海岸
とくに他に目ぼしいものもありませんし、鼻を刺す鉄の臭いにも耐えられなくなったので、一端外に出ることにしました。
そうです、目的を忘れるところでした。少女は海を確認しに来たのです。
本の山の中心から離れるように海の方へ歩くと、案の定本の海岸となっていました。
びしょびしょに濡れた本の上を歩くのは気持ち悪いみたいですが、水の冷たさは心地いいようです。
目の前は際限なく続く海。
とにかく、わかったことは、少女はここで一人ぼっち。
どこにも行けないということです。
海が赤に染まっていきます。夕方です。
少女はこの景色を見たことあるような気がしましたが、はっきりしません。
何もかもがはじめてに感じ、何もかもが見たことあるように感じます。
とりあえず、息の仕方、歩き方、など基本的なことは身体が覚えているみたいです。
風が吹きました。
少女の長く、黒い髪をなびかせます。
長い間寝ていた所為でしょうか、少女の髪はとても伸びていました。
いや、元から長かったのかもしれません。とにもかくにも、少女に確認するすべはないのですから、考えても意味がありません。
不思議と寒さは感じません。おそらく、気温はそれほど低くないのでしょう。
少女はとりあえず、山の上に戻ることにしました。