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ラクリマからサラへ第2の手紙

親愛なるサラ





 今日はいろいろと悲しいことがありました。この手紙を出すことは出来ないかもしれませんが、せめて書くだけでも書かずにはいられなくて、こうして筆をとっています。




 先日このこともお話ししたでしょうか、私はカインさんの昔のお仲間の話を、フィルシムに来る途中で伺いました。もっと前に、亡くなったレスターさんとそっくりなのだと彼について話したときに、サラが「そのひとも独りで辛いだろうね」と言ったのを思い出し、彼の過去を知ることで何か分かち合えないかと思ったからです。カインさんは以前のことを親切に教えてくれて、「話して楽になった」とも言ってくださいました。それらを聞いて、私は、顔や声がそっくりでも、彼はレスターさんとは別人なのだとあらためて思ったのでした。


 そのカインさんの話によれば、昔の仲間にジェラルディンさんという方がいらして、彼女が私にそっくりだということでした。ガドが私によく似たひとをフィルシムで見かけたこともあって、彼女が生きているかもしれないと、彼は希望をもって日々過ごされているようでした。




 ジェラルディンさんは確かに生きていました。


 スルフト村で泊まった同じ宿で、朝、偶然に出会ったのです。カインさんの言葉通り本当にそっくりで、最初はとても驚きました。世の中にはいろんな不思議なことがあるものなのですね。


 お二人は再会を喜んでいました。お互い、死んでしまっただろうと思っていたのですから、当然でしょう。私たちは気を利かせて――二人は恋人同士だったので――二人きりにしてさしあげました。


 ですが、そこを離れて少し経ったとき、カインさんの悲痛な叫びが聞こえました。駆けつけると、ジェラルディンさんは、体内に埋め込まれたブラスティングボタンの爆発によって、すでにこの世の人ではありませんでした。私の治療も全く及びませんでした。


 カインさんは泣いていました。ジェラルディンさんの骸を抱きしめたまま。


 二人は会えたばかりだったのに。




 サラ、私は今、どうしてよいかわかりません。


 カインさんは私の顔を見ると辛いでしょう。私がカインさんの顔を見る勇気がないのは、自分の罪を見るのが怖いからで、自業自得です。でもカインさんのは違う。彼のは本当に純粋な哀しみなのです。あれほど似ていなければ、時と共に薄れたかもしれない。でもきっと無理でしょう。ジェラルディンさんは、まるで鏡を見るようだったから。


 それに、アルトさんのこと。私はアルトさんと一緒にいない方がいいと、先日トーラファンさんに言われました。そのこともあって、先ほどからこう考えずにはいられません。本当は私がこのパーティから離れるべきなのではないかと。


 先日お話しした理由で、私はこのパーティに留まることを、あの日に決意したのでした。少なくともセロ村のハイブコアを潰すまでは、何があってもついていくつもりでした。それが最善の道と思ったからです。


 ですが、今やそれが最善の道とはとても思えません。私が自分の望みを満たそうとしてパーティに留まり、そのことがみんなを悪い方向へ導いてしまうのだとしたら……導く、などとはおこがましいですね、みんなに悪影響を与えてしまうのだとしたら、それこそ本末転倒です。




 明日からハイブコアを探しに森に入ります。スルフト村の村長さんからヴァイオラさんがハイブコア駆逐の依頼を受けてきたので、そのために出かけるのです。


 ここ、スルフト村近隣にもハイブのタネが蒔かれ、セロ村に来るはずだった猟師さんがひとり、犠牲になってしまいました。これが今日二つ目の悲しい出来事です。


 ジェラルディンさんは、何か事情があったのでしょう、ユートピア教に利用され、そのハイブを運ぶ手伝いをしてしまったようです。彼女が爆死したのはユートピア教の仕掛けがあったからで、そのユートピア教はハイブの普及に汲々としているのですから、ハイブはカインさんにとっていわば二重の(そもそもジェラルディンさんたちと生き別れたのもハイブのせいなのですから)仇になるわけです。セリフィアさんやGさんにとってもハイブは肉親の仇のはずですから、みんな、ここのコアを潰すことに全力を傾けるでしょう。




 今度こそ、全員で生きて帰りたいと思います。生きて帰れたら、そのときに私もこのパーティに留まるかどうかを決めることになるでしょう。それまでは、ただハイブコアを退治することだけを考えることにします。せめてその間はカインさんやヴァイオラさんにとって重荷とならず、少しでもみんなの助けとなれますように。


 カインさんの哀しみは今は身体を千の槍で突き通すように痛い。少しでも彼のそれを和らげられますように。セリフィアさんもハイブと聞くと人が変わり、ときどき声ならぬ悲鳴が立ちのぼるようでこれも灼けるような痛さです。少しでも慰めを与えられますように。アルトさんもトーラファンさんの家へ行って以来、よく辛そうにしていらっしゃいます。私が「今度一緒に行きましょう」などとお誘いしなければよかったのかも……。Gさんも……Gさんはジェラルディンさんが亡くなってから少し様子が変なので、気をつけてあげなければ。なにか、お母さんが亡くなられたときのことを思い出して辛いのかもしれません。




 そういえば、カインさんはともかく、ジェラルディンさんが亡くなったことについては、私以外のひとが何故だかものすごく傷ついているみたいです。どうしてあんなに傷ついているのか、私にはよくわかりません。私が冷たいのでしょうか。ひとが死ぬのは悲しい。ひとが失われるのは辛くて苦しい。それはまるで自分の身体にぽっかりと穴が空いていくような感覚……サラはこれをなんて言うか教えてくれましたよね? サイマツ感 sense of last ……ソンシツ感 sense of loss ……いえ、ソウシツ感 sense of lostでしたか。それは私も心から感じます。死んだのがだれであろうとも。そして周りの哀しみが激しいほど深く大きく。




 ともあれ、ここ暫くは痛み、痛み、痛みばかりです。彼らの痛みの前では、私の罪の痛みなど取るに足らぬものに思えます。どうか主が彼らの上に平安を与えてくださいますように。




 もし万が一私が戻らなくてもお嘆きになりませんように、院長様によろしくお伝えください。生きて戻るつもりではいますが、戻れぬ覚悟もしています。




 パシエンスのみなさまに神の恵みと祝福がありますように。


 私からもみなさまに愛を送ります。





460年3月14日、夜 スルフト村にて ラクリマ

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