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聖剣の勇者たち ※俺だけ妖刀  作者: 狐付き
4章 潜入 ヴェーウィン帝国
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3話 戸惑い

「何も……覚えていないのか?」

「ここ、どこなの? ……パパは? ママは?」


 エイカはあの事件以降の記憶が一切なかった。

 双弥は頭を抱えた。一体どう説明したらいいものか全く浮かばなかった。

 この少女に再び残酷な現実を突き付けていいものだろうか。その結果どうなってしまうのかも想像できない。


 かといって何も伝えぬわけにもいかない。腹をくくるべきだ。


「エイカ、よく聞いてくれ。きみのご両親はあのとき……亡くなったんだ」

「う……嘘! そんなこと、ない! 」


 エイカは涙目になり、顔を赤くさせながら反発してくる。

 ただ双弥が嘘をついていると言っているのではなく、認めたくないと抵抗をしているのだ。




 エイカの記憶の最後は、町が襲われ家に入り込んだ魔物を父が食い止めている間に、母が手を引き逃げている光景だった。

 その後何があったか必死に探る。


 岩場


 岩陰の穴


 母


 何が起こってたかわからない。その部分だけ写真のように焼き付いている。

 あの後何があったのだろうか。ここにいるのはどういった経緯なのだろうか。


 今はいつで、ここがどこで、両親がどうなって、目の前に入る男が誰なのか。


 全くわからない。思い出せない。思い出すのが────怖い。




 双弥は双弥で眉間に拳を当て、考え込んでいた。


 本当のことを話してよかったのだろうか。辛い思いをさせてしまうのではないだろうか。だが、知らせずに後から知ったとき、もっと辛くなる。

 あの場合、どうするのがベストだったのか。自分がやったことは正しかったのか。全くわからない。


 双弥とエイカは2人して悩み続けた。




「あの」


 先に沈黙を破ったのはエイカの方だった。

 双弥は一瞬どきっとしたが、気を取り直してエイカを見る。

 エイカは俯いたまま、自分の手をじっと見ている。もじもじと動かし、言いづらそうにしている。


 何を言いたいのか。何が聞きたいのか。双弥はエイカの言葉を待った。


「……ここはどこ?」


 まずは無難なところから聞きたいのだろう。一番知りたいことは最後に回す。それほど今が恐ろしいのだ。


「ここはヴェーウィン帝国の町にある宿だよ」

「ヴェーウィン……帝国……?」


 いまいち飲み込めていない、というよりも飲み込む気がないといった返事だ。

 町が魔物に襲われた記憶はある。では今どうなっているのか。

 保護されて近くの町に連れてこられていた、といった答えを期待していたのだろう。


 いや、期待ではない。そう答えられるのを待っていたのだ。

 だから信じられない。信じたくない。

 早く嘘だよと言ってくれと催促するような顔をしている。。


 だから双弥は無言で首を横に振る。本当のことを後から嘘だと訂正できない。




「じゃあ、今、いつ?」

「えっと……。町が襲われてから1ヶ月は経ってるかな」


「そんな……」


 一瞬双弥を見、再び俯いてしまった。予想以上に経過していた時間が信じられないのだ。

 エイカにとってあの出来ごとは、意識の戻った先ほどから数えて一瞬前であり、何十日も経っているわけがない。


 まるで記憶喪失のようだ。記憶が戻った瞬間、記憶喪失時の記憶が消えてしまうという。

 今のエイカは町が魔物に襲われた直後にしか繋がっていないのだ。双弥との繋がりは、ない。



「それじゃ……お兄さんは誰?」


 ずきりと双弥の胸が痛む。

 なんて説明をすればいいのか悩む。言いたい言葉が見つからない。


 簡潔に言うと双弥は少女誘拐犯だ。

 いや、これはさすがに言い過ぎか。せいぜい少女連れ回し魔だ。


 それはさておき、この場でなんと言うべきか。


「俺……は、きみを……保護したんだ……」


 苦しそうに声を絞り出す。

 双弥にとってのこの1ヶ月は、彼女にとってのゼロだ。それがとてつもないほど辛く彼に伸し掛かってくる。


「あり、がとう……」


 いまいち納得していないような顔と口調だ。


 双弥の中では一緒にいた時間の記憶が崩壊しかかっている。それでもしっかりしなくてはと歯を食いしばり、笑顔を見せる。


「どういたしまして」

「あの、それで他の人たちは……?」


「助かった人は街道沿いの国境町で保護されているらしいよ」


 これはリリパールから聞いた話だ。



 元々リリパールはイフダンが襲われたと聞き、軍を率いてやってきたのだ。その際に双弥のことを聞き、川を渡ったと判断。そのままタォクォに向かったという経緯だ。

 そのときにきちんと訪ねていたのだ。助かった人数は2割にも満たなかったが、いないよりはいい。



「あと……パパとママは……」


「…………ごめん」


 謝ることしかできなかった。

 決して双弥が悪いわけではない。それどころかきちんと埋葬してあげただけマシともいえる。

 それでも、もっと早く着いていればと悩むことがある。


 if論を述べても仕方がない。だがそう考えずにいられなかった。



 そしてまたエイカは泣き出した。ただ静かに、押し殺すように。

 双弥はそれを見続けることしかできない。




「おなかすいたきゃ! ごはんちょうだいきゃ!」


 沈黙を破ったのは目覚めたアルピナの叫びだった。双弥もこれには苦笑いをするしかない。


「アルピナはもう少し空気を読めるようになるといいな」

「知らないきゃ! 早くちょうだいきゃ!」


 そうは言っても少し気が紛れたとアルピナの頭を軽く撫で、干し肉を取り出した。


「その子は?」

「ああ、獣人のアルピナだ。おっと食事中に近寄らないほうがいいよ。噛まれるから」



 2人で肉を貪るアルピナを暫し眺める。


「それで、私はなんでここにいるの?」

「うーんとね……」


 双弥は今までの旅の話をした。

 娼館に送られるとか兵に追われたとかはさすがに話せなかったが、これまでの旅と、これから先何をするか全て。


 最初は信じられないといった風のエイカだったが、試しに握らせた棍を自在に操れたことに驚き、双弥の顔をじっと見つめた。



「じゃあこれからの話をしよう。もうきみは自分の意志で行動を決められる。帰りたいのならば責任をもって送り届けるから安心して」


「私は…………一緒に連れて行って欲しい」

「えっ」


 少し信じられないといった感じにエイカの顔を見た。

 危険な旅であることは説明した。ここに来るまでも何度か危ない目にあっていることも話している。


 複雑な気持ちで双弥はエイカを見た。

 ついてきてくれるのはとても嬉しい。だけど安全な場所で安心して生活して欲しいという気持ちもある。

 もしこれで別れることになろうと、寂しいとは思っても気が楽になっていたはずだ。


「なんで、そうしたいの?」

「無意識でも私が決めたことだから……。多分、これで合ってる」

「そっか」


 双弥はありがとうと言いたかった。

 だけどそれではまるで自分のためにエイカが来るみたいな気がした。

 そうではない。彼女は彼女の意志に従ったのだ。


 だから双弥はニカッと笑い、こう伝えた。



「これからも宜しくな」

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