継子になる予定の子と初対面する直前に前世の記憶を思い出しました。 ~継母なんて二度とごめんなのに今世も継母なんですか?~
「あそこにいるのが私の息子のカイル。ついこのあいだ、十才になった」
近々、恋人から夫になる予定のデレク・マサイアス・ブラウン伯爵が指さした先にいたのは大人しそうな男の子。花々が美しく咲き乱れる広い庭に置かれたベンチに腰かけてうつむいている、この国では珍しい黒に近い茶色の髪と目をした少年だった。
愛するデレクさまと、デレクさまの心に今も住み続ける病気で亡くなった前の奥さまとのあいだに生まれた子。異国の踊り子だったという前の奥さまの髪の色、目の色を受け継いでいる子。
その容姿に、その存在に、胸がざわりとするのを感じて眉をひそめかけた私だったけど――。
「……っ」
「ダニエラ? ダニエラ!?」
頭が割れるような痛みに突然、襲われてしゃがみ込んだ。
――でも、これでようやく縁が切れる。
――せいせいしましたよ、里香さん。
きつくつむったまぶたの裏に浮かんだのは夫が亡くなり、相続手続きを含めたほとんどのことが片付いたあの日、あのときの光景。あの日、あのときの悠介くんの冷ややかな目と声。
私が奥田里香だった頃の記憶。前世の記憶。
「ああ、どうして……!」
もっと早くに思い出していたらデレクさまとの結婚なんて望まなかった。
だって、この結婚は――……。
「大丈夫か、ダニエラ」
しゃがみ込んだ私をデレクさまは心配そうに見つめる。
三十三才の男盛り。その整った顔立ちは前世の私が若かりし頃――と、言ってもすでに社会人になっていたけれど――に友達に薦められてプレイした乙女ゲーの攻略キャラの一人に瓜二つだった。デレクさまは金色の髪に青い目、その攻略キャラは黒に近い茶色の髪と目をしていること以外、瓜二つ。
そう――。
「体調が悪いのならカイルとの顔合わさはまた今度にしようか。何、焦ることはない。この先、長い長い時間を家族として過ごすのだから」
父親が連れて来る〝新しい母親〟との対面を前に心細そうにしている少年。彼こそがその乙女ゲーに出てくる攻略キャラ。
カイル――カイル・ウェイン・ブラウン。
そんなバカなことが本当に起こるの? と思う。でも、間違いない。
ここは『陽だまりの聖女 ~異世界からやってきた少女は世界を救い、あるいはヤンデる彼に囚われる~』――通称〝やんかれ〟の世界。攻略キャラのカイルは十九才だったから今はゲーム開始時より九年前ということだろう。
ゲーム開始時のカイルは人嫌い、女性不信で心を閉ざしていた。そんな彼の心を開いたのは突然、異世界にやってきて右も左もわからない中、それでも一生懸命に聖女としての役目をまっとうしようとするヒロイン。
そんなヒロインにいつしかカイルは心惹かれるようになり、不器用ながらも愛情を示すようになり、ヒロインに近付く者もヒロインを虐める者も殺すようになり、そんなことしないでと泣いて止めるヒロインを監禁してエンディング――というのがカイルヤンデレルート。
前世の親友が〝やんかれ〟とカイルが大好きで、会うたびに熱く語られたものだからしっかり記憶に残っている。
そして、カイルが人嫌い、女性不信になった原因が父の再婚相手である継母。つまり、私。確か、カイルヤンデレルートでは継母もカイルの手によって殺されていることが明かされるはずだ。
「……どうして、また」
今世も継母なのだろう。
失望に体の力が抜けていく。意識が遠退く。
「ダニエラ……ダニエラ!?」
意識を手放す寸前に見たのは私を抱き留めるデレクさまの青ざめた顔。
そして――。
「お父さま……あの、そ……その、人……」
恐る恐る私の顔をのぞき込んだカイルの――カイルくんの今にも泣き出しそうな顔。
大丈夫よ。そう言って微笑んで頬をそっと撫でて、少しでも不安をやわらげてあげるべきなのだ。大人として。これから〝おかあさま〟になる身として。
でも――。
「……ごめん、なさい……」
私にはできなかった。
ふれることも。優しく微笑むことも。怖くて。どうしたらいいかわからなくて。少しもできなかったのだ。
***
前世の私――奥田里香が結婚したのは三十二才のときのこと。それまではオタ活、推し活にいそしむおひとりさま会社員だった。
夫はバツイチで前妻とのあいだに息子が一人いた。
――夫婦関係は解消したけど俺も彼女も悠介の親であることに変わりはない。
――そのことはわかっておいてほしい。
付き合ってほしいと言ったときも結婚してほしいと言ったときも夫はそう言っていた。そういうところも好きだった。
悠介くんとの月一の面会も最初の頃こそ胸がざわざわすることもあったけど、そのうちに受け止められるようになった。悠介くんと過ごす時間も、思う気持ちも、夫の一部だと思えるようになったから。
悠介くんがいるからと私との子供を作ることに消極的だった夫は事あるごとにもうしわけなさそうにしていた。元々、産むつもりはなかったから気にしなくていいと何度も言ったのに。
幸せな夫婦二人暮らし。
その暮らしが一変したのは私が三十五才のとき。夫と結婚して三年目の頃。悠介くんのお母さんであり、夫の前妻である女性から夫宛てに連絡が来た。
――余命宣告を受けました。
――悠介のことをお願い。
夫が慌てて病院に会いに行ってから一週間後、夫の前妻はあっという間にこの世を去ってしまった。私と夫のあいだでろくすっぽ話し合いも出来ないうちに。
子供とは言え相手はもう十才。目を離したら死んでしまうような乳幼児ではない。わからないことや困ったことがあれば本人に聞けばいい。悠介くんもわからないことや困ったことがあれば夫なり私なりに聞くだろう。
私はのんきにもそう考えていた。
十才の子供が想像するよりもずっと大人で、ずっと繊細で、ずっといろいろなことを考えているなんて思いもしないで。
悠介くんのお母さんであり、夫の前妻が亡くなってから一か月後。夫に連れられて、夫と私が二人で暮らしていたマンションに悠介くんがやってきた。
今日からここが悠介くんのおうちだよ。今日から私たちが悠介くんの家族だよ。歓迎しているよ。遠慮なく過ごしてね。そう伝えたくて私は初対面の悠介くんにこう言ったのだ。
――今日から私が悠介くんのお母さんだよ。
――よろしくね。
十才の悠介くんの返事はこうだった。
――……はい、〝おかあさん〟。
そして、二十五年後。三十五才の悠介くんに駅の改札の前で〝それじゃあ、お母さんは先に帰るね〟と言ったときの返事はこうだった。
――この二十五年、あなたの家族ごっこ、母親ごっこに付き合わされてうんざりでした。
――でも、これでようやく縁が切れる。
――せいせいしましたよ、里香さん。
***
「……まあ、よくよく考えたらそうだよね。無神経だったよね」
母親を亡くしたばっかりの子にお母さんと呼んでね、なんてありえない。無神経にもほどがある。昔の自分がやらかしたこととは言え。いくら緊張していたからとは言え。若気の至りですませられないくらい無神経だ。
「悠介くんにああ言われるまでそんなことにも思い当たらなかったんだもの。きっと、もっとたくさん無神経なことをやらかしてたんだろうなぁ」
ブラウン伯爵邸の一室にあるふかふかのベッドの上で目を覚ました私はハハ、と乾いた声で笑って顔を腕で覆った。
完璧な母親だったなんて思ってない。失敗だらけで不甲斐ないところばかりだったと思う。
だけど、遠くの大学に通うために家を出た後も毎年のように夏休みと年末年始には帰ってきて、結婚式では新郎の両親として招いてくれて、子供が生まれてからはその子の誕生日とお正月に顔を見せに来てくれて。
失敗だらけで不甲斐ないところばかりだったけど母親として、家族として、受け入れてもらえているんだと思っていた。
でも、違った。
「あの人が……お父さんがいたから帰ってきてただけ。呼んでくれていただけ。顔を合わせざるを得なかっただけ……だったのよね」
そう気付いたとき、悲しかった。ショックだった。でも、それ以上に恥ずかしくて、怖くなった。
失敗だらけで不甲斐ないけど受け入れてもらえていると思い込んでいた自分が恥ずかしい。うんざりしている悠介くんに気が付かずに母親面をし続けていた自分が恥ずかしい。
悠介くんが私の気付かないところでうんざりしていたように、私との関係にうんざりしていた人が他にもいたのかもしれない。そう思ったら外に出て人と会うのが怖い。
仕事だけはなんとか定年まで勤め上げた。でも、仕事を辞めたあとは家からほとんど出なくなった。出れなくなってしまった。
買い物をしに行くのも、出掛けた先で知り合いに会うのも怖くて、徐々に徐々に家から出れない日が増えていって――。
「……多分、大家さんやご近所さんに迷惑かけちゃったんだろうなぁ」
リビングでドロドロに溶けてる前世の自分の姿を想像して、あまりのもうしわけなさに額を押さえながら上半身を起こした。
意識を失ったあと、デレクさまがベッドまで運んでくれたのだろう。そして、ずっとそばにいて手を握っていてくれたのだろう。まだ、ぬくもりが残っている。
サイドテーブルには走り書きのメモが残されていた。少し席を外す、起きたらベルを鳴らすようにと書かれたメモ。いつもよりも乱れた筆跡を指でなぞって私は細く長く息を吐き出した。
整った顔立ち、柔らかな物腰、紳士的な態度。そんなデレクさまは令嬢たちの憧れの的だった。死別した奥さまを今も深く愛していると知っても。十才になる息子がいると知っても。多くの令嬢たちが次の恋人に、次の妻にと手を挙げた。
私もそんな令嬢の一人だった。そして、デレクさまに手を差し伸べてもらえた社交界一幸福な令嬢だった。その、はずだった。
でも、だけど、今は――。
「誰かのお母さんに……誰かの家族になる勇気なんて、もう……」
つぶやいた瞬間、ベッドカバーに刺繍された花柄がぐにゃりと歪んでにじんだ。前世の記憶を取り戻した今、子供のいる人との再婚なんて考えられない。
でも、だけど――。
「デレクさまと……別れるなんて、もう……」
恋人として時間を重ねた今、簡単に別れを決断できるわけでもない。
最初はただの憧れだった。でも、今は間違いなく、深く、愛しているのだ。デレクさまのことを。どうしようもなく。
「どうして、今なの……」
デレクさまと恋人になる前だったら。時間を重ねて憧れが愛情になる前だったら。せめてもっと早くに前世の記憶を思い出していたのなら。そうしたら、こんなにもつらい思いをしなくてすんだのに。
でも、だけど、やっぱり――。
「私に、この結婚は……カイルくん、の……母親になるなんて……」
「……いや、ですか?」
顔を両手で覆ってうつむいていた私はその声にハッと顔をあげた。
「お父さまとの結婚を……やめるんですか? ……僕の、せい?」
いつの間にやってきたのだろう。細く開いた扉のすきまからカイルくんが顔をのぞかせていた。この国では珍しい黒に近い茶色の髪と目をした、大人しそうな十才の男の子。その子が今にも泣き出しそうな顔をしている。それを見て私は激しく頭を振った。
「違う……違う! 違うわ! カイルくんのせいじゃない! 私のせい! ただ……ただ……」
ただ、なんと言えばいいのだろう。
弱いから。過去の無神経だった自分を反省して、もう一度、家庭を築いてみよう、誰かと関係を築くために努力してみようと思えるだけの勇気も強さもないから。
だけど、前世の記憶を思い出したからなんて言ってもよくて不思議な顔をされるだけ。もしかしたら変人扱いされるかもしれない。そもそもどんな前世だったのかと聞かれたら答えられない。あの話をデレクさまやカイルくんにする勇気はない。
だから――。
「……カイルくんの、せいじゃない」
私はただ、そう繰り返した。
遠慮がちにベッドへと歩み寄ってきてカイルくんが私を上目遣いに見つめる。
「私が……私が、カイルくんのお母さんになれる自信がないの。ちゃんとしたお母さんに……なれる、自信が……」
言っているうちに涙が止まらなくなる。そんな私の手をカイルくんが握りしめた。最初はためらいがちに。だけど、そのうちに小さな手で、ぎゅっと。力強く。
「よかった、です」
カイルくんの口から出た言葉にびくりと肩が震える。
「……よかった?」
「僕も〝おかあさま〟って呼べる自信がなかったから」
そう言ってカイルくんは、へら……と笑う。胸がちくりと痛むけれど当然だよね、とも思う。だって、カイルくんにとっての〝お母さま〟は病気で亡くなったお母さまだけ。デレクさまの前の奥さまだけ。
物心がつく前に亡くなったならまだしも。愛された記憶がないのならまだしも。カイルくんは前の奥さまに――お母さまに目一杯、愛されてきたのだから。
「……そう、だよね」
「いっしょですね」
デレクさまにそっくりな整った顔をくしゃりとさせてカイルくんが笑う。今世でもひとまわり近く年上なのに。前世も足したら十倍近く生きているはずなのに。わずか十才の子供に慰められてしまった。
「あな、た……のことを〝おかあさま〟と呼べるか、僕は自信がありませんでした。だけど、あなたが嫌いなわけでも、お父さまと結婚してほしくないわけでも、家族になりたくないわけでもありません」
わずか十才の子供にこんなことを言わせてしまった。
不甲斐ないやら、だけど、家族になりたくないわけじゃないと言われて嬉しいやらでまた涙があふれてくる。
「〝おかあさま〟とは呼べない……けど、だから……〝ダニエラさま〟と呼んでもいいですか?」
いい年してぼろぼろと泣く私を真っ直ぐに見つめてカイルくんが言う。その言葉に〝ああ、そうか〟と思う。悠介くんとの関係もそういう風にすればよかったと今さらのように思う。本当にいい年して不甲斐ない。
苦笑いして私はゆるゆると首を横に振った。
「〝さま〟はいらないわ。ダニエラと呼んで。私も……カイルと呼んでいい?」
「もちろんです、ダニエラ!」
パッと瞳を輝かせるとカイルくんは――カイルは笑顔でうなずいた。
正直に言えばまだ怖い。前世と同じ過ちを犯してしまうかもしれない。ゲームのシナリオと同じように――〝やんかれ〟のカイルヤンデレルート通りにいつかカイルの手によって継母である私は殺されることになるかもしれない。
それでも――。
「これから……よろしく、ね」
「はい、ダニエラ!」
カイルのくしゃくしゃの笑顔でもう一度、誰かと――デレクさまとカイルと三人で家族になるために努力してみようと思えたから。
「うん。……カイル」
私の手を握り締めるカイルの手を握り返して私は精一杯の笑顔を返した。
***
今世の父親であるデレク・マサイアス・ブラウンと、今世の継母になる予定のダニエラ・エドナ・ロイドが花盛りの庭を並んで歩くようすを、俺――カイル・ウェイン・ブラウンは四階の窓から頬杖をついて見守っていた。
「継子、継母の関係ってのはどの世界でも難しいもんなんだな」
幸せそうな二人の背中を眺めながらぽつりとつぶやく。
俺には前世の記憶がある。遅すぎて拗らせてしまった反抗期のせいで継母を傷付けてしまった後悔の記憶が。
――この二十五年、あなたの家族ごっこ、母親ごっこに付き合わされてうんざりでした。
――でも、これでようやく縁が切れる。
――せいせいしましたよ、里香さん。
そう言って連絡を絶ってから二十年近くが経った頃。下の子も働き始めて子育てが一段落した頃。妻と子供に背中を押さ、反省と共にようやく里香さんに会いに行った。
寝坊したと言って渡された菓子パンも、時間ギリギリに髪を振り乱して教室に飛び込んできた授業参観も。遠方の大学を受けたい、一人暮らししたいと言ったときにあっさり〝いいんじゃない?〟とうなずいたのも。
ずっと里香さんが本当の母親じゃないから、本当の親じゃないからだと思っていた。
でも、父親として二十年以上、我が子を育ててみてわかった。
本当の父親だって、本当の親だって、寝坊して菓子パンどころかお金を渡す日もある。時間ギリギリに髪を振り乱して教室に飛び込んだらすでに授業参観は終わっていて懇談会が始まっていた日もある。
遠方の大学を受けたい、一人暮らししたいと言われて一瞬、貯金の残高が頭をよぎったことなんて悟られまいと必要以上に明るい声で〝いいんじゃない?〟と言ってしまう日もある。
里香さんはずっと家族ごっこ、母親ごっこをしていたわけじゃなかったのに。家族になろう、母親になろうとしてくれていたのに。
それなのに、俺は――。
「……」
前髪をくしゃりと掻いてうつむく。
二十年近くが経ってようやく会いに行ったとき、継母はとっくに死んでいた。孤独死だったと、死んでから数週間も経って発見されたのだと近所の人が教えてくれた。
「あんなに人好きな人だったのに」
数週間ものあいだ、誰も会いに来なかったのだろうか。誰とも会う約束をしてなかったのだろうか。
継子である自分と縁を切ったって里香さんはきっと楽しく過ごしているだろう。俺と暮らしていた頃や親父が生きていた頃と同じように平日は仕事、休日も何かしら人と会う予定が入っている。そんな忙しないけど楽しい日々を過ごしているのだろう。
そう思っていたのに――。
「里香さんとダニエラは別人だ」
自分に言い聞かせるようにつぶやく。いくら今世の継母に優しくしても前世の継母だった里香さんへの罪滅ぼしにはならない。なるわけがない。
だけど――。
「前世と同じ過ちを犯すようなことは……しない」
きっと前世の記憶を持って生まれてきたのには意味がある。意味がなかったとしても意味あるものにしてみせる。
今世の父親の隣で幸せそうに笑う今世の継母を眺めて微笑む。あの微笑みを守らなければ。父親が死んだあとも。それこそ死ぬ瞬間まで。最期の瞬間まで。
〝おかあさま〟と〝カイルくん〟ではなく、〝ダニエラ〟と〝カイル〟として。ただ、家族として。
「前世ではただの十才のガキだったけど今回は十才プラス七十云年の人生経験があるわけだし。相手は二十いくつの、前世の子供たちよりも若いお嬢さんなわけだし。年上の貫録を見せて良好な継母、継子関係を築いてみせる!」
思い切り拳を振り上げた俺をたまたま振り返った父親とダニエラが目を丸くして見上げている。そんな二人を見返して苦笑いすると大きく手を振った。顔を見合わせたあと、手を振り返して笑う二人につられて頬を緩める。
***
九年後に異世界から少女がやってきて乙女ゲー〝やんかれ〟のストーリーが始まるわけなのだけれども。カイル・ウェイン・ブラウンは異世界からやってきた少女と接点を持つことはなかった。
なにせ彼は父親であるデレク・マサイアス・ブラウンと、周囲から見れば継母であり、彼からすれば〝ダニエラ〟で、大切な家族であるダニエラ・エドナ・ロイドと過ごすのに忙しかったから。
デレクに先立たれて未亡人となったダニエラだったけれど老衰で亡くなるその日まで家族に囲まれて賑やかに過ごした。父の後を継いで伯爵となったカイルと、ダニエラとは血の繋がらない家族たちが亡骸を囲んで悲しむ様子を見て葬儀の参列者たちは口々に囁いた。
――人好きな人だったものね。
――きっと世界一幸福な〝おばあちゃま〟ね。
と――。




