16話 対決 UAE日vs米
ハリーに続いてムスタファ、そして鷲峰は外へ出た。これはお互い都合がよかったからだ。
ハリーはアメリカ人らしく爆発系のシンボリックを好んでいる。これを狭い空間でなんか使ったら自らも巻き込まれることはわかりきっているのだ。
対してムスタファは砂と風を使う。風はその特性上、細かな動きをさせられないため広い空間を必要とする。だからこその屋外戦だ。
鷲峰は狭かろうと広かろうと問題なく戦える。狭ければ自前のFPS脳で戦闘できるし、広ければ恐怖のコースターがあるのだ。
「さてと、この辺でいいだろう。いくぜクソ色つきども! 散! セクスタプルバレル!」
「防! ブルジャルガード!」
ハリーは6銃身の大型ガトリングを出現させ、かん高いモーター音を響かせる。それに対しムスタファはブルジュ・ア○・アラブの盾を出現させた。この曲面をもつ盾は大抵の攻撃を流してくれる。
「そんなもんで耐え切れると思ってんのか? 削り崩してやるぜ!」
「ふん、俺を忘れているようだな」
リズムよいサウンドとともに上空では∞を描き舞うコースターが出現する。その姿を確認したハリーは冷や汗をかく。だが強がりなのか、鷲峰を見てにやりと笑う。
「おい日本人。そいつの実物に乗ったことはあるのか?」
「ああ、子供のころにな」
「そうか。じゃあロクに覚えていないんだろうな。重要なことを教えてやるよ。そいつのサウンドはスタンプ&ハンドクラップじゃねえ。ボイスパーカッションだ!」
「なっ!?」
途端、空を舞うコースターは崩れ落ちてしまう。
シンボリックに必要なのは、その物体への確たるイメージだ。もちろんそれが間違っていようが、これはこういうものだという思い込みさえあれば出現させられる。
しかしそれをはっきりと否定されてしまうと、イメージにゆらぎが生じてしまう。今、鷲峰の記憶は揺らいでしまったのだ。
「ず、ずいぶん詳しいじゃないか、アメリカ人」
「オレは遊びのハリー。世界中の遊具を知る男だ」
鷲峰は『なんだこいつは』と言いたげな顔でどや顔ハリーを見る。超インドア派である鷲峰には理解できない趣味がここにあるのだ。
「大体な、ドド○パなんて古いんだよ。今一番速いコースターはアメリカのキンダ──」
「UAEのフォーミュラ・○ッサだ」
割り込んできたのは意外にもムスタファだ。彼にしては珍しく、少し得意げなどや顔である。
「そ、そんなことはない。キン○・カは最高時速206キロだぞ!」
「フォー○ュラ・ロッサは240キロだが」
「なっ……」
ハリーは膝から崩れ、地に手をつけた。自称世界中の遊具を知る男、遊びのハリーはここに敗れたのだ。
「…………ちなみに聞く。そいつのオープンはいつだ?」
「ふむ、確か3年ほど前だったか……」
ハリーは大地を掻くように握り締めその拳を地面へ叩きつけ、喉の奥から搾り出すような声で「ガァッデェム……!」と呟いた。その情報がハリーのもとへ届く前に、彼はこの世界へ拉致されてしまったのだ。知らないのも無理はない。
「これは……勝ったのか?」
「その答えはなんの勝負をしていたかによるな……」
加速勝負では日本、最高速勝負ではUAEに軍配が上がる。キ○ダ・カは高さで世界一なのだが、派手好きなアメリカ人にとってそれは地味に感じるのだろうか。
「フ……フフフ」
とうとう壊れたのか、ハリーは変な笑いをしながらゆっくりと立ち上がる。
嫌な予感がする。鷲峰とムスタファは少し距離をとり構えた。
「それはそれは。……だったら乗りに行かねえとな! オレは地球に帰るぞおぉぉ! 投! フィッシングスパイク!」
ハリーはミサイルを出現させ、鷲峰たちへ向かって投げた。2人は先ほど出した盾の陰へとっさに隠れる。
激しい爆発音とともに辺りは砂煙で覆われた。
「ちっ、本気を出してきやがった」
「ふむ、たかが遊具で。幼稚な男だ」
その遊具を自慢げにどや顔で語っていた男が何を言っているのだ。
だがこれでまずいことになってしまった。兵器大国アメリカが本気になって攻撃してくるのだ。
「おら隠れてねぇでさっさと出て来いや!」
「……あの野郎、自分で砂を撒き散らせておいて出て来いとはどういう了見だ」
「だがこれは好都合だ。砂さえあれば私は負けぬ!」
ムスタファは手を突き出し、魔力を集中させる。それは渦を巻き砂を巻き込み天を貫く。
「てっ、てめぇ! これはツイスターじゃねえか!」
「私は知っているぞアメリカ人。貴様らはこれに対処できんとな」
アメリカは竜巻被害が多く、数々の町を破壊している。
しかし対処できないのはどの国も一緒だ。台風であれば日本の建築なら大抵耐えられる。それでも竜巻災害に耐えられはしないのだ。
ムスタファは風を操れるというよりも、砂を操る過程で風を扱う。そしてシンボリックによって撒かれた砂はこの土地の砂を巻き込み、大きな砂竜巻を発生させることが出来た。
「くっそ……」
「降参したほうがいいぞ。どのような盾を出そうと砂風で削り消してやるから……なっ!?」
言い終わる前に突然地面が振動する。ムスタファは驚き周囲を確認しようとしている。それに対し鷲峰は冷静だ。この程度の揺れ、日常茶飯事とは言わぬが慣れているのだ。
「落ち着けムスタファ。ただの揺れだ。せいぜい震度4くらいなもの……ぐっ」
冷静に辺りを見渡していたら冷静ではいられぬものを見てしまった。少し離れた場所、魔王城の前に超巨大重機が突如として現れたのだ。
唖然とそれを見つめる鷲峰を不振に思いそちらへ顔を向けたムスタファもまた、目を見開き唖然としてしまった。
「な……、なんだ、あれは……」
「あれは……なんとかエスカレーターとかいうドイツの機械だ!」
「……迅にしては随分と曖昧だな」
「仕方ないだろ。重機は専門外だ」
男が皆同じ代物にときめきを感じるわけではない。機械好きがいれば全く興味のないものもいる。機械ものが好きといっても色々あり、車が好きでも鉄道に興味なかったり。鷲峰はどうやら重機に心踊らぬようだ。
「……おいおいおい、あのクソドイツ人、とち狂いやがったか!?」
えらい勢いで魔王城を削岩、いや、削城しているバケットホイールを見て怒りを露にしている。彼はジャーヴィスを相手にしているのだ。これくらいぶち切れてもなんら不思議はない。鷲峰とムスタファはジークフリートのことを少し哀れんだ。
それから魔王城が全て瓦礫と化すまで3人は眺め、なんとなくこの場からは戦意が失いつつあった。3人は顔を合わせ気まずそうにしている。
「……えーっと、そろそろ決着つけるか」
「……そうだな。どうつける?」
「折角だしてめぇらにもチャンスをやるぜ。サシの陸戦兵器勝負だ!」
「なるほど。ならば俺にやらせてもらおう」
鷲峰が前へ出る。自国製の兵器で考えれば当然のことだ。
別に相手の挑発に乗る必要はない。だがこの申し出はどちらかといえばこちらに利がある。へたに逆らって全力で攻撃されるよりは相当やりやすいのだ。
「装! クレイトンワーカー!」
叫ぶハリーの足元から戦車──M1エイブラムスが出現させ、これでどうだと言わんばかりのどや顔で鷲峰を見下す。
それを見た鷲峰は、フンと鼻を鳴らし、すうっと空気を肺に入れる。
「装! スイドウバシ・ドリーム!」
鷲峰の言葉に呼応するかのように彼の背後から2腕4脚のロボットが出現した。
「てっ、てめぇ、それはあぁぁ!!??」
「ふん、知っているのか」
鷲峰の背後に現れたロボット。それは夢を現実にした男たちの、日本の技術の結晶ともいえる搭乗可能型ロボ、クラ○スであった。
そして鷲峰が振り返るとク○タスの胸のハッチが開き、そこへ飛び込み搭乗する。
シートの座り心地を確かめつつ、操縦桿に触れ、ペダルの踏み応えを確かめる。鷲峰はさほど表情に出していないが、もうドキドキのワクワクである。彼の心はぴょんぴょんどころかぽっぴんジャンプで月まで届く寸前だ。
量産4脚人型兵器。今ならamaz○nで1億2千万円だ! 安い!
「……少し、慣らしをさせてもらうぞ」
鷲峰がそう言い、機体を少し動かしたところで戦車から白旗が揚がった。
「オレの負けだ! 負けでいい! いや、是非負けにしてくれ!」
ハリーの悲痛な叫びがこだまする。鷲峰とムスタファは腑に落ちないながらもその負けを受け入れることにした。
「ひゃああああぁぁっほおおおぉぉぉぅ!!」
ハリーの歓喜の叫びがこだまする。鷲峰とムスタファは若干苦笑をしながらもその光景を眺めていることにした。
彼が負けを認めた理由。それはクラ○スにどうしても乗りたかったからだ。コースターはUAEまで行く旅費などそれなりにかかるが行けないというほどではない。だがク○タスは100万ドルだ。輸送費を考えたら恐ろしい金額になる。ハリーは一生に一度でいいから乗ってみたいという夢を持っていたのだ。
「……楽しそうだな、あのアメリカ人」
「そうだな」
「ときに迅よ」
「どうした」
「あれ、もう1台出せないものか?」
どうやらムスタファも乗りたかったらしい。鷲峰は自然と浮かぶ笑みを見られぬよう口元を手で隠した。
「悪いが最後の勝負と思い、あれに全力を使ってしまった。機動力、防御力、攻撃力を最大限まで向上させたせいであと数分もしないうちに消えるだろう」
「……そうか」
ムスタファは悔しそうな顔でクラタ○を眺める。
それから1分もすると○ラタスは消え、載っていたハリーは放り出され地面に転がった。体中擦り傷ができ、砂まみれになっている。だがその顔はこの世の全てに満足したかのような、最高の笑顔をしていた。




