その1 神の奴隷
ある昼下がり、双弥たちは仕事を一段落させ遅めの昼食を摂っていた。
いざ料理が運ばれ、早速ありつこうとしたときジャーヴィスの余計な一言が。
「ねえ双弥。双弥は破壊神の勇者なんだよね?」
「ん? ああそうだけど」
「ってことは、きみはアセットの眷属ってことになるんだよね!」
双弥は握っていたフォークをカランと落とした。
そう、今の破壊神はアセットである。ということは、破壊神の勇者である双弥はアセットの勇者ということになるのだ。
「ち、ちげーからな! 俺は……」
「そっか、ソーヤはワタシの下僕だったのかぁ。なんで今まで気付かなかったんだろ」
「だからちげーっての! 俺は前破壊神様の勇者で……」
「なにを言ってるんだい。アセットが破壊神を引き継いだ時点でその権限も引き継いでいるはずだよ!」
双弥はしかめた顔で、これからなにをやらせようか算段している笑顔のアセットを睨む。
「お兄さん諦めたほうがいいんじゃない?」
エイカは自分がアセットの巫女として力を貸していたのだから特に嫌がる素振りはない。ふたりの仲はとても良好なのだ。
「……でもまあ、アセットだったらまだいいか」
「そうだよ」
ジャーヴィスの勇者になるよりかは遥かにマシである。もしそうであったのならば首をくくっていたであろう。
だが世の中は単純に作られていない。
「じゃあアセット。僕に双弥の権限譲ってよ」
「なっ!?」
双弥、唖然とする。言っている意味がわからない。
「そ、そんなこと勝手にできるわけねーだろ!」
「できるよ。なにせ僕らは神なんだからね」
人間にできないことでも神ならできる。なにせ彼らを束縛する法など存在しないのだから。
「は、破壊神様ぁ! かむひあーっ」
「だからワタシだって」
双弥、絶望する。
今のアセットは仮の肉体に宿っているだけだし、欲しいものは旦那の創造で出現させられるため金品を必要としていない。つまりセリエミニの活動はタダ働きなのだ。
そうなると当然懐が温まるのは双弥だけであり、アセットはそれをつまらなく思っている。だがそれに対し抗議しても、屁理屈王双弥がいいように言いくるめるに決まっている。だからここらでひとつ痛い目に合わせたいと思っている。
双弥も実はそのことを知っている。というよりも先日そんな感じの不満を言われたのだ。これが意趣返しだとするのならば、どうにかして逃れなくてはならない。
「み……ミナカたあぁぁん!」
『だからチュウをみだりに呼びつけるでない!』
双弥の叫びとともに時が止まり、天之御中主神がプンプン顔で現れた。
だったら出てこなければいいのにと思われそうだが、ミナカたんはなんだかんだで面倒見がいいのだ。そうそう無視はしない。
「あのミナカたん、前破壊神様はどうなったんですか?」
『ん? レイのことなら地球でネットの神をやっておるぞ』
「ネット神!?」
双弥はあまりのことに絶句する。地球において数百年ぶりの新神の誕生である。
「ということは頼めば好みにドストライクな画像とか貼ってくれたりする感じ!?」
『んなことレイがするはずなかろう』
そういう安っぽい意味での神と一緒にしてはいけない。彼女はインターネット全般を見守る神なのだ。もちろんなにかをするわけではない辺りは神らしいのだが。
「呼んでもらったりはできますか?」
『あいつも暇ではないのだがな、時間が止まっている今なら問題なかろう』
そう言ってどこぞかへ手を突っ込み、引き抜く。すると乳を掴まれ引っ張り出される元破壊神が現れた。
「い、痛いわよミナカ! ……あら元私の勇者じゃない」
「は……破壊神様ぁ!」
双弥は飛びつき、その豊満な胸へ顔をうずめようとしたところ天之御中主神に顔面を掴まれそのままアイアンクローを食らう。
「あががががが」
『相変わらず淫らな人間だなこやつは』
「違います! これは久々に会えた喜びで思わず──」
『貴様、チュウが触れているときは互いの心が繋がることを忘れてやしないか?』
「……くっ」
天之御中主神と接触している時点で全ての嘘は暴かれるのだ。どんな言い訳も通用しない以上、屁理屈なんて意味を成さない。
「それでなにがどうなってるのですか? おふたりとも」
意味がわからずネット神はふたりの漫才を呆れた顔で見ていた。
「────なるほど、経緯はわかりました。つまりあなたは現破壊神の勇者であることが不満と」
「不満というか、俺たちは元々仲間だったんで悪ふざけ的な勇者の使い方とかされたら嫌だなという考えです」
「ありえないとは言えませんが……大丈夫でしょう」
「何故ですか?」
「あなたは元私の破壊神としての力を得ていますが、結局のところ現在はミナカの勇者ということになっているのですよ」
「なっ!?」
双弥は驚嘆した。自らが愛するラブリーミナカたんがまさか自分の主になっていたとは思いもしなかったのだ。
しかし考えてみれば天之御中主神と双弥は繋がり、ひとつとなっていたのだ。もはや俺が天之御中主神だと言っても過言では……それは過言であるが、まあそんな感じである。
「そんなわけなので心配は無用よ。じゃあ私はダンジョン5階でレベル上げしている最中なので」
『待て、チュウもやるぞ!』
ふたりは戻って行った。
「そんなわけでソーヤの権限を暫くの間、ジャーヴィスに移譲──」
「待った!」
アセットの言葉を双弥が遮る。神の決定に逆らうとはなんたる非礼。
「ソーヤがなんと言おうと、ソーヤはワタシの……」
「そもそもそれが間違いなんだよ。実は俺、破壊神の勇者じゃないんだ」
「なっ!?」
それに驚いたのはジャーヴィスとアセット、それにエイカだ。
「どどどどういうことなんだよ双弥!」
「どうもこうもさ、創造神から力をはく奪されたみんなは破壊神様のつてを頼って地球の神から力を得たでしょ」
「うん」
「んで俺も最後の戦いのときさ、地球の神から力を借りたわけ。そのときどうやら主従権が移動したらしい」
まさかと思いアセットは神の力で双弥とパスを繋げてみようと試みる。だが双弥の言う通り、別の神と繋がっていたため接続できなかった。
「そんなバカな! じゃあどうすれば僕らは双弥をフォアグラ用の鴨のように苦しめられるんだ!」
「お前そんなことを考えていたのか!」
「当たり前じゃないか! アセットは神なんだぞ! 神を利用して金儲けするなんて罰当たりも……あれ、ひょっとしてほとんどの宗教って……」
「おっとそれ以上はまずいから口を閉ざそうな」
双弥は慌ててジャーヴィスの言葉を遮る。あまり余計なことを言うと大変な反感を買うことになる。
「ところで双弥、きみの言うミナカたんというのはどんな神なんだい?」
「あれ? 見たことなかったっけ。おーいミナカたーん」
『だから貴様は毎回毎回……』
「ってジャーヴィスたちの動きが止まってるな」
今は神の時間と呼ばれる状態なのに、神であるはずのジャーヴィスやアセットの動きが止まっている。
「なんでこのふたりは動けないんだ?」
『そんなもん、なりたての神だからに決まっておろう。神の時間の動き方は通常とは異なるからな。というかなんでお前は普通に動けるんだそっちの方がおかしいだろ』
双弥は自分が動けるから他の人……神も同じように動けるものだと思い込んでいたようだ。実際はそう簡単にいかない。
仕方ないといった感じに、天之御中主神はジャーヴィスとアセットの腕を掴むと引っ張った。するとふたりはよろけるように前へ出る。
『とりあえず今回はサービスだ』
「オゥ、一体なにが……」
「神の時間へようこそジャーヴィス。この子がミナカたんだ」
「オー! なんてエキゾチックでチャーミングなレディなんだ! このレディがきみの言っていた神なのかい!?」
「いや実はこの子、女子じゃないんだ」
「……オオゥ」
ジャーヴィスは情けない顔をした。しかし性別という概念が存在しないのだから仕方ない。
「ソーヤが以前言ってた性別がないってやつでしょ。つまりソーヤはナメクジでも好きになれるってことだよね?」
『ほう貴様、チュウのことをナメクジ扱いするか』
「……ってソーヤが言ってました!」
アセット、双弥を売る。冤罪というおまけも付けて。
「ほお……」
「誤解です! 俺がミナカたんを敬愛していることは頭を覗いたミナカたんが一番よく知っているでしょ!」
『うむ。だがチュウにまで淫らな妄想を抱いているとは思いもよらなかったわ』
「あああああああああ!!」
双弥は大声を出したがもう遅い。しっかりふたりに聞かれてしまった。
「……へえ」
「そういう反応が一番きついからやめろ!」
一番きついからこそ面白いのだとジャーヴィスは笑顔で語る。最悪だ。もしこのことが婚約者にバレたら泣くだけでは済まない。
「大丈夫だよソーヤ。このことがバレて一番悲しむのはエイカなんだから。ワタシはエイカのそんな姿見たくないからね」
「アセットがそう言うなら僕も倣うよ。ただ双弥、わかってるよね?」
「……はい」
双弥は神の奴隷となった。




