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聖剣の勇者たち ※俺だけ妖刀  作者: 狐付き
2章 神託 タォクォ王国
14/201

3話 双弥VS

「なに? リリパールが来ておるとな?」


 昼下がりに中庭で日課の腹ごなしをしていたイコ姫は、家臣からの報告を聞くと少し顔をしかめた。

 どうやら緊急の用があるとのことで、使者ではなく本人がやって来たらしい。


「ふむ、リリパールのあほうめ、しくじりおったか」


 何かしらの行事でもない限り訪問するなんてまずない。あれだけ嫌がらせをしているのだ。好んで来るほうがおかしい。

 だというのに緊急だといってここへ来る理由。それは双弥のことで間違いない。


「姫様、いかがなされますか?」

「話を聞かれとうない。わらわの部屋へ案内せよ」


 イコ姫はそう言い、自室へ戻った。





「申し訳ございませんでしたっ」


 部屋に通されるなり、リリパールは惨めにも地面へ頭を擦り付ける。

 服装も公式の場へ出るようなドレスではなく、通常の爵位を持つものが着る礼服だ。


「よい、リリパール。こうべを上げい」


「ですが……」

「リリパールよ、妾は戦争が嫌いじゃ。マリ姫の手前、色々せねばならぬが、妾はおぬしと争いとうない」


 その言葉でリリパールは、はっとしたように頭を上げイコ姫を見る。


 イコ姫は他の姫君と違い、周りをよく見ている。

 普段から臆病にしているリリパールのせいで国自体も弱く見えているが、イコ姫はその国力が自国に匹敵するほどのものだと気付いている。

 それだけの大国と戦争をしたら、何も得られぬだけでなく疲弊だけが残り、国としての機能が損ないかねない。


 そしていつも怯えるリリパールの瞳の奥には、決して濁らぬ輝きがあることに興味を持っていた。


「他国の姫がいるときにはできぬが、妾はリリパールと仲良くしたいのじゃ」


 そう言ってイコ姫はにこりと笑い、手を差し伸ばした。





「して、本日参られたのはその報告だけかや?」


 用意した椅子にリリパールを座らせ、ティーテーブルを挟みイコ姫は対面に座る。

 そしてリリパールの顔をじっくり見るように頬杖をつき、足をパタパタさせていた。


「えっと──」

「えっとはやめい」


 突然言葉を遮られ、リリパールは一瞬ぶるっと震えるが、一度俯くと真っ直ぐイコ姫へ顔を向けた。

 いつもの弱々しさのない凛々しさに、イコ姫は嬉しそうな、そして興味深そうな顔で見返す。


「……はい。本日私が馳せ参じたのは、双弥様がこちらへ入り込んだとの情報を得たので」

「ふむ、なるほどのう。で?」


 淡々と喋るリリパールの姿を、楽し気な笑みを浮かべてイコ姫は見ている。

 それは馬鹿にしているようには微塵も見えなく、目の前にいる切れ者が次にどんな手を持ち出してくるのか観察しているようであった。


「できれば進軍の許可を」

「ならんわ。いくら妾でも父に相談もせず他国の兵士を入れるわけにはいかん」


 リリパールの申し出をノータイムで切り捨てる。

 正論であるし、この後リリパールがどう切り返すのかを見たいというのもある。


「ではそちら側で宜しくお願いします」

「ほう。もっと強く来ると思ったが、意外じゃな」


 イコ姫はリリパールのことを、自分のミスは自分で取り返すタイプだと思っていた。

 だというのに彼女は自らの尻拭いをせず、あっさりと他人に任せてしまった。


「兵といえども私の愛する国民です。彼らが危険な目に合わず目的を果たせるならば喜んで」

「ふぬ、それでは双弥殿がただで済まぬかもしれぬぞ?」

「かまいません。ですがタォクォの兵もただでは済まないでしょう」


「そうかもしれんの。その場合の補填は?」

「他国の兵に施すものはありません」


「それではおぬし、自らの失態を他国に押し付けて何も返さぬ痴れ者と笑われるぞ」

「そんなものは今更です。私は臆病者のリリパール。馬鹿にされ侮られるのがお似合いなんですよ」


 今までの臆病な演技の裏に、このような顔が隠されていたことをイコ姫は内心驚いていた。

 本来なら国際問題になりかねない話であっても、他国の姫が介入してくるだろう。『楽しいおもちゃ』を手放したくないからだ。

 そして彼女らはそれを持ち出し、更にリリパールで遊ぶ。それを彼女は震えながら受け入れる。

 全ては自国を守るために。


 イコ姫はごくりと息を飲む。しかし平然と装うと、乗り出していた身を引き、背もたれによりかかった。


「ははははは。おぬし、それが素か」

「はい。イコ様が仲良くしていただけるとのことで、私も遠慮なく言わせていただきました」


 と、リリパールはようやく笑顔を見せた。

 イコ姫は初めて見るリリパールの笑顔に、自分は絶対に敵わないと悟った。


「様は余計じゃリリパール。わらわはぬしが好きになったぞ」


 そう言い、イコ姫はリリパールに飛びついた。


「あ、あの……イコさ……イコ?」

「ははっ、リリよ。お主は凄いのぉ」


 リリパールは何が凄いのか気になった。



 これだけの芯の強さを持っているのに、他の姫の前では怯えて侮られている。

 今までずっとそうしてきたのだ。

 そして騙されているかもしれないのに、仲良くしたいという言葉だけでイコ姫に本当の自分を曝け出す。


 バカなのかと思えるが、リリパールは賢いことをイコ姫は充分に理解している。

 そんなリリパールの全てが強く、凄いと感じたのだ。



 イコ姫は第一王女である。

 下に2人の王女がおり、王子も2人いる。

 所謂長子長女だ。


 とはいえイコ姫もまだ子供。遊びたい盛りだ。

 しかし王族である以上権力争いもあり、弟妹だからといって気を緩めず付き合えない。


 他の三国の姫たちも同様だ。

 自分の行動が国に関わる。自我を押し付けることも勝手な行動をすることも許されないのだ。


 だがリリパールは違う。

 兄姉に逆らうことも争うこともせず、それどころか愛されており、そのうえで国を思い動いている。


 イコ姫はそんなリリパールを尊敬した。



 第一子であるため生まれたときはとても可愛がられていた。

 だがそれは二子が生まれるまでの出来ごとだ。物心つくときにはもう弟が生まれていた。


 そのためイコ姫の記憶には、親に甘えるというものがなかった。

 常に一番でいなくてはいけなく、母も本妻であるため負けるわけにいかず、イコ姫を女王にするため厳しく接した。

 母の期待を背負っている以上引くこともできない。


 周囲に対し常に警戒し、弱みを見せず、高貴で気高く振る舞う必要があった。


 だがリリパールはどうだ。


 他国の姫からバカにされ、怯え、その反応を楽しむようにからかわれる。

 それに対しご機嫌をとろうともせず耐え、それでいて芯は折れず誰よりも美しい。


 こんな姉がいたらいいな。これがイコ姫の本音だった。



「のうリリよ」

「どうしましたか?」



「……たまにこうやって甘えさせてもろうてもいいかの」

「ええ。私は妹が欲しかったですから」


「妾もこんな姉が欲しかったわ」


 顔をすり寄せるイコ姫の頭をリリパールは優しく撫でた。



 少しすると、イコ姫が震え、泣いていることにリリパールは気付いた。だが何も聞かず、ただ頭や背中を撫で続けた。


「……すまん、すまんの、リリ。妾が弱いばかりに……」


 今までの行いのことだろう。いじめやいやがらせというものはターゲットが1人いれば、他はそうそうやられない。

 それだけマリ姫──ファルイ王国の力が強大だということだ。リリパールもそれはよくわかっている。


「イコ。あなたはあなたの国のためにやっただけです。そういう意味では私と同じですよ」


 その言葉にイコ姫はリリパールを掴む手を強めた。





「それでイコ。双弥様の件なのですが、本当に任せても宜しいのですか?」

「よい。丁度とっておきの相手がおるわ」


 イコ姫はそう言ってにやりと笑った。





  ★★★





『おいご主人。まただぜ』

「またか……」



 双弥は本日、やたらと馬に乗り駆けていく男を目にしていた。


 それは双弥が歩いている道の傍であったり、少し離れた場所だったり。軽装ではあるが武器を持っているのは共通していた。

 最初のうちは身構えていたが、ただ単にすれ違うだけでしかないためそのうち興味をなくしていた。



 だが、あるタイミングで背中にぞっとする感覚が走る。


 (今、馬に乗って走ってた奴、見覚えがある)


 双弥はその顔を知っていた。


 2週間もの間、鷲峰に剣の使い方を教えていた騎士の1人だ。

 一瞬目が合ったから確実に双弥の顔を見ている。だというのにそれを無視するかのように走り過ぎて行った。


 おかしい。絶対に何かある。双弥は汗ばむ手で妖刀の柄を握った。




 双弥は刃喰の感覚をたよりに、前もって馬が通るであろう場所から離れるように歩き出した。

 少女を連れているため歩行速度は遅めだが、なるべく目につかぬよう気を配りつつ。



『まずいぞご主人。囲まれている』


 全然まずそうではなく、むしろ楽しそうな口調で刃喰が言う。そこで双弥は気付いた。

 なるべく離れて歩こうとしていたのが、むしろ誘導されていたことに。


「くっそ」


 誰かに言うわけでもなく双弥は吐き捨てるように言う。

 こうなったら一か八か相手の思惑に乗ってしまい、打ち勝つのがいいと感じた双弥は、右手に棍を持ちつつ左手は妖刀の鞘を握り、親指を鍔にかけた。


 だんだんすれ違った馬が範囲を狭めるように近づいてくる。


「ここで伏せて待っていてくれ」


 少女は何も反応せず、草むらに突っ伏した。その横に刃喰を1体起置き、少し離れる。


 周囲におよそ20もの馬を確認し、迎撃するために足を止め右手を妖刀の柄にかけたとき、正面の馬が早足で向かってくる。

 それが双弥の前に来たとき、馬に乗っていた男の後ろからもう1人の男が降りてきた。



「双弥」


「鷲峰君!? なんでこんなところに」


 双弥の前に立ちふさがったのは、同じ日本からの勇者、鷲峰迅だった。

 聖剣召喚を終えから、実に2週間ぶりの再会だ。


「何故? 俺はここ、タォクォ王国の勇者だからだ」

「それはわかっているけどさ、もうとっくに出発したと思ってたよ」


「訳ありでな。まあ他の連中も似たようなもののはずだ」


 理由はわからないが、そういうものかと思っていた双弥に鷲峰は一歩前へ出、他のものは遠くへ距離を置く。


「双弥、大人しく捕まれ」

「そういうわけにはいかないんだ」


「理由を答える気は?」

「ないな」


 リリパールとの愛のため、などとても言えることではない。

 さすがの双弥でもそこらへんは躊躇うようだ。


「俺ならなんとかなると思っているのか? 双弥は勇者というものを理解できていないようだな」

「どういうことだ?」


「見せてやろう。勇者のみが使える魔法、『国魔法シンボリック』だ」


 勇者のみが使える魔法というものに、双弥はいくつかの感情が湧いた。


 それがどんなものかという興味。

 自分にも使えるのかと思う期待。

 何故そういうことを教えてくれなかったのかという苛立ち。

 もしかしたら自分だけ使えないのではという不安。


 だが今はそんな余裕はない。双弥は棍を構え、鷲峰を見据えた。


 鷲峰も双弥が戦う意志を表したのを確認し、剣を前に突き出す。


「突! シューティングタワー!」


 鷲峰が叫んだ瞬間、剣から長さ5mほどの棘状のものが双弥に向かい射出された。


「うおっ!?」


 咄嗟の出来ことであったが、棍を犠牲にして辛うじて双弥はかわすことができた。

 そのときすれ違いざまに双弥はその射出されたものを見た。


 (……東京タワー!?)


 そう、鷲峰からはミニチュア版の東京タワーが射出されていたのだ。

 姿を見なければ次の攻撃に備えられただろう。しかし見てしまった双弥は唖然としてしまい、次の行動がおろそかになってしまった。



「隙だらけだ双弥! 縛! サンダーゲート!」


 瞬間、双弥の上に門が現れ落下した。


「ちょ、ちょっと待てぇ!」


 あまりにも予想外な魔法の連発に、双弥は思わず叫んだ。


 だが鷲峰はその声を無視し、門へ手をかざし集中した。

 門の中心にある赤い提灯からスパークが発生している。


 それを見上げていた双弥は、提灯の下に日○製作所と書かれているのを発見した。


(違う、あの提灯は日○じゃない、松●電器だっ)


 心の中で虚しくツッコミを入れるが、そんな状況ではない。

 棍はもう残り1本しかないが、これで耐えられるとは思っていない。ならばと双弥は妖刀に手をかける。

 だが名前からして電撃系の攻撃と推測される。これでどう耐えろというのか。


 パアァァン


 激しい雷音と共に発光する。

 双弥はその放電を咄嗟に鞘で受けていた。


「「なっ!?」」


 鷲峰は驚いた。が、それ以上に驚いたのは双弥のほうだった。

 電撃を鞘が全て受け止め、無力化させている。


 (ということは、ひょっとして……)


 双弥は悟った。


 フィリッポと戦ったとき、ジャーヴィスと切り結んだときのような衝撃波が発生しなかった。

 その原因は、威力を鞘が吸収していたからではないかと。


 そして刀身から放出される破気は何故鞘に納めていると漂わないのか。それも鞘が吸収していたからだろう。

 何故かはわからないが、この鞘があれば魔法を防御できるようだ。だがそれは双弥の動きの幅を広げることができる格好のものであった。



 数秒にも及ぶ雷撃を耐えた双弥だが、鷲峰にはまだ攻撃手段があると踏んだ。

 東京タワーに雷門。次は一体何を出そうというのか。


「まだやりあう気か? ひょっとしてキルミットの姫のため、とか言わないよな?」

「うぐっ」


 見透かされたと双弥は言葉に詰まる。


「解りやすい奴だな、お前は」

「うるせえ、ほっとけ!」


 顔を真赤にさせ怒鳴る双弥を鷲峰は鼻で笑い、そして真顔になる。


「今この地にキルミットの姫がいる。お前が降参するというのであれば連れて行ってやるが、どうする?」


 どうもこうもない。何故いるのか理解できないが、恐らく捕まってしまったのではと推測する。

 何故かはわからないが、今の状況からすると自分のせいではないかと理解した。


「……わかった、降参だ」


 双弥は両手を挙げた。鷲峰が剣を振り上げると周りの馬が寄ってきた。


「それでひとついいか?」

「なんだ?」


「あの子も連れて行ってくれないか?」


 双弥は少女の方に顔を向けると、鷲峰もそちらを見た。

 相も変わらず何を見るでもなく伏せている少女に、鷲峰は怪訝な顔をする。


「彼女は?」


「魔物に襲われて全滅した町の生き残りだ。今はショックで意識が飛んでる」


「そうか……それは……。わかった。俺に任せろ」



 双弥は捕まった。

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