表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖剣の勇者たち ※俺だけ妖刀  作者: 狐付き
4章 潜入 ヴェーウィン帝国
36/201

5話 双弥VS勇者

「アタシ、あれ嫌いきゃ!」

「あれってどれ?」

「あれきゃ!」


 唸りながらアルピナは、収まらない腹の虫が鳴らぬよう干し肉を詰め込んでいった。

 あれというのは魔法のことだ。どんな恨みがあるかはわからぬが、詠唱に対してとても腹が立つらしい。

 ただ刃喰と違い魔法に弱いというわけではないため、速攻で排除に向かう。


 魔法が弱点の刃喰と魔法を使うもののみ攻撃するアルピナ。この組み合わせだけで大抵の敵を倒せるのではないかと双弥は思った。

 肉大好きとはいえアルピナは小さな体通りに小食だし、刃喰は刀から出続ける破気があればいくらでも動ける。両者のコストパフォーマンスは最高なため、最後まで一緒に来て欲しいものだ。


 それにエイカだ。

 毎日毎日アホかと思えるくらい体に通していたおかげで、技が咄嗟に出たのだろう。

 無意識のエイカはまだここに存在している。そう思えて双弥は少し嬉しかった。



「ねえお兄さん」


 干し肉を食べ終わり満足し、尻尾を枕に丸くなって寝るアルピナを見ながらエイカが言った。

 その口はもう震えることもなく、しっかりとした口調だ。


「何?」

「私、続けるよ」


 危険な目にあったのは確かだし、これからも躊躇うことがあるだろう。

 だが魔物はエイカにとって、両親を殺した憎き敵だ。それに何もできなかった自分を許せないというのもある。


 強くなりたい。幼い少女はそう誓った。


 それに対して双弥は少し渋い顔をする。

 先ほどのあれは正直な話、ただの偶然でしかない。いくら時間を費やしたといってもたかが1ヶ月だ。まともに使えるものではない。

 本当に強くなるのにはせめて2年くらい修行するべきだ。魔王と戦うのにそこまで時間をかけていられないし、その前に他の勇者が倒してしまう可能性が高い。


 ここで双弥はふと他の勇者の動向が気になった。どのルートを使い、今どこら辺にいるのか。

 スタート時から考え、一番厄介なのはジャーヴィスだと考えている。


 地面を走るロスを考えても、およそ時速20キロほどで1時間しか飛べないフィリッポよりは時速30キロで3時間走れるほうが長距離を進める。

 馬車で移動する鷲峰に、馬に乗るムスタファは大体10キロと換算する。1日に移動できるのは町から町くらいの距離だろう。それはフィリッポも大差ないはずだ。


 双弥はかなり離されているようにも感じられるが、数日とはいえ船でかなり稼げている。速度が遅くとも休みなく進むのは大きい。

 案外近くにいたりして、などお気楽に考えていた。





 それから暫し仮眠を取り、明け方に移動。予定していた通り昼ごろには次の町へ到着できた。


「やー、定刻通りに着いたなぁ。帝国内だけに」


 双弥はどや顔でエイカを見た。

 しかしエイカは不思議そうな顔で双弥を見返すだけだった。


「……いやぁー、帝国だから定刻通りに着いたなぁー」


 再びエイカの顔をちらりと見る。だがエイカは、この人何を言っているのと言いたげな目を向けていた。


「……なんでもない」


 双弥は顔を真赤にさせ、そっぽを向いた。


 召喚されたものの言葉は変換されて相手に通じる。つまりていこくはそれぞれ別の言葉になっているのだ。

 自業自得でいらない恥をかいた。双弥は慌てて誤魔化す言葉を探した。


「そ、そうだ。何か欲しいものとかある? 必要なら買うよ」

「急に言われても……あ、槍が欲しい」

「ああ」


 昨晩折られ、槍先ごと持っていかれてしまったのだ。これからも修練を行うのならば必要だろう。


 街道なため、それなりの規模である町は武器屋もいくつかあり、エイカに良さそうな槍を見繕うとした。

 先に宿を見つけ、アルピナを置いて行けばよかったのだが、先ほど恥ずかしい思いをしたためそこまで考えがいかなかった。



「双弥か?」


 槍を見ていたところ、突然声をかけられ振り向くとそこにはムスタファがいた。

 見た感じ様子はヒゲが伸びたくらいで、別れたときから特に大きな違いが見られない。


「ムスタファじゃないか! こんなところで会うなんてなぁ」

「お前は残るのではなかったのか? 何をしているんだ」

「勇者であるということが証明されたんだよ。それで旅に出ることにしたんだ」

「それは良かったな。──おや?」


 ムスタファは双弥が少女を抱いていることに気付いた。

 しかしその少女はとても大きな耳と、獣の尾をつけていた。


 尾に関しては言い訳ができるが、耳はどうにもならない。一目でそれが人間でないとわかる。


「双弥、その手にあるのは悪魔ではないか!」

「いや違う。この子は……」

「貴様、勇者と言いつつ悪魔を従えているとはどういうことだ! ふざけるな!」


 ムスタファからすると、人間でも動物でもない異形のものは全て悪魔なのだろう。すかさず聖剣に手をかける。


「待て! 話を聞いてくれ!」

「問答無用だ!」


 双弥は一目散に逃げ出した。




「どうした、もう逃げないのか」


 双弥は町を脱出し、少し離れたところで振り返った。アルピナは抱いたままで、エイカは遅れてやってきた。


「逃げたわけじゃない。あんなところで暴れてみろ。町が崩壊しちまう」

「ああ、確かに。だが悪魔を倒すための戦いであれば神も認めるはずだ」


「……俺、お前が一番常識あると思ってたのに……」


 文化や宗教観の違いを再び思い知らされた気分になり、双弥は顔をしかめた。


「それより双弥。その悪魔を手放せ!」

「だからこの子はそういうんじゃ……」


 双弥の返事を待たずしてムスタファは抜刀し斬りかかってきた。

 いきなりの攻撃であったが双弥は反応し、斜め後ろへ下がる。


「逃すか! 縛! 遮りの風!」


 突如双周りに大量の砂を含んだ風が舞う。

 それは双弥にとって最も厄介な攻撃だった。


 今ならばどれだけ強い攻撃でも破気により耐えることができる。魔法が直接当たるならば鞘で吸収できる。

 だが大量の細かい砂粒に対して何かできるような技は持っていない。


 と、そのとき突然アルピナが唸りだし、双弥を蹴りつけた。


「ぬっ、貴様、この悪魔め!」


 砂により遮られ何が起こっているのかわからないが、アルピナがムスタファに攻撃をしているようだ。

 途端、砂嵐が止み首もとをおさえるムスタファの姿が見えた。

 だがさすが聖剣の勇者。アルピナの攻撃を受けても傷は負っていないらしい。


 そこへ双弥が距離を詰め、妖刀を振る。

 しかしムスタファもそれに反応し、ズルフィカルで弾く。

 弾かれた反動を利用し、双弥は体を反転させ、今度は逆から斬りつける。


「防! ブルジャルガード!」


 妖刀は地面から出現した盾状のものに阻まれ、ムスタファに届かなかった。

 その盾の影からムスタファは回り込み、ズルフィカルを横薙ぎに振るう。それを妖刀でガード。


「この攻撃を防げるとは、勇者の力があるというのは本当のようだな」

「そうだ。だから攻撃を止──」


 ムスタファは双弥の言葉を聞かず、もの凄い勢いで剣を連続で繰り出す。

 片手剣独特のトリッキーな動きで、どこから攻撃されるか読みにくい。双弥はどうしても後手に回ってしまう。


 (くそ、目が追いつかない)


 今はただムスタファの動きを先読みしているだけに過ぎない。だがこの速度ではそれもいつかは破綻する。早いうちに目を慣らさなくては危険だ。

 ムスタファはこの攻撃に埒が明かないと考え、一度剣を引き力を溜め振りかぶる。双弥もそれに対応し、破気を可能な限り体に通し全力で打ち返す。



 キイイィィィン



 澄んだ音が辺りに響く。それから少し遅れ、地面に何かが刺さる音がした。


 剣先だ。



 ムスタファの聖剣は、双弥の妖刀により切り落とされてしまった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ