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聖剣の勇者たち ※俺だけ妖刀  作者: 狐付き
4章 潜入 ヴェーウィン帝国
31/201

プロローグ

「ほんっとやることないよなぁ」


 船が出航して4日ほど経過したところで双弥は呟いた。

 本格的に何もないのである。


 船旅は基本、退屈との戦いだ。

 今の大型客船などはカジノのような娯楽場、図書室やインターネット。あとはプールやジムなど運動施設まで取り揃えていたりする。

 その全てがない船の個室で大人しくしていられるのなんて作家や漫画家くらいなものだろう。


 誰か話し相手でもいれば多少はマシだろう。だがここにいるのは反応がないエイカと、食事以外は寝ているアルピナだけだ。

 船員は基本皆忙しいし、他の客室に突然訪問できるだけの図々しさもない。


 一応はエイカと武術の練習をしているが、1日24時間として睡眠を充分とったとしても8時間。3食がそれぞれ1時間としても、残りが13時間もある。そんなに練習なんてしていられない。

 内容が充実していれば長くてもせいぜい6時間。つまり7時間空いてしまうことになる。


 釣りでもしようかと船員に道具を借りに行ってみたが、リールもなければナイロン糸もない。現代っ子がまともな道具もなく釣りなんて、余程好きでもない限り長時間やっていられない。

 船員を手伝ってみようかとも思ったが、充分に足りている船員から仕事を奪うことになってしまうし、なにより素人が暇つぶしにやるのは失礼だし邪魔で迷惑になってしまう。


 外を見てもあるのは海、境界線、空、雲、太陽。出航して陸が見えなくなってから殆どこれしかない。たまに鳥や大きな魚を見るが、それらを見るために外を眺めるのはあまりにも厳しい。

 中学時代ぜんせいきの彼ならば妄想だけで1日過ごすことなんて容易いだろう。だが今は想像以上の現実と戦っているためそんな状況ではない。


 1人でできることは色々試してみた。あやとりや折り紙など。だがそれらを何時間もやっていられる人は稀有だ。紙も希少というほどでもないがそれなりに高価であり、そうそう無駄にできない。


「まあ、平和なだけマシだと思うべきなのかな」


 ベッドに寝転がりごちる。それがフラグになるとは思いもよらず。





「なんだぁ!?」


 突然の激しい水音に双弥は跳ねるように飛び起きた。窓の外を見ると壁かと思うような巨大な水柱が上がっている。

 さすがファンタジー世界。こんなこともあるのだなと、もっと見て見たくなり甲板に降りてみた。


 が、しょっちゅうあるようなイベントではないらしく、船員たちも驚き慌てている風景が目に入った。

 そうしている間にも2発、3発と水柱が上がり、船が激しく揺さぶられる。

 双弥は走り回っている船員を1人捕まえ、何が起こっているのか訊ねた。


「一体何ごとだ!?」

「帝国の船だ! 奴らやりやがった!」


 どうやら万が一の事態が起こったようだ。帝国は本気で戦争を始めるらしく、近隣を通る船舶を片っ端から襲っている。

 前もって近隣各国に予告をしているため、通るほうが悪いという言い訳ができる。戦争海域とはそういうものだ。


 これに関して周囲の国が抗議することはできない。何故ならば彼らも同様のことをやっているため、これで賠償を得るならば自分たちも支払わなければならないからだ。


「警告もなしでぶっ放してくるのかよ!」

「いや、これが警告だ。わざと当たらないように撃ってきている」


 2人の話に割入るように船長が説明してきた。さすが荒くれの多い船員をまとめているだけあって肝が座っており冷静だ。

 飛ばしてきているのは術式砲弾と呼ばれるものだ。土魔法と火魔法、そして水魔法が使われる。

 土魔法により出現させた岩を火魔法により高温で熱し筒へ投入し、水魔法の水蒸気爆発により撃ち出される。術者の数は必要になるが、数キロ離れていても命中させることができるため陸海問わず使われる。


「じゃあどうするんだ」

「帆を畳んでこの場に停留する。それで連中が接舷し、中を調べて終わりって感じか」


 敵国に物資や人を運ぶわけでなければそのまま通過できることもある。といっても当然物資になりそうなものは没収されるわけだが。

 主に食料や武器、防具の類だ。美術品や日用品などは戦争の役に立たないため問題ない。船長はそう判断した。


「俺たちは?」

「船室にいれば問題ないだろう。少年少女なんて連れて行く意味がないからな」


 とはいえこれも憶測でしかない。ひょっとしたら皆殺しにして船を乗っ取る可能性もある。

 商船といえど、使おうと思えばいくらでも戦争の役に立つ。1隻建造するコストと日数を考えたら奪ってしまうのが最も効率的だ。

 船員は1箇所に集まり武器を構え待機。双弥は自室に戻り槍をドアへ向けて固定し、帯刀して備えた。



 それから1時間もしないうちに3隻の軍艦らしき船が囲うように接近してきた。船員たちに緊張が走る。

 アノマリー号よりも若干大きめの船が接近してきてフックを撃ち出し、何本かが引っかかる。それをウインチで巻き取ると更に接近。橋をかけられ接舷が完了。

 船端から弓兵が構え、いつでも射撃できるようにしている。カトラスのみの船員では太刀打ちできないため、すぐ武器を捨て両手をあげる。


 そこへ軍服のような服装をしている男が10人ほど橋を渡り、乗り込んでくる。


「船長はどこだ」


 先頭で現れた男が船員を見回し訪ねてきた。


「俺だ」


 船長が前に出て威圧をかける。


「戦の件は伝わっていなかったのかね」

「起こるかわからん戦で辞められるほど稼いでいないんでな」


「ふん、まあいい。荷を検めさせてもらうぞ」





「外、どうなってんのかなぁ」

『くひゃひゃ、武器の気配がたんまりするぜぇ』


 双弥の呟きに刃喰が嬉しそうに答える。

 だが双弥はもし戦闘になっても刃喰を使うつもりはない。というよりも使えないのだ。


 刃喰は細かい動きができないのかやろうとしないのかわからないが、かなり雑な軌道で飛び回る。こんな狭い船内で使ったら船体を傷付け、最悪沈んでしまう。

 それでも狭いことが双弥にとってはプラスになることもある。囲まれることもないし、自分さえやられなければ背後のエイカたちが襲われることはない。


 と、そのとき扉をノックする音が響いた。一瞬体を強ばらせるが、襲ってくるつもりならば一気に突入してくるものだ。

 もちろんフェイクで油断させるという手もあるが、軍艦が隣接して緊迫している状況で油断もクソもあったものではない。相手もそんなことくらいわかるだろう。


「お客さん、いるかい?」


 船長の声だ。といってもここで気を許すほど双弥もこの世界で温水に浸っていたわけではない。妖刀を抜き、いつでも突き立てられるようにしてそっと扉を開ける。


「どうなりました?」

「思わしくないな。荷物が多いんで一度帝国の港に寄ることになったんだが……」

「何か問題でも?」

「ああ。獣人がいることがばれると厄介なことになる。引き渡すか、最悪その場で処刑だ」


 獣人はピンきりであるが、基本的に戦闘力は高い。個体によっては1つの小隊よりも強いため、いるだけで戦局が大きく変わる。

 自陣に引き入れられるならよし。もし断るのならばその場で殺す。敵陣に入られるよりはマシだ。

 そしてアルピナはもちろん断るだろう。彼女が積極的に前へ出ることは考えられない。


 では一体どうするか。


 一戦交えるというのも手だ。

 刃喰が橋などを破壊し、敵船を沈めてしまえばいい。この船に乗り込んでいる人数くらいなら双弥1人でも片付けられる。


 だが他にも帝国の船は待機しているうえ、仲間を呼ばれたら厄介だ。遠距離砲撃で沈められてしまう。

 

 では隠すか。これはばれたとき厄介ではすまないことになってしまう。


 目に見えぬほどの速度で動き、いないことにする。

 アルピナが言うことを聞いてくれるわけがない。捕まえようとしたら逃げるだろうが、ばれてしまってからの行動だ。発見されたら乗員乗客に迷惑がかかり、全員捕まる可能性もある。


 双弥は暫し考え、周りに迷惑をかけず、アルピナに被害が及ばない答えをひとつ出した。



「わかった。俺たちは乗っていなかったことにして欲しい」

「手はあるのか?」

「ああ」



 船は帝国の港へ向け進んで行く。

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