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聖剣の勇者たち ※俺だけ妖刀  作者: 狐付き
後日談 日常編
198/201

鷲峰の結婚 その2

「オーッ、迅の結婚式か! それはとても素晴らしいね!」

「それでさ、式場をジャーヴィスが以前シンボリックで出した教会にしようと思ってるんだ」

「さすが双弥! わかってるね! 我がイングランドの誇るリバプール大聖堂はとても魅力的だからね!」

「ああそれそれ。今お前神なんだからかなり長い時間出せるだろ?」

「ははっ、今の僕ならば全て詳細に出現させても100年は出しっぱなしにできるよ!」


 そんな会話のなか、双弥はいつしか思いつき、そして忘れて行った疑問を思い出した。


「そういやさ、なんでシンボリックって愛称で出現させるんだ?」

「さあね。僕が知るわけないじゃないか。ただそうしたほうがいいみたいな言い伝えがあるって聞いたよ」


 よくわからない答えに双弥は首を捻る。


「僕も疑問に思ってたからさ、ちょっと出してみようよ」

「そうだな。ものは試しだ」

「じゃあいくよ! 建! リバプール大聖堂!」


 ジャーヴィスが叫んだ瞬間、目の前にリバプール大聖堂が聳え立った。本物(・・)が。

 何故本物であるとわかるのか。それは中にいた観光客などを見れば誰にでもわかる。

 彼らは突然のことに驚き、慌てふためいている。大惨事だ。


「……ノオオォォ! 僕はなんてことをやらかしてしまったんだ!」

「い、いいから早く戻せ! 戻すんだ!」

「無理だよ! だって戻し方なんて知らないんだからね!」

「じゃあどうすんだよこの状況!」


 かなりまずい。今ごろ地球は大パニックだ。



「なんか突然すげーもんが出て来たから来たんだが……おーリバプール大聖堂じゃねえか! つーことはジャーヴィスが出したんだよな?」


 呑気な感じでハリーがやってきた。そして嬉しそうに大聖堂を見上げている。


「……ハリー、これはかなりまずいんだ」

「なんでだ?」

「これ、本物なんだよ」

「……ホワィ?」


 そして正面へ目を向けたハリーはことの重大さに気付いた。そしてジャーヴィスの襟首を掴む。


「クソっ、てめえなにやらかしてやがんだ!」

「僕だって困ってるんだ! まさかこんなことになるなんて!」

「てか異世界召喚って簡単にできるんだなー」

「双弥! 現実逃避しないで助けてよ!」


 外も内も阿鼻叫喚である。

 

 

 

『──全く、アホウどもが』

「面目ありません」


 双弥とジャーヴィスは天之御中主神の御前で頭を床にこすりつける。平謝りだ。

 もちろん天之御中主神が元に戻してくれた。持つべきものは知人……いや知神ちじんである。


「でもこんな簡単に地球のものが引っ張り込めるなんて……」

『仕方ないのだ。なにせチュウの世界には魔力がないからな。つまり魔法に対しての抵抗がとても低い』


 だったら逆にこちらから地球へ行くのも簡単なのかと言われたらそうではない。

 詳しく説明する場合、魔力の根源から記載しなくてはならなくなるため省くが、超大雑把に例えるならば、重力のないところから重力のあるところへ行くのは簡単だが、重力のあるところから重力のないところへ行くのは難しいというのに近からず遠からず。

 或いは屋台のひもくじで一度引いたくじを戻してくれと頼むような感じに似てるとか似てないとか。


 つまり異世界から召喚する場合、地球が最も簡単で都合がいいわけだ。



「と、とりあえずこれで式場はOKってことだよな」

「そうだね。次はちゃんとシンボリックで出現させるよ!」

『んむ? 結婚式か?』


 天之御中主神が興味津々に入り込んできた。


「ええ、そうですよ。元々ミナカたんが入る予定だった鷲峰というケチな野郎です」

『ほうほう、ならばチュウが直々に祝福してやろう』

「い、いやいや! ミナカたんが出るほどの奴じゃありませんから!」


 双弥は慌てる。天之御中主神が来てしまったらそれが最高の結婚式になってしまう。そんなことになったらエイパールがっかりだ。


『し、しかし極上の供物が……』

「極上なんかじゃないですから。チンケなもので茶を濁すだけです。ミナカたんにはもっと相応しい場へご招待しますから!」


 なんとか言いくるめることに成功し、天之御中主神は渋々地球へ戻って行った。




「式場、食事、ドレス。よしばっちりだ」

「まだに決まってるだろ」


 満足そうな双弥に異議を唱えたのはハリーだ。

 

「なにが足りないんだよ」

「んなもんバチェラーパーティーに決まってんだろ!」


 独身最後の夜を新郎が男友達と過ごすパーティーのことだ。それを持ち出すとはさすが遊びのハリー。


「それは具体的にどうするもんなんだ?」

「んなもん決まってんだろ。ストリップだよストリップ! ヤレるダンサーのいる町知ってんぜ!」

「MAJIKAYO!?」


 双弥、愕然とする。何故今まで探さなかったのかと己に呪いつつ。


「もっと詳しく! 詳細プリーズ!」

「夕方くらいから始まってな、早い時間だとガキばかりなんだけど遅くなるにつれて歳が上がっていくんだ」

「ほう! ほう!」

「でもってな、一番高い金を積んだ奴が他の部屋へ連れていけるんだ」

「それ人身売買オークションじゃねえか! 違法だろ!」

「……おめえはいつまで日本人やるつもりだ? いいか、その国では合法なんだよ。だからなんの問題もない」

「冗談じゃねえ!」


 双弥は激怒した。彼はいつまでも日本人でいると誓っているのだ。日本の心は永遠に忘れない。


「……とはいえな、日本にはこういう言葉がある。郷に入っては郷に従えと。つまり俺は日本人としてその国の法に従うべきだと思うんだ」

「クソめんどくせえ奴だなお前は。オレとお前の仲じゃねえか。本音で話せよ」

「合法ならなんの気兼ねなくできるじゃねーか! なんでもっと早く教えなかったんだ!」

「ソ、ソーリィ……」


 最近の双弥は我慢に限界がきつつある。エイパールのいないところで発散しなければ、いつ爆発してもおかしくない。

 というよりも何故我慢をしているのか。もういい加減始めてしまえばいいのだが、今後も付き合いが続く相手であると考えたら気まずくなったりとか様々あるのではないかと危惧してしまうのだ。つまりヘタレである。



「そんなわけで迅ー! バッテラパーティーしようぜー!」

「なんだそれは」

「バチェラーだっつの!」


 知らない言葉を聞くと知っている言葉へ勝手に置き換えるのはよくある。だがいくらなんでもバッテラでパーティーはしたくないだろう。


「えっとな、みんなで禁断の世界へ赴くんだ」

「おめーはそこしか興味ねえんだろ。いいか、バチェラーパーティーてのは独身最後の夜を男友達と遊んで過ごすっつーイベントだ」

「男だけ、か……」


 鷲峰は女気のないハリーを見た。そしてヘタレ双弥を。ふたりとも飢えた目をしている。


「それは構わんが、一体なにをするんだ?」

「よくぞ聞いた! 実はな、ヤレるストリップ屋を知ってんだよ!」


 それを聞いた鷲峰は、顔をしかめる。このクズどもは自分を利用して行きたいだけだろうと。


「却下だ。それを了承するわけないだろ」

「いいか、バチェラーパーティーてのはな、そこで起こったことは聞いちゃいけねえってルールがあるんだ」

「それは貴様の国だけのルールだこの濃厚スケベ」


 アメリカのローカルルールを異世界に持ち込むなという話だ。いや別に持ち込んでもいいが、それで相手が納得するかは別の話だ。


「それと第一、チャーチに黙り通せるとでも思っているのか?」


 チャーチストの恐ろしいところは嘘を見抜くだけではない。質問に対する反応でもバレてしまうのだ。つまり言おうが黙ろうがわかってしまう。そもそも後ろめたいことをしているという挙動がある時点で疑われる。

 それにチャーチストは嫉妬深くないのだが、自分を低く見ているせいで常に不安がっている。

 ずっと嫌われていた自分が鷲峰と一緒にいていいのか。いつか自分よりいい女性が現れて離れてしまうのではないかなど。


 だから鷲峰としても、遊びとはいえそういったことをしたくないのだ。


「おめーが嫌なら仕方ねえよ。じゃあ──」

「じゃあ俺たちだけで行くか!」


 目を輝かせている双弥にハリーは反吐が出そうになったが、一気に飲み込む。


「行きたきゃひとりで行けよ。オレたちは迅に合わせるぜ」

「くっ」


 ひとりで行く度胸なんてあるわけがない。だから双弥は自分のときこそはと心に刻む。そう遠くはないはずだし。

 そんな感じで鷲峰のためのバチェラーパーティーが始まる。

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