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聖剣の勇者たち ※俺だけ妖刀  作者: 狐付き
2章 神託 タォクォ王国
16/201

5話 正体

「貴様らを館に入れることはできない」

「な、なんでだよ!」


 仕事を終えた双弥たちは報酬を得て少し町をぶらつき、イコ姫の別邸へ戻ってきた。

 が、何故か文字通り門前払いを受けている。


 前日の話し合いでは一応双弥の寝食を保証してくれることになっていた。なのに一夜明けてこの状況。納得はいかないだろう。


「待ってくれ、話だけでもさせてくれ!」


 鷲峰が食い下がる。

 一体何故このような仕打ちを受けねばならないのか。理由を説明して欲しいのだろう。



 門の前で悶着をしていると、建物からイコ姫の側近である髪の短い女性がやってきた。


「貴様らは娼館に行ったのだろう。汚らわしい」


 先ほどのあれを見られていたようでイコ姫は大憤慨し、リリパールは2人を汚物認定したようだ。


「俺は違う! 双弥に無理やり付き合わされて仕方なく──」

「言い訳は御無用。汚れが払拭されるまでこの館に近寄らぬように」


 娼館とは紳士の社交場などと言われているが、その闇は深く重い。

 働く女性は飢饉に喘ぐ農村から売られた娘などであったり、圧政に耐え切れず国外へ逃亡した後、働き口がなく借金の末送られたものが多い。所謂暴力団やマフィアと呼ばれるものが牛耳っているところも多々ある。

 金がかかるからと病に倒れてもロクに治療してもらえず、死んだら捨てられる。日本にも投げ捨て寺と呼ばれる寺がある。

 中で行われていることも情事のため外から見えないようになっている。つまりそこで麻薬が取引されていようがスパイが情報交換をしていようが気付かれにくいのだ。


 とはいえ施設を必要だと望む声は大きく、しかもきっちりと国や役人に払うものは払っている。それが正しい金かはさておき、そのため国としてはその存在に見て見ぬふりをしている面がある。

 国に理想を持っているリリパールにとっては忌む場所でもあるのだ。



「おい双弥、お前のせいだぞ! どうしてくれるんだ!」

「お前の言い方にも問題があったぞ。あれじゃあやったと受け取られてもおかしくない」

「俺はやってない!」


 実際のところ2人とも何もしていない。

 だがそうだと一度思い込まれてしまうと誤解を解くのは難しい。ほとぼりが冷めるまで大人しくしているのが身のためだ。



 2人は仕方なしに先ほどの報酬を使い宿で泊まることにした。






「勇者……私の勇者……」



 誰かの声がする。双弥は宿のベッドから身を起こし、辺りを見回した。が、そこには誰も──


 いた。

 一体どこから入ったのだろうか、イフダンの少女が双弥の横に立っていた。

 だが雰囲気が全く違う。顔もいつもの無表情ではなく、どことなく慈しみを感じさせる。


「きみは一体……」

「申し訳ありません私の勇者よ。私は今、この少女の体を借りて貴方に語りかけています」


 他人の体に意識を移すなんてできるはずが、とここまで思っておきながら双弥はその先を考えないでおいた。

 その代わり、さすがファンタジー世界。そういうこともあるんだなと関心した。


 だがここにいくつかの疑問がある。何故意識だけなのか。どうして自分と接触してきたのか。そして私の勇者とは一体。

 一気に聞いても相手が答えに悩むだろうと思い、双弥は一つづつ片付けることにした。


「俺が勇者? 間違いではなく?」

「はい。あなたは私がお呼び致しました」


 双弥は安心した。やはり自分も呼ばれた勇者の1人であることが確認できたからだ。


「とすると、あなたは創造神?」

「いえ、私は破壊神です」

「いっ!?」


 双弥は狼狽えた。

 よりにもよって破壊神ときたものだ。


「勇者は創造神が召喚したと聞いたんだが……」

「貴方は別口で私が招いた、たった1人の勇者なのです」


 大方の予想通り、双弥は他の4人とは違った存在だった。

 しかも呼び出した相手は破壊神。創造神とは対極の神だ。ということは双弥と4人が敵になるということになる。


「じゃ、じゃあ俺は魔王側の……」

「お願いです、私の勇者よ。魔王を破壊してください」

「あれっ?」


 どういうことだと双弥は頭を捻った。

 破壊神が召喚したということは、魔王側としてであると考えるのが妥当だ。

 仲間割れということだろうか。


「魔王って破壊神側のヤツじゃないの?」


 それを聞いて、まさかと言いたげに顔をしかめ、目を閉じる少女。

 精神が乗っ取られているからとはいえ表情がコロコロ変わるのに双弥は新鮮さを覚えた。


「考えてもみてください。私は破壊神。破壊を司るもの」

「だから魔王を使って破壊しようとしているのでは?」


「私は何かを創ることができません。もちろん魔王でさえも」


 魔王は誰かに創られたものだというのだろうか。しかし破壊神でないとして、創れる神といえば……。


「つまり……魔王は創造神が創ったものだと?」

「そういった認識で構いません」


 衝撃的事実に双弥は暫し唖然とした。だが話がそこで終わるはずもないため、考えるのを途中で止め、先へ進めることにする。


「なんでそんな真似をするんだ」


「神とは……」


 破壊神はこの世界の神と呼ばれる存在について語った。


 所謂神の力というものは、信仰により増していくものだ。

 信仰が薄れた神はその力を失い、姿が獣などになり地上に堕ちる。

 それは神としての屈辱であり、そうならないためにならなんでもする。それこそ人を欺き陥れようとも。


 そして最上位になるために何でもする神がいる。その筆頭が創造神だ。


「つまり魔王を創って自作自演で自分の評価を上げたうえ、破壊神に悪名を擦り付けようって魂胆かな」

「そうです! その通りなのです! ムカつきますわよね、あのハゲ!」


「いや、ハゲかは知らないが……」

「とにかく私の勇者よ。貴方が先に魔王を倒し、あのハゲの野望を阻止するのよ!」


 少女がびしっと人差し指を突き立てる。


「てかぶっちゃけ誰が倒しても同じ結果になるんじゃないか?」

「あなたが倒し、そして世界にこう告げるのです。『やあやあ我こそは破壊神様により魔王を倒すよう遣わされた勇者なり』と」


 そんな恥ずかしい口上をしなくてはいけないのかと思うと、若干やる気が削がれる。


「てかさ、俺だけ他の勇者と違ってなんの力もないんだけど」

「そんなことはありません。あなたに授けた刀はどの勇者の剣よりも強いはずです」


 胡散臭そうな目で少女を見ている。なにせ鞘については力があることを理解できたが、肝心の刀身が全く使い物にならないからだ。


「私の神としての力を最大限注ぎ込んでいるのですよ。あまりにも強力過ぎて自分でさえ近寄れぬほどに」


 同じ力であればより強いほうに支配される。それが神の理らしい。


「鞘が有効なのはわかったけどさ、剣はなまくらだろ。それと他の勇者みたいな身体能力が上がらなかったし」

「簡単な話です。何故あなたは破気を受け入れないのですか」

「破気ねぇ」


 俗に言う悪気や邪気、妖気などは様々な気の混合だ。その中に破気もある程度含まれている。

 そのせいで破気もその類と間違えられやすいが、邪悪などとは全く異なる性質をもっているのだ。


 それは純粋な力。破壊の象徴。禍々しく感じるのはそれに対する恐怖のせいだ。

 双弥も他のもの同様、それに恐怖を覚え、無意識に拒絶してしまっている。


 本来ならば体に取り込まれるはずの気は、そのために行き場を失い刀身から溢れてしまっている。



「受け入れなさい。そうすればきっと貴方は誰よりも強い」

「受け入れる、か」


 あの気には恐怖が付き纏う。それを体の中に通すというのはかなりの勇気が必要だ。


「最後にひとつ。中にいてわかったことを教えておきましょう。この少女の名はエイカ・リッジです」

「あっ、おい……」


 それだけ言い残し、少女は膝をついた。意識が入れ替わったのだろう。

 最後の最後にあまり必要のない知識だけ置いて行ったなと思いつつ、双弥は倒れそうになる少女──エイカを支え、無事を確認する。




「先に魔王を倒してくれって言われてもな……」


 つい愚痴る。

 だが皆騙されて魔王の影に怯え、創造神を崇めるというのが気に入らない様子だ。

 別にこれは正義感ではなく、単純にムカついているだけらしい。


 破壊神に言われてやるのもどうかと思うが、少なくとも今更リリパールのためでなく魔王と戦えるならそれもよしとする。

 どちらにせよ元々戦おうとしていた相手だし、せっかくの異世界召喚魔王ものを堪能したい。


 だが自分には、あのヒステリックゴッデスの言うような力があるのだろうかと考える。

 確かめるためには、まず妖刀をどうにかしないといけない。

 双弥は傍らに立つ少女の顔を見て、ひとつの案を思いついた。


「エイカ。ちょっと頼みがあるんだが」




 エイカにより妖刀の奪取に成功した双弥は1人、森の中へ入っていった。

 暫く歩き周りに誰もいないのを確認し、鞘に手をかける。


 (拒絶するせいで剣から漏れてしまう……って言ってたよな)


「ぐ、ううぅ」


 噴出す破気に、双弥は顔を顰める。

 こんなものを体の中に通してしまったら一体どうなってしまうのだろうかと。


 気持ちとしてはわかっていても、深層心理が拒絶してしまう。

 それでもこれを通過せねばこの世界での強さを得られない。双弥は覚悟を決め、体の力を抜いた。


 (うっ……、体の中に入ってくる……)


 力んだらそこで流れが止まってしまう。恐怖と闘いつつ力を抜いた状態で保ち、全身に行き届くまで耐える。


 そこでふと双弥は気付いたことがある。

 全て体内に取り込んでいるため、確かに刀身から破気が発することはない。これならば他人に恐怖を与えることはないだろう。


 双弥はその刀身を触ってみた。


「うおっ」


 破気を取り払った状態の刀身は、やはり切れることはなかったが、やすりのようにざらついていることがわかった。

 これで切れるとは思えないが、試しに近くの木に向い、構えた。


「せぁ!」


 掛け声と共に一閃。本来ならば木に当たりそこで止まってしまう。だが双弥の腕は最後まで振り抜けることができた。


 そして少し間を置いて木が倒れる。その切れ目は真っ黒になっていた。

 これは切ったというよりもやすりで一瞬に削ったようだ。黒いのは恐らく摩擦熱により燃えたからだろう。


 そんな真似ができるだけ身体能力が上がったようだ。これは確かに力だけなら他の勇者にも勝てるかもしれない。

 だがシンボリックに対抗できるほどではないだろう。魔王とだけ戦うことに専念し、勇者とは戦わないほうがいい。

 

 少なくとも魔物相手であれば楽に戦えるはずだ。

 双弥は満足し、剣を納めた。

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