14話 鷲峰の野望
「ラン、ナ、チャー! はいっ」
ゴスロリ少女たちは言葉通り、無心に棍を振るう。指導しているのはエイカだ。
現在、日が薄っすらと地平線に顔を出した辺りの時間。エイカのいつもの朝稽古だ。双弥は仕事で昨日の昼からいないため、せっかくだからとエイカは少女たちにも棍の使い方を教えている。
「うーん、余計なこと考えていないせいか、みんな綺麗に突くなぁ」
エイカは少女たちの動きに関心している。
今のうちにちゃんとした動きを染み込ませれば、意識が戻っても同じように動けるだろう。かつてのエイカがそうだったように。
双弥が出掛けている間、エイカはいつもこっそり彼女らに双弥から教わっていたものを叩き込んでいた。これは決していじめや嫉妬などではなく、自分でやってきてプラスになったことだから、彼女らにもきっと役立つことがあるかもしれないと思っているからだ。意識を取り戻し、その後どうなるかなんてわからない。だけど双弥や自分についてくることになっても、そうでなくとも町の外は魔物が徘徊しているから知らないより知っていたほうがいい。
それにこの状態である彼女らは、文句も言わずただひたすらに同じ動作を繰り返す。だから熱血指導もいらないため、とても教えやすい優秀な生徒だから気疲れもしない。エイカはなんだかんだ言ってもまだ双弥から習って1年と半年ほどだ。本来なら人に教えられるほどの知識はないのだが、こういう相手なら問題なく教えられる。
とはいえエイカの練功は同じ期間なら、日本の武術家の練功の数倍は積んでいる。毎日10時間以上も続けられるのはきっとエイカと李●文くらいなものだろう。
「ん、そろそろお兄さんが帰ってくるかな。じゃあ今日はここまでにしようか」
これから全員に入浴させ服を着替えさせる。1時間以上の作業になるため、練習を中断させる。
エイカは双弥があと2時間くらいで帰ってくるような気がした。これはリリパールの双弥位置把握能力とは別のなにか恐ろしい双弥感なのだろう。この2人が揃うと正直なところ双弥に逃げ場はない。
「ただいまーっと」
「おかえりお兄さんっ」
双弥が屋敷に戻ると、いつも通りソファへ座らせられているゴスロリ少女たちがドアを向く。そして一瞬にして顔がデレッとなる。エイカはため息をつきながらも傍へやってきた。
「それでどうだった?」
「んー、まあ依頼は問題なかったよ」
なにか言葉にひっかかるものがある。依頼は問題なかった。これでは依頼以外に問題があったように聞こえる。
「なにかあったんだ?」
「なんでも今、高ランクの仕事がないらしい。あっても長期だけだから厳しいな」
「ありゃあ」
折角屋敷を買い、しかもゴスロリ美少女たちに囲まれているのに長期出張なんてやりたくない。それに長期出張の間、買い物とかをどうすればいいのか。貯金を下ろせばいいといっても、少女しかいない屋敷に大金を置いて出かけるわけにもいかない。
「……エイカ」
「えっ……やだよ」
「だよな。俺もそれだけは勘弁して欲しいし」
双弥がなにを言いたかったかエイカはすぐわかった。自分が稼ぎに出たらどうかという話を持ちかけてみようとしていたのだ。とはいえ双弥だってそんなことはしたくない。少女のヒモとかどれだけ悲惨な男なんだという話になってしまう。
それにエイカだけで依頼を受けるのに、双弥はやはり不安がある。今のエイカは本当に強いが、魔物を倒した後に油断する癖が未だ抜けていない。そんなところを狙われたらひとたまりもないだろう。
「じゃあ暫く仕事休む?」
「蓄えはいくらでもあるからそれも悪く無いんだけど、できれば間を空けたくないんだよなぁ」
ホワイトナイトの中には春から秋にかけて働き、冬の間はその蓄えで生活するという、冬眠型ホワイトナイトという人たちもいる。だが双弥は働き続けようとする辺り、ワーカーホリックの気があるのかもしれない。
こうなったら少し離れた町にでも行ってみるかと思っていたところ、鷲峰が双弥の館に訪れてきた。
「おい双弥、いるか?」
「どうした迅」
「お前確かドラゴンを倒したとか言っていたよな?」
「ああ、懐かしいな。もう一年くらい前か……」
「ドラゴン退治の依頼がある。来るか?」
再びドラゴン退治の話だ。今の双弥であれば、無傷に等しい程度の被害でパーフェクトドラゴンを倒せるだろう。これでまた大金を手に入れられるというのであれば、喜んで行くだろう。
「てかドラゴンってことはルーメイー王国か?」
「いや、オウラ共和国で出たらしい。なんでもシルバーナイトの中隊が壊滅したそうでな、募集は首都でやっているようだ」
オウラ共和国はシルバーナイトが少なく、代わりにホワイトナイトが多い。本来ならばシルバーナイトが行う仕事をホワイトナイトで補っているため、ホワイトナイトに仕事はいくらでもある。
ドラゴン退治は本来シルバーナイトの仕事なのだが、そういった理由でホワイトナイトにも依頼が来たようだ。だがやはり命あっての物種であり、集まりは悪いらしい。
「つまりひとりで倒せば総取りってことだな?」
「まあそういうことだが、お前だけにやらせるつもりはないからな」
鷲峰も金を稼ぎたい。それに自分の旦那がドラゴンバスターとなればチャーチストも鼻が高いだろうし、もっと惚れるかもしれない。そうなればいくらでもゴスロリを着てくれる可能性がある。それはやるしかない。
「んー、じゃあ2人で割るか」
「3人で割りましょう」
そう言ってきたのはリリパールだ。直接戦闘をしなくとも、超回復ができるリリパールが後ろで控えているだけで心強い。多少無茶したところでもなんとかなるからだ。
「ああ、俺はそれで構わないよ」
「ちょっと待て双弥。それはずるいだろ」
リリパールのことだ。自分の取り分は双弥に渡すと言うだろう。そうなったら双弥の取り分は3分の2になる。それでは鷲峰が納得しない。
「ずるいって言われてもなぁ」
「大丈夫です。私の分は双弥様に渡しませんから」
リリパールには考えがあるようだった。
リリパールは今回の報酬の全てをセィルインメイ、破壊神教会に寄付するつもりだ。ドラゴンの概要はわからぬが、双弥が最初に相手したようなただのドラゴンですら、一匹倒せば普通の暮らしをするなら使い切るのに一生かかる。3等分してもそれなりの金額だ。
「そういうことなら仕方ないな。なら4等分にしよう。半分が寄付金、残りが俺と双弥。いいよな?」
「ああ」
双弥もそれほど金に困っているわけではないからその提案に頷く。今は破壊神に力をつけてもらいたいから、なるべく寄付をしたほうがいいのだろう。
そんなわけで双弥たちはドラゴン退治のため、首都にあるホワイトナイト協会へ向かった。
「メイルドラゴンかぁ」
「戦ったことあるのか?」
「俺が倒したのはその上、パーフェクトドラゴンってやつだからまあ楽勝じゃないか?」
双弥たちはDDNPでおよそ3時間飛んだところにある首都のホワイトナイト協会で概要を聞いていた。名乗りを上げていたパーティーは集まりが悪かったせいで解散してしまっているという、かなり厳しい状況だった。
メイルドラゴンは厚い鱗の装甲が特徴で、ファイアフレムなどの火炎攻撃はしてこない。牙と爪、そして尻尾が基本攻撃だ。あとは踏みつけなど、状況に応じて別の攻撃をしてくる程度である。
それでもメイルドラゴンは普通のドラゴンよりも格段に強い。もちろん報酬も相応に跳ね上がる。4分の1でも遊んで一生暮らせるくらいの金額だ。
「あの、これ受けます」
「えっ? あ、はい、助かります。それでは募集をかけますか?」
「いや、俺たち2人だけでいい」
「えっ!?」
驚いたのは受付だけではなく、リリパールもだ。自分も一緒にやるといったのに、何故含まれていないのか。
「えってりりっぱさん、自分をなんだと思ってるの?」
「なにって、私も双弥様たちと共に行くと伝えてあるはずです!」
「でもりりっぱさん、ホワイトナイトじゃないじゃん」
「あっ」
リリパールはホワイトナイトではないため、頭数に入らない。この場ではホワイトナイトである双弥と鷲峰の2人で討伐ということになる。
「わ、私もホワイトナイトに……」
「それは無理だよ。だってりりっぱさん、今のジャーヴィスより弱いんじゃないか?」
「ううぅ……」
ホワイトナイトに登録するためには、ある程度の強さが必須である。いくら魔法が優れていたとしても、発動までの間にやられたら意味がないからだ。少なくとも武器だけで小鬼くらいは倒せなくてはならない。
「あ、あのー……」
「おっと忘れてた。すみません、2人で受けますんで」
「本気ですか? ドラゴン甘く見てませんか? それともルーメイーでパーフェクトドラゴンをひとりで倒したという英雄にでも憧れてるのですか? バカですか?」
「えっと、それ俺なんだけど……」
「はぁ!?」
そのことを言えば、だったら大丈夫ですね的な流れであっさり引き受けられると思っていた双弥は、とんでもなく甘かった。応接室に拉致られたうえ、協会のオウラ支部長まで呼び出される始末。余計に面倒なことになっている。
「あの、貴方が本当にパーフェクトドラゴンをおひとりで……?」
「え? まあはい」
支部長が恐る恐る訪ねてきた問いに双弥が答えると、支部長は机を乱暴にドンと叩いた。
「おい貴様、なにを突っ立っておる! さっさとお茶と菓子を用意しやがれ!」
「は、ハイ!」
支部長が怒鳴りつけると、ドア付近にいた職員が慌てて部屋から出る。そして支部長は真面目な顔を双弥に向けた。
「再度聞かせて頂きますが、もちろん真実なのでしょうね」
「ええ。確認してもらっても構いませんよ」
ドラゴン退治といえばルーメイー。実はドラゴン退治の指導のため、ルーメイーから数人派遣してもらおうとしていた。
だが早馬を飛ばしたところで、こちらに来てもらうのには合わせて2か月もかかってしまう。海路のほうが日速はあっても迂回するため大差ない。それまでの間にどれだけの被害が発生するかわからない。だから呼べないでる。
ようするに確認しようがないわけだが、実際にドラゴンとやり合ってもらうことで証明とすれば問題ないだろう。前金なし、成功報酬のみであれば文句はないはずだ。
「わかりました。では宜しく頼みます」
支部長は深々と頭を下げた。
鷲峰はファンタジーの王道、ドラゴン退治に胸を躍らせ、双弥は今の実力を測るのに丁度いいとし、協会を後にした。
ちなみに、その後持ってこられた菓子は支部長がおいしく頂きました。




