エピローグ
「見てよ双弥! 僕の新しいエクスカリバーだ!」
「わかったから振り回すな危ねぇな」
ジャーヴィスは嬉しそうにエクスカリバーを見せびらかす。なんとかに刃物とはよく言ったもので、双弥はジャーヴィスが寝静まったところで聖剣を奪い、前日まで隠そうかと考えている。
「それでハリー、そいつはなんだ?」
「うっせえな。アメリカ開拓時代にはもう剣なんて使っちゃいねーんだよ」
ハリーが手にしているのはトマホーク、インディアンが使っていた斧である。だがそもそもインディアンのトマホークは西洋から伝わったものらしいのだが、自分たちの使いやすいように改造しているのだからそれはまあよしとする。
とはいえ無銘であるし、そもそも剣ではないため双弥の妖刀より異端かもしれない。
「それより迅よ、クラ●ス出してくれよ、ク〇タス!」
「……ぬ、忘れていた」
ハリーの催促で思い出した。鷲峰は色々と忙しく、クラ●スの存在を忘れていた。思い出した途端、無性に乗りたくなる。
「そうだ、迅。私にも載せる約束であっただろう」
「お、俺も! 俺も乗る!」
「チッ、しゃあねえな。オレも付き合ってやるか」
大人気だ。ムスタファはまだしもフィリッポまで来るとは思いもよらなかった。
「じゃあみんなで戦争をしようよ! アジア・中東対ユーロ・アメリカだ!」
ジャーヴィスがくだらない提案をする。双弥たちは当然そんな条件を受け入れる。面白ければなんでもいい。やんちゃな少年たちだ。
かくして双弥たちはク●タスによる、戦争という名の遊びを始めることとなった。
「おい迅、弾幕薄いぞ!」
「くっ。なんであいつあんなに上手いんだ!」
双弥と鷲峰はフィリッポに翻弄されていた。どうやら彼は女性以外にも乗るのが上手いらしい。右へ左へスラロームさせるように距離を置きつつ撃ってくる。
「ここは我が往く。貴様らは木っ端を蹴散らせ!」
王がノリノリでフィリッポのトリッキーな動きを追って行った。アニメ好きだったりと意外すぎる面を最近見かける。
「ぬはははは! なかなかやるなぁ! 砂漠じゃ埋まってできねぇだろうけど!」
「貴様こそな! 石油利権に埋もれた戦争屋め!」
あちらではハリーとムスタファの一騎打ちだ。遊びのハリーに負けないだけの力がムスタファにもあるようだ。案外俗なのだろう。
「よし、俺たちはジャーヴィスだな」
「ま、待ってよ! 2人掛かりはずるいよ!」
双弥と鷲峰はジャーヴィスを追い詰めていく。FPSが得意なジャーヴィスでも、不慣れなロボット操縦で2人掛かりは厳しい。
「うらぁヒット!」
「ま、まだだよ! まだメインカメラがやられただけだ!」
ク〇タスにはサブカメラがない。つまりなにも見えないわけだ。あとはハッチを開いて目視するしかない。だがそれでは生身を晒すことになってしまう。
万事休す。双弥たちはジャーヴィスを嬲ろうとしていた。
「はっはー。おれっちを忘れてもらっちゃ困るな!」
今までどこへ隠れていたのか、突然ジークフリートが現れた。それを見た双弥たちは目を見開く。
「おい、てめぇ! 陰でこそこそしていたと思ってたら……っ」
「おうどうよ日本人! ざまぁみろ!」
双弥と鷲峰は悔しさで歯ぎしりをする。理由は、鋼色をしたジークフリートのクラタスの右肩が赤かったからだ。
ロボット大好き少年たちの憧れ、赤肩部隊。彼は塗るのに時間がかかり、今ようやく参戦してきた。
「目標変更! ジークからぶっ潰す!」
「行くぞ双弥! ジェットスト●ームアタックだ!」
三位一体攻撃を2人でどうするつもりかは疑問だが、とにかく楽しそうでなによりだ。
こうして勇者たちのレクリエーションは終わり、なんとなく絆が強まった気がする。
双弥たちが遊びに興じているなか、エイカたちはハトハやリティを連れ、アニメに興じていた。初心者アイドルの教本としてこの世界では学園部活アイドルもののクラブライブが選ばれている。
これにはリリパールとハトハが号泣。何度も見ているエイカやアセットも涙ぐんでいる。しかしここへ水を差す人物がいた。リティだ。
「よくわからにぃんだけど、そつぎょー? とかいうのしても、別れるわけじゃないにぃ?」
「えっ……。うん、それはそうなんだけど……」
「がっこーとかいうのがよくわからにぃんだけど、そこにいないと一緒にいられないわけじゃないにぃ? だったらそつぎょーしてからも続ければいいにぃ。なんでしないにぃ」
「えっと、あのね、そういうんじゃないんだと思うんだよ……」
「なんでにぃ? そうすれば泣く必要なかったにぃ。みんな楽しいままにぃ」
獣人族は基本的に学校というものはない。もちろん教育はされているのだが、それは親や周りの大人の仕事であって、システムとしての学校的な教え方をするわけではない。
キルミットは豊かな国なため、教育は行き届いている。だからエイカも魔物の襲撃事件があるまで学校のようなものへ通っていたし、リリパールは当然通っていた。アセットも裕福な商人の娘だったから別の国だが通っていたし、ここオウラ共和国に関しては商業を重視した国なため、教育には力を入れている。つまり学校というものを理解できている人々が多いためストーリーに共感できていると思っていいだろう。
エイカたちには流石にそれを教えることができない。エイカは複雑な気持ちを抑えながら、ディスクを入れ替えた。
次に見るのはプロフェッショナルなアイドルたちの物語。先ほどのクラブライブが初心者用ならば、こちらは中級者用、アイドルマスタードだ。
これならどうだと言わんばかりにエイカは2人とリリパールへ見せた。
「────やっぱり世の中はお金にぃ」
「だよねっ」
リティの言葉にエイカが賛同する。元盗賊と同じ意見であると考えたら色々と問題がある気がする。
「エイカさん。それは少々短絡的だと思うのですが……」
「だけどさ、アイドルマスタードではたまたま自分の事務所に権力がある子がいたからなんとかなっただけで、もしこれが私たちにも……あっ」
エイカはふと気付いてしまった。そう、ここにもいるのだ。金と権力を併せ持つお嬢様キャラが。要するにあ~まぁ・すりぃぶ改めセリエミニは安泰であるということになる。余計な心配はいらなかった。
「リティちゃん、私たちにはリリパール様がいるんだよ。アイドルマスタードに出てくるおでこのお嬢様よりも凄いんだから」
「それは安心にぃ。大手にいじめられることはないにぃ」
2人は無駄に喜んでいる。
現在芸能アイドルの事務所はここしかない。つまり唯一且つ最大手ということになるのだ。双弥がしょっぱいからといって下に見過ぎである。
「それでどうかなリティちゃん。私たちとアイドル、やろうよ!」
エイカは笑顔でリティに手を差し出す。まるでアニメの主人公のようだ。リティはその手をそっと掴もうとし、引っ込め腕を組みそっぽを向く。
「し、仕方ないにぃ。あんたらだけじゃ不安だから面倒みてやるにぃ」
リティはツンデレ役が気に入ったらしい。互いになりきっている。
だがクラブライブの猫キャラはツンデレではなく、明るく元気な次期リーダーだ。間違えてはいけない。
それから半月後、とうとうこの日が来た。もちろんあ~まぁ・すりぃぶのファイナルライブだ。
セリエミニのことはまだ世間に黙っている。サプライズというやつだ。
とはいえあ~まぁ・すりぃぶとしての活動は今日が最後。エイカたちも気合が入っていた。
「いいか、今日があ~まぁ・すりぃぶのファイナルだ。だけどこの終わりはただの終わりじゃない。次の始まりのための終わりだ!」
「はいっ!」
「今回はいつもなんか比べものにならないほどの観客が来ている。今日のために用意したドームが満席だ。首都や周辺の町どころか、他国からも来ているはずだ」
「はいっ!」
もちろんほとんどがセィルインメイだ。この日のために改宗した人の数、実に1万。みんなアホ……いや、純粋にアイドルというものが大好きなのだろう。
「ちなみに、一応言っておくが、今回のことで脅迫状や殺人予告、それにファイナル反対の嘆願書の類が山ほど届いている。もしなにかあったらエッカ、みんなを守ってくれ。リリはいつでも回復魔法が使えるように」
2人は頷く。一番危険なのは最後の曲が終わった後だ。
だから今回、最後の曲は終わらない。曲が流れたまま次の曲へ切り替わり、そこで新しい3人が現れる。電飾もセリエミニとなり、華々しくデビューするという予定だ。
この演出はかなり叩かれるだろう。不安を煽り、悲しみの最高潮でやめへんでーと言うわけだ。どこかの芸人のネタとは違い、本気で悲しんでいる人たちの気持ちを弄ぶような行為である。
それでもインパクトを求めるのがこの業界だ。地球にも解散ライブをやった翌日に復活ライブをやったようなアイドルグループもいることだし、大目に見てもらおう。
ライブは今のところ、滞りなく進んでいる。残すは最後の曲だけだ。エイカたちはもとより、双弥にも緊張が走る。
「チハ、ティー、チャチャ、準備はいいか?」
ハトハ、リティ、チャーチストは無言で頷く。かなり緊張しているようだ。
それはそうだ。誰もいないような野原から始めたあ~まぁ・すりぃぶと違い、彼女らは満席の観客の前からデビューだ。緊張するなというほうが無理だ。
その前に双弥はチャーチストを連れ、ステージ脇にある小さなボックスへ入らせる。外からはわからないが、ここからだと場内が見渡せる。
「2階席、左側に危険な集団」
チャーチストに指摘されたところを見ると、数十人の集団が首にロープを巻き始めた。最後の曲が終わるのと同時に首を吊るつもりだろう。入場ゲートで危険物は持ち込めないようにしていたが、さすがにロープは考えていなかった。
ファンの意識として、最後の曲だけは聞きたいはずだ。だからまだ猶予があると言える。だが判断を誤ってはいけない。
ステージの明かりが一瞬赤くなる。これはエイカに向けての合図だ。段取りの変更である。
「みんなぁーっ! 聞いてー!」
エイカが叫ぶ。すると会場は静まり返った。皆はエイカ──エッカの言葉一言一句を聞き逃さぬかのように耳を澄ませる。
「あ~まぁ・すりぃぶは今日でお終いだけど、私たちの活動は終わらないよ!」
エイカの言葉に場内は混乱する。意図が掴めないらしい。
だからエイカはきちんと説明する。ファンであるみんなのために。
「あ~まぁ・すりぃぶは私たち3人だけの名前。1人でも変わったらそれはあ~まぁ・すりぃぶじゃないんだよ!」
会場はまだわかっていない。様々な憶測が飛ぶ。誰かいなくなるのか、それともメンバーチェンジか。早く先を聞きたい。皆エイカに注目する。
「────そんなわけで、私たち3人は次の曲であ~まぁ・すりぃぶを最後にして、6人のセリエミニに生まれ変わるよ!」
そこで会場が騒ぎ出す。あ~まぁ・すりぃぶは今日で最後でも、まだ彼女らの活躍は見れるのだ。とても喜ばしい。
状況を把握できない人もいるが、周囲が教えて共に喜ぶ。嬉しさのあまり泣き崩れる人までいる。
自殺や周りに危害を加えようとしていた人物たちも思いとどまる。そんなことをやる必要がなくなったのだ。
双弥はもしなにか起こりそうな場合を危惧し、トラブルが起こる前にエイカがみんなにバラすよう指示していた。結果、あ~まぁ・すりぃぶのラストソングはこれまで以上の盛り上がりを見せ、大成功に終わった。
そして曲の余韻が残ったまま、ハトハたちが飛び出して6人で歌いだす。そこで再度盛り上がる。
曲が終わって新メンバー紹介。みんな緊張しているが、それなりにできた。ファンの大半は好意的だったが、否定的な声も聞こえた。
それでも笑顔を絶やさず声を出すハトハたち。彼女らのデビューは大成功と言えるだろう。
これで当分の間、彼女たちは芸能活動で忙しくなるだろう。大変だが充実した日々を送ってくれるはずだ。双弥の狙い通りである。
それから数か月後、双弥たち勇者は姿を消した。




