表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白線歩き  作者: 間宮 榛
3/3

分岐:β

エンディング分岐β(傾向:アメリカンホラー)となっております。



「かっ、ちゃん……?」


 白線の上に、かっちゃんの水泳バッグが忘れ去られたように、ぽつんと落ちていただけだった。かっちゃんがついさっきまで斜めにかけていた、かっちゃんの大好きなサバファンのユーシャの描かれたバッグが。


「かっちゃん?」


 僕は、ゆっくり水泳バッグに近づいた。おかしいな、と思うところがあって、近くで見てみようと思ったんだ。

 けれど、あと数歩というところで、突然異変は起こった。



 ――――――ずるり。



 水泳バッグが、ひとりでに動きだした。

 誰かが引っ張っているみたいに。手繰り寄せているみたいに。

 僕の足は、瞬間接着剤で固めたみたいに地面から離れなくなった。

 水泳バッグはゆっくりと、ずるずる音をさせて、白線の上から左側に移動していった。


 あぁ、やっぱりおかしいよ。変だよ。

 だって、あの水泳バッグからのびる紐。灰色のアスファルトの中から、ぴんと真っすぐに生えてるんだもん。かっちゃんが斜めにかけていたはずなのに。地面から紐が生えて、地面の下の誰かがその紐を引っ張って、水泳バッグを手繰り寄せているんだ。

 こんなのって、ありえない。


 水泳バッグは、ずるり、ずるり、と白線の外を目指して地面を這った。紐が灰色のアスファルトに吸い込まれ、紐のつながるバッグの口が取り込まれた。そうすると後は簡単で、バッグは加速して飲み込まれていった。



「かっちゃんっ!」



 ユーシャが頭から闇に飲み込まれるのを見て、僕の足の磁石は急に磁力を失った。僕は手を伸ばし、精一杯地面を蹴った。

 バッグは踏張ることをやめて、足元の闇におとなしく飲み込まれていこうとしていた。

 僕は必死だった。かっちゃんの水泳バッグが飲み込まれたら、駄目な気がしていた。

 つんのめるように倒れる身体、指の先までぴんとのばした腕。

 端っこでもいい、とにかくつかまなきゃ。

 頭の中はそれで一杯で、他のことは何も考えてなかった。思いつきもしなかった。

 水泳バッグは最後の最後、跳ねるように浮いた。

 僕の必死な手は、水泳バッグの端っこについていたキーホルダーを掴んだ。僕が地面に擦れるように落ちて、そのすぐ後に、水泳バッグは完全に姿を消した。

 ぷつん、という感覚を、僕の手に残して。

 地面は水のように波立つことも音を立てることもなく、ただ静かに飲み込んでしまった。飾りを失ったキーホルダーの金具がきらりと光って、それでおしまいだった。水泳バッグはまるで最初から存在しなかったみたいで、アスファルトは知らん顔をしていた。

 今ので絶対擦り剥いた両膝が、じわりじわりと痛みを主張する。

 僕はしっかりと握って強張る右手を、ゆっくりひらいた。

 かっちゃんの大好きなユーシャの剣が、そこにあった。


「かっちゃん……」


 お日様だけが、僕といなくなったかっちゃんを見ていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ