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聖剣の勇者たち ※俺だけ妖刀  作者: 狐付き
最終編 1章 勇者たちの覚醒
169/201

プロローグ

「本当にあれでよかったのか?」

「ああ。エイカたちは絶対についてくるって言うに決まっているからな」


 双弥たちは新たな勇者たちが現れると思われる場所へオリンピックジャベリンに乗って向かっていた。オウラ共和国からでは早馬でも2か月くらいかかる場所だ。

 それでもシンボリックを用いれば数時間で行ける。近い日ではエイカたちにバレるかもしれないが、1週間前行動では流石に気付かれなかったようだ。

 いくら第六感の先にある双弥感を持つエイカとリリパールでも距離だけはどうにもならない。確実に逃げ切っている。それに今はアイドル活動が忙しいはずで、双弥たちが何をしているか気にしていられる場合ではない。


 この件に関してはあとでまた説教されるのだろうが、それくらいで済むのだから全然問題ない。死ななければ安い。そもそも戻れるかわからぬのだが、未来は明るいと思って生きたほうがいい。


「それより創造神がもっと邪魔してくるかと思っていたんだが、拍子抜けだな」

「まだ油断するなよ。これからが本番なんだから」


 もう少しで今回の勇者召喚を行われるとされている国へ入る。なにか仕掛けるのであればそれからだろう。

 そんな会話をしていたところ、突然の急ブレーキ。双弥たちは前へ吹き飛んだ。


「いつつ……あんにゃろ、なにしやがる!」

「少し、いや、かなり痛い目を見せたほうがいいかもな」


 双弥たちはジャーヴィスのいる操縦席へ向かった。




「おいてめぇコラジャーヴィスうぅぅ!」

「待ってくれ双弥、誤解なんだ!」


 操縦室へ殴り込んだ双弥にジャーヴィスは両手をあげて弁明する。なにかあったのかもしれない。

 とりあえずジャーヴィスを小突きながら皆はオリンピックジャベリンの進む先を見る。すると途中で線路がなくなっていた。


「線路がなくなってるな」

「だから止まったんだよ!」

「なくなってんだったら出しゃあいいだろ」

「出せなかったから急停車させたんだよ!」


 地球の神から力を借りているジャーヴィスたちは以前と比べものにならぬほどの魔力を得ている。この程度で尽きるはずがない。

 少し思い悩んでから鷲峰は東〇タワーを3つほど撃ち出してみた。すると線路があるところから向こうへは掻き消えるように消滅してしまった。


「ふむぅ、これは……」

「さしずめ、アンチシンボリックフィールドといったところだろうか」


 しっかりと対策がなされていたようだ。

 これはまずい。勇者たちが召喚されるのは1週間後。ここから徒歩で向かい、はたして1週間で辿り着くのだろうか。

 それに目標物がない状態だと人間はまっすぐ進めないし、森や山では容易く方向を見失う。


「だが上空からではなかったのは幸いだったな」

「ああ。高高度から突然落とされたら流石に厳しい」


 鷲峰とムスタファがさらっと恐ろしいことを話す。一応勇者である状態ならば、頭から落ちない限り自由落下で死ぬことはない。だがダメージだけはどうしようもならない。人間の最高落下速度は1Gでおよそ200~250キロだから、ダメージ的にはその速度でコンクリートが襲ってくると思えばいい。新幹線に撥ねられるようなものだ。


「でもお前らは地球の神から力借りてるんだろ? それなのにダメなのか?」

「恐らくはシンボリックという魔法自体が創造神の管轄なのだろう」


 もしそうだとしても、次に来る勇者たちもシンボリックを用いるだろう。だとするならばこれは一時的なものであり、確実に勇者らの足止めのために行っているとわかる。


 この状況は流石に考えていなかった。早めに出たつもりでいたせいで余計に焦りが生まれる。もしこれが当日の朝とかならば諦めがついただろうに。


「どうすればいいんだよ双弥!」

「俺に聞くな! 今考えてる!」

「早くしろ。悠長に考えているだけの時間はないかもしれないぞ」

「だったらお前らも考えろよな!」


 また全て双弥任せだ。さすがにこれはキレてもいい。


「仕方ないな。ならば私はこの場に留まるというのを提案しよう」

「えっ」


 ムスタファは進まないことを提案してきた。

 無理して進んだところで間に合う保証はないし、闇雲に探しても見つからない。だからといってそれぞれ分かれて探しては駄目だ。ただでさえ人数が少ないのだから固まっていくべきだ。

 それらを総合して考えるならば、無理に進まず待つのも手ではないかということらしい。黄色い熊風に言うと、なにもしないをしようという話だ。


「うむぅ、それも手だな」


 こちらが動けぬのならあちらが動くのを待てばいい。この世界にも、魔法にも、そしてシンボリックにも鷲峰たちのほうが一日の長がある。向こうが数で勝るなら、こっちは経験で勝つのだ。



 だから双弥たちは暫く近くの町で過ごすことにした。




「やったよ! シンボリックが抜けた!」


 以前シンボリックが使えなかった区画を通過できるようになったのは、あれから2週間ほど経ったときであった。召喚されてから1週間、つまりもう向こうも聖剣を所有していることになる。


「ねえ双弥。次の勇者ってどんな人なのかな」

「さあな。同じ国からなのか、他国なのか……ひょっとしたら女勇者がいるかもしれないな」

「オゥ……。もしいたら僕は戦いたくないな」


 ジャーヴィスは一応英国紳士を気取っているため、女性に手をあげるつもりはない。


「もしいい女だったらフィリッポに相手してもらうよ」

「あ? オレだって女に暴力は……ああそうか、そういうことなら任せろ」


 ジャーヴィスの意図を理解したフィリッポはにやりと笑う。つまり寝返らせるということだ。文字通り寝て。


「武人であれば我が相手をしよう。強ければいいのだが、弱ければ日本人、お前にやる」


 王が腕を組みながら言う。彼は古いタイプの武術家なのか、強い相手を求めるふしがある。俺はおこぼれの相手かよと双弥は苦笑する。

 とはいえ純粋な武術勝負なら双弥より王のほうが上だ。つまり王より弱いからといって双弥より弱いとは限らない。なめてかかると逆にやられる。

 なにせ今の王は関聖帝君の力を得、双弥よりも圧倒的に強い。破気をどれだけ体に入れようとも覆らないほどの差ができてしまった。


「それより、どうするか?」

「うむ。なにか巨大な地球のものを出してアピールし、おびき出すのが手っ取り早いだろう」


 おびき出すのも手段のひとつだ。そもそもターゲットが双弥たちなのだから、間違いなくやってくるはずだ。


「いや、俺たちから行くことになるだろう」

「おい迅、それは悪手じゃあ……」


 双弥が言葉を続けようとしているとき、鷲峰の視線が気になり双弥もそちらを向く。そして驚愕の表情を表した。


 そこにあるのはスカ〇ツリー。新勇者のひとりが判明した瞬間だ。




「実物よりでかいな。およそ倍はあるだろう」


 双弥たちは少し離れた場所で周囲を警戒する。どこに新勇者が隠れているかわからないからだ。


「ねえ、ス●イツリーって何メートルあるんだい?」

「え? えっと……666メートルだっけ?」

「東●タワー基準で考えるな。634メートルだ」

「よく覚えてるな、迅」

「ムサシだ。わかりやすいだろ」


 双弥の目からうろこが落ちた。ちなみに東●タワーは寒暖により、年間で1メートルほど高さが変わるらしい。その倍近くあるスカ〇ツリーならばもっと差が出るのではなかろうか。


「ふむ、すると大体1.3キロほどか。私の国にはそれでも届かぬほどのビルディング計画があるのだが」

「シティタワー計画か。あれ考えたやつアホだろ」


 UAEにはシティタワー建設計画があり、それは高さ2000メートル超のビルだ。専用の超高速エレベーターは最高時速200キロほど。まともとは思えない。


「黙ってろ。そんなことより……見ろ!」


 そこに現れたのは3人の男女だ。

 女────日本の女の子だろうか。あからさまに染めてますといった感じの金髪をツインテールにし、丈の長いスタジャン。裾が股下まであるせいか履いてないように見える。

 その横で女の子に話しかけている細身で背の高い、ジャケットを着たひげ男。それを見たフィリッポが顔をしかめる。


「ちっ。種馬野郎イタリアンかよ」


 2人目はイタリアと判明。残りひとりはターバンに長いひげ。中東かインドの人間だろう。


 とりあえず今のところ相手は3人だ。戦えば勝てるかもしれないが、いきなり敵対することはない。同じ地球から来た人間だし、話し合えばわかるはずだ。

 そのため威圧しないよう、こちらも3人で向かうことにする。双弥は鉄板として、残り2人だ。イタリア人に嫌な顔をしているフィリッポは除外。トラブルメーカーなジャーヴィスはいわずもがな。

 中東とアジアも色々あるため、ムスタファも駄目。ハリーは魔王側のジャーヴィスだ。トラブルを起こす可能性はある。


 というわけで、日本代表兼勇者代表の双弥、まとめ役のジークフリート、そしていざというときのための用心棒的に王が向かうことになった。




「おぉーいっ」


 双弥が手を振って近付いていく。すると新勇者側が気付いて顔を向ける。少女からは笑みのようなものが伺える。敵対の意思はなさそうだと双弥は安心して更に近寄る。


「へへっ。本当に来るとは思わなかったよ。食らいな! ツインホーン!」


 少女が手を振り上げると、小型の東〇都庁が双弥たちめがけて飛んできた。3人はそれを回避する。


「ちょっ、待ってくれ! 話を聞いてくれ!」

「ハハハ、聞くだけ無駄ってもんだ。行け、“嘘つきは誰だ”」


 男がそう叫ぶと、巨大なコイン状のものに人の顔がある物体が現れ、双弥たちを吸い込もうとする。


「くそぉ! おい双弥、どうすんだよ!」

「とりあえずひとりだけでも拉致る! そんで話を聞いてもらえる状況を作ろう!」

「了解だ! じゃあこの頭はおれっちが抑える!」


 ジークフリートが巨大なコイン状の顔に攻撃を仕掛けようとする。その間に双弥は破気を取り込み一気に駆ける。


「えっ、速っ」


 驚愕している少女の直前まで双弥は来ていた。このまま掴み、走り去る。そのつもりだったのだが、双弥は脇腹に凄まじい衝撃を受けた。


「がっ」


 双弥に隙はなかった。受けた瞬間内気功により内側から衝撃を弾こうとしていた。しかしそれは少し緩和させるだけしかできず、双弥は血を吐き慣性のまま吹き飛んだ。

 破気と内気で防御したにもかからわず、内臓がズタズタにされた。朦朧とする意識のなか、双弥は隠れていた4人目の存在を見た。


 それは初老の男だった。今意識を失ったらやばい。そう思いつつ激痛と重い体に耐え立ち上がろうとする。

 ここで双弥に飛びついてきたものがいる。ジークフリートだ。彼は双弥を肩に担ぐと、一気に走り出した。


「双弥、ここは一回下がるぞ!」


 走っている途中、呆然と立ち尽くす王もジークフリートは肩に担ぎ、一気に走り出した。新勇者は追いかけてこないが、安心はできない。

 なんとか鷲峰たちと合流し、DDNPにて一気に逃げ去る。



「おいジャーヴィス、がんばれ!」

「そう急かさないでよ! 僕だってようやく回復魔法が使える程度なんだから!」


 双弥はジャーヴィスの回復魔法にてかろうじて延命させられていた。急いでリリパールに代わってもらわねば命に係わる。鷲峰は新幹線を出現させ、そこへ全員飛び乗った。



「オウラまで全速力で2時間か……。ジャーヴィス、頼む」

「わかってるよ。双弥は絶対に死なせない!」


 ジャーヴィスは額に汗を浮かべながらも回復魔法を使い続ける。そんななか、ジークフリートは王に掴みかかっていた。


「おいてめぇ、なんであんなところで突っ立ってやがった! 双弥の援護くらいできただろ!」


 王は返事をせず、顔をそむけ俯く。そして小さく「無理だ……」とつぶやいた。


「なに弱気になってんだよ! おめぇは双弥よりつええんだろ! なのになんで……」

「……あれは我の……師父だ」


 この言葉だけで双弥たちに勝ち目がないことが発覚。

 とにかく体制を立て直すことと、双弥を治すため、皆はアーキ・ヴァルハラへ戻っていった。

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