 地面のせいにするジャーヴィスの頭を殴りつけ、人のいるところでやらないようこの場だけでも誓わせた。


 それから改めてジャーヴィスを見る。

 別れてからそう日が経っていないせいもあるが、ほぼ覚えているままの姿で双弥は少し安心した。


「それで双弥。頼みがあるんだよ」

「なんだよ突然」

「さっきのでけっこうお金使っちゃったんだ。宿代出してくれないかな」


 双弥は正座しているジャーヴィスの顔を無言で押し込むように蹴った。国からの支度金がない双弥は今のジャーヴィスより金がない。自ら稼ごうと考えている双弥からしてみれば、どれだけ甘えているのだと腹が立つことだ。


「痛いじゃないか。こういうときはお互い様だろ」

「お互い様じゃねぇよ。お前が一方的に寄っかかって……」


 そこまで言って当初の目的を思い出した。

 ジャーヴィスにワンクル帝国まで運んでもらわなくてはならないのだ。宿代で貸し借りなしにできるのならば損はない。


「わかった。その代わり車に乗せてくれ。行きたいところがあるんだ」

「おいおい双弥。それとこれとは話が違うよ」


 ジャーヴィスは肩をすくめ、へらっと笑った。その態度にイラッとし、靴を脱いで顔に足を押し付けるようにした。ジャーヴィスは「ノォー、ノォー!」と手を振って拒絶した。


「酷いよ双弥。ちょっとしたジョークじゃないか」

「こっちはジョークじゃ済まない状況なんだよ」


 双弥はムスタファとの出来ごとを話した。




「うわぁ……聖剣って折れるのかぁ」

「問題はそこじゃないだろ。ムスタファの体を気遣ってやれよ」

「それは双弥じゃなくて本人にすることだろ?」

「まあ確かに……」

「というわけでムスタファのとこに行こうぜ」


 そう言って立ち上がろうとしたジャーヴィスは倒れ、もがき苦しんだ。

 長時間正座をしたせいで足が痺れてしまったようだ。双弥はこれ幸いと鬱憤を晴らすようジャーヴィスの足を叩いて遊んだ。

 もちろんその後険悪なムードになったが、その辺りにいつまでもこだわらない性格のジャーヴィスはすぐさま切り替わり、2人でムスタファの部屋へ向かった。



「やあムスタファ。大変だったんだって? 僕はとても心配したよ!」


 ドアを開けるなり本当かどうか疑わしい台詞とともにムスタファの傍に立つジャーヴィスに苦笑いしつつ、双弥も中に入っていった。

 ここ数日で少しは体の調子が戻っているが、まだ歩けそうにもないため寝たままのムスタファは顔だけを向けて手を振る。


 それから3人でこれからどうするかを話し合った。

 まず北東へ向かい、ワンクル帝国へ向かう。そしてある組織が聖剣を直せるかもしれないということを伝えた。


 何故その組織がそんなことを知っているかを疑問に持たれたが、そこまでのことは双弥も知らない。だからあくまでもわかるかもしれないだけという可能性を示唆した。

 闇雲に探すよりは行ったほうがいいとし、2人とも賛成をした。


 そしてジャーヴィスが出すシンボリックにエイカとアルピナも乗るため、計5人。サイズの大きな車なため、特には問題にならない。

 出発は翌日とし、今日は準備をすることにした。




「──という感じになったんだ」


 双弥はエイカにこれからのプランを説明した。


「よくわからないけど、他の国に行くの?」

「うん、まあ」


「倒れている人は大丈夫?」

「それは問題ないよ。車で行くから」

「車?」


 当然この世界には車がないため、双弥はシンボリックにより出現させた自分たちの世界の乗り物だと教えた。

 それを聞いてエイカは首をかしげる。


「魔法で出したものってアルピナちゃん大丈夫なの?」

「あっ」


 しっかり失念していた双弥は渋い顔で唸りながら口元をおさえた。


 アルピナは魔法というものを極度に嫌っている。魔族らしきものとの戦闘のときや、ムスタファに襲い掛かったのを見ているし本人も言っているのだから間違いはない。

 だからといってアルピナとエイカを置いていくわけにはいかない。ジャーヴィスが何度も往復してくれるわけではないのだ。


 とりあえずアルピナに見せてみようということになり、最悪双弥たちは馬車で向かう話で決着をつけた。





「アタシここきゃ!」


 車に乗るなり、アルピナは後部荷台の隅を占拠した。誰の邪魔にもならないため、特に誰も文句は言わない。


「うーん、どういうことなんだ? これ」

「さあ……」


 魔法で出現したものであるのに、アルピナは拒絶しない。それどころかちゃっかり自分の位置をキープしている。


「どういうことかわかるか?」

「さあね。僕が知っているのはそのキュートな動物が満足してくれたってことだけさ」


 心地よさそうに丸くなっているアルピナにジャーヴィスは気をよくし、上機嫌で車に乗り込んだ。

 助手席を倒してムスタファを寝かせるように乗せ、双弥とエイカは密着するように後部シートへ乗った。


 (うーん……)


 狭い空間で女の子と肩をくっつける。電車やバスでしか味わえない状況に双弥は心のなかで唸った。

 エイカは別段気にしている様子はないが、双弥は少し落ち着かない。


 今まで接することがなかったわけではないが、覚醒した後のエイカとくっつくことはなかった。そのせいか妙に意識してしまっている。


「双弥。頼むから運転中に後ろでプレイするようなことはしないでくれよ」

「しっ……、しねぇよバカ!」


 ハハハと笑いながらジャーヴィスは車を動かす。

 だが今の会話のせいで、余計エイカのことが気になりだした。心の奥底にある情以外の気持ちを押し殺さなくてはならないのだ。


「そ、そうだ。この車はどれくらいの時間使えるんだ?」

「それだよ! 聞いてくれ双弥! ガソリンをシンボリックで出現させることでなんといつまでも走れることがわかったんだ!」



 ジャーヴィスの話によると、最初は魔力を使い走らせていたらしい。だがこれはずっと魔力を消費し続けることになるため、3時間が限度であった。

 だがきちんと内燃機関エンジンを構成させ、燃料を送ることにより消費がずっと抑えられるのがわかったそうだ。


 いつまでもというのはジャーヴィスの虚言であるが、シンボリックにて出現したものは数日は物質として残っている。出すときに使用した魔力によりその時間は大きく変わるが、維持をするのに魔力を必要としない。

 つまりシンボリックは物質を出現させる際にのみ魔力を使用する。そのためアルピナも問題なく乗れるということだろう。


 ムスタファの魔法に関しては大量の砂をシンボリックで出現させたが、吹き散らすのは風系魔法で行っている。それにアルピナが反応したということらしい。

 出現と動作は別らしい。だからその後に出現させた盾──ミニチュアのブルジュ・アル・アラブにはほとんど反応しなかったのだ。


「なるほどなぁ。その話は他の勇者みんなにした?」

「いいや。……ああそういえば先日タォクォに寄ったとき、幼い姫君に教えてあげたかな」



 双弥に嫌な予感がよぎった。

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